二日酔い あるいは始末に終えない話

昨日は大分飲みすぎた。やっと手に入れた休み、ソレも連休を明日に控えた俺は、それはもう飲んで飲んで飲みまくった。 いつ家に帰ってきたのか記憶にないくらいだ。
したたかに飲んで、その勢いで居酒屋で隣り合った人とも意気投合して、羽目を外して楽しんだ。
まあ、お陰で今非常にだるい訳だが。それはもうやたらと。
それに…。
「あったまいってー…。」
ゆっくりと目蓋を開くと、空けきった朝の光さえ、刺す様な頭痛を起こす。…重症だ。
酒でかすれたのか、思わず漏れた呻くような声は、我ながら弱弱しく、情けない。だが、まあ誰も聞く人などいないのだ。 家族もとうになく、悲しいことに恋人も…。そんな一人暮らしの侘しい独り言だ。
…だが、その独り言に、どういうわけか応えが返ってきた。
「おはようございます。」
ココは俺のベッド。俺は一人暮らし。…で、コイツ誰なんだ!?
俺のベッドの中で、俺の隣に寝てて、オマケに…やたらキレイな顔した男。酔っ払って潰れでもしたんだろうか? それでお持ち帰りしたとか?
だが、この状況は心臓に悪い。…なぜなら男は…布団から出ている部分だけだが、服を着ていないように見えるからだ。
妙な焦りがこみ上げてくる中、俺はおそるおそるその男に問いかけた。
「…ど、どちらさまで…!?」
「えーと?あなたの恋人かな?」
なーんだ!こいびとかぁ!…って…恋人!?
「は?え?いつの間に!?」
驚いて声を裏返させた俺に、男は小首を傾げてみせた。…顔の言い男は得だ。いちいち様になっている。
だが、返ってきた答えはいただけない。言うに事欠いて恋人なんて!
確かに彼女いない暦が年齢と同じ年齢の俺だが、だからといって男が好きなわけでは断じてない。
…手に嫌な汗がにじんできた。コレは…一体どういうことなんだ!?
そして…そんな俺にも男はまた僅かに考えるようなそぶりを見せた。
「んー?昨日から?っていうか、昨晩から?」
昨晩って…昨日の夜!明日休みだからって調子に乗って酒飲んでたら、大分出来上がった頃にとなりに知らないヒトが座って …それから…話があったのは覚えてるが…そういえば!銀髪だった!覆面取るとこんな顔だったのか!
「ななななな!何で!?」
なんで…どうしてそこから恋人なんて答えが出て来るんだ!?
慌てふためく俺の顔を、さりげなくなでながら、男は不満げな声で言った。
「えー?ヤリ逃げはしない主義なんですけど。俺。」
…脳内に、その言葉の意味が届くのに、相当な時間を有した。
噛み砕くように、口の中で反芻する。
「やりにげ…?ヤリ逃げ!?ぐあっ!いっつー…!」
…意味が理解できたとたん、驚きのあまりとっさにがばっと身体を起こしてしまったが、腰に走った痛みと頭痛でもんどりうって 倒れてしまった。
「あー…今日はお休みした方がいいと思いますよー?」
ベッドの上でへたばる俺の頭を、身体を起こした男の手が優しくなでていく。何だか…ちょっとだけ頭の痛みが遠のいた気がした。 ついでに意識の方も。…残業続きで貫徹だの何だのをこなした末に、あれだけ飲めば無理も無い。
「仕事…今日は元々休み…」
それでも痛む頭と…その他の部分が痛むので、ぼそぼそとしか応えられなかったが、男は嬉しそうに微笑んでいる。
「なら良かった!」
「良かった…のか?」
なにがなんだかさっぱり良く分からないが、男がやたらと嬉しそうなので、俺も釣られて、何だか良かった様な気がしてきた。 …二日酔いの頭に碌な思考力が残っているはずも無いのに…。
瞳を瞬かせて、男の顔を見上げると、差し込む朝日できらきらと睫が輝いている。
キレイだなーと、取りとめもなくそう思った。…何だかさらに眠くなってきた。今日はもうこれは全部夢だったことにして、 眠ってしまおうか?
そう思った俺の耳に、柔らかい声が吹き込まれた。
「で、さっそくですが、お名前は?」
「うみのイルカ…」
「かわいい名前。似合いますね!あ、申し遅れましたが、俺、はたけカカシ。」
「はたけ…カカシ…?なんかどっかで…?」
まとまらない思考の端で、なにか引っかかったような気がしたが、形にならないうちにすぐ記憶の海に沈んでしまった。
「ま、自己紹介も済んだ事ですし。…お風呂でも入りましょうか?一緒に。」
…そういわれて気付いたが、自分の身体にねっとりした何かがまとわり付いている。ソレの正体が何なのかは考えたくないので、 無視するとして…それでも、得体の知れない湿った感触はイヤだ。俺は、ぼんやりした頭で風呂に入らないければと思った。
「風呂…ベタベタだしなー…歩けるか…?あったまいってーし…」
よろよろと方々が痛む体を起こそうとしたが、その前にひょいっと持ち上げられてしまった。重さを感じない動きで、 まるで子どもでも抱き上げるかのように軽々と。 それも、この目の前の名前だけしか知らない得たいの知れない男に。
「じゃ、入りましょ!」
