任務

さっきからイルカがばたばたと忙しそうにしている。…俺を置いて任務なんかに行くために。
折角俺は明日も休みなのに、腹が立って仕方が無い。大体イルカはいつも余所見しすぎだと思う。
イルカは仕事だって言うけど、受付所でもアカデミーでも無駄に笑顔を振りまいている。
イルカが他の奴らに笑ったり喜んでる姿を見るとイライラする。…俺だけに笑ってくれればいいのに…。
そうやって無駄に俺以外に愛想よくしてるのに、どうして更に任務なんかにイルカを取られなきゃいけないんだ!
腹立ち紛れにイルカを抱きつぶそうとしたが…失敗した。イルカは相変わらず強情だ。
「あんたやりすぎなんですよ!」
と力なく怒鳴られはしたが、結局はよろよろしながら大慌てで準備している。忍服も引っ掛けてるだけで、シャワーの前に持ち物を整えてしまうつもりらしい。
しかたなく事後のけだるさをまとったイルカを視姦していると、
「アンタ何やってんですか!さっきから視線が五月蝿いんですよ!」
「ちょっとなによそれ。」
勝手に俺を置いていってしまうくせに。
「だからアンタは馬鹿だっていうんですよ!こんなことしても俺は絶対に任務を蹴ったりしません!」
イルカは俺の意図に気づいていて、それでも付き合ってくれたらしい。
…イルカらしい。こういう所、大好きだ。くっ付いてるとそこから温かい感じが広がって二度とは慣れたくないくらい気持ちイイ。 もっとくっ付けばもっと気持ちイイだろうと思っていたが、ヤってみたらやっぱりそれこそ今までのがなんだったんだと思うくらい気持ちよかった。
イルカから俺の匂いがして、自分のものだと実感できる。イルカだって絶対に気持ちイイはずだ。イイ顔してたし、可愛い声沢山聞けたし…。
「イルカ…」
思い出したらまたやりたくなって、ついついイルカを抱き寄せたが、やはり可愛くない事を言った。
「ちょっと!もうしませんよ!…大体任務失敗したらアンタのせいだからな!」
「じゃ、俺が代わりに行く。」
そうすればイルカをココに休ませておけるし、俺ならイルカよりも早く任務を終えられる。その分イルカといちゃいちゃできるんならそっちほうが絶対いい。
「…アンタなぁ!だからアンタは…いいですか!任務はそう簡単に代わったりできません!アンタにはアンタにしかできない任務があるんです! ちゃんとそっちの任務をやりなさい!」
腕の中のイルカがもがきながらまた怒り出した。
…この間もそうだった。
*****
俺が任務を終え、報告もそこそこにイルカの家に急いだと言うのにイルカがいない。
アカデミーにも探しに行ったがいないので、入れ違いになったかと、家に帰ってみたがイルカの気配がなかった。
業を煮やして忍犬たちに探させようかと思っていたら…のんきな顔したイルカが帰ってきた。
「ただいま。」
「ちょっとどこ行ってたのよ?」
当然、俺はイルカを問い詰めた。俺が任務を終えて帰ってきたのに、イルカが側にいないなんて許せない。
「任務に決まってんでしょうが…。」
呆れたような顔してイルカが言うものだから腹が立つ。大体イルカが外に行く必要なんてないはずだ。
「何?まだアンタ任務なんかやってるの?」
アカデミー教師なんだからずっとアカデミーだけにいればいいのに、イルカは受付だ何だとちょこちょこ仕事を買って出て、無駄に俺以外に愛想を振りまいている。 口調がとがるのも当たり前だ。
「相変わらず大概失礼だな。アンタ…。」
「ねぇはっきり言いなさいよ…。」
「ウザイ。」
「何それ!?」
「だから!欝陶しいんですよ!」
「アンタが悪い。俺が帰ってきたんだから俺の側にいてよ。また閉じ込めるよ?」
「…まだそんなコト言いますかアンタは!」
だんだんムードが険悪になってきた。でもイルカが俺の側にいないから…イルカが勝手にいなくなるのが悪い。
「大体なんでアンタ外の任務なんか受けてるのよ?アカデミーは?」
「夏休みに入ったからアカデミー教師は交代で任務に入るんです!」
「なつやすみ?」
そういえばアカデミーにイルカを探しに行ったときも子どもたちがいないと思った。自分はアカデミーに通った記憶などほとんど無いのでよく分からないし、 その頃は夏休みなんて無かったんじゃないかと思うが、なんでアカデミーをわざわざ休むんだろうか?
休むのは勝手だが、イルカが里から出るのは駄目だ。イルカは弱いくせに無駄に他人を庇うから…。何かあったら俺も生きていられないというのに!
