独占欲3(適当)




これの続き。 



気がついたら知らない部屋にいた。
手を引かれるままにぼんやりついて行ってしまった自分が悪いんだが、上忍の部屋なんて機密の塊だ。
「お、お邪魔します」
「はいどーぞ。お茶でもだしますから座って?」
輝かんばかりの笑顔だ。
そんなものを向けられたら落ち着いてなんていられないのに。
八つ当たり染みた怒りを誤魔化すように、勧められたソファに乱暴に腰掛けた。
「あ、ふかふか」
こんな所にいちゃいけないって自覚してるから、できるだけ小さくなっていたつもりだ。
でもこのソファの座り心地がすごく良くて、思わず確かめるように触ってしまった。
手触りもいい。白くて、光沢はないけどこの人の髪を思わせる。
汚れが目立つ色だし、忍犬使いだ。ソレなのに一つも汚れが見当たらなくて、そのことにも驚かされた。
いいなぁ。これ。欲しい。
「ふかふかですよー?何ならねっころがってみる?」
そう声をかけられるまで、自分がおかしなことをしていることにすら気づけなかった。
「あ、いえ!いいソファですね」
多分とても質のいいものなんだろう。
普段から贅沢というほど贅沢じゃないが、質の高いものを選ぶ人だ。
一緒に飯を食ってるだけでもそれに気づくほど、この人は自分の手元に置くものをしっかり吟味する。
だから、当然なんだ。いいものなのは。
あの部屋には丁度コレを置くのにいいすきまがあった
でもこれはあの人のもので、だから同じものを買えばいい。
もし、分不相応な価格だったら諦めればいい。
それだけの話だ。
「いいソファでしょ?いつでも俺の家にきたらいつでもそれに座れますよ。寝てもいいし」
寝てもいい。そうだな。きっとこれに寝転がったら気持ちイイだろう。
今だってこの人に包まれているようだ。普段は全くといっていいほど体臭なんてない人だけど、このソファには微かにだが、確かにこの人の匂いが残っている気がする。
新しく同じもの…だめだ。この匂いがないならいらない。
この人の匂いがするからほしいんだ。
「イルカせんせ?」
「あ、いえ!大丈夫です!なんでもありません!」
…この人のもっているものが何でも魅力的に見える。
気をつけなくちゃ。本当に閉じ込めたいものは我慢しないといけない。
手に入れてはいけないものを欲しがることは、罪だから。
「緑茶とコーヒーと紅茶くらいならあるけど、どれがいーい?」
「あ、あの、はい!なんでも…!」
そう、なんでもいいんだ。
この人のくれるのもならきっと俺にとっては全てが宝物になる。

だから、だいじにしまっておかないと。

ぞっとした。暴走する己の思考が恐ろしい。
…だって、やっぱり駄目だったじゃないか。
幾ら欲しくても、この人は欲しがっていいものじゃないのに。
だからアレだけ断ったのに。
「ん。じゃ、ちょっと待ってて」
ずっと笑っていてくれる人が、キッチンらしき部屋に消えていった。
ああ、あそこにも入ってみたいな。きっとこの人が選んだものでいっぱいだ。
自然にそう思った時点で深いため息が零れた。
こんなんじゃ駄目だ。…少しでもいいから冷静にならないと。
欲しいと思ったものへの欲求を、これ以上押さえ込めるとは思えなかった。
どうしよう。このまま逃げてしまおうか。非礼は後で詫びればいいし、それで愛想をつかされるのなら好都合。
そう思い立って玄関に向かう途中で気がついた。
「結界…?」
「そ。もうここから出られませんよ?」
振り返って、すぐ側にあの人が立っていた。
耳元に囁く声は毒のように甘い。
そうか。ここから出られないのか。
それなら、この人を独り占めできる。
知らないうちに笑っていたらしい。
「嬉しいの?俺も」
絡みつく腕が、近すぎる体温が心地良すぎて死にそうだ。
もう、駄目だ。いっそこのままここへ俺を閉じ込めてくれないだろうか。
そうずれば…少なくともこの人をしまいこんでしまう恐怖からは開放されるかもしれない。
「おいで」
その声に逆らう気などおきるはずがなかった。
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適当。
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