目覚めれば変態

「温泉です!!!」
朝目覚めるといつもの様に変態の顔がドアップになった。ウザイことこの上ない。
「…何がだ…?」
今何か妙なことを言ってた気がするが…。たしか温泉?
ついに脳までおかしくなったのか…。哀れみの視線と共に、いつもの様に変態に拳を振るおうとしたが、その手をがっしり掴まれて、 布団から引きずり出された。
「行きますよ!!!」
目をキラキラさせた変態は、いつも通り異常にテンションが高く、しかもぐいぐいと人の手を引っ張る。そんな態度に腹が立ったのと、 寝起きのイライラも手伝って、思いっきり蹴りを入れようとした。
さっとよけたのに腹を立てながら、ヤツの浴衣の襟首をにぎってボディを狙った。だがコレも当たらない。この間はキレイに入ったのですっきりしたが、 やはり通常時…いや、興奮時か、今は。何でか鼻息荒いしな。
とにかく、コイツにはなかなか攻撃が当たらない。しかも普段ならコレだけやったら諦めてどっかに行くんだが、今日は随分しつこい。
朝っぱらから強襲してきた変態に業を煮やした俺は、にぎられている手をねじりながら怒鳴りつけた。
「断る!!!」
だが変態は小首をかしげて不満そうだ。しかも…何か変な事を言い出した。
「えー?でもせっかく温泉地にきて温泉に入らないなんてもったいないですよー?」
「今何て言った!?」
温泉…そりゃ温泉地に来てそのまま通り過ぎるなんて温泉好きの名が廃る!だが、今の言い方は…!?
「火の国温泉名物の温泉饅頭とかもあるんですよー?行きましょうよー?」
「こ、ここ!」
変態は俺の動揺を他所に、嬉しそうに観光案内に書いてあるような事をとうとうとまくし立てている。そしてよく見れば、変態は浴衣を着ている。
慌てて周囲を見回す俺を放置して、熱く語る変態は、明らかにおかしい。いや、いつもおかしいんだが、いつも以上におかしい。 何よりおかしいのはこの状況だ!!!
「ここのお宿は、泉質も良くて、ご飯も美味しいんです!!!」
宿…宿だと!?そういえば…うちは狭い。だがココは広い。いつも俺はベッドで寝ている。だが今ココにあるのは大きな布団…! 一体何がどうなってるんだ!?
「家じゃない!?な、何なんだ!?」
「新婚旅行です!!!」
「何だそりゃあ!?」
再び怒鳴りながらクナイを探ったが、勿論仕込みなどもいつもの所には身につけられておらず、俺の手は衝撃的な事実だけを感じることが出来た。
…つまり、下に何もはいていない。
「あれ?イルカ先生温泉大好きですよね?」
「おかしいだろ!?なにもかも全て間違ってるだろ!?」
こみ上げるものを堪えながら怒鳴っては見たものの、堪えきれずにしゃがみこんでしまった。俺は…一体何をされたんだ…。特にどっか痛いとか 違和感があるとかいうことはないが、こいつの持ってるあの妙な丸薬があれば気付かない内に何かされているかもしれない…!!!
俺は早朝から襲い来る認めたくない現実のおかげで、一気にパニックを起こした。
だが、慌てふためく俺を撫で回しながら、変態は不思議そうに顔をかしげている。
「おかしいなぁ…?」
「おかしいのはお前の頭だ!俺は帰る!!!シフトが…!」
そうだ!何があったか幸いにして分からないんだから、何もなかったことにして、通常業務に戻ればいいんだ!何せどうやってもコイツの変態行為は 止められないんだから、自衛するしかない。
何とかして冷静さを取り戻そうと、深呼吸を繰り返している間にも、変態は嬉しそうに人の足だのケツだのを撫で回している。感触が妙にダイレクトで 気持ち悪いことこの上ない。しかも俺を安心させようとしたつもりなのか、元気一杯にとんでもない事を口にした。
「有給休暇とりましたから大丈夫です!!!」
「何勝手なことしてやがる!!!」
有給っ…!いつかまとめて取ってやろうと思いながら、結局忙しくて全然消化できていない有給…!俺の、俺の夢の温泉計画が…!!! 勝手に実行されている!?
