教えて妖精さん!5

あの日は任務放棄に近いマネをしてしまったが、その後は割り切って、妖精を演じている。
しかし、あの翌日、例によって妖精のフリをしてイルカが良く口にしなかったと、褒めてやったのだが、イルカの表情にいつものような明るさは戻らなかった。
その後も何度か、運命の相手との会話のポイントなどと称して、見合いのときのための細かい指導をしてやっているのだが、いつもなら、ちょっと褒めてやれば 尻尾を振らんばかりに喜ぶイルカに、全く元気がない。
 流石に心配になって、何度目かの時に、イルカにどうして、そんなに辛そうなのかを聞いてみたが、イルカはぼそっと、
「いつまで一緒にこうして話してくれるんですか…。」
と暗い顔で言うばかりで、それ以上何も話さない。
話しぶりからすると、妖精との別れが近いと思っているからこその暗い顔なのだろうかと、カカシも妖精らしく言ってやった。
「貴方の運命の人が、これからは貴方を支えてくれます。私は貴方と話ができなくなるだけ。いつも貴方のことを見ていますよ。」
…言ってから、カカシ自身が後悔した。そうだ。コレは任務。この中忍がどこかで、ドブに嵌っていようが、性質の悪い奴に絡まれていようが、 変な女や男に言い寄られようが、この任務が終われば、カカシとは無関係になる。いつも見ているなんて大嘘だ。
…最初は一刻も早い開放を望んでいたはずだったが、気が付けば、イルカのことが気になって、いつも見ていたいと思っている自分がいる。
だが、コレは任務だ。期間限定の妖精ごっこ。いつか結婚して幸せになって、子供でも連れたイルカをみれば、報われたと思えるだろう。
この感情は、ターゲットに近付き過ぎたための錯覚に過ぎない。…カカシはそう思い込もうとした。
「でも。その人に出会うまでは、一緒にいてくれるんですよね…?」
不安そうに聞いてくるイルカに、抜かりなく妖精らしく肯定の返事を返しながら、カカシは、己の中に芽生えた感情をどう処理すべきか迷っていた。
*****
見合いが翌日に迫ったその日、もうすぐ日付が変わろうかという時間に、カカシはイルカ宅でいつものように、妖精を演じていた、
もう期日は明日に迫っている。ダメ押しのため、仕上げの指導に取り掛かろうとしていると、急に、イルカが思いつめたような表情で言った。
「妖精さんの声が…、俺の知っている人の声に似ているんです。……明日で、最後ですよね。妖精さん、お願いです一度だけでいいから、 俺に、姿を見せてください。」
 とんでもないことを言い出した。また、幻術をかければいい話だが、今イルカは妙なことを言った。妖精の声が、一体誰の声に聞こえていたのだろう。
…イルカは妖精を崇拝というか、信仰している…例えるなら惚れた女に対するように何でも言うことを聞いていた。
…ひょっとして、イルカはカカシの知らぬ間にどこかの女に惚れでもして、カカシの演じた妖精の声も、その女の声に聞こえているのだろうか。
カカシが思いをめぐらせている間もイルカが言い募る。
「その人も妖精さんみたいにすごく優しくて、困ったときにいつも助けてくれるんです。」
コレだけ目を離さずに側にいたというのに、イルカは知らぬ間に勝手なマネをしていたのか。…いっそのこと今度の見合いの相手に化けて降りてやろうか。 イルカがすんなり今度の相手を、運命の相手だと信じるように。
…だが、それでは腹の虫が治まらない。
そうだ、もっと面白いことを思いついた。
「では、イルカ、一度だけ、私の姿を見せてあげましょう。…少しの間、目を閉じて…。」
そうしてカカシは、スッと居間で目を瞑ったイルカの前に、変化も幻術も使わずに降り立った。カカシがそのままの姿で現れれば、ずっと頼りにし、 信じきっていた妖精の正体が、本当は良く知りもしない上忍の幻術だったと、いくらイルカが鈍くても悟るだろう。
