きのこ尽くし

「つ、疲れたってばよ…。」
「腰いったーい…。」
「…くっ…。」
ふがいない部下たちは、情けないことに肩で息をしていて、どうみても疲労困憊しきっている。だが、収穫はなかなかのものなので、 一応褒めてやるべきか…?
「いやぁ一杯取れましたね!」
「ホントに!」
イルカ先生のこの輝くような笑顔と、これから待っている絶品料理の事を考えると、最初は邪魔者としか思えなかったコイツらに対しても優しい気持ちに なれるから不思議だ。
「これだけあれば本当に色々出来そうだ!みんなお疲れさん!カカシさん…ありがとうございます!!!」
「いえいえ!たいしたことはありませんよ!」
かご一杯のきのこを検分しているイルカ先生は、その漆黒の瞳をキラキラと輝かせている。それに…照れた様に笑うその笑顔が、俺の心臓を直撃だ!
ああ…やはりこの場にコイツらさえいなければ…!!!せめてキスぐらいは出来たかもしれないのに…。折角のデートだったのに…!!!
俺は、昨日の失態を思い出した。
*****
「お帰りなさい!カカシさん!」
玄関先でにこやかに俺を出迎えてくれたイルカ先生に、緊張で手に汗をかきながらできるだけさりげなさを装った俺は言った。
「イルカ先生。この間任務の途中できのこが沢山取れる所を教えてもらったんです!…イルカ先生さえよかったら、明日のお休みの日に、 一緒にきのこ狩りをしませんか!」
…よしっ!噛まずに言えた!!!…この一言を言うために必死に練習してきたんだ!!!
きのこ狩り…つまり山の中で二人っきりになれる夢のシュチュエーション!!!停滞しがちなこの関係を一気に進めるにふさわしいイベントだ!!!
「わあ!ホントですか!是非行きたいです!!!楽しみだなぁ…!!!」
「俺もです!喜んでもらえて良かった!!!」
やった!イルカ先生となら映画館よりも、こういう食糧にかかわるイベントの方が絶対に喜ぶし、警戒しないでくれると思って、 一生懸命に探した甲斐があった!
ニコニコしながら「かごとか用意しないとなぁ…?」と明日の事を考え始めたイルカ先生は…ちょっと唇をとがらせていて…思わず触れたくなる。
…だが!ココは我慢だ!!!イルカ先生とのドラマチック且つムーディーなメルヘンゲットのために!!!
俺が荒くなりそうな息を堪えながら、イルカ先生との明日について色々と思いをめぐらせていると、イルカ先生は、急にこっちを向いてにっこりと微笑んだ。
「そうだ!どうせなら7班の子たちもさそって、きのこ鍋にしませんか!」
「え?」
「あ、お鍋いやですか?だったらあとは…オーソドックスにきのこ汁とか、焼きキノコとか、煮物に入れてもいいんですよねー!あと、 和え物とか、茶碗蒸しとか…ソテーもいいですね!洋風にするんならピザとか、パスタとかグラタンとかシチューとかも!あとは…」
イルカ先生は俺のびっくりした顔を見て、メニューへの不満だと思ったらしく、すごい勢いできのこ料理を列挙し始めた。でてくるでてくる …イルカ先生のレパートリーの広さには驚かされるが、放っておいたらずっと喋っていそうなので慌てて止めた。
「いえいえ!そういえば今日誘っておけばよかったなって!」
イルカ先生に器の小さい所を見せたくなくて、俺は全力で爽やかな笑顔を見せた。内心が気連れじゃ何も出来ないじゃないか!と叫びながら…。
そんな俺にイルカ先生はホッとした表情を浮かべて、俺の手をにぎってくれた。
「楽しみですね!」
「はい!!!」
俺は…勿論爽やかにそう返した。あんなに嬉しそうに微笑むイルカ先生を前にして、それ以上俺に何が言えようか…。
俺の了解を得たイルカ先生は、手早く式を飛ばし、ウキウキしながら明日の用意をし始めてしまった。勿論こどもたちに持たせるための道具もだ。
イルカ先生の性格を知っていたにもかかわらず、俺が奴らに最初から都合が悪くなるようしておかなかったのが禍し、結局一人残らず参加ということに なってしまった…。
火影岩の上から「なんでだー!!!」と絶叫するくらいは許してもらいたい…。
うぅ…いちゃぱらきのこ狩りが…!!!
