先輩―招かれざる訪問者―


カーテンを開けると、冬らしく高く青く住んだ空が広がっていた。
「天気、いいなぁ!」
朝一番に空を見るのはやっぱり気持ちがイイ。今日みたいに天気がいい日はお日様が一杯当たるところで日向ぼっこするのもいいかもしれない。
こんなこと先輩に言ったら、また物凄く冷たい目で見られるんだろうけど、イルカさんならきっと喜んで一緒に昼寝してくれる。
…まあ、その前に先輩の嫉妬で痛い目見ちゃうんだろうけどね…。
折角の休みだし、今日の所は、昨日買ってきた木の葉建築デザイン百選でも読みながら、僕の理想の家(海辺バージョン)の構想でも練ろうかな…?
そんな事を考えながら、僕は空気を入れ替えるためにベランダの窓を開けた。すると…。
「おはようございます。ヤマト隊長。」
「どうやって入ったんだ!」
音もなく背後から僕に忍び寄っていたサイが、いつもの様にうそ臭い顔でニコニコ笑っていた。窓を開けたから…!?
「いえ、昨日お休みを頂けたので、ちょっとヤマト隊長と親睦を深めようと思って。」
「理由も変だけど!その前にここに入るには結界が…!」
「はたけ上忍に解術して貰いました。」
先輩なんてことしてくれたんですか…!?ひょっとして僕が昨日イルカさんにお弁当貰ったからですか!?
…だって、先輩が、僕が忙しいからって、ウソついて、僕だけ置いてイルカさんと二人っきりとか、ナルト挟んで親子もどき三人でお弁当食べてるから、 イルカさんが僕のこと心配してくれただけなのに!!!
ちゃんと食べてくださいね!って言われて味の感想とか聞かれたら答えないわけにも行かないじゃないか!
…僕が先輩の見事な嫌がらせ具合に思わず涙していると、サイが話しかけてきた。
「…ヤマト隊長はパジャマ派なんですね。良く、似合ってます。」
僕に手を伸ばしながら、サイが僕のパジャマ姿を妙に強い視線で見つめてきた。その言動と強すぎる視線に不純なモノを感じて、思わず怯む。
「気持ち悪いこと言わないで欲しいね!」
コレも…イルカさんがくれたんだ!薄い緑色の生地に、目がパッチリした黒猫つきで、ボタンにも猫模様がついてて、 …最初見たときは確かに大人にはどうかなって思ったけど、イルカさんはテンゾウさんによく似合うって言ってくれた。
まあ、カカシ先輩に上げるプレゼントを選ぶの手伝ったらなんだけど…。でも、折角の宝物を台無しにされた気分だよ…!
大体パジャマ以外に何着て寝ろっていうんだ!!!こんなことなら窓なんか開けてないで、さっさと着替えておけば良かった…。
僕が落ち込みながら自分の行為を悔やんでいると、サイがまた僕にとんでもない事を言った。
「裸…だったらイイなと思ってたんですが。」
「わーわー!君はどうしてそういう事を言い出すんだい!?大体自分でおかしいと思わないのかい!?」
裸で寝るって…意味がわからないよ!身体の締め付けすぎはよくないっていって、先輩がイルカさんを騙そうとしてたのは知ってるけど …忍がそんなコトで具合悪くなってたら夜襲とかできないじゃないか!忍服とか暗部装束のまんまずっと…酷いときは何日も待機してなくちゃいけないのに!
「そういえば…僕はわざわざ着替えませんね。いつ呼び出されるか分からないのにそんな面倒なこと…」
まあ確かにそうだよね。僕もイルカさんにコレ貰うまではパジャマなんか着たことなかったし。そもそも僕って暗部なんだから、 先輩がおそろいのパジャマ欲しいとかおねだりしたりしなきゃこんなことには…。
ったくアスマさんと紅さんも大概にして欲しいよ!自慢話なんかしたら先輩が安易に真似するじゃないか!まあアスマさんの顔色の悪さから言って、 また変な柄とか変なデザインのパジャマだったんだろうけどね。時々紅さん抜きで飲みに行くと愚痴合戦になるし…。
思わず僕の思考がそれた瞬間。それを、狙っていたかのように、サイがすっと僕に顔を近づけてきた。
「ヤマト隊長みたいなタイプは、ちょっとずつならしていこうと思って。」
「馴らす?」
上体をそらしてサイの頭から逃れる。こうなるとパジャマ姿って言うのはマズイ。仕込みとかを外してたわけじゃないけど、 やっぱり普段の格好よりは装備が少ないから、この子相手だと分が悪い。室内で術を使うなんて…先輩じゃあるまいし、できれば避けたいよ…。