「えへへ!びっくりしました?」
呆然としている俺に、誇らしげに笑う変態はご機嫌だ。
「おおしたとも!貴様のイカレ具合にな!!!」
苛立った俺は、とにかく変態の手を止めようと、そのすかすかと思しき頭目掛けて蹴りを入れた。…不愉快なことにまたサクッとよけられたが、 問題はそれだけではなかった。
「おっと!あ、…見ちゃった…!」
よけるついでにぎらついた目で俺の脚を追う変態の赤い目ん玉は…ぎゅんぎゅんと音がでそうな勢いで回っていた。冷静になってみると、俺も浴衣を着ている …つまりこの変態は…。
「おわっ!俺!何で浴衣!?な、何見てんだ!」
俺の脚っていうか、その、とんでも無い所を凝視されてしまった…!!!…誰かうそだといってくれ…!!!
「絶景…!!!」
うっすらと赤く染まった変態が、ゆっくりと瞳を閉じていやらしい笑みを浮かべている。きっとその頭の中ではさっきの俺が…!!!
「噛み締めるな味わうな反芻するな!!!大体いつの間に浴衣なんて着せやがった!!!って!そもそもどうやってここに!?」
目を閉じているのをいいことに、頭を殴ってやろうとしたが、するっとよけられて逆に股間に抱きつかれた。
「愛のなせる技です!!!」
「…戯言はいい…さっさと説明しやがれ!」
拳を脳天に叩きつけようとしたが、ひょいひょい器用によけながら、変態は俺の浴衣の裾から手を突っ込み、足を撫で回している。
「あー素足の感触…!」
陶酔しきったその表情に、俺の怒りは頂点に達した。
「…わかった。もういい…俺は長期任務につくことにする。貴様ともお別れだな。」
流石に人のトラウマ狙い撃ちするのは、いくら相手が変態とはいえ、自里の仲間にやりたくはなかったんだが背に腹は変えられない。 このままではどこかとんでもない所に連れて行かれかねないのだ!変態曰く天国らしいが、はっきり言って微塵も興味がない。
そんな所への旅立ちなど…絶対に願い下げだ!!!
何とかして里に帰るべく、人の股間に頬ずりする変態を引きずりながら、いつの間にか連れて来られていただだっ広い部屋の出口を探した。
「だ!駄目ですー!駄目です!駄目です!駄目ですー!!!」
そんな俺に慌てた変態は、相変わらず俺の股間に頭を擦り付けながら、ついでとばかりにぎゅうぎゅうとケツを握り締めてすがり付いてきた。
「どさくさにまぎれて、人のケツ勝手に触るんじゃねぇ!!!」
このチャンスを逃す訳は当然無い。今度こそ俺の拳はヤツのもさもさした頭に決まった。
「あう!」
呻きながら畳みの上に転がる変態は、涙目になっている。
「相変わらず、このネタ使うと攻撃が当たるようになるな…」
朝からかなりイライラさせられたが、ちょっとスッキリした。さて、後はこの変態は放っておいて家に帰らないと…。
軽くなった足を動かして、さっさと襖に歩み寄ろうとしたとたん、何かが追突してきた。
「だ、駄目ー!!!うっうっ…!!!」
俺のケツにしっかりとしがみ付きながら、あらぬところに手を伸ばしている変態は、顔中ぐしゃぐしゃにして泣いている。浴衣に染み渡る変態の涙と鼻水。
…とりあえず軽く蹴りを入れて転がした。
「抱き着くな!!!…さあ…キリキリ質問に答えろ!!!」
ダンッと俺が畳みに足を打ちつけて、問い詰めると、変態はちょこんと正座して一気に話し出した。それも妙に誇らしげに…。
「えっと、ちょっと秘密のお薬使って、ついでに暗示と幻術もかけて、イイ感じにとろけたイルカ先生を、大事に大事に…抱っこして連れて来ました!!! かわいかったなあ…よく寝てるイルカ先生!!!あ、もちろんいつもの元気なイルカ先生もステキです!!!どんな時でも俺を魅了して止まない… 貴方は正に俺の運命の人…!!!」
火の国温泉って…普通に走っても一日はかかるはずだ!それを決して軽くはない…寧ろ大柄な俺を担いで走っただと…!?しかも変態が余迷いごとを 口にするのはいつものことだが、抱っこ…抱っこと言うことは…。
「まさか…」
いわゆる恐怖のお姫様抱っこ…!?