…かえってショック療法代わりになって、二度と妖精などというものに頼らなくなるかもしれない。…多分に私情も混じっているが。
「さあ。目を開けて。」
イルカがその黒い瞳を少しずつゆっくりと開いていく。
「こんばんは。イルカ先生。」
 イルカはショックを受けるだろうか。それとも、流石に騙されたと怒り出すだろうか。イルカの漆黒の瞳がカカシを見つめる。そして
「やっぱり。」
意外な言葉を口にした。
やっぱりとは、どういうことだろう。流石にこの中忍も幻術に気づいていたのだろうか。上忍として階級が下の忍びに術を見破られるなど恥ずべきことだが、 それどころではなく、カカシが妖精さんなるファンシーな生き物を演じていた事がばれたという事だろうか。
…ぞっとしない。カカシが内心焦っていると、イルカは元気良く、爆弾発言した。
「やっぱり、カカシ先生が妖精さんだったんですね!!!」
 …イルカの脳は、どういう構造になっているのだろう。そもそもどうやったら身長180cmを超える男を妖精と誤認できるのか。しかも、そいつにいつでもどこにいても じっと見守られているのだ。
…普通、男が同じ男に私生活まで延々と見守られ続けるなど、耐え難いことではないだろうか。
しかも、自分で言うのもなんだが、覆面をした、胡散臭い暗部上がりの上忍にだ。
やはりイルカは理解しがたい。…久しぶりに見るにこやかなイルカは、衝撃に立ちすくむカカシを見つめて飛び跳ねんばかりに喜びながら、楽しそうに言った。
「だから、妖精さんのこといっちゃだめっていったんですよね。正体がばれちゃうから。子どもたちにも、妖精だってばれそうになったから、 俺の所に相談にきたんでしょう?」
イルカは相変わらず想像の斜め上を行く。この様子では、自分の<カカシは実は妖精だった説>を心の底から信じていて、疑ってもいないだろう。
どうしたものだろうか。…だが、カカシも気づいていた。この中忍と違って、流石に自分は冷静だ。いくらごまかそうともこの中忍に向ける己の感情が紛れもなく 独占欲だということを、今日のことで思い知った。
先程もカカシの知らぬ間に、女に惚れでもしたかと腹がたったし、他の女に化ければよかっただけなのに、任務失敗の可能性を理解しながら、敢えてそのままの 己の姿を晒した。
…あきらめて腹をくくろう。親バカ連中と違って、自分には、この厄介な生き物を一生世話する自信がある。というか、こんな面倒くさい生き物の世話は、 カカシ以外に不可能だという確信がある。
「ねえ。どうして気づいたの?」
この際ずっと一生騙してしまおう。誰が他の女にも、ましてや男にもやるものか。一生手元において、この危なっかしい生き物を守ると決めた。
カカシの決意を他所に、イルカは自分の考えを聞いてもらえるのが楽しくてしかたがないのか、すごい勢いで話し始めた。
「それはですね!…」
…イルカが誇らしそうに話し始めたところによると、イルカは妖精の正体に気付いたというよりも、カカシが妖精を演じての指導の合間に、 指導内容が身についているかの確認のためなどに、たびたび接触する内に、カカシの事が気になり始めたらしい。
最初に木の葉デパートでであったときも、「すごくドキドキ(イルカ談)」したそうだが、赤い糸がみえなかったため、悲しかったんだそうだ。
だが、その後で、妖精さんに、赤い糸が見えにくい人がいると聞いて、「やっぱりカカシさんが俺の運命の人なのかも!」と思うようになり、 そう思って聞いてみると、妖精の声がカカシの声に聞こえるようになったので、確信したのだという。
だが、もうすぐ別れなければいけないと聞いて、その前に正体を見破る事が最後の試練だと思ったんだそうだ。…つまり、カカシの正体が妖精だと思っているのだ。
「だって、俺の運命の人とは、今日であうんですよね!!!」
そう訴えるイルカの指差す時計を見ると、時刻は確かに12時を回っていた。
