肉食獣のいる生活

「何とかしてください!三代目!!!」
「お前も上忍じゃろうが?何をそんなに騒ぐことがある?」
「だって、あの中忍…俺のこと食う気なんですよ!?」
しかも比喩的な表現じゃなくて、物理的に食う気なのだ!コレがどうして放置されているのか分からん!!!なんか三代目異常にのんきだし!!!
「…まあ、食欲の秋じゃからのぉ…。」
「それで済ます気ですか!?適当なこと言わないで下さいよ!!!…大体なんで人間のくせに一応人間の俺を狙うんですか!!! 百歩譲って鳩ぐらいにしといてくださいよ!!!」
火も通さずに食べようとしてたら流石に止めるけど、鳩なら何とか許容範囲内だ。どこかの国の料理にもあるし、戦場で食糧切れたら普通に食うし。
それに…上忍は人にあらずと言われたりもするが、一応俺は人間だ!!!人肉はおかしいだろう!どう考えても!!!
追払っても、追払っても…延々と俺の肉を付けねらうイルカは、もはや迷惑を通り越して恐怖さえ感じる。
だが、俺の訴えもむなしく、里長はのんきにキセルをふかしながら、面倒くさそうに言った。
「まあ、イルカは元々ねこじゃからのぉ。」
「…今なんていいました…?」
「イルカは、ねこ族の血が入っておるから、この時期はちとな…。」
「何なんですか!?それは!?」
ねこ?どう見たってあの中忍は猫には見えない。あんなデカイ猫がいてたまるか!それに、忍猫が化けてるんだとしたら、こんなに長い間変化し 続けられるはずがない。…ずっとイルカにつけ狙われ続けているが、猫の姿でいるのを見たことはない。
三代目…ついにボケたんだろうか…!?
「話せば長くなるが…。」
俺の驚愕を他所に、三代目はゆっくりと語り始めた。
*****
三代目から聞いた話によると、イルカはねこ族という一族の血が入っているらしい。ねこ族…まさにそのままだが、その名の通り猫のようにすばやく、 猫のように夜目が効き、しなやかな動きが特徴の一族で、その昔猫神と契約したとかいわれているんだそうだ。
なんでも母方の祖母がその一族の出だったとかで、イルカにもかなり色濃く遺伝したようだ。
で、春と秋になるとちょっと猫っぽくなるという話なんだが…。
それって、そこらへんにいる手ごろな獲物サイズの生き物は全部捕食対象ってことじゃないのか!!!
しかもちょっとどころでなく、完全に肉食獣だし!!!
…以前のイルカはちょっととろくさそうだったが、和やかで、受付所で見るとホッとするような笑顔で迎えてくれた。
なまじその姿に好感を持っていただけにショックは隠せない。
「アカデミーなんかにおいといちゃ駄目じゃないですか!!!何かあったら…!!!」
サイズ的にアカデミー生なんて手ごろな獲物じゃないか!!!何でこんな事態を放置してるんだ!?
それに…なんで名前がイルカなんだ!ねこすけとかねこぞうでいいじゃないか!!!
混乱するあまり、どうでもいいことさえ考えてしまう。
だが、俺のそんな様子を見ているにもかかわらず、三代目は俺の肩にぽんと手を置いて、妙に自信満々に宣言した。
「その点は大丈夫じゃろう。イルカは多分大物狙いじゃから。」
「そういう問題ですか!?」
大物狙いって…だったらクマとか狙ってくれよ!!!なんで俺なんだ!!!
