濡れ男 2



「一緒に暮らしてみましょうか?」
腕を引かれるまま着いていった先は、この男の家だった。
らしいというか、なんというか、せまっ苦しくて、適当に散らかっている。
…だから、そのセリフの違和感といったら…。
普通の男だ。俺よりもずっと里に馴染み、里で暮らし、里で一生を終えそうな。
常識にもしばられていそうなこの男が、あえてそんなコトを言うのは、俺のゲームに乗ってきた証拠。
そっちがそうくるなら、わかった上で乗ってやる。
「いいけど。俺、てんぷら嫌いだから。後甘いのもね。」
「そうですか。」
にこにこと馬鹿みたいに微笑む男に、嵌められたのかもしれない。
そう思っても、今更後にも退けず、当然のようにその日も男の家に泊まった。

…それから、俺と男の奇妙な生活が始まった。
男の家に住み、男の飯を食い、男の寝床で眠る。
ただ、抱いたりはしなかった。
当然だ。イルカはどうみても男で、あの色めいた視線さえ見せなければ、一生そんな気があるなんて気付かなかっただろう。
だが、たったそれだけのことなのに、何故か退屈が紛らわされる。
男は他愛の無い事で良く笑った。俺が飯を食っているだけで楽しそうにして、アカデミー教師だからなのか、それとも男のくせなのか、さりげなく頭を撫で、子どもにするように抱きしめてくる。
もしそれが色を感じさせる物なら、適当に相手をしてやってもイイと思っていた。どうせそれが目的なんだろうと。…男相手にその気になれるかどうかは自信がなかったが。
だが、男はそんなものは微塵も感じさせずに、ただ、俺に触れるだけで楽しいとでもいいたげに、甲斐甲斐しく世話をした。しかも、叱る時は階級差などものともせずに怒鳴りつけてきて、恐ろしいくらい真っ直ぐな男だというのは噂どおりだと知った。
生ぬるいはずなのに、気付けば当たり前のように男との生活に馴染んで…。
その夜も単独任務から戻ってすぐ、男の家に足を向けた。
男は今日も俺を待っていた。
「おかえりなさい。…今日は怪我はなさそうですね!飯は?」
俺に駆け寄ってきて状態を確認する様は、まるで従順な犬のようだ。
それでいて、躊躇いなく俺に噛み付いてくることもあるが。…この間怪我をした時なんか、顔中真っ赤にして怒鳴られた。
たかが中忍に怒鳴られても怖くもなんともないが、怒りではなく悲しみにゆがんだ顔を向けられると、こっちが悪いことをした気になるから不思議だ。
任務で怪我など日常茶飯事なのに、時折忍の顔をして見せるくせにやはり甘い男だ。
「飯はいらない。」
「じゃ、風呂入ってきてください!」
豪快に笑った男にトンと背中を押され、風呂場に押し込まれる。
これも、いつものことだ。
その瞳がいつも俺を見て、俺にだけに見せる柔らかい笑みを向け、頼んでもいないのに抱きしめる。
変わった男。…それなのにこの暮らしに違和感を感じないのは、なぜなのか。
考えた所で意味はない。答えなど欲しくもない。暇つぶし目的だったのだから、これ以上考える必要はないはずだ。そう言い聞かせて、これ以上考えないようにしていた。
適当に体を流し、風呂から出ると、男が布団を敷いて待っていた。
いつものことだ。
これからまた布団に人を押し込んでおきながら、そのくせ自分がさっさと先に眠りに落ちてしまうだろう。
…だが、今日はどこか違っていた。
「カカシさん。ちゃんと服着ないと駄目でしょうが?」
確かに、今日は風呂上りに用意されていた浴衣を着るのも面倒で、腰にタオルを巻いたままだ。
…忘れていた。この目の前のぼんやりして見える生き物が男だってことを。
視線を逸らし、ため息を着いて見せても、一瞬だけとはいえ垣間見せた欲を感じさせる視線を誤魔化せはしない。
「ねぇ。そういえば、アンタ一人で抜いてるの?」
「…っ!?」
最近、割と早く帰る日が続いていた。
自分とて枯れてはいないが、この男と暮らしていると女の所へ行くのも面倒で、だからといって自分でするほど困ってもいなかった。そもそも性欲のコントロールも出来ないで上忍などやれるはずがない。
だが、普段は性欲など欠片も感じさせない男はどうだろう?
自分でするにもこの男にも仕事がある。一緒に暮らし始めてから、意外と内勤の忍が忙しいと知ったばかりだ。
溜まっているのは間違いないだろう。
うつむいてうす赤く染まったうなじはと髪はまだ僅かに湿っていて、男も俺が帰る前に風呂に入ったんだと分かった。
からかうだけのつもりで投げかけた問いは、思った以上に男を刺激したらしい。
水のにおいよりずっと強く、男の匂いを感じる。鼻がおかしくなったんだろうか?