「よく眠っているイルカ先生はー…可愛かった…!!!もうつい色々と手が滑って…」
俺は頭を真っ白にしながら、壊れた蛇口のように言葉を垂れ流す変態を置いて部屋を飛び出した。
*****
部屋から出ると、変態の手はずのためか、仲居さんがどこからともなく湧いて出て、俺を大浴場に連れて行ってくれた。
ヤツからさっさと逃げるつもりだったが、硫黄の匂いが俺の鼻を刺激し、こうなったら温泉に入って少し落ち着くべきかも知れないと思いなおした。
そっと脱衣所の扉を開き、いざと言うときのためにそのまま閉じずに気配を消して足を踏み入れるたが、誰もいない。浴場の方の気配も探ってみたが、 全く気配が感じられない。
…あの変態はこのやたらでかい風呂を貸しきったのだろうか?ココに来るまでにもそれとなく気配を探ってみたが、あからさまに高級そうで、 寂れているようには見えないのに、他の人間の気配が感じられなかった。
底知れぬ執念に怯えながら、おそるおそる脱衣所の扉に引き返そうとした。
だが、やはりヤツは湧いて出た。
「イルカ先生!やっと一緒に入ってくれる気になったんですね!!!勿論貸しきりです!!!イルカ先生のステキな姿は誰にも見せません!!! その艶姿は…俺だけのもの!!!」
「そうか。俺は一人で入る。失せろ。」
とっさにそう言ったが、変態はまた抱きついてきた。
「折角の温泉なのにー!!!一緒にイチャイチャと裸の付き合い楽しみましょうよー!!!全身くまなくどこまでも洗いますから!!! むしろ舐めさせてください!!!」
「…そうだな。もし誰か覗いてたら困るだろう。犬。お前が見張ってろ。」
本当は全く!全然!びた一文困らないが、コレで…何とかなりそうか…?
「お待たせしました!!!結界強化してきました!!!ちょっとでも入り込もうもんなら恐ろしい苦しみ…って言うか息の根止めちゃいますよー!!!」
チッ!やはり駄目だったか…。
瞬く間に舞い戻ってきた変態は、いろんな意味で臨戦態勢だった。盛り上がったモノを確証ともせず、鼻息も荒く目を血走らせて…。
ちょっと待て!?今、もしかして俺の貞操絶対絶命!?
受け入れがたい状況に、一瞬にして脳が花畑に逃避しそうになった。だが、まだ可能性はあるハズだ…俺は最後まで諦めないぞ!!!
「おい犬。温泉は…一人で楽しむもんだ。」
俺は焦りまくる内心を必死で押し隠し、出来るだけ厳しく聞こえるような口調を装った。まだ浴衣と言う最後の砦は残っている。何とか水際で 食い止めなければ…!!!
だが、変態はにっこり笑ってさも納得したようにうなずいて…また頭の悪い事を言い放った。
「そうですね!一心同体の俺たちにふさわしい…むしろ今すぐ一体化しませんか!!!」
「…帰る。」
今すぐ里に帰って、受付業務が終わったらすぐに長期任務願いを出そう…。教師は…天職だと思っている!
…だが、いずれ子どもたちに悪影響を与えるに決まっているこいつと一緒にいるなら、もはや止むを得ない。この変態が俺に飽きるまで我慢するしか…。
落ち込む俺の肩に、変態の手がかかった。
「まあまあ!温泉ですから!」
「わあっ!おい!俺の浴衣!!!」
気がついたらものすごい手際のよさで浴衣が宙を舞ったかと思うと、俺はひん剥かれていた。
「いい匂い…。」
「返せ!!!」
間抜けにも股間を手で隠しながら、変態が顔をこすり付けるようにして匂いをかいでいる浴衣を取り戻そうと思ったが、 この格好では…手も使えない!!!
