第二回 嫁と舅の抗争―花と緑につつまれて―

よめがいびられていないか心配なので、最近は任務チェックを欠かさないようにしている。
今のところ、変な任務は押し付けられていないようだが、油断はできない。
よめが任務でいない隙にやたらと声をかけてくる三代目は、
「イルカや…。もうそろそろ許しておくれ…」
などと涙ながらに訴えてくるが、もちろん無視だ。
仕事中は仕方がないので、三代目と話すこともあるが、徹底的に事務的に話すようにしている。
それがかえって三代目には堪えているようなので、さっさとよめに対する不当な圧力を止め、反対を諦めて欲しいものだ。
…だが、今日、三代目に書類のサインを貰いにいくと、そっと何か紙切れを手渡された。
<火の国ワンダーランド☆花と緑の楽園☆無料入場券>と書かれている。何かのイベントの招待券らしい。
「イルカ。わしが悪かった。ホレこの券をやろう。花と!緑じゃぞ!ろまんてぃっくじゃろう。これで遊んでおいで。」
まさか俺のいない隙によめに何かするつもりだろうか…。不審に思ったが、貰った券は2枚だった。
―ひょっとしなくてもコレはよめの分。ということは、…やっとよめのすばらしさを理解してくれたのだろうか。
こっそり対三代目専用トラップ<<THE HOKAGE☆ホイホイ ver5.50>>を作り始めていたので、ちょっぴり残念に思ったが、 良く考えればこれほど嬉しいことはない。なにしろあの頑固な三代目がうちのよめを認めてくれたのだ。
「三代目…。コレはよめと一緒に行ってもいいということですか…?」
念のためダメ押ししてみる。
「…好きにせい…。」
唇を尖らせてぼそぼそと三代目が答えてくれた。よめに対する仕打ちを悔いていて、ちょっと素直になれないだけだろう。
こんなものまでくれるだなんて!三代目は本当に許してくれたようだ。
嬉しくなったので、ちゃんと仲直りすることにした。今日は三代目スペシャルにしよう。ぎゅっと抱きついて三代目に言った。
「ありがと。じいちゃん!!!」
やっぱり三代目は俺の育ての親なだけあって、見る目がある。
早速、明日の休みにでもよめを連れて、遊びに行こう。お土産も一緒に選んで三代目に渡すのもいいだろう。目指せ!仲直り!だ!!!
*****
やっとわしの可愛いイルカと仲直りができた。久しぶりに間近でみたイルカの全開の笑顔はやはり感激物じゃった!!!
イルカは優しく素直な子に育った。何をやらせても一生懸命で、他の教師連中が、目をそむけ続けたナルトでさえ、 あそこまでまっすぐに育て上げた。
イタズラのトラップも良くできたものばかり作って、いつもわしを驚かせてくれた。
…素直すぎるのが玉に瑕じゃが…。
だが!今はむしろ好都合!!!奴をはめるにはイルカを使うのが一番じゃ。
イルカにはちとかわいそうかもしれんが、コレもむしろイルカのため!
見ておれ!三代目火影の意地を見せてくれる!
*****
「明日遊びに行くので、弁当、作って?」
イルカ先生がかわいらしく、おねだりしてくる。おでかけか…。…そういやまだ外でヤッたことなかったな…。
弁当がいるということは、ピクニックか何かだろうか。何を持っていこう?縄も捨てがたい。縛られたイルカ先生を青空の下で、 思いっきり楽しむ。…うん。きっとすばらしい思い出になるだろう。
…それともむしろ、服を思いっきり汚した後、普段着てくれない服を着替えに持ってって、もって来る着替え間違った振りして、 着せてみるとか…。何を着せよう…。浴衣作ったけどまだ着てもらってないし…緩めのワイシャツも捨てがたい。 …はだける胸元…ちらりと覗くうなじ…。イイ…。きっとすごくかわいい。
だが、ちょっとまて、それを他の人間に晒すのは不愉快だな。…忍犬使って邪魔なの追払うか…。
…まあ、まずその前に、弁当の中身を決めよう。
「イルカ先生。おむすびは何がいい?梅としゃけと昆布とか?それともサンドイッチ?両方?」
おこわなんかも弁当にはいいのだが、イルカ先生は混ぜご飯が嫌いだ。おかずも、イルカ先生の好きなから揚げとか卵焼きとか…。 あ。あと煮物も入れないと。
「んー。おむすび。具は多めで。おかずはから揚げと煮物と…。あと漬物と―。ゆで卵。」
イルカ先生の希望のおかずをすばやくメモし、足りないものは、即忍犬を放って買いに行かせた。 焼き物も多少入っていたほうがいいだろうからそれも考えて。
「えへへ。たのしみ。」
イルカ先生がかわいらしく笑う。しかし、いまさらだが、なぜ出かけたくなったのだろう。イルカ先生はインドア派でもないけど、 休日にわざわざ出かけたりすることは少ない。たいてい休みの日は、うちで俺とくっついて過ごしているのに。
チケットを手に取る。別に術などはかけられていないようだ。薬のにおいもしない。
…こんなものをよこしそうなのは……。アカデミー生の保護者か、後は、三代目、か。
いや、しかし、もしかすると、…どっかの命知らずが、俺のイルカ先生に……!