任務でもないのに男を相手にするなどありえないと思っていたが、俺に言われたくらいのことで顔を赤くそめて口をパクパクさせている男を見ていたら…欲情した。
男もその気になっているのは、もぞつかせている足からも分かる。
それなら、適当に相手をしてやればいい。お互い溜まってるんだから。
その時はそれが当然のように思えた。
湧き上がる衝動を無意識に肯定し、当然のように男に手を伸ばした。
「ね、抜いてあげようか?」
「い、いいです!任務上がりでしょうが!寝て下さい!」
そう言ってもがくイルカの脚の間に無造作に手を突っ込むと、既に後戻りできない状態になっているのがわかった。
男も、俺に欲情しているのだ。
その事実は俺を更に興奮させた。
湧き上がるような凶暴な衝動…それに抗う理由などない。
無理やり相手を組み敷いたことはなかった。当然、男相手などあるはずもない。
だが、どうせこの抵抗も形だけだ。
男もココまであからさまに興奮しているのだから。
「いいから、おとなしくしてなさいよ。」
手足をばたつかせる男を俺の下に敷くのはそれほど難しいことじゃなかった。
驚いた顔は一瞬。その後は涙目になりながらもがき、顔を必死で隠そうとしている。
それすら楽しくて、足の間に腰を割り込ませて強引に行為を進めた。
「やっ!だ、駄目ですって!」
肌蹴た浴衣に手をすべりこませただけで、男は上ずった声で俺を拒んだ。
だが、説得力など欠片もない。
手の中で先走りをにじませるそれが、この行為を拒んでいないことを何より示している。
「体は正直、なんてねぇ?」
からかう己の声も欲望に掠れて。
…とまらない。
「ん、そこ、駄目…!」
甘い吐息交じりの声とともに、体をよじる姿は誘っているようにしか見えない。
このまま強引に突っ込んでやりたい。
そんな凶暴な衝動をやりすごし、男が畳んだらしい自分のベストから、傷薬だけ取り出した。
何もないよりはマシだろう。
「な、なに…?」
不安そうに顔をしかめる男に見せ付けるように、手のひらに搾り出したそれを、男の足の間に塗りつけてやった。
「痛いの、やでしょ?」
「んんっ!あ、あ…っ!」
ぬるりと俺の指を飲み込んだソコはやはりきつかった。青ざめた顔も、震える体も…男を誘うようなマネをしておきながら、そっちの経験の方はないらしい。
やはり、変わった男だ。
…ま、他の男どころか、女も誘ったりしてるの想像もできないけどね。
何故か更に高揚する己を押しとどめるのも馬鹿らしくて、身もだえする男を鳴かせることに集中した。
最初は違和感と始めての刺激に怯えさえ見せていたが、中のしこりを擦ってやれば、あっけなくその表情を蕩けさせた。
そして俺自身も。
締め付けも、その肉の熱さも、普段の余裕などまるでなくして乱れる所も…興奮を激しくするばかりで、中に入り込んだときの快感を想像して身震いした。
指を飲み込ませて広げても、まだ早いかもしれない。
そう思っても我慢できなかった。
「入れるから、力ぬいて。」
「え?…ぅんっ!…あああああっ!」
指を抜かれてほっとしたのか、そこが緩んだ隙を狙ってすぐにねじ込んでやった。
悲鳴じみた声。ぎゅうぎゅう締め付けられて痛いほどなのに、それでも抜こうとは思わなかった。
男はヒクヒクと小刻みに腹を波打たせ、衝撃に耐えている。
それが痛ましいとさえ思うのに興奮した。
「痛いこと、しないから。」
「ん、はっ…!」
我ながらうそ臭いセリフをはきながら、男の中が馴染むのを待った。
吐き出される吐息、そしてこんなコトをされているのに萎えもせず興奮したままの男自身のせいで…あまり長くは待ってやれなかったけれど。
「動くよ。」
「え…?あ、やっ!だ、め…です…っ!」
しがみ付く男が口だけで俺を拒んでいる。男をくわえ込んだことなどないはずなのに、新しい快楽を覚えるのに貪欲な体はすぐに俺に馴染み、搾り取ろうとするように締め付けているのに。
「駄目なら、こんなにならないでしょ?」
「あぁっ!」
勃ち上がっているそれを指ではじくと、背を逸らしてしがみ付いてきた。その瞳に涙と驚愕と…それから確かな欲望をにじませて。
背筋を貫くゾクリとした感覚はきっと快感だ。つながった所から溶けてしまいそうにイイ。
情事に溺れることなど久しくなかった。