その間にも変態は一人激しく興奮している。…このままでは以前の二の舞だ…!!!
「お、温泉…!!!」
ぶつぶつと何事かつぶやきながら、はあはあと荒い息を吐く変態を目の前にして、俺の頭はフル回転し始めた。
逃げる→変態につかまって×××な目にあう。
殴る→よけられる可能性が高い。そして結局変態に×××…
いいくるめる→成功確率は低いが、もしかするかも…!
俺は…最後のチャンスに賭ける!!!
素っ裸であることを出来るだけ意識しないようにして、俺は堂々胸を張った。そして出来るだけ呆れたような口調を作り、冷たい視線を犬に向けた。
「いいか、犬。俺は温泉はゆっくりじっくり入りたい。お前も好きに入るのはかまわんが…邪魔したら…」
「邪魔したら…?」
俺の蔑むような瞳に、流石の変態も不安そうな顔をした。まあ、何故かちょっと目をキラキラさせてもいるが…。コレなら…いけるはずだ!!!
俺は目の前の変態を睥睨しながら、大声ではっきりきっぱりと宣言してやった。
「いいか良く聞け…もし邪魔をするなら…金輪際貴様を踏んでやらん!!!」
「ええええええ!!!!」
泣きそうな顔でそれでも手に持った浴衣は放すことなく、変態が絶叫した。
…意外にも効果が大きかった。思ったより踏まれることが喜びになっていたようだ。やはりコイツはどこまでも変態だ。
「分かったか?」
念を押すように睨み付けてやると、変態が犬座りしてがくがくと首を振った。
「はい!視姦だけにしときます!!!」
…反応は…かなり問題ありだが、ココで押さえつけて更に興奮されても危険だと判断した俺はこの辺で手を打つことにした。
「ちっ!」
…思わず舌打ちしてしまったが。
*****
じっとりとうっとおしい視線を向けてくる変態に注意しつつ、足を踏み入れた大浴場はすばらしかった!大きな湯船に、打たせ湯に、 もちろんガラス越しに露天風呂も見えて、湯加減も熱めで最高だ!!!
「しょうがない…よな…。」
出来れば早く帰りたかったが、どうせ変態が勝手に有給とっちまったんだし、ゆっくりしても罰は当たらないだろう。
かけ湯をすると、早速大きな湯船に浸かることにした。
「あぁ…気持ちイイなぁ…!!!」
湯加減も泉質も申し分ない。…背後からハアハアとうるさい吐息が聞こえるが、BGMだと思えばなんでもない。
幸いにごり湯なので変態に下半身を凝視されたとしても、大丈夫!…なはずだ。何だかぐるぐる赤い目ん玉が恐ろしい勢いで回ってるので確証はないんだが…。
しばらくは湯の気持ちよさに浸っていたが…変態が背後からおずおずと声をかけてきた。
「あ、あの…」
いつの間にかじわじわと距離を縮めてきた変態は、何故か湯船の中で立ち上がっており、目を血走らせて今にも飛び掛ってきそうに見える。
だが、せっかく温泉に入っている所を邪魔されてイライラした俺は、とっさに変態を睨みつけていた。
「おい…もう、踏まれたくないんだな…?」
その声に慌てた変態は、ばしゃんと忍にあるまじき水音を立てて身を沈め、懇願するような口調と表情で必死になって訴えてきた。
「いえ!そんなコトはありません!!!イルカ先生に踏んでもらえない人生なんて…!!!」
「そうか。ならゆっくり入っていろ。俺は露天風呂に入る。…邪魔されたくないから入ってくるなよ。」
それだけ言い置いて、俺の身体を凝視しながら、ぶつぶつなにごとかつぶやき続けている変態を置いて、露天風呂に向かった。
*****
俺が露天風呂に入っている間も、ガラス越しにねっとりとまとわりつくような視線を感じたが、ハアハアという妙なBGMがなくなったことで、 だんだん気にならなくなってきた。
露天風呂の周りには木々が茂っており、山の澄んだ空気が俺の身体に染み渡るようだ。あまりの気持ちよさに、気がつけばすっかり長湯をしてしまった。
元々長湯な方だったのだが、最近変態の襲撃を恐れてあまりじっくり入れていなかったので、それを取り戻すかのようにかなり 長い時間温泉を楽しんでしまったのだ。
流石にこれ以上入っていると湯当たりを起こしそうなので、ゆっくりと変態を警戒しながら大浴場にもどろうとした。
…だが、何故か視線が追いかけてこない。
不審に思いながら、そっと大浴場への扉を開けるとそこには…ピンク色に染まった湯のなかで、ぷかぷかと変態が浮いていた。
「ぎゃあぁぁああああ!!!!!!」
あまりにもホラーじみた光景…というか、まるで2時間推理サスペンスドラマ並みだ…!!!
