隙間

「もう、死ぬのかなぁ…?」
血が止まらない。当たり前か。こんなに深いんだし。
…本隊は無事に突破しただろうか?
陽動を任せられた時から覚悟は出来ていたけど、冷たくなる指先と遠ざかっていく苦しさに薄ぼんやりとした恐怖が湧いてくる。
最初から分かっていた。…俺は、捨て駒だと。
それととともに湧き上がるのは僅かな後悔。
干したままにしておいた洗濯物とか、一楽の心メニューを食い損なったとか、それからもっと切実に。
「こいびと、欲しかったなぁ…。」
まだ若いと自分に言聞かせても、もう俺も18。
周りは誰かしらその隣を埋めるひとがいるのに、俺はずっと一人だった。
誰よりも寂しがり屋だという自覚があるのに、俺と手を繋ぐひとは一度もいたことさえなくて、その隙間が酷くすかすかして。
ああ…でも流石にもう無理だよな…。だって、死ぬんだし。
最後に空っぽの手を空しく思いながら終わるのもいやだなぁと思っていたら、その手をつかむものがあった。
「なってあげる。っていうか、なって。俺の恋人に。」
その何かは黒く、硬い。そしてぎゅっと握られる手に何か刺さってる気がする。
怪我だらけで今更だ。この際怪我が増えてもなんてことはないが、わざわざ怪我を増やしてくれなくてもいいのに。
せめてもう痛みを感じないのが救いか。
でも、今これしゃべった。
「…え…?」
ぼんやりとかすむ視界に、ゆらりと白っぽい影が映った。
「だから死ぬなんていわないでよ。」
人だ。ソレも多分木の葉だ。…こんな所でわざわざ何を隠し持ってるか分からない木の葉の忍に触れるなんて敵じゃんないだろう。
「あー…だれ?」
知っている仲間だろうか?
仲間…って言っても、今回の任務で俺の隊にいたのは俺を囮にしようって言い出した上官か、捨て駒が自分じゃなかったコトに喜んだやつらしかいなかったけど。
まあ、しょうがないよなぁ…。こんなに酷い戦場で、本当に酷い戦況で、いつ自分が死ぬかも分からなかったらああなるんだろう。
忍としてはどうかと思うけど、人としてはあっちの方が正しい。
死にたいわけじゃなかったけど、生きたいわけでもなかったのかなぁ…俺。
こんなにあっさり終わるとは思ってなかったけど。
「もう喋んないで。血が止まらなくなる。」
そういえば、腕も足も背中も…傷だらけのずたぼろだ。
それでもまあ、一人にしては上手くやったと思う。
一番深い腹の傷は腹腔まで達して血と一緒ににはらわたまで出そうなくらいだけど。
あの時あの刃をよけていたらここまで酷くはならなかっただろう。
でも、任務は陽動。俺一人で敵を引きつけるのに、一番効率的なことを考えたら、これになっただけのこと。
忍の終わり方としては上々な方だろう。
あの日散った母も父も、酷い有様だったと聞く。…単なる肉塊に変わったそれを見せてはもらえなかったけれど。
俺は…たった一人で最後の時を迎えるはずだったのに、誰かは知らないが一応味方が側にいてくれている。…みたいだし。
俺の傷を抑え、両の手を血まみれにしながら慌てている男の顔は良く見えなかったけれど。
「ありがとう。」
遠ざかる世界に別れを告げて、意識が消えていくのをどこか心地よく思った。
「じゃ、了承ってことで。…絶対だからね?」
ああ…闇が温かい。
ふわっと浮くような感じがして、後はブツンと切れるように思考が途切れた。
*****
「恋人になってくれるって言ったじゃない?」
あの時俺の手を握ってくれたのが暗部だったってことと、恋人になりたくてずっと狙ってたってことと、入院中に俺の家に勝手に住み着き始めてたてことがわかった。
今ふてぶてしくも狭い俺の寝室のベッドで好き勝手した男の口が、全部喋ってくれたから。
「何てことするんだ…。」
力も出ない。
なにせ、退院したばっかりで、よろつきながら家に向かう途中で得体の知れない相手に引っさらわれて、まさか里内で!とか、こんな状態じゃ今度こそダメだろうか?とか思ってるうちになんでか俺んちに連れ帰られて…襲われた。但し任務の時とは別の意味で。
「恋人なんだから当然でしょー?ねぇ。もっとしようか?」
「で、できるか!?」
俺を散々好き放題にむさぼったくせに、この…見知らぬ自称恋人はまだ満足していないようだ。
こっちはもうがたがただって言うのに!
「ああそっか。病み上がりだもんねぇ?ここも、ここも、ちゃんとふさがってよかった。腹が裂けてたら流石に突っ込めないし?」
「なんだそれ!?」
何だかたちの悪いのに目を付けられてしまったが、どうしたもんだろうか?
想像を絶しすぎててリアクションに困る。
「だから。もう死ぬなんていわないでね?」
でも、色違いの瞳に一瞬暗いモノがよぎって、この人が多分俺を心配してくれてて、不安だったんだろうと思ったら、何だかどうでも良くなった。

だって、俺の隙間が埋まった気がする。

不埒な手が我慢の利かない子犬のようにもそもそと俺をまさぐり始めるにまかせ、ソレに応えるように抱きしめた。

見た目は細っこいのに、両の手で抱えきれないほどしっかりした身体。こんなに大きなものじゃなきゃ埋められないなんて、俺の隙間は相当大きかったものらしい。

「もう死ぬなんて言わないから、俺を置いていかないこと。」

後でそれだけは約束させようと思いながら。

とりあえず…すがり付いてくる俺の隙間を埋めるものに溺れるコトにした。


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短くて取りとめもないのが浮いたので、ド粗品にしようか迷って今こどもの日週間なのでこっちにアップして見ました。
ド短。…そして何だか意味が分からないという…。
一応…ご意見ご感想などがございましたらお気軽に拍手などからどうぞ!



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