だが、普段はただ穏やかに微笑んで余裕を見せつける男が、今俺の腕の中でただ喘いでいる。
我を、忘れた。
突いて、抜いて、絡みつく熱い肉を味わい、上がる悲鳴じみた喘ぎ声に煽られるように激しく腰を使った。
「あ、ん…!んん…っ!」
半開きの口から漏れる卑猥な声に誘われて、ちらちらと覗く舌を味わい、苦しげな息を漏らす男のうなじに、胸に、そこここに、噛み付くように痕を残した。
翻弄されて喘ぐばかりの男が、隠しきれなくなったのか甘い声とともにあの時の執着を瞳に宿らせて鳴くのが楽しくて、からかう声も熱を孕んだ。
「やらしーの。そんなに気持ちイイ?」
「っんなこと…!うぁっ!や…っ!ぁ、ぁ…」
まるで説得力の無いぐずぐずに蕩けた身体に、自分も煽られ通しだ。
もう、そろそろだろう。イルカも。それに、俺も。
「もう、限界。」
「え…?んーっ!…あ…!?」
限界寸前だったイルカ自身の先端をぎゅっと擦り上げてやった。前をはじけさせたイルカの締め付けにあわせるように、自分も中に注ぎ込む。
「ゃ…ぁ…!」
か細い声で震えるイルカが、断続的に白濁を吐き出し、その熱液が俺の腹も汚している。
それすらも、快楽につながった。
「は…っ!」
相手はただの男だというのに、どうしてこんなに気持ちイイんだろう?
今まで情事に溺れたことなんて、…こんなに快楽を感じたことなんてなかった。
イルカを汚し、自身もまるでマーキングのように白濁に濡れて、それでもまだ足りないと未練たらしく腰をゆすった。
「あっ!だ…!まだ…無理だか…らっ!」
「俺は無理じゃない。…ほら、アンタも勃ってる。まだ出来るでしょ?」
「え?…んぁ…っ!」
快楽に蕩けきって力が入らない体で、男が僅かに抗うそぶりを見せたが、そんなものは話にもならない。
足りない。全然。いっそこの男を抱き潰してしまいたい。
衝動に逆らうことなんて微塵も考えず腰をゆすり始めた俺に、引きずられるように男も感じ入った声を上げる。
止まれない。
…式が飛んでこなければ、本当に離れられなかったかもしれない。
「なによもう。帰ってきたばっかりなのに!」
握りつぶした紙切れには、急ぎの任務。…片付けるのに精々数時間だとしても、男から離れたくなかった。
「ん…っ行って、下さい…!任務でしょう…?」
過ぎた快楽に涙を零し目の端を赤く染める男が、荒い息を堪えながらそんなコトを言う。
一緒に溺れていたくせに、その冷静さが気に障った。…何より、この男から離れ難くなっていることが。
「へぇ…?イって欲しいの?…足りないんだよね?激しいのが好きなの?」
「なっちが…っ!あぁっ!」
「お望みどおり。イってあげる。」
いいざま、激しく腰を遣い始めた俺に、男が陥落するのは早かった。
それもそうだろう。イったばかりで、しかも、男は感じやすい。
「や、あ、駄目、も…!」
「イって、欲しいんでしょ?もうちょっと頑張りなさいよ。」
近づいてくる何度目かの絶頂を堪えきれないで、そっと自分のモノに手をやろうとした男の手を戒めてやった。
「やだ…ぁ…っ!離せ…!も、イきたい…っ!」
「だーめ。また中に出してあげるから、それでイきなさいよ。」
いやいやと頭を振る姿はまるで子どものようなのに、貪欲に俺を食むソコは堪えきれずに痙攣し、もがくようにゆすられる腰も熱を煽った。
任務でなければもっと焦らしてやれたのに。
悔しさを感じながら、たっぷりと中を吐き出してやった。
「あ、ぁ、…!」
「ほら、イけたじゃない?」
「あ…」
吐き出した瞬間きつく眉根を寄せて…それから蕩けて緩んだ表情を浮かべた男はゆっくりと瞳を閉じた。
「…落ちちゃったの?」
荒い呼吸が、すーすーという寝息に変わったのを確かめて、それから適当に体を拭いてやった。
汚したまま目覚めるまで放っておいて、その反応を見てやりたい気もしたが、任務があった。
…出勤できるかどうかも分からない男が、万が一他の奴らにこんな姿を見せるかもしれないことが腹立たしくて、身づくろいをぞんざいに整えてやり、それから自分も装備を整えて任務に向かった。
男のあの快楽に溶けた顔にほくそ笑みながら。

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