とっさに無駄にモサモサした髪の毛をひっつかんで、脱衣所に引きずり込んだ。
変態はいつからああして浮いていたのか分からないがうつぶせに浮いていたので、まず心拍を確認した。頚動脈だととっさに反撃される恐れがあるので、 気配を消さずにゆっくりと腕辺りから手を滑らせて、胸元を触ってみた。すると確かな鼓動が伝わってきて、変態の心臓はきちんと機能していることが 分かった。
「良かった…!」
次は水を飲んでいないかどうかの確認をしようとしたら、急に変態がゲホゲホと咳き込み始めた。
「お、おい!大丈夫か!?」
上半身を抱き起こし、水を吐き出しやすいようにしてやると、すぐに変態は飲み込んでいたらしい温泉を吐き出し、ぜーぜー言い始めた。コレで呼吸は 大丈夫だろう。
「お前…何があった!?」
襲撃があったとしたら、無事ではすまないだろうから、他には…床で滑って頭でも打ったんだろうか?
内心慌てふためきながら、変態がどうして倒れたのかを分析しようとしていた俺に、変態の情けない声が届いた。
「イルカせんせぇ…のぼせちゃった…あ、熱いです…」
ホッとしたとたん腹が立ってきた俺は…とりあえず思いっきり頭を殴ってやった。
*****
「おい。水。もっと飲め。」
あの後、自分たちが裸であることに気付いた俺は、変態に浴衣を適当に引っ掛け、俺もさっと浴衣を羽織っただけで、元いた部屋に真っ赤に茹で上がった 変態を担ぎ込んだ。
今は不本意ながらふうふう言ってる頭の悪い変態を看病している所だ。
「く、口移しで…!!!」
茹で上がっても変態な俺の駄犬の口にコップをねじ込み、水を飲ませてやる。
「むぐっ!…ふ、ん、ぐぅ…!」
奇妙な音を立てる変態は、それでも何とか水を飲み下している。コレなら早晩復活するだろう。何せ俺が側にいると、この変態は驚異的な回復力を 見せるのだ。
…あんまりコイツの側にいると碌なことがなさそうなので、土産物でも見てくるか。せっかくだし。
「おい犬。…俺はちょっと外で土産物でも…」
俺が一応断ってから出かけようとすると、哀れっぽい目をした変態が、俺の浴衣の袖をぎゅぅううと掴んだ。
「置いてっちゃ…いやです…。」
「うっ…!」
か細い声と不安と寂しさで一杯の瞳は、まるで置き去りにされた子どものようで…。
こいつが変態だと分かっていても、流石にひるんだ。…そして、その隙を変態は見逃さなかった。
「イルカせんせぇ…寂しいです…一緒にいて…?」
泣きそうになりながらすがり付いてこられると、俺の中の子どもセンサーが、保護をしなければと訴えてくる。
こいつは変態だ…!でも、さっきから側にいるがいつものような回復はみられない。これなら…だが、でも…いや…今ぐらい良いんじゃないか?
逡巡する俺の目に、変態が俺の浴衣を握り締めている所が映った。もともと白い指が更に真っ白くなるまで必死に握り締めて、…震えている。
…しょうがねぇ…!!!