「見つけたんだから、カカシ先生は消えちゃったりしませんよね?」
目を潤ませて不安感一杯のイルカを見ると、もう任務の事などどうでもよくなった。そもそも任務内容は、<イルカを見合いの日までに仕込む事>なので、 それを守ってはいるはずだ。その後の見合いに参加しようがしまいが、カカシにとっては知ったことではないし。
おそらく親バカ連中はごねまくるだろうが、そんなことはたいした問題ではない。イルカのほうがずっとカカシを振り回してくれる。いまさら他に怖いものなど 何もない。
吹っ切れると、ムキになってカカシの腕を掴んでいるイルカを自分のものにしたいと素直に思えてくる。言い訳ばかり考えていたのがウソのようだ。
「そう。大正解です。イルカ先生が俺のことわかってくれたから、もういなくなったりしませんよ。」
さらっとにこやかにこんなことを口にできるくらいには、頭もすっきりした。…カカシは妖精ではないが、それ以外のことをウソにする気は毛頭ないので、 結果的には問題ないだろう。
腹がすわったので、早速明日(もう今日だが)に迫った見合いをどのようにぶち壊すか、計画を練ろう。
「さ、今日は休みましょう。最後に大きな試練があるんですよー。」
純真なイルカは、放っておけばこれからもあの親バカ連中に好き放題されてしまう可能性が高い。ここらで、きっちりと思い知らせてやるのがいいだろう。
「がんばりますね!」
最初にこの部屋で見たときのように輝く瞳のイルカを連れて、寝室に向かいながらも、カカシの頭は作戦を組み立てていた。
*****
結局、イルカを寝かしつけた後、自宅まで帰ってしっかり準備をし、カカシは今イルカ宅の扉の前に立っていた。 こんこんと安普請の扉を叩く。中から毎度のようにどたばたした足音が聞こえて、すぐにイルカが顔を出した。…昨日はちゃんと寝かしつけてから出てきたつもり だったが、失敗だったようだ。イルカの目の下に凄い隈ができているし、顔色も青白い。
…おそらく途中でカカシが帰ったことに気づき、カカシが消えてしまったと思って、眠れない夜を過ごしたのだろう。
確かに後悔したが、そこまで執着されていることに、逆に喜びさえ覚える。
さて、コレからが本番だ。イルカの体調は心配だが、それよりもさっさとものにしておく必要がある。
「イルカ先生。俺の運命の人。一生一緒にいてください。」
そういってイルカの前にひざまずくと、朝一番に購入し、持参した真っ赤なバラの花束差し出した。
因みにこれは、イルカの母が、イルカの父にプロポーズしたときにやったのと同じらしい。…両親からして変わった人だったようだ。
妖精を演じているときに、理想のプロポーズの話をすると、イルカは一生懸命にこの話をしていくれた。科白の臭さは憤死ものだが、今まで妖精なんてものを 演じていた身としては、もはや気にもならない。大きな獲物を手に入れるためにはしては、小さな犠牲だ。
「嬉しいです!!!もちろん。一生一緒にいて下さい!」
イルカは真っ白だった顔を真っ赤に変えて、輝かんばかりの笑顔で答えてくれた。
予想通りだが、うまくいった。コレでイルカの方は大丈夫だろう。さて…次の作戦を実行に移そう。
「じゃ、イルカ先生、これから最後の試練です。準備をしてください。」
「ほえ?準備?」
嬉しさとホッとしたために襲ってきたのだろう眠気でぼんやりしたイルカを、手早く先日購入したスーツ一式に着替えさせ、髪の毛などを整える。
もちろんカカシもすでに自宅からスーツ姿だ。プロポーズのためというのもあるが、これから対決する親バカたちに、ぐうの音も出ないほど思い知らせて やらなければならないからだ。…イルカが誰のものなのかを。
眠たそうなイルカの手を引いて、三代目のセッティングした見合いの席である、高級ホテルにたどり着いた。案の定、クマもウワバミも三代目も、 しっかりそろって待っている。言い争う声が聞こえる事からして、クマとウワバミの方は見合いを止めにきたようだ。
