まめなよめ

うちのよめは優秀だ。まめに掃除をし、まめに料理を工夫し、まめに洗濯をし、俺のために尽くしてくれる。
一つ不満があるとすれば、別の事もまめな所だ。愛はあっても、仕事に支障がでるのはちょっと困る。
そこでだ。俺は一計を案じてみた。トラップは得意だし、トラップの極意はいかに相手の裏をかくかという事だ。
――それにはまず対象のことを良く知らなければならない。
…いつもどんな経緯で、そうなっているか考えてみる。
……昨日は、風呂上りに髪を拭きながら、よめにも入るようにいったら、かわいいといわれてバタン。 気が付いたら朝になっていた。
一昨日は……帰ってくるなりバタン。だが、そのあと、
「ごめんなさい。我慢できなかったんです〜!」
とかいいながら、抱っこで飯を食わせてくれたので不問に処した。泣き顔がかわいらしかったし。
だが、口移しは拒否した。人が噛んだ飯は食いたくない。飯は強め、麺は硬めにかぎる。
よめにもよく俺の好みを言い聞かせておいた。 「わかりました。」
と、そっと目を伏せたよめはかわいかった。よめは料理をが上手いので、きっと俺好みの上手い飯がまた 食えるだろう。楽しみだ。
ちょっとかなしそうにしていたのがかわいそうだったので、ほっぺにチューしてやってみた。照れて真っ赤に なったよめが、また格別にかわいかった。
あと、今日は、…確か受付で、どっかのくのいちだか上忍だかに色目使われてたとか言い出して、(俺には まったく心当たりがないのだが…)俺がそいつに笑いかけてたから、浮気してないか確かめるとか 何とか言われたんだったな。たしか。
…やきもちを焼くよめはかわいい。だがベッドの上で一睡もできないというのは頂けない。 いくら中忍とはいえ、眠いもんは眠い。
だが、いま俺の横でまどろんでいるよめはかわいい。 肌なんか上気してピンク色だし、髪の毛なんかもふわふわだ。まつげも長くて、色っぽい。 満足そうな表情も、別の所はいろんな意味でかわいくないが。
―――思考がそれたが。
つまりうちの嫁はかわいいが、その行動に法則性は見られないという事がわかった。
…今後も観察を継続して、対策を考えよう。継続は力なりだ。もう眠いし思考がまとまらない。 今日ところは少しでも寝ることにしよう。
*****
「おい。」
「なによ髭。」
「…まあいいけどよ。イルカ、大丈夫なのか?」
「気安く呼び捨てにしないでよ。うわばみにこないだ任務で護衛対象に告られた事チクるよ。」
「ありゃあガキだったじゃねぇか!」
「で、何。さっさと話してよ。もうすぐイルカ先生迎えに行くんだから。」
「お前なぁ…。まあいい。あー、その。無理させてんじゃねぇか?顔、青いの通り越して緑色だったぞ。歩き方も おかしかったし。」
「あの人かわいいのよー。声もー。顔もー。あと入れる時いつもちょっと怯えちゃったりするとことかー、 飛んじゃうとしがみついてくるとことかー。あとー。あんまりやりすぎると一生懸命抵抗してきて、 それでもダメだと一生懸命作戦考えてるとことか。ついついねー。色々と理由つけて押し倒したくなるんだよねー。」
「ひでぇな。何だその理由…。あのなぁ、あいつは中忍だぞ?無理させたら壊れちま…」
「だーいじょぶでショ。中忍なんだからそのうち慣れるし。立場だってそれなりに納得したみたいだし。」
「……何をだ。」
「んー。気持ちイイからまあいいかと思ったらしいよ。同僚君をちょっと使って聞いてみたんだけどね。 そうだ!聞いてよ髭〜。イルカせんせは俺の事、最高のよめ貰ったって言ってるんだって〜。かわいいって。俺の前では びしっとしてるつもりみたいなんだけどねぇ。こっそり外ではのろけまくってるみたいなのよ〜。」
「使ってって…一体何したんだ!」
「あー!髭のせいでイルカ先生迎えに行くの遅くなったじゃない!俺が迎えに行くとそわそわしてこっち チラチラ見るの眺めんのが楽しみなのにー!もう!10分しか見られないじゃない! 」
「まあ、もう好きにしろ…。」
「もー。しょうがない。今度ウワバミにはあることないこと話といてあげるね。じゃ、急ぐから。」 「オイ!待て! 」
*****
「イルカせーんせ。」
今日もうちのよめが迎えに来た。上忍のくせに、息せき切ってかけつけてくるのがまた最高にかわいい。 受付任務中に今後の傾向と対策について考えていたのだが…まあいいか。あ、今一つ対策が上手くいかない理由がわかった。
…うちのよめがかわいすぎるのが悪い。こんなにかわいいとうっかり目が眩むのも仕方がない。
よめを安心させるのも夫の役目だ。頑張って体を鍛えることにしよう。
「どうしたのイルカ先生?」
心配そうに上目遣いに見つめてくるうちのよめ。心臓が激しく鼓動を刻む。早く安心させてやらなければ。
「何でもないですよ。」
痛む腰をかばいながら、そっと頬に手を伸ばすと、布ごしでもよめの頬が赤くなったのがわかった。
「帰りましょう。」
こころなしか目を潤ませながら、うちのよめが言う。
やわらかく微笑むよめに手を引かれて、急いで家路をたどる。

俺は世界一幸せな夫だ。


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このあともちろん食べられましたとさ。

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