食べてもいいですよね?(適当)


前のお話はこれ⇒ここにすみますの続き。



今までも人懐っこい犬のように一方的にくっついてきたことはあった。
 火と刃物を使っているときは近づくんじゃないと言い渡してからも、こっそり背後からはりついてくるのはいっそ当たり前といえるほどの頻度で、どんなに言い聞かせても上目使いで見るだけで人のいうことなど聞かなかった。
 だから多分、俺は油断していたんだ。
 忘れたつもりはなかったが、意識の中からうっかり追い出していたと言ってもいいかもしれない。
…この厄介で図々しい犬のようなイキモノが、上忍の中でもとびっきり腕が立つ雄で、しかも俺を付け狙っていたってことに。
「イルカせんせ」
 とろんとした瞳は潤んで輝いていて、それをみているだけなら美しいとさえ思えただろうが、その中に確かな欲望を感じてしまえばあとは恐怖でしかない。
 触れるだけだった唇は、俺が驚いて動けなかったのをいいことに激しさを増した。そうだ。この男は殊勝な顔をして、強引で酷くわがままで、こっちの都合なんざ気にも留めない。
「なにしやがる!」
 先手は取られたがやられっぱなしでいるはずもない。力いっぱい振り下ろした拳は、すっかりケダモノ染みた気配をにじませる男によって、あっさりと捕まえられてしまった。
「ね。しましょ?」
 何をだなんてことを聞くまでもない。欲情した同性なんてものを見ることはめったにないが、これだけみてくれがいいとそれだけで抵抗が薄れるものなんだろうか。
 綺麗なイキモノだ。少なくともみてくれだけは。
 碌でもない思考で碌でもない行動しかしないにしても、観賞するだけならこれほど目に快いものもないだろう。
 だからといって、こんな厄介なイキモノと厄介どころじゃない行為に及ぶつもりは毛頭ない。
「する訳あるか!今すぐ出ていけ」
「どうして?」
 心底不思議ですって顔をするコイツの頭の中身の方が不思議だ。
 こっちこそ聞きたい。なんで俺なんだ。どうして。
 この見てくれと地位なら、もっといくらでも相手見つけられるだろうが。
 …そもそも同性を選んだ時点で特殊な性癖を持っているってことは疑いようがない訳だが。
「いいか?俺は絶対にアンタとは寝ない。わかったらとっとと…!」
「ヤです」
「俺もイヤなんだよ!いい加減にしやがれ!このくそ上忍!」
 収まりがつかなくなったらしいモノが存在を主張して、気づきたくもないのに肌でも目でもそれを知ってしまった。
でもなぁ!のっぴきならない下半身の事情を見せつけられても、そんなものに付き合ってやる義理はこっちにはないんだよ!
「…勝手にやっちゃおうかなぁ」
「…ッ!触るな!」
 ゆらりと体制を変えるその気配の薄さと素早さに全身に鳥肌が立った。
 戦場で良くあるあの感覚。絶対にかなわない敵に遭遇した時の、生物としての本能が訴える臓腑を抉るような。…恐怖。
 今すぐ逃げるべきだと全身が言うのに、この状況への怒りがそれを許さない。
 だってそうだろう?このままコイツに好き放題にされるのもごめんだが、ここは俺の家で俺のベッドで、こいつはただの侵入者…俺の生活に入り込んだ異物だ。
 このイキモノは、俺の存在の根底を揺るがそうとしている。
「気持ちいいよ?絶対」
 握り締めた拳に、赤く濡れた舌が這う。犬のようでいて明らかにそんなかわいいもんじゃない。
「さわんなって言ってんだろうが!」
 自身の発した怒鳴り声すら他人事のように遠い。
 ただわかるのは。
「…イルカせんせ」
 このイキモノが俺を獲物として認識してるってことだけだった。


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適当。
第三段階。
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