「ねぇせんせ。コレどこでもらったんですか?」
イルカ先生に余計なちょっかいをかけてる輩がいるようなら、即処理しなければ。
「…三代目です。」
ちょっと申し訳なさそうな上目遣いで、イルカ先生がこっちを見る。かわいい。
「三代目の?コレ、大丈夫なんですか?」
絶対あのじいさんあきらめてないと思うんだけど。
「それが!三代目があなたのことを認めてくれたんです!これも、一緒に行くようにって!!!」
キラキラした純真な瞳。じじいはどうやらイルカ先生を上手いこと騙したようだ。
ちっ。この状態だと、絶対に行きたくないなんて言えない。…じじいもコレを狙ってたか。
「うれしいです!」
表面上はイルカ先生に合わせておく。…今から色々と準備をしなくては…。
イルカ先生はうれしそうに、一緒にお土産を買ってもって行く計画だとか、こんどうちに招待しようだとか話している。 かわいらしい。
が、しかし、じじいの狙いは、優しい舅になることではなく、俺の排除であることは明らかだ。
せっかくの青空デートを…!絶対に堪能してやることに決めた。

*****
火の国ワンダーランド☆花と緑の楽園☆と書かれた大きな看板が見える。早起きしてここまで来た甲斐があった。人もあまり並んでいないし。
広大な敷地に、花でできた大きな時計や、温室には珍しい異国の花や、森を利用したアトラクションなどがあるらしい。
看板を見ているだけでワクワクしてくる。
今日は、よめの服装も普段の忍服ではなく、白いカッターシャツに、チノパンというラフな格好だ。
もちろん俺も色違いのおそろいで、俺は黒いシャツ。どっちも嫁のお手製だ。
よめの白い肌には、白いシャツが良く似合う。いつも外では隠している顔を、他所の人間に晒すのはなんとなく嫌だが、 おれのかわいいよめを自慢したい気持ちもあるので、ちょっと複雑だが許すことにする。
入り口で入場券を渡すと、よめが俺の手を引きながら案内図を眺めている。弁当片手に俺も地図を覗き込んだ。
「どこいきます?」
ここは夫としてリードすべきだろうか?それともよめを尊重して…。
「ここ。面白そうですよ。森の宝探し!森の中に宝物が隠してあるって、書いてあります。あーでもアカデミーの授業みたいで、 休日にはやりたくないですか?」
よめが、かわいらしく首をかしげて聞いてくる。地図を見ると、アカデミー生が使う演習場よりも少し広いようだ。 入り口も何箇所かあるみたいだし、そこそこ広い、 宝探し!というからには、きっと楽しいだろう。
…なによりかわいいよめといっしょだし。
いつも一緒にいるが、こういう所に出かけるのは初めてだ。きっと今日は楽しい一日になるに違いない。あ、三代目のお土産も忘れないように しないとな。
「ここ。おもしろそう。いきましょう。」
かわいいよめに微笑みかけて、今度は俺がよめの手を引いて移動することにした。
*****
現地に到着したが、じじいからの攻撃はまだのようだ。術の気配もしない。…おそらく三代目なら、一般人を巻き込まないようにするだろうから、 この施設の中では、比較的狭い温室や、展示館よりも、緑の海と題された、広い芝生か、この森の宝探しを狙ってくる可能性が高い。
芝生は見通りが良すぎるので、おそらく森が一番狙いやすいだろう。
…それに、どこかに潜んだじじいが今この会話を聞いていたのなら、きっと引っかかるはず。先ほど忍犬を偵察に放ってあるし…。
しばらくは様子見だな。まあ他の目的もあることだし、森は俺にも絶好のポイントだ。
「イルカ先生。朝早かったから、疲れてないで?何か買ってくる?」
何か仕掛けるとしたら、俺とイルカ先生が別行動したときを狙う可能性が高いだろう。多少わざとらしいかもしれないが、相手も妖怪じじい。 コレを機に仕掛けてくるかもしれない。…お互い腹の探り合いだ。
「大丈夫。でも変わったものがあるみたいだから、見に行きましょう。」
「そうですね。」
まあ別行動を取らなくても、じじいは手を考えているだろうから、警戒を怠らず、仕掛けてくるのを待つしかないか…。
それよりもなによりもイルカ先生を堪能しなくては。
案内図を見ながら、食べ物を売っていそうな店を探すと、森の近くにジューススタンドがあった。 変わった飲み物がたくさん並んでいる。ここの畑でとれた木苺などのフルーツで作ったジュースや、シャーベット。 ポップコーンも森のきのこ味らしい。他にも色々な軽食が売られている
珍しいものが多いので、イルカ先生が気に入ったようなら、後でレシピをパクッて帰ろうと決めた。
イルカ先生と相談しながら、適当に食べ物を買って、歩きながら森へ向かう。
ここは一般人には広いので、移動用の馬車やカートなどもあるのだが、イルカ先生が歩きたいというので、手をつないで歩く。
馬車でいちゃいちゃするのも楽しいだろうが、それよりも手をつないでイルカ先生と一緒に歩いていく方がもっと楽しい。
俺だけをみて、一生懸命に話をするイルカ先生を堪能した。…来てよかった…!