「…これで借りは返したからな!!!」
俺は上げかけた腰を、どっかりとすえなおすと、変態に言ってやった。
「ホントですか!えへへ…うれしい…!!!」
力なく、だが本当に嬉しそうにきれいな顔で笑う変態は、今、最高に弱っている。しかも、俺の命令のせいで無理して温泉に浸かっていたのも原因だろう。 …まあ、ずっと側にいろなどとは言っていなかったんだが…。こうなることはある程度予想できたはずなのに、手を打たなかったのは俺の落ち度かもしれん。
…だから、コレは単に責任をとっているだけだ!!!…別にコイツのことが可哀相とか、可愛いと思ったわけじゃない…!!!
必死で己に言聞かせているうちに、変態は眠ってしまったようだ。
俺の手をにぎったまま、無駄に整った顔に無邪気な笑顔を浮かべてまどろんでいる。
その顔を見ているうちに、だんだん可哀相になってきた。
何でコレだけ綺麗な顔してて…まあ中身はアレだが…俺なんかにここまで執着してるんだか…。
俺の被害は甚大だが、コイツももっといい人いるだろうに…。
そう思いながら、子どものように眠る変態の頭をそっとなでてやった。ふさふさした手触りの頭はまだうっすら水気を含んでいて、雫がキラキラと 光っている。時々零れ落ちるそれを目で追っていると、ゆっくりと瞳が開かれた。
一瞬身構えたが、変態は襲ってくることもなく、ふわっと笑った。それはそれは幸せそうに。そのあまりにも邪気が無い笑顔に… なぜか俺の動悸が激しくなった。
「あのね、イルカ先生大好きー…。」
舌っ足らずにそう言う変態は、いつものようなヤバイ雰囲気が感じられない。
「そうか…。」
最初からこうやって懐いてくるだけなら、こんなに邪険にしなかったものを…。
そう思いながら、なんとなくいたたまれなくなって視線をそらすと、変態が悲しそうな声で言った。
「だから。…ごめんなさい…。」
「あぁ?」
謝られるようなことは…沢山それこそ山ほどされているが、こんな愁傷な事を言う変態を始めてみた。
やはり体調のせいで気が弱くなっているんだろうか?調子が狂う。
「無理やり連れてきちゃったから罰があたったのかな…。」
眉を情けなさそうに下げて、哀れっぽい声でそういう変態は、まるで別人のように感じられた。そう、思わず慰めたくなるような雰囲気だったのだ。
「…温泉に関しては楽しんだ俺も同罪だ。だが、二度とこんなまねはするなよ。」
気がつけば俺はそういいながら変態の頭を撫でてやっていた。
一瞬驚いたような顔をした変態だったが、次の瞬間、正に笑み崩れるという表現がぴったりくるように、とろけるような笑顔で笑った。
その後も、なでられるたびに至福の表情を浮かべる変態に、食事を与えたり水を与えたりして、何だかすっかり変態の親になったのような気分だ。
変態をなでている手に頬ずりしたり、食事を食わせると嬉しそうに笑って甘える変態は…なんだか可愛い…ような?
…!イヤ!気のせいだ!!!