「…あんた本当に何にも知らないな…。」
イルカがため息をついた。ちょっと空気もやわらかくなったようだ。
この隙を狙わない手は無い。
「イルカ。ねぇ任務なんてほかのヤツにやらせとけばいいじゃない。アンタは教師が天職なんでしょ?」
そうすれば多少は安全だ。一応イルカにいざという時のために口寄せを仕込んであるが、任務に出ていればソレでも不安だ。イルカに危険が迫ったら 発動するようにしたが、絶対にイルカは無茶をするに決まっている!口寄せされても、すでに怪我してたりしたら…。
「任務は任務です!ぞれに!他人に押し付けようって発想がまず駄目でしょうが!アンタだってそんなことしないでしょう!どっちかって言うと 危険な任務ばっかりやってるアンタに言われたくない!」
「…。」
もういいや。我慢しない。というかできない。
怒りくるって俺に背を向けたイルカを、そのまま引き倒した。
「イルカ。しよう?」
俺の下で真っ赤な顔したイルカが、一瞬にしてゆがんだ。…勿論怒りに。
「…あったまきた!」
ボスっというかガスっというか…とにかく重い音が当たりに響き、イルカのこぶしが思いっきり俺の腹にめりこんだ。
まあそんなに痛くは無いんだけど。元々慣れてるし。でも流石に息が詰まった。
「っく!…なんで!アンタいなかったんだからご褒美!」
「ふざけんな!俺はもう寝る!アンタはどっかいけ!」
「それはイヤ。」
イルカに触って無さ過ぎてもう倒れそうなのに、そんな事をしたらきっと俺は死ぬ。目の前にいないのもイヤだけど、目の前にいるのに触れないなんて もっといやだ。
俺はそのままイルカにしがみ付いた。
「…ああもう!勝手にしやがれ!」
俺の顔をみたイルカは、何故か俺を引き剥がさなかったが、結局その日は口をきいてくれなかった。
*****
…その後もイルカは全然ヤらせてくれなかった。
…くっ付いて寝るだけでもいいけど、やっぱりもっと触りたいしヤリタイ。そう思っていた矢先に、イルカに任務が入ったのだ。 俺が実力行使に出ても当たり前だと思う。
…でも今日は素直に抱かれてくれた。
「ね、イルカ。どうして今日ヤらせてくれたの?」
イルカのうなじに顔をうずめて耳元で聞いてみた。イルカは案外ココが弱い。あわてて自分の手で耳を覆っていた。
「だからあんたは馬鹿だって…!」
イルカが涙目で可愛い。くっ付いてるだけでこんなに気持ちイイのに、イルカがなんで我慢しようと思ったのか分からない。
イルカだって俺にくっついて幸せそうな顔してるのはもう知ってる。任務なんてやれるヤツがやればいい。別にイルカじゃなくてもいいはずだ。
「だってあんたいっつもあばれるでしょ?」
本気でヤりたくない時のイルカは、抵抗も本気で来るのですぐ分かる。口じゃいやだとか止めろとかいうけど、照れてるときはちょっと抵抗が甘いし。
「それは…アンタが無茶するからでしょうが!任務前に…!」
「だからどうして今日はヤらせてくれたの?」
「…聞くな!」
「いいじゃんどうして?」
「…ああもう!そんな顔しやがって!だから俺は…今日の任務は簡単なんですよ!任務の前には万全を期すのが当たり前だって分かってます! でもアンタがそんなだから…」
「そんなって?」
さっきからイルカが何を言いたいのか分からない。俺はイルカがどっかに行こうとしてるのが嫌なだけだけど。
「捨てられて犬みたいな顔してずっと俺の顔見てるし!何か拗ねるし!だから…あーもう!これ以上いいでしょう!」
イルカが俺のことを見ててくれた。その時はきっと俺のことだけを考えてたはず。
「イルカ…大好き。」
嬉しくなってイルカを更に抱きしめたら、急にイルカに何かを投げつけられた。
「いいから!ほら、コレでも食ってなさい。」
「何これ。」
投げつけられたのは…弁当箱?
なんでこんなものを?イルカが作ってくれたんなら食べるけど…。昨日の内に作って冷蔵庫にでも入れていたのかひんやりしている。 さっき台所に水を飲みに行ったときに、寝室に持ってきたらしい。
「アンタ俺がいないと飯ちゃんと食わないでしょう!いいですか!最低でもそれだけは食べなさい!」
「でも昔からやってて別に…」
兵糧丸があるときはソレを食べてたけど、そんなに物資が届かないことだってあるし、3日くらいの絶食はザラだった。
「いいから!あと!ちゃんと洗っておくんですよ!」
「はーい。」
イルカが何だか照れてる様子なのが楽しいのでいい返事を返してやった。
「…出来るだけ早く帰ってきます。アンタが心配でおちおち任務にもでられやしない!」
「え!ホント!」
それならもっと心配かければ外に行かなくなるのかも。死なないように怪我するなんて朝飯前だし、やってみようか…?