それでもサイは僕の問いかけを当然のように肯定した。
「そうです。」
「なんなんだい!」
馴らすっていう表現も気に入らないけど、何よりこの状況が不愉快だ。
よけてもよけてもじわじわ近づいてきて…顔が近い。それに手の動きも不穏だ。スッと近づいてきたサイを、僕が変わり身でよけると、 案の定入れ替えた木製の僕人形にキスしそうになっていた。
「…しつこいよ。何度も同じ手を食らうと思わないで欲しいね。」
毎回毎回会うたびにやられてれば、いくら僕だって覚える。実害はないっていうか、精神面での激しいダメージだけなんだけど、やっぱりこんなに 年下の子にこんなことされるのは不愉快だ。年齢が実力に比例するわけじゃないのは知っててもね…。
それに、僕だって暗部では先輩ほどじゃないけどそこそこ名前を知られてる方なのに、そう簡単にやられちゃいられないからね!
僕がサイの次の動きを警戒しながらじりじりと距離をとっていると、僕の様子を観察していたサイがニコッと笑った。
「そうですか。では…」
おもむろに巻物を取り出し、何か書いている。って!超獣戯画か!?僕の家の中でなんてコトしてくれるんだ!設計図から頑張って作ったのに! それに作りかけのジオラマも置いてあるのに!
サイの突然な迷惑行為に焦りながら、とっさに僕も木遁で応戦しようとした。
でも、出遅れた僕が術を放つ前にサイが絵を書き終え…そこにいたのは僕の似姿だった。
「な!?」
なんていうか…微妙にリアルで気持ち悪い。この前の任務で見たのはもっと適当って言うか…なんかこうパッと見で絵って言う感じしたけど、 今度のは妙に細部までしっかり書き込まれてて、まるで僕を白黒印刷したみたいに見える。しかも…普段の格好じゃなくてパジャマ姿ってトコが余計イヤだ。 さっき僕をしつこく見てたのってこれのためだったのか!?
何だか背筋がぞわっとして、頭からイラクサでも生えてきちゃいそうだよ!
サイが作ったコレが、鳥肌を立てて身震いしながら、次に何を仕掛けてくるのか警戒していたら、正面の僕もどきの影から飛び出したサイが、 僕の横から滑り込むようにして僕の懐に入り込んできた。
「では。頂きます。」
「んむっ!」
気色悪さにとっさに反応が遅れて…また僕の口に触れたのは、ちょっと冷たくて柔らかいサイの唇だった。
不本意ながら回数を重ねる内に感触を覚えちゃったのが悲しい。
「寝起きなのに…体温高いんですね。ヤマト隊長。」
笑顔のままで自分の唇を舐めるサイが、恐ろしかった。
大体なんで…なんでこの子は僕に…!?どうしてなんだ!?
「僕の平和な生活が…!」
パジャマのままでちょっとだけだらだらして、朝ごはん作って…それから海辺でイルカさんみたいな僕の未来の奥さんと一緒に暮らす家のアイデアを練ろうと思ってたのに…!
「胸元とかうなじが見えるのはイイかもしれないな。…でも今度は浴衣とかも着てみてください。脱がせやすそうだから。」
「何で君に僕のパジャマを指定されなきゃいけないんだい!大体なんで脱ぐ前提なんだ!」
怒鳴りつけたが、サイはいつもの薄笑いを浮かべたまま、窓の外に飛び出していった。
「では、今日はここまでにしておきますね。」
なんていう捨て台詞を残して。
「今日はって…どうして僕の周りには…!」
嘆いてみたけど、状況は変わらない。原因がもう逃走したってのはチャクラで分かるし、今更先輩に文句を言っても意味がないことは明白だからだ。
流石の僕でも先輩に解けない結界は作れないし…。
あと分かっているのは…今日から自宅さえ安全じゃなくなったってことくらいだ。
「…もう、いいや。ご飯作ろう。」
爽やかな朝を台無しにされた僕は、とにかく食事に逃避することにした。
因みに昨日イルカさんから教えてもらったトマトとイカとナッツの煮物が美味しかったからちょっと浮上できたけど…。
流石の僕も、ちょっと自分の不運を嘆いたのだった。

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因みにヤマト隊長のお家を聞きに言ったら快く教えてくれたのは先輩。
…苦手な方はスルーでお願いします。

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