*****
…そんな訳で、きのこ狩りにガキどもを連れてくることになってしまったのだ。
空気の読めないナルトは大喜びだったが、あとの二人はウマイきのこ料理とその後の上司の怒りに関して、思う所があったようだ。サクラなんかは 早朝から浮かれ騒ぐナルトを見つめる目が冷ややかで、俺に対しても異常に気を使っていた。サスケは…不審げな顔はしていたが、 いつもより少し…ほんの少しだが遠慮しているようだ。
…ナルトには将来のことも考えて、ちょっとスペシャルメニューを用意しようと決めた。
そして…今正に目の前に広がるきのこの祭典…!!!イルカ先生曰く、「一杯採れたから鍋だけじゃもったいないと思って!」とのこと。
…つまりは、とんでもない量と種類のきのこ料理がちゃぶ台の上に乗り切らないほど用意されている。
メインのきのこ鍋でさえ、醤油ベースと、味噌ベースの2種類あり、その他の料理は…煮物、焼き物erc…他にも見たことのないものも一杯だ!
…食いきれるんだろうか…?
だが、コレだけ沢山の料理がありながら、炊き込みご飯と天ぷらが無い。
…イルカ先生が、俺の好みを知っていて、俺がイルカ先生の好みを知っているということだ。
それだけで…何だか特別な関係だということを感じられて幸せな気分になった。
だが下忍たちはそんなコトより食欲に支配されているようだ。人の皿さえ狙う勢いで油断も隙もない。今まで邪魔者のいない食生活を送っていただけに、 獣のように貪り食う己の部下たちに流石に寛容な俺も苛立ちを隠せない。
もちろん、俺も全種類制覇を目指し、すばやく箸を動かした。おさんどんをするイルカ先生も、健啖家ぞろいの食卓に満足そうだ。
それにしても…イライラしながら食ってもウマイ!!!毎回毎回はしが止まらないので自分でも戸惑うほどだ。勢いのままガツガツと料理を平らげていると、 サクラが不思議そうな顔をした。
「イルカ先生!てんぷらは?この間のてんぷら美味しかったのに!」
サクラ…良くぞ聞いてくれた!!!それこそ俺へのイルカ先生の愛の賜物なんだよ!!!と思いたい…。
「ああ、今回はグラタンとか油使う料理が他にあるからな!…足りないのか?」
「いいえ!これだけあればお腹一杯食べられます!」
イルカ先生が…!俺の弱点を黙っててくれた!!!それに…ちょっと困ったような笑顔がまた…!!!
感動のあまり、俺のはしの勢いは加速するばかりだ。
…気がつけば、満腹になった俺は壁に寄りかかっていた。
「俺は…まだ食えるってばよ!!!」
威勢よく言い張るナルトも同じような状態のようで、ぽこんと飛び出した腹を抱えてふうふう言っている。畳に転がってる姿は相当苦しそうだ。
「う…。」
サスケもナルトの横でひっそりと顔色を悪くしてる。あー…腹結構出てるなぁ。普段つんつんしてるの見てるだけに、なんというか…面白いな。
口数少ないだけで、ナルトと同じくらい必死になってくってたもんな。こういうところはガキというかなんと言うか…。
…まともなもんくってないのかもしれないから、気をつけてやるべきか…?イルカ先生に余計な心配かける前に対策を講じておかないと!
それはそれとして、俺も結構苦しい。あまりの美味さにいつも以上に食いすぎてしまった。今任務に行けって言われても、移動できない自信がある。
「無理すんなって。」
イルカ先生は、苦笑しながら俺たち腹一杯組に笑いかけている。その慈愛にみちた笑顔が…たまらない。
「だらしなーい!」
一応紅一点だけあって、少しは食べる量をセーブしたらしいサクラは、そんな俺に冷徹な一言をぶつけた。
…お前だって結構食ってたくせに!今だってもう動けないのは分かってるんだぞ!
それと!そんなに冷たい視線を浴びせると、男は興ざめしちゃうよ?お前の愛しのサスケもここにはいるんだから、少しは考えればいいのに…。
「だっせーてっばよ!」
サクラの尻馬に乗ったナルトが、自分の方がみっともない格好してるくせに、威勢よくいって、大声出した衝撃に苦しんでいる。
…意外性ナンバーワンっていうか…お前はもうちょっと賢くなろうな…?