「まあ、その、秋が終われば冷めるじゃろうて。そう気にするな。」
「な!」
三代目はいきり立つ俺に、ちょっとだけ気まずそうにそう言うと、話は終わったとばかりに、書類に手をつけ始めた。
「なんじゃ。もう話はすんだじゃろう。さっさと帰って休め。」
突っ立ってる俺にそれだけ言うと、三代目は完全に俺の事を無視しはじめた。…多分三代目にも止められないんだろう。
…がっくりと肩を落とし、そのまま引き下がるしかなかった。
*****
三代目の執務室を出て、精神的疲労をひきずったまま上忍待機室にもどると、そこにはやたら嬉しそうな顔をした疲労の元凶が待っていた。
「こんにちはカカシ先生!今日もおいしそうですね!!!」
俺が上忍待機室に入るなり、背後からにっこり笑った肉食獣があわよくば俺を食おうと狙っていたのだ。
首筋にやたら鋭い視線を感じるのは…獲物である俺をいつでも狩る準備をしておくためだろう。
さりげなさを装って、背後に回りこんだイルカを正面に捕らえる。…キラキラした目は無邪気にさえ見えるというのに、その言動が不穏すぎる。
とにかく興味をそらすべく、俺の肉質の悪さを訴えてみることにした。
「俺の肉は…美味くないですよ?毒の耐性とか付けすぎてて、食ったら死ぬかもしれません。」
実際食ってみたことはないが、普通の忍とは比べ物にならないほど毒だの薬だのを使ってきたのは確かだから、おそらく食肉には向かないはずだ。
…その前に人肉は駄目だと思うが、今のイルカにとってはそんなコトは些細なことらしく、この行動が始まってから繰り返し訴え続けていると言うのに、 全くひるまないので方向性を変えてみたのだ。
…だが、俺の努力は無駄に終わった。
「そんなコトありませんよ!どっからどう見ても美味そうです!!!…ちょっと齧ってもいですか?」
ご馳走を目の前にしたねこらしく、イルカはじりじりと距離をつめながら、俺の肉を狙い続けている。うっとりとした顔だけを見るなら、 それほど恐ろしくはないのだが…。
「駄目に決まってるでしょ!!!大体なんであんたここにいるのよ!!!」
「美味そうな匂いがしたのでつい!」
人が疲れきっていると言うのに、てへっと笑うイルカ。…俺の我慢にも限界がある。
鼻をひくひくさせながら俺の肉を付けねらう危険な中忍を思いっきり怒鳴りつけてやった。
「何がてへっだ!!!!俺は食いもんじゃない!!!」
「そんなの食べてみないと分からないじゃないですか!」
「だから!」
「ちょっと齧らせてくださいよー!!!こんなに美味そうなのに我慢しろなんて無理です!!!」
今にもヨダレを垂らさんばかりに、俺の首筋を凝視しているイルカは…確かに言われてみれば獲物を狙う猫そのもの。
…理由が分かった所で到底承諾できるものではない。
「こっちの方が無理だ!!!何いってんのあんた!?」
「え?カカシさんが美味しそうだから食べさせてくださいって言う話を…」
俺が本気で怒っていると言うのに、イルカは当然の権利を主張しているかのように、しれっと己の欲望を口にする。
むしろなぜ俺が怒っているのかが分かっていないようだ。
「ちがうちがうそうじゃない!!!…もういいから帰りなさいよ…授業はどうしたのよ…。」
だんだん話しをするのが面倒になってきた俺は、目の前のご機嫌な肉食獣を追払うべく、なぜここにいるのかを問いただした。
俺のセリフに、きょとんとした目をしたイルカだったが、その次の瞬間何かに気付いたように、はっとした顔をした。そして…
「あ、忘れてた。」
そういって、またてへっと笑って見せた。
「だから!てへっ!じゃないだろ!!!」
秋になってからずっと俺の肉を付けねらうこの中忍は、おそらく、絶対に仕事をやっていない。
なぜかは知らないが、イルカの職務怠慢はもはや公然のものとして許されている。
こうして…俺の怒りと疲労は、日々降り積もっていったのだった。
*****
執拗に、虎視眈々と私生活まで狙われると、流石の俺でもちょっと病んでくる。賞金首狙いを相手にしたことは何度もあるが、肉目当ては初めてなのだ。
そこで俺は…一計を案じることにした。
「イルカ先生!」
「何ですか!美味そうなカカシ先生!!!」
アカデミー前でターゲットを補足したのち、接触を試みるなり、肉食獣は俺のことを美味しいご飯のデリバリー扱いをしてきた。
とっさに殴りたい気持ちを抑え、俺は今回の作戦の要を取り出し、目の前にちらつかせてやった。
「くッ…これ、差し上げますから、俺のことは諦めてください。お腹減ったときはご飯作ってあげますし…」
軽く焼いた肉のこんもり乗った皿…完全に生だとどうかと思ったので、取り合えずステーキ肉をレアで仕上げたものを持ってきた。
差し出すなり目の色を変えたイルカが、箸も使わず手づかみでガツガツと肉を貪り食っている。
「ウマイ!!!!!」
口の端から肉から染み出た赤いものが伝っていて、ちょっとしたホラーだが、本人はそんなことより肉に夢中だ。
はふはふと肉を食いちぎりながら、幸せそうに笑っている。
「…人の話し聞きなさいよ!間髪いれずにがっついて…!!!」
俺が怒鳴ったら、一瞬にして肉を食い終えたイルカは、満足そうに口の周りを嘗め回した後、にっこり笑った。
「それで、カカシさんはいつ食べさせてもらえるんですか?」
人の話し聞いてなかったのかコイツは!!!
