ここにすみます(適当)


前のお話はこれ⇒でていきませんの続き。



面倒なことになった。いやむしろ、もうとっくになっていたのに今更ながら気付いたというか。
…居ついた。面倒な上忍が俺の家に。
「そこどけてください。たんすにしまえないんで」
「はーい」
床に転がっていた上忍を足蹴にして追い払う。上忍も手馴れたもので、怠惰なことにころころ転がってお気に入りになっているたんすの前から避けた。
たんすの引き出しを引っ張り出して洗い終わって畳んだものを放り込む。
…その中に、転がって避けたくせに、また寄ってきて背後から張り付いてるヤツの服まで混ざっていることにため息をついた。
何で俺はコイツの世話を焼かなくちゃいけないんだ。
洗濯物だけじゃない。飯の世話から布団の上げ下げ、風呂の掃除。生活全般の面倒を見てやる必要は俺にないはずだ。
「…アンタもう帰んなさい。自分の家があるでしょう」
その当然の要求は、人の肩口に頭を乗せてくつろいでいる上忍には聞こえていないようだ。
しまうのを手伝うでもなく、たんすの中に自分の服が収まって行くのを満足そうに監督している。
何様なんだ。一体。今更ながら腹が立ってきた。
たまに俺の家に上がりこんで泊まって行くだけなら諦めてやっても良かった。飯代ごときでウダウダいうのも男として小さいことにこだわりすぎかと思えたし。
好きだ好きだ言うのも、その内飽きるだろう。そうしたら、この変わり者の上忍は俺により付きもしなくなるに違いない。
そう考えていたからこそ耐えられたのに。
一向に出て行かないどころか滞在時間は自然とじわじわ増えていき、気付けばこうして休日だというのに朝から晩まで俺の家にいやがるのだ。
こんな状態になっていることに気付くのが遅れたが、そういえばコイツはここ数日、俺の家だけで生活している気がする。
問題点に気付いたら即対処。…それが忍の鉄則だ。
「…おいこら。出てけ」
「ヤです」
却下しやがったぞコイツ。ここは俺の家だってのに、視線も合わせない。拗ねてんのかもしかして。なんなんだコイツは。
「ここは俺の家です。何度も言いますが、アンタの家はちゃんと他にあるでしょう」
「だってイルカ先生がいないじゃない。だからイヤです」
コイツはいつもそうだ。自分の要求ばかり通そうとしやがって。膝に懐いて腰に手を回してすがり付いてくる男の鼻をつまんでやった。
なんでもかんでもそうやって甘えればいいと思ってたって、そうはいかねぇぞ?
「そうじゃねぇだろ!アンタの家があるんだからアンタの家に帰れっていってんでしょうが!」
「いーやーでーすー」
ぷいっとそっぽを向いて、聞こえませんとでも言いたげに、胡坐をかいた足の間に埋められてしまった。くすぐったい上に、微妙にその、急所に他人の頭が乗ってるのはいろんな意味で不愉快だ。
「出てけ…っつーかその前に俺の膝から頭どけなさい。重い」
「あ。でもそうだ。帰ってもいいですよ?」
…どこまでも人の話を聞く気はないようだ。
帰ってもいいですって…なんでそんなに態度がでかいんだ。不法侵入者の上に勝手に住み着こうとしてる分際で。
切れそうになっている頭の血管をなんとか押さえつつ、男の頭を押しやった。まあどけないけどな。てこでも。
「…そうですか。じゃあとっとと出てけ。あ、枕もとのエロ本はちゃんと風呂敷に包んどいたんで忘れずに…」
「ん。それはだいじょぶ。俺の家にもちゃんとあるから。ほら、行きましょ?」
「は?」
「え?だってイルカ先生がいるならいいけど、いないならそこは俺の居場所じゃないですし」
「なんでそうなるんだ」
思わず真顔で問い詰めた。襟首掴んで放り投げなかっただけでも奇跡だと思う。
…というかだな。その結論に至るまでに、色々とそれはもう色々とおかしなことが人としても上忍としても男としてもあったはずなんだが、どうしてそれを全部綺麗にすっ飛ばしてしまえるんだ?ある意味素直に関心した。
「帰ります?」
「アンタは帰れ。俺は洗濯はまだしも朝飯食ったあとのがまだタライに…ああくそ!居座るんならせめて手伝え!」
二人分の負担を一人でって…俺の招いた客でもないのに理不尽だ。
そう思ったからこその八つ当たりだったのに。
「はぁい。じゃ、食器洗って片付けてきますね?」
にこーっと笑ってさっさと台所に入り込み、鼻歌交じりに食器を洗っている上忍を見送って…とんでもない失敗をしてしまった事を悟った。
「居座られた…」
俺は、もしかして馬鹿なんだろうか。それに輪をかけてアレがおかしいのは確定だけどな。
休日の朝だというのに重苦しい何かが胸に圧し掛かる。
まあ朝は物理的にあのイキモノが乗っかってたんだけどな。そうじゃなくてだ。
あんな厄介なイキモノを俺の家に居座らせる気なんてなかったのに。
「イルカせんせ。食器洗い終わったら、天気がいいから一楽いきます?晩御飯は俺が作りますねー?」
手伝えと、確かに言ってしまった。
それはつまり居座る言い訳を与えてしまったことに他ならない。
呆然と己の失策を噛み締めている俺に、男は当然のようにキスしてきたのだった。


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適当。
第二段階終了。+第三段階序章。
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