「お前らも動けないんだろうが!」
イルカ先生にたしなめられて、二人そろって肩をすくめて謝っている。…その横には…。
「…食いすぎた…。」
それどころじゃなさそうなサスケが、完全に撃沈していた。…普段の姿からは想像つかないんだろうな。
「こんなんじゃデザートは無理だよな?また今度にするか?」
イルカ先生がちょっと困った顔をしながら、俺たちを眺めている。
「イルカ先生!私甘いものなら入る!!!」
サクラ…お前今日は女捨ててるね?
「サクラちゃんばっかりずるいってばよ!俺も!俺も食うってばよ!!!」
ナルトも…!!!お前ら後で後悔するんじゃないのか…?
「俺は…いい。甘いのは。」
「あー…俺は…味見だけさせて頂いちゃおうかな?」
甘党二人は執念で食う気みたいだが、サスケは限界だし、俺も元々甘いものは苦手な方だから、少しだけにしとこう。
イルカ先生の作るものなら、結構何でも入るんだけど、流石に今日は…。
「お前ら無理すんなよ?…カカシさんも。ちょっとだけにしておきますね?」
イルカ先生はそんな事を言いながら、結構嬉しそうだ。やっぱり断らなくて良かった。
「今日はきのこ尽くしってことで、トリュフアイスにしてみたぞ!」
そういって、イルカ先生は皿にこぶし大の茶色い物体を持ってきた。何だか分からないが美味そうだ。
「きゃー!!!おいしそう!!!それに…いい香り!!!」
「とりふ?黒っぽいってばよ?…炭?」
「馬鹿ね!トリュフっていうのは、チョコレートとかココアのせいで黒っぽくみえるの!よく見なさいよ!茶色いでしょ!!!」
「へー!!!美味そうだってばよ!!!」
さっきまでぐったりしてたくせに、もう二人ともすっかり食う気満々だ。じゃれあいながら皿の上を食い入るように見つめている。
「おいしそうですね!」
ほんのり洋酒の香りが漂ってて、美味そうだ。そういえば今日はお子様連中のせいで酒が飲めなかったんだよね。
そんな事を考えていると、イルカ先生が子どもたちに一個ずつトリュフアイスを与えた後、俺のところにも一皿もって来てくれた。 でもコレ結構大きいな。どうするか…?
とっさに迷ったのが分かったのか、イルカ先生が俺の隣にすとんと座った。そして…。
「カカシさんは…俺と半分こでいいですか?」
小首をかしげた俺の天使がそんな事を言ってくれました!!!
「ももも、もちろんです!!!いやあ助かったなぁ!!!凄く美味しそうなんですけど、結構お腹が一杯で!!!」
異常な早口でそう言うと、イルカ先生がホッとした顔をして、スプーンをくるりと回した。
「良かった!俺もちょっと作りすぎちゃったんで、お腹一杯だったんですよ。カカシさんに手伝っていただけると嬉しいです!」
そういって微笑むイルカ先生は…ナチュラルにスプーンですくったアイスを俺の口まで運んでくれた。
「美味しいですか?」
「もちろんです!!!」
アイスは勿論美味しかったが、それよりなにより、イルカ先生とのこのいちゃいちゃタイムが…!!!きのこ狩りの神様…!!!ありがとう!!!
俺はトリュフアイスを奪い合うナルトとサクラを他所に、イルカ先生との愛のアイス交換を楽しんだ。
時々聞こえてくるサスケの唸り声をBGMに…。
*****
結局子どもたちは全員食いすぎで撃沈したので、今日の所は7班全員でお泊りすることになった。
…このままイチャパラな展開に持っていきたい気持ちもあったが、子どもたちを邪険にすると、イルカ先生への印象が悪くなったら困るので、 ぐっと我慢した。
それに…まだチャンスはある!なにせ子どもたちは全員一室にまとめて放り込んであるからだ!俺とイルカ先生は別の部屋で二人っきり…!
腹が一杯名ことぐらいなんだというんだ!そんなコトに負けて入られない!!!