不確定要素があるとはいえ、これからの計画ことを考えると楽しみで顔がにやけてくる。
ここのアトラクションの話をしていて、森の次にどこを回ろうかと考えていたとき、妙にファンキーなファッションの老人が、目の前を 歩いてくるのを見つけた。なんだかつれている孫らしき少年に見覚えがあるような…。
「おお!奇遇じゃのう。イルカ。」
じじいか!ここで仕掛けてくるとは、しかもナルト連れ!!!確かにイルカ先生には効果的だ…。
しかしなんだろうあの格好。紅白ストライプのシャツにアロハ柄の…アレはショートパンツなんだろうか…?妙に丈が中途半端なパンツから、 ひざがちらりと見えている…。しかも妙な柄のビーチサンダルまで履いているし。さらに、いつもの笠の代わりにか、麦藁帽子 (なぜかピンクのリボン付き)が…!そんな格好なのにもかかわらず、いつもの杖もしっかり持ってきている。なんなんだ…。
…イルカ先生がこの趣味に汚染されていなくて良かった…。俺はひっそりと何かに感謝した。
ナルトはいつもの格好だ。アイツ服他に持ってないのか?さっそくイルカ先生に飛びついている。こらナルト! その腰は俺のものだ!っていうかイルカ先生は全部俺のものだが。
「イッルカせんせー!!!」
「こらナルト!飛びつくなって、いつも言ってるだろう!なんだ?お前も遊びに来たのか?」
「じーちゃんが遊びにいくって言うから付いてきたんだってばよ!!!サスケとサクラちゃんは誘ったけどなんか大事な用事だって、 断られた。」
遊びに来たというが、おそらくコイツも三代目の駒だな。本人は…はしゃぎきってるし、全然気付いてないだろうけど。
―サスケとサクラは賢明だ。俺がこんなマネを許すはずがないことを、ようく分かってるようだ。
…今度の修行は、すこし、サービスしてやろう…。
「奇遇ですねぇ?」
じじいに、口調だけは丁寧に話しかけてやる。じじいも表面上は笑っているが、視線には毒がたっぷりだ。
「奇遇じゃのうホントに。」
「イルカ先生はどこ行くの?一緒に行かねぇ?あー!それウマそうだってばよ!ね、ね。ウマイ?それウマイ?」
俺たちが水面下で飛ばしている火花に、天然師弟が気付くはずもなく、イルカ先生はしょうがねぇなぁなどとといいながら、 ナルトにさっき買った食い物を分けてやっている。
あ!食べさせあいっこだと!俺だってまだなのになんてうらやましいマネを!くっ!ナルト相手では中々手が打てない…!
じじいがニヤリと黒い笑みを浮かべてこっちを見ている。くそじじいめ…コレが目的か…!
*****
じいちゃんと遊びに来てたら、イルカ先生がにこにこわらいながらカカシ先生と手ぇつないで歩いているのを見つけた。
いちゃいちゃバカップルには近づかないのが一番よ!ってサクラちゃんが言うから、話しかけんのやめとこうかと思ったけど、 じいちゃんが話しかけちまったってばよ!
いちゃいちゃバカップルって何って聞いたら、サクラちゃん、カカシ先生とイルカ先生のことよって言ってたけど…。違ったのか?
まあいいや、イルカ先生と遊べるのは楽しいし。じいちゃんが俺たちを誘ってくれたのも嬉しかったけど…、バカサスケは、その…べつに、 どうでもいいんだけどさ…サクラちゃんがいないってのはさみしいっつーか…。
やっぱさ、なんかいっぱい、知ってるヒトがいんのって楽しいし。こういうとこ行くの初めてだし、すげぇ楽しみだったけど、 イルカ先生とカカシ先生が一緒にまわってくれるんなら、きっともっと楽しいってばよ!!!