少し離れたソファにイルカを座らせてから、三代目がクマと言い争っているところに近づくと、三代目に怒鳴られた。
「カカシ、余計な事を言いおって!!!まあいい。アスマをさっさと連れていけ。今日は大切な日なんじゃからな。」
親バカの親玉が何か言っているが、従うつもりは全くない。
「その事ですが、三代目。」
「なんじゃ!おぬしその格好は?!」
「三代目。任務報告書です。」
「おお。だが、まだ見合いは終わっておらんぞ?」
「ですから、見合いの前までにイルカ先生を理想の相手と付き合えるようにするって言うのが、俺の任務でしたね。」
「何が言いたい。」
「任務はもう完了ですね?」
「…まあよいじゃろう。ほれ。さっさとイルカを置いて、アスマを連れて行け!」
三代目も焦っていたのだろう。懐から火影印を取り出して、ぽんと報告書に押してくれた。…計画通りだ。
「受理。しちゃいましたよね。」
「なにが、言いたい。」
流石の三代目も裏があることに感づいたようだ。ま、もう手遅れだが。
「イルカ先生。今日の見合い。出ませんよね。」
今まで、カカシがソファに座らせていたイルカ先生に振り返って聞いてみる。眠気と緊張で、ぼんやりして話を聞いていなかったらしいイルカも、 見合いと聞いて回路がつながったらしい。
「?何で見合いしなきゃいけないんですか?もう、カカシ先生がいるのに。」
イルカが心底不思議そうにそう言った。それを聞いた三代目は、一瞬あぜんとしていたが、すぐさま、真っ赤なチャクラを全身から立ち上らせ、 カカシに向かってものすごい殺気を向けた。まず、祖父もどきから退治するかと思ったが、その横から、クマが口を挟んできた。
「てめぇ…!手ぇ出すなって。言ったよなぁ!!!」
流石親子。チャクラの黒さも殺気も行動もそっくりだ。ここまでは、予想通り。今まさに三代目とヒゲと遣り合おうとしたとき、
「なにするんですか!俺のカカシ先生に!」
イルカがカカシの前に立ちはだかった。どうやら庇っているつもりらしい。
「イルカや。そのバカに何を吹き込まれたのか知らぬが、今日は大切な日なんじゃよ…。いいこじゃから、そこをどきなさい。今すぐ片をつけてしまうから。」
殺気を放ちながら、猫なで声を出しても、全く説得力がない。三代目に洗脳され気味なイルカでも、流石に警戒を解かないでいる。
カカシは、別に直接渡り合ってもいいのだが、おそらく計画通りなら…。
「おい、まてよ。だから、見合いなんてまだコイツには早いんだよ!なんだってこんな事たくらみやがった!」
やはり、今度はヒゲが三代目に噛み付き始めた。この様子だと、朝からずっとここで言い争っていたようだ。今はもう昼。そろそろ相手が来てしまうはずだ。
「うるさい!イルカのことはワシが一番わかっておるんじゃ!おぬしは黙っとれ!」
三代目がムキになって、怒鳴りつけているが、アスマはまるで堪えた様子もなく、むしろ腹立たしげに言った。
「勝手な思い込みでイルカのこと好き勝手されちゃ困るんだよ。さ。帰ぇるぞ。イルカ。運命の人なら、ちゃーんと俺がみっけてやるからな。」
アスマも勝手なことをいって、イルカを連れて行こうとした。イルカはカカシを庇いながら、一歩も動こうとしない。焦れたアスマが、 舌打ちしながらイルカの腕を掴み、強引に連れ出そうとした。それを見た、三代目が怒鳴る前に、イルカの声が響き渡った。
「嫌です!」
イルカは事態が飲み込めないながらも、とっさにカカシの服を掴み、抵抗しようとしている。カカシもイルカの肩を抱きしめてやった。
と、そこに、ウワバミが口を挟んだ。
「イルカちゃん。」
泣きそうな顔でイルカが答える。その様子はまるで不安で一杯の幼い子どものようだ。
「紅ねえちゃん。」