身体を、持ち上げられた瞬間、思わず力が入ってしまい、そのせいで、腰に痛みが走った。…ついでに、あらぬ所から 太腿にかけて、生暖かい感触が…!?
「へ?うわ!ん…っ!」
うろたえて、また力が入ってしまい、それでまた、その良く分からないがぞわっとする感触が走った。
「あ、出て来ちゃいました?」
俺を抱え上げた男は飄々とした顔をして、するりと太腿を伝う何かを救い上げている。
「え、なに?なんで?」
自分の身に何が起こってるんだろうか?
いや、薄々は見当が付いてはいるが、そんなコト考えたくもない!
「あなたがかわいいからつい…ね?」
必死で思考を剃らせようとしているって言うのに、男は照れた様にはにかんでみせた。
…こんなに酷い目に合ったことがいまだかつてあっただろうか?
「ついじゃねぇよ!んあっ!」
何か、入ってきた!?
違和感と…妙にざわざわする感覚に呻きながら、俺には怒ることすら許されないんだろうかと、情けなさに涙が出てきた。
「中は…大丈夫そうかな?切れてないみたい。」
「触るな!離せぇ!あ…っ!」
探るようにソコを弄られるたびに、とろとろと太腿を伝う液体と、得体の知れない感触…腰がうずくような…それに苛まれて俺は 自分の息が上がっていくのを感じた。
「後はお風呂場でねー?」
「何で…こんな事に…!?」
俺の叫びと風呂場に響き渡ったが、もちろん誰も助けてはくれなかった。
…もちろんその後の喘ぎ声にも…。
*****
「ああ…どうしてあんなに酒飲んじまったんだろうなー…」
そもそも飲みすぎたのがまずかった。だが、平凡な中忍は、久しぶりに訪れた休日に羽目を外すことすら許されないんだろうか? いや、そんなはずはない!
自問自答して葛藤して…呻く俺に、カカシさんが腕を絡ませながら囁く。
「ま、いいんじゃないですか?結果オーライ?」
…相変わらず、この人全然変わってない。
「アンタが言うな!大体名前も知らないのになんで…!」
説教じみたこんな言葉も、何度口にしただろうか。
大抵は、だって可愛かったからという目が腐ってるんじゃないかと思うような言葉で終るのだが、今日はオマケがくっ付いてきた。
「えー?可愛かったから。あ、そうだ。それに、送って行きましょうか?って聞いたらどうぞどうぞって言ったのイルカ先生ですよ?」
「うう…そりゃ…酔ってたから…!」
驚きつつも、とりあえず自己の正当性を主張してみたが…我ながら言い訳じみている。酔っ払っているからといって、 一応忍の俺がほいほい他人を家に上げるなんて…。
情けなさと…それでも納得しきれないものを押さえきれず、俺はカカシさんに抗議の視線を向けた。
当の本人は、ソレを気にすることなく、くすくすと思い出し笑いしている。
「でねー?お茶でもどうぞーって言いながらお茶っ葉ばら撒いてけらけら笑ってねぇ…」
「あー…うー…その…」
酔っ払った時の己の行状を晒されるなんて、羞恥の極みだ。何だって俺は…この人と酒なんか飲んじゃったんだ!
返す返すも過去の自分が憎い。…自分への怒りと情けなさでもだえる俺に、カカシさんが更に続けた。
「可愛かったから。そのままお布団連れてってね。」
「へ?」
「布団だー!って喜んでね、暑いなーって言ってたから服脱がせて。」
「そ、それって!?」
「後はそのまま頂きましたよ?」
…それは、一般的には強姦というんじゃないだろうか?
「前後不覚の相手を襲うんじゃない!まずろくに同意も得ずにどうしてこんなことしたんだ!」
涙のにじむ視界で、猛然と抗議しだした俺を、カカシさんはぎゅっと抱きしめた。
「ま、いいんじゃないですか?こうして一緒に暮らしてて幸せなんだし?」
「う、まあ、その…」
確かに。…一度だけなら酒の上での過ちだといえたかもしれないが、自称恋人の甲斐甲斐しい世話にほだされ、 ついでに身体も慣らされて、温かいとか、優しいとか…好きだと思ってしまった時点で、俺の負けなのかもしれない。
…今の今までくっ付きあってたわけだし。
「さ、お風呂に入りましょうねー?一緒に!」
そうして、今日も動けない俺をカカシさんが優しくそれはもう大切そうに運んでくれる。
「動けなくするのはそのためか…!?」
優しい腕に閉じ込められて、それでこれからまた、洗うと称してまた汚されてソレでまた洗われることになるんだろう。 …朝が来るまで。
不満げにつぶやいた俺に、カカシさんはイタズラっぽく微笑んで…。
「さあ…?どうでしょうねー?」
なんていうもんだから腹が立つ。
「くっ!」
まあでも…なんだかんだ言いながら、幸せだから始末に終えない。


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始末に終えない話ということで…。とりあえず何か上げたくなったので増やしてみました。
…ご意見ご感想ご要望などはいつでもその辺の拍手などからどうぞ…。

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