イルカ先生はこれから森の?何とかってとこに行くんだって。
なんかアカデミーの授業みたいだけど、宝ってすげぇおもしろそう!
なんかカカシ先生がじいちゃんと話してるけど、イルカ先生がイイって行ったからだいじょぶだよな!!!
*****
結局、じじいとにらみ合っている隙に、ナルトがイルカ先生を誘ってしまったので、宝探しもナルトとじじいと一緒にやることになった。
せっかくのペアでの参加が条件のアトラクションなのに、なぜかイルカ先生がナルトと組んでしまった…!
これには俺もじじいも慌てたが、
「いっしょに遊んでやりたいんです!あいつと…。」
などと目を潤ませたイルカ先生に言われてしまえば、黙る他なく。
泣く泣く、仇敵であるじじいと俺とでペアを組むことになってしまった…。
…イルカ先生とナルトの姿が見えないところまでくると、当然、宝探しなどには参加せず、俺とじじいはこっそり影で戦闘を繰り広げはじめた。
じじいもさすが火影をなのるだけしつこく、あんなに奇天烈な格好をしている割に武器の仕込みも十分で(これは俺もだが…)、 制限時間いっぱいやっても決着が付かなかった。
その間に、ナルトとイルカ先生はしっかり宝であるこのテーマパークの景品引き換え券(小さな巻物状で意外と良くできていた) を見つけており…。
さっさとじじい片付けてイルカ先生を堪能する予定だったのに…!
…ナルトが
「カカシ先生とじいちゃんに勝ったってばよ!おれたちってばすげぇ!!!」
と喜ぶのはあきらめてもいいが、イルカ先生に、
「そんなにボロボロになるまで…!随分一生懸命探したんですね!仲良くなって良かった!!!」
と微笑まれたことが非常に堪えた。
おそらくじじいも相当なダメージを受けたはず。真っ青になって固まってたし。見た目は珍妙な置物になってた。
まあ、戦ってましたとか言えないし、いいんだけどね…。笑ってるイルカ先生かわいいし。
「一生懸命なよめさんはかわいいなあ」
って言ってくれたし…ね。
そして朝から精魂こめて持ってきた弁当もナルトとじじいに分けてやることになった。
イルカ先生は、
「いつも美味い物食ってるから、たまには、分けてやります。」
なんて嬉しいこといってくれたので、
「じじい!おまえに食わせる弁当などない!!!」
と叫ぶことはできなかった…。
足りない分はここで買ったが、ナルトは俺の弁当を顔中口みたいになってすごい勢いで食べ、
「うめぇってばよ!!!カカシ先生!!!」
と口に物が入ったままで、しゃべって、イルカ先生に怒られていた。
じじいは弁当に口をつけないかと思ったが、意外にも弁当に何も文句をつけなかった。…というかさっきの一言で、魂をどっかに置いてきた くさいな。
なんか機械みたいな食べ方してるし。
ざまあみろ!俺のほうが若いから回復が早いんだよ!
…だが、これからナルトと行動を共にするなら、今日の所は、計画の実行は無理だな。
ちっ!せっかくの計画が…!
……しょうがないので、今日の所は、浴衣のイルカ先生堪能コースに変更することにした。
*****
今日は楽しい一日だった。最初のアトラクションで、カカシ先生と三代目がはしゃぎすぎて疲れてしまったみたいだけど、俺の計画通り、 仲良くなって良かった!!!
最初だけだったけどよめと手をつないで歩けたし、みんなで温室で見た珍しい花も面白かったし、芝生の広場で食べた弁当も美味しかった!
さすがうちのよめだ!!!料理も上手くて、舅の扱いもなれてるなんて!!!
お土産も一緒に選んで、ナルトも引換所で景品のマスコットみどりんを嬉しそうに受け取っていた。
俺も気がつかなくて、ナルトをこういう所に連れて来てやったことなかったもんなぁ。
今度下忍ルーキー連れて、遊びに行こうって誘ってみようかな。弁当もすごく喜んでたし。
今度はよめとみんなで一緒に弁当作るのも楽しいかもしれない。…その時は三代目も誘おう!
今日は本当にいい思い出ができた。疲れてしまって、動きの鈍い三代目をナルトが担いで送って行ってくれたので、 よめと二人で手をつないで帰ることにした。
「疲れちゃった?」
さっきから、よめがあんまり元気がないので、心配だ。三代目と遊びすぎてしまったんだろうか?
「いいえ。だいじょぶですよ!」
声は元気そうだが…。今日の所は早く風呂に入って寝よう。それから明日になったら、今日のことをいっぱい話せばいい。
幸せな気分で、俺はよめの手を改めてそっと握り締めた。

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続きです。こんなものでも大丈夫なんでしょうか?

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