食らう(適当)


前のお話はこれ⇒侵入者の続き。


抵抗は最初からするつもりはなかった。コイツ相手にそんなもの、するだけ無駄だ。どれだけ必死になっても敵うことはないだろう。コイツを喜ばせるだけならしないほうがマシだ。
ベッドの上に横たえられてすぐに覆いかぶさってきた男は、うっとりと目を細めて口付けを繰り返し、服を脱がしていく。抵抗をしないでいるせいか強引さは鳴りを潜め、代わりのように確かめるように肌に触れながら下肢を、腹をさらけ出していく。
少しずつ露になっていく肌に、赤く滑った舌が這う。美味いはずもない硬い男の体だ。それを味わい笑う
目の毒だ。痛みも快感も何もかもを遮断しようと努力して、だがそれはあっさり失敗に終わった。
「…っく!」
そうするのが当然と言わんばかりに、むき出しにされた尻に指をねじ込まれる。鼻歌でも歌いだしそうな顔をして、だ。一方的な蹂躙を甘んじて受けているのは、ただ単に力と階級の差があるからだけだってのに、まるで俺の何もかもを手に入れたみたいに振舞う。
…いや、違うな。最初からこの男はこうだった。思い通りになるまで何度でも血迷った言葉を繰り返し、最終的には言葉尻を捕らえられて居座られた挙句に、薬まで使われてあっさり食われた。
この男にとっては俺はどうとでもできる存在であるというだけのこと。
「狭い…他のヤツにちょっかい掛けられてたらどうしようかと思ってたんです。よかった」
「んなことするヤツいるわけねぇだろうが!俺相手に!」
反応したらこの男が喜ぶだけだと分かっていたはずなのに、好き勝手振舞うくせにこっちには妙な疑いを掛けてきたから思わず怒鳴っていた。
「まあ雑魚はどうでもいいんですけどね。暗部連中からも狙われてたんですよー?だから俺が先にいただいたの。何かされる前に俺のモノにしとかないと、あいつら手段選ばないですしね?」
「…」
それはお前だろうがとか、どんな妄想だと罵ってやりたい。一言だけでも…いや、一度堰を切ってしまえばきっと止まれない。そうすればこの男がまた大喜びするだけだ。
沈黙を守るために口も目も閉ざし、いっそ呼吸も止めてしまいたいとさえ思う。
触れてくる手は何かにせかされているかのように無駄に良く動く。
「イルカせんせ」
名を呼ぶ男が太股に摺り寄せてきたモノは凶悪な硬さで欲を滴らせている。
もどかしげにゆれるそれはどこか滑稽で、だがそれを笑う余裕など残してはくれない。
「っく…!」
「気持ちイイ…!」
言葉通りにとろけた顔で腰を進めるイキモノから逃げたくて、腕で目を覆った。
痛みはなかった。また妙な薬を使われたのか、それとも頭の回線が焼き切れてしまったのかはわからない。
ずるりと飲み込まされたそれを締め付けてしまうと、男がにんまりと笑った。
「欲しい?」
「…いらない…っ!」
こんなものいらない。俺を変えようとするものなど誰が欲しいと思うものか。
異物感が激しいのに、少しずつ馴染んでいくそれがひどく恐ろしくて悲しかった。
…いや、こんなものいつだって消せる。いっそ俺ごとだって。
「ん。びっくりしちゃいました?こんなに体はイイって言ってるのにねぇ?ま、いーや。もっと気持ちよくなるようにがんばりますね?」
甘やかな声。あやすようなそれは、俺という存在そのものを否定する。どうとでもできるモノ…好きにしていいものに対する余裕だろう。
怒りも悔しさも、この男にとっては。
「馬鹿野郎」
「ふふ。ちょっと元気になりました?よかった」
かみ合わない会話を、どこまでも奥深くまでつながりながら交わして、それから。
意識を手放すまで好き放題に扱われた。


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適当。
第8段階。食らう。その心まで。

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