それにしても…今日は子どもたちがいるから、イルカ先生と一緒に風呂は入れなかったけど、風呂上りのイルカ先生はなんとも言えない色気があって …イイ…!!!
「やっぱり作りすぎちゃいましたね。」
「そんな!全部美味しかったです!」
「そういって頂けると、作った甲斐があるなぁ…!ありがとうございます!!!」
鼻傷を掻きながら照れるイルカ先生は…正に食べごろ!!!
「…イルカ先生…。」
今こそチャンス!!!俺はさり気なくイルカ先生の手を掴んで、そっと俺のほうに引き寄せた。
そしてそのままイルカ先生の唇に…!
「イルカせんせー…腹いてぇってばよぉ…!!!」
…ナルトめ!!!
「ああ、ちょっと待ってろ。大体お前アイス何個食ったんだよ?」
「サクラちゃんと…半分こしたから…」
「あー…サスケの分と俺の分と、2個余分に作ったから…おまえ、3個も食ったのか!」
「だって皿にあったから…溶けるともったいないってばよ…!!!」
「しまっとけば良かったか…。しょうがねぇなぁお前は。…これ、飲んで寝とけ。」 「苦いの嫌い…」
「苦しいとどっちがマシだ?」
「飲むってばよ…。」
「後でサクラが調子悪そうだったら、こっち来る様に言っといてくれ。」
「サクラちゃんは、元気そうだったってばよ!!!」
「そうか…やっぱり女の子は強いな。」
親子の会話を指をくわえてみているのは…惨めだ…!!!
「おやすみなさいだってばよ…。」
「ちゃんと布団かけて寝るんだぞ?」
「うー…」
「あーもう。しょうがねぇな。ホントに…。」
イルカ先生がすっかりおねむのナルトの頭をなでてやりながら、布団まで連れて行った。
俺は部屋で一人ぼんやりとそれを見ている。
寂しい…。ちょっとこの展開は寂しすぎる…!!!
悲しくなりながら、密かにシーツを噛んでいると、イルカ先生がもどってきた。何故か手にお猪口をもって。
「ちょっと、飲みませんか?」
*****
イルカ先生が持ってきた酒は飲みやすくて、つい飲みすぎてしまった。つまみは塩だけだったけど、美味かった!
なにより、イルカ先生とさしつさされつ…!!!まあ、普段からやってるけど、寝室で、s…しかもベッドの上でって言うのは初めてだし!!!
これは…チャンス以外の何ものでもない!!!
「美味しいお酒ですねぇ…。」
「ふふ…。」
ほんのり酔いが回って、赤い顔のイルカ先生が柔らかく俺に微笑みかける。
「イルカ先生…」
俺はこの機を逃すまずと、さりげなくイルカ先生の肩によりかかった。このまま…ベッドに…!!!
「眠いんですか…?お布団かけてあげますね。」
あれ?何だこの展開?
イルカ先生は寄りかかった俺をするりとかわし、そのままベッドに寝かせて布団までかけてくれた。
「イルカ、せんせ…」
ポンポンと背中を優しく叩かれると、何故か睡魔が襲ってきた。ちょっと待て!絶好のチャンスが…!!!でも、ものすごく幸せなんですけど!!!
一生懸命睡魔と闘ったが、もはや目蓋を開けていられない。イルカ先生の和やかな雰囲気が俺を眠りの淵に誘い込む。
「おやすみなさい…。」
イルカ先生はそんな俺を見て、頭を撫でてくれた。あ…もう。駄目だ…。
瞳を閉じて、眠気の波に流されそうになった瞬間。
…今、目蓋になんか触った!!!カッと瞳を開くと、ほんのり酔っ払ったイルカ先生の顔がアップになっていた。思わず硬直する。
イルカ先生の方は、お猪口だの何だのを持って、ちょっとゆらゆらしながら台所に行ってしまった。
今、間違いでなければイルカ先生が俺にちゅーしてくれた気がする!!!…でもイルカ先生ゆらゆらしてたし、天然だから、ちょっとつまずいたとか…!?
…焦りながら眠りに落ちていく俺に、イルカ先生がくすっと笑った気がした。


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お待たせしまくりひっそり農家追加!!!
背後で悩むかかちに、にまりと笑うイルカてんてーでしたとさ。

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