縋るような目で紅を見ている。…ねぇちゃん……紅に関してはあとで、きっちりさせておく必要がありそうだ。
「ねえイルカちゃん。運命の人見つかったの?」
にこやかに紅が話しかけている。それに花が咲くように笑ったイルカが、力いっぱい答えた。
「はい!ここにいる。カカシ先生だったんです!!!」
心底嬉しそうにイルカが言う。三代目はよろけたし、アスマも驚きのあまりイルカから手を放してしまった。その隙を逃さず、カカシはイルカをアスマから 引き離した。大切に胸の中に抱き込む。
「ね。イルカちゃんは、今幸せ?」
更に紅が問う。
「はい!紅先生の言った通りで、優しくて、俺の事ずっと見ていてくれたんです。」
それは、イルカの思い込みだが、今後は徹底的に見守りまくるつもりなので、訂正はしないことにする。
「守ってくれそうなのね?」
「はい。」
顔を真っ赤にして、照れながらイルカが答える。それを紅は目を細めて見て、言った。
「じゃあ。いいわ。…アスマ。帰るわよ。…カカシ。イルカちゃん泣かせたら、殺しに行くから宜しくね。」
流石ウワバミ。クマを尻に敷いているだけある。迫力満点だ。もとより承知の上なので、うなずきで返し、イルカを後ろから抱きしめた。
「ちょっとまて!アイツはだめだろ!…おいっ放せ紅!!!」
「黙りなさい。アスマ。どっちが幸せか見れば分かるでしょ。」
「〜認めん!俺は認めんぞ!カカシ〜勝負だ!!!」
脳が煮詰まったクマが、ガイに汚染されたような発言をしたが、紅の容赦ない踵落し(ピンヒールバージョン)により、沈黙を余儀なくされたようだ。
紅に引きずられていくクマをイルカが心配そうに見ている。
さて、コレで残る敵はあと一人。予想外に早くクマが片付いたが、最後に手強いのが残っている。どうやって片付けようか…。そう思いながら、 カカシは三代目の方を振り返ったが、最大の敵であるはずの三代目は、すでに泡を吹いて倒れていた。
「わー三代目―!!!」
イルカも気づいたが、どちらにしろコレでは見合いは無理だろう。慌てるイルカを落ち着かせると、忍犬を放って、三代目を木の葉病院に搬送するよう指示した。
すぐさま、三代目はカカシの忍犬によって呼びだされた暗部の手により、木の葉病院に運ばれた。
その後すぐに、見合いの相手もやってきたが、その場で三代目が倒れた事と、断りの挨拶をして、穏便に引き取ってもらった。
三代目の選んだ女だけに、物分りが良くて助かった。…鼻水たらして泣きじゃくっている男の嫁になりたくなかっただけかもしれないが。
イルカはまだ泣きそうな顔をしている。自分がとんでもないマネをされてきている自覚がないだけに、本当の祖父を思うように心配しているのだろう。 三代目は単に、イルカの言動にショックを受けて卒倒しただけなので、体の方には問題はないはずだ。…まあ、寿命は少し縮んだかもしれない。
カカシはいつまでも泣き止まないイルカを、ソファの上に座らせ、頭を抱きしめて、そっと言った。
「大丈夫ですよ。」
鼻をぐすぐす言わせてべそをかきながら、イルカが言う。
「ほんとですか?」
「いままで、俺がウソをついた事がありましたか?」
本当はありまくりだが、イルカは騙されてくれるだろう。…だが、この騙されやすい所も少しずつ改善していかなくては。…イルカが騙されるのはカカシに 対してだけでいい。
「はい。」
 涙は流れているが、イルカはカカシを見上げながら、微笑んでくれた。
「よく、がんばりましたね。試練はこれで最後です。ずっと一緒にいましょうね。」
われながら似非臭い科白だが、もうなれた。コレでイルカが手に入るなら安いものだ。
泣きながら笑って抱きついてくるイルカの鼻水を、スーツの袖で拭ってやりながら、カカシはやっと手に入った幸せをかみ締めていた。

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