「…あんまり心配かける人とは一緒にいられないって話しましたね…?」
俺のたくらみがばれたようで、イルカが眉を吊り上げながら俺の腕を引き剥がした。…すぐにまた抱きしめ直したけど。
「…イルカの方が危ないでしょ?俺は平気だし。」
教師なんて実践経験そんなになさそうだし、戦ってる所は見たことないけど、ナルト庇ってたかが中忍一人に大怪我したっていうし…。 絶対に俺が行った方がイイに決まってる。
「階級からいったらそうでしょうけどね!…あー…ほんとにアンタは手がかかる。」
「いいじゃない。任務なんか止めちゃえば。」
イルカに任務なんか似合わない。もっと言うと教師だって辞めてほしい。でも、イルカは教師の仕事が天職だとか言い出すし楽しそうにしてるから、 俺の側にいてくれるんならそれでいいと我慢しているのだ。それなのにどうしてわざわざ任務なんかにイルカを取られなきゃいけないんだ。
でもイルカは頑固だ。こうなったらてこでも動かない。…しょうがない。
「…いいから!ソレ食っていい子で待ってなさい!」
「イルカ。」
俺を引き剥がしてさっさと立ち上がろうとするイルカを引き止めて…
「何ですか…っん〜!!!」
その不満げにとがった唇をふさいだ。
「…気をつけて…。」
「勝手に俺に忍犬つけてるアンタに言われたくない!」
あ、この分だと仕込みには気づかれてないみたいだな。
真っ赤な顔して出て行くイルカを見ながらちょっとホッとした。任務内容も近くの村への届け物だって確認したし。…任務終わったら攫ってくればいいか…。
俺はさっきのイルカの顔を反芻しながら、不貞寝することにした。
***** 「もう!なんなんだってんだよなぁ!お前だってそう思うだろ!任務出るたびにしつこいし!」
「勘弁してくれよ…俺一人身なんだよ…ノロケとかいらな…」
「ちょっとアンタ!何やってんのよ!」
俺が任務から帰ってきたイルカを迎えにきたというのに、当の本人は受付所で報告書を提出しながら、同僚なんかと話している。
「あ!」
「…任務から帰ってきたと思ったら…」
「あ、アンタが悪いんだろ!毎回毎回任務出るたび!愚痴の一つも出るに決まってる!」
イルカがちょっとうろたえてるのがまた腹立たしい。
「そうじゃなくて!アンタそっちの男に近づきすぎ!」
勝手に俺以外にあんな顔見せるなんて!
「はぁ!?」
「もう帰っていいんでしょ?…イルカ貰ってくから。」
イルカが話しかけていた同僚らしい男に軽くさっきを向けてやりながらイルカを担ぎ上げ、さっさと受付書を後にした。
「ちょっとアンタ!」
イルカは暴れていたが、いつものことなので無視する。家に帰ったらしっかり慰めてもらわないと。
「駄目。もうイルカは俺の貸しきり。」
「…あーもー…アンタは…。」
イルカも観念してくれたようだし、俺はこれからしっかり我慢した分を徴収することにする。今朝の段階でよろついていたが、今日は我慢できない。
「帰ったら覚悟しといてよね。」
「勝手なコトばっか言うな!」
俺の宣言に怒ってるイルカをとろかせて、任務なんかつまらないと思わせてやる。
「…アンタはホントに…」
呆れた声を出すイルカをもっともっと俺のことだけ考えるように変えたい。
いっそのこと、また閉じ込めてしまおうか…。
「下ろせ。逃げないから。」
このままベッドに直行するつもりだったが、さっきまで怒っていたイルカが急に静かな声で言うので、そっと地面に下ろした。
「なに?」
何を言われても今日はイルカを他所のヤツに分けてやる気はない。 「ただいま。」
「おかえり…。」
身構えていたのに、イルカが口にしたのはいつもの挨拶で、任務から帰還したらに言うようにしつこく言われているものだ。
驚いていたら、急にイルカから抱きしめられた。
「そんなに不安そうな顔されたらこっちが心配になるだろうが…!飯は?ちゃんと食ったんですか?」
「うん。」
「ならいいか…。アンタの言うことを全部聞く気は無いです。でも…寂しかったんですよね?」
「寂しいって言うか、アンタがいないと休みの意味がないじゃない?」
「…まあいいです。帰ったらまず飯、それから風呂。それ以外のものは後です!」
「それ以外のものって?」
意地悪く笑って聞いてやったら、イルカがまた真っ赤な顔で怒鳴った。
「聞くな!」
なんだかイルカに毒気を抜かれた。
「ま、いいや。じゃ帰りましょう。」
だからといって諦めるつもりはないのだが。
「そうですね…。」
イルカがため息をつきながらいつものようにつぶやいた。
「それでも惚れちまったんだから、あきらめるしかないよなぁ…。」

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ありがたいことにリクエストをいただけましたので、シリーズ化してみました。
出来は微妙ですが…。
8888HITお祝いのようなものなので何かご要望があればお気軽にどうぞ…。


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