「おい。ところでどうしてそんなに弱ってるんだ?」
内心の動揺を押し隠すために、とっさに俺は変態にそう聞いていた。
「えっと…」
おずおずとつっかえつっかえ話す変態の話をゆっくり聞いてやると、どうやらこの温泉のために相当な無理をしたらしい。 つまり、任務疲れが原因だったのだ。そんな状態で俺のような大男を担いで全速力で移動すれば、チャクラ切れを起こすのは当然だ。 しかもコイツは例の赤い目ん玉まで使っていたのだからココまで元気だった方が不思議だ。
「なでてくださいー…!」
ぐったりした変態は、縋るように訴えてくる。俺が話をしている間に手を止めてしまったのが悲しかったようだ。
「しょうがねぇな…。」
ため息をついて、手間のかかる駄犬の頭をなでてやる。すると、さっきまでまるっきり子どもみたいに甘えていた変態の手が、俺の腕に伸びた。
そのまま柔らかく俺の腕をつかむと、変態の頭がゆっくりと持ち上がって…俺の手にキスを落とした。
「…なっ!」
慌てて引っ込めようとする俺にかまわず。変態はすりすりと手に頭を擦り付けている。
「イルカせんせ…だいすき…」
目を細めて、嬉しそうなのにどこか苦しそうに、変態が俺の手を頬に当てて目を閉じている。
…今までヤツはいきなり襲い掛かってくることばかりだったが、こうやってじわじわ来るのは初めてだ。ヤツににぎられている手が、汗ばんで来ているのが 自分でも分かる。
焦っているのは確かなのに、何故か俺は動くことが出来なかった。変態があまりにも必死になって俺の手に縋ってくる。俺は目を見張りながら、 縋りつく変態の顔を見ていた。
俺の手にのぼせきった変態の熱が伝わってきて居た堪れなくなって…俺はすっと視線を下げた。
頭の中は真っ白だ。どうしてこんな雰囲気になったのか、どうして俺はコイツを振り払って里に帰らないのか…自分でもどうしたらいいのか 分からなくなった。
すると…変態が慰めるように俺の手に口づけを落としゆっくりと身体を起こした。
ぼーっとそれをみていると、変態の顔が俺に近づき…俺の唇に触れた。
「…ん…。」
「んん…!」
柔らかくて熱い。コレはなんだ!?どうなってるんだ!?
あまりにも自然な雰囲気だったので、思わず止め損なったが、俺は…俺は変態と…!!!
遅まきながらわずかに正気を取り戻した俺は、いつの間にか俺の肩を掴んでいた変態から逃れようと、胸に手を伸ばして押し返した。
だが、変態は俺から離れたら死ぬと思ってるんじゃないかと思うくらい必死な顔で吸い付いてくる。
その顔を見ていると、抵抗したらコイツがほんとにどうにかなってしまうような気さえしてきた。
力を抜くと、それはもう嬉しそうに笑みを浮かべた変態が、口づけを深くする。
「ん、ふ…!」
やっと開放されたと思ったら、今度は首にも熱いものが触れた。
「あっ…!」
さっきから変態は一言も喋らない。聞こえてくるのはせわしない呼吸と早鐘を打つ鼓動だけ。
…喋らなければきれい過ぎるくらいきれいなこの男は、壮絶な色気を放っている。
おかげで事態はとんでもない方向に進行しているというのに、抵抗しきれない。
変態の手が俺の浴衣をはだけさせようとしているというのにだ。
そんな自分に自分で驚きながら、成り行きに流されそうになっていたとき、変態を涼ませるために開けておいた窓から、何かが飛び込んできた。
とっさに俺が身構えると、変態がすいっと手を伸ばし、その上に白い鳥が止まった。
「それ…!」
連絡用の式だということはすぐに分かった。…ということは…。
「うん。任務が、入っちゃいました…。イルカ先生は…温泉堪能してくださいねー!!!」
変態は元気一杯にそう宣言すると、俺の唇を掠め取って、一瞬にして姿を消した。
そのまましばらく呆然としていたが、自分の状態に気付いて愕然とした。
浴衣はほとんど脱げていて、帯でかろうじてひっかかっているだけ。しかも下着もつけずにさらされた自分の息子は…すっかりその気になっていた。
慌てて浴衣の胸元をかき合わせて、現状を冷静に捉えようと試みた。
…今まで側でへばっていた変態は、任務に行った。しおらしかったのも演技かと疑ったが、それならあんなに熱いはずが無い。アイツは、本調子じゃない上に、 ずっと任務続きだって言ってたのに、それでもまだ任務に借り出されているのだ。
「…俺は…」
俺は…どうしたらいいんだ…!?
自分のことさえ分からず悩む俺の答えは、出そうに無かった。

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変態さん温泉風味仕立て。
中途半端で済みません…。
またひっぱってしまいました…orz。
次は…次こそは…!!!
…ご意見ご感想等ありましたら、お知らせ下さい…。でも…!石は投げんとってー!!!

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