「永遠にそんな日は来ません!!!」
このままだとさっきの肉と同じ運命を辿ってしまいそうだったので、俺は断固否定した。
「えぇー…。酷い…。」
俺は当然の事を主張しただけだと言うのに、悲しそうな声を上げたイルカは、俺の方を未練たらしく縋るように見つめてくる。
目を潤ませて、いかにも酷い事をしているのは俺の方だといわんばかりだ。
「そんな泣きそうな目で見るな!!!泣きたいのはこっちだ!!!」
俺は…食われるなんてゴメンだ!!!戦うとなったら階級が上の俺の方に分があるが、イルカは中忍でもそこそこできる方だから、 無傷では済まされないだろう。何せ相手は俺の事を捕食対象とみなしているのだ。
しかも今は秋。ねこ族の真価が発揮される季節らしい。飛躍的に能力が伸びたイルカは、ひょっとすると並みの上忍よりも強いかもしれない。
俺はその事を不本意ながら体感済みだ。…俺の背後をとることにかけては、この人は一流の腕を持っている。
「はぁ…。そんなに美味しそうなのにどうして我慢なんてさせるんですか…。」
イルカは俺の方をちらちら見ながら、心の底から辛くてしょうがないといった顔をして、ため息さえついている。
「俺は!人間です!っていうかあんた人肉が主食なんですか!!!」
そんな顔をされても、はいそうですかなんていえるわけが無い。なぜこんな人肉狙いの危険生物が許されてるんだ!!!
それに!どうしてココまで変わってしまったんだ!
…最初に会ったときは極普通の、ちょっととろそうな中忍だったのに…!!!しかも、ナルトのお色気の術で鼻血吹いたって話をからかったら、 「ああいうものは好きな人にしか見せないものなんです!!!」とか主張してて、いかにも純情で硬いイメージの人がこんな姿に…。
ショックでぴりぴりしながら俺がイルカを睨みつけると、イルカはなぜ当然の事を聞くんだとばかりに、胸を張ってえらそうに宣言した。
「いいえ。俺は肉よりラーメンが好きです!」
「なら!ラーメン好きなだけ奢ってあげますから!!!」
人肉食いじゃないなら話は早い。俺の肉より衛生的にも、里の経済的にも、ラーメンの方がいいに決まってる! 何より俺が安心できるから、この際この中忍に一生ラーメンを奢り続ける位朝飯前だ!
だが、俺が一条の光明を見出しそれに縋ろうとしていると言うのに、イルカは沈みきった様子で、ぼそぼそと不満そうにつぶやいた。
「…カカシ先生の方が美味しそうだからいいです…。」
あまりにもしょぼくれているので、一瞬ほだされそうになったが、相手は空腹の肉食獣と変わらない。油断した瞬間にパクリとやられるに決まっているのだ。
「しょぼくれた顔したって、俺は食わせてあげられませんよ…。」
少しだけ柔らかい口調でいってやったが、イルカにとっては俺が食えないなら、怒っていようが、笑っていようが一緒だったようだ。
「うぅぅ…側にいると齧りたくなるので、もう俺帰ります…。」
俺に断られて凹みきったイルカは、それだけ言うとしょんぼりしながらとぼとぼと去っていった。
「なんで俺が罪悪感感じなきゃいけないんだ…」
*****
イルカは、昨日あれだけしょぼくれて帰ったくせに今日の朝になったら、また俺の肉を狙って家の前で待っていた。
ちょっとホッとした自分にがっくりしながら、今日の所は色々多すぎる疑問の解消を試みることにした。
とにかく、俺がどうして美味そうなのかを確かめなければならない。
…だが、どうやって言い出すべきか…?
悩んだ俺が頭をかいていると、目をまん丸にしてじっとその手の動きを追っているイルカが、突然俺に飛びかかってきた。
とっさに俺が身をかわすと、イルカはそのまま俺の背後に転がった。運悪く昨日の夜は雨だったので、水溜まりに突っ込んだイルカは、 泥だらけになってしまった。
「泥だらけ…!よごれた…!」
…何だか知らないが、泥で汚れたことがよほどショックだったらしく、イルカはぺたんとしりもちをついたまま、放心状態だ。
飛び掛ってきたら、普通はよける。…だが、今のイルカは普通の状態ではない。と言うことは、俺にも責任の一部があるのかもしれない…。 ということは…しょうがないのか!?それに、このまま問題を先送りしても、事態が好転しないは明らかだ。
俺はいやいやながら、放って置いたらこのままずっと座り込んでいそうなイルカの襟首をひっつかむと、取り合えず自宅の玄関に放り込んだ。
玄関に連れ込むと、さっきまで完全に放心していたイルカは、きょろきょろと興味深そうに俺の家の中を見回しだした。興味津々と言った感じの表情で、 今にもその辺を勝手に歩き回りそうだ。
泥だらけのままでうろつかれると困るので、さっと担ぎ上げて風呂場に押し込んだ。勿論俺の肉に食いつかれる可能性も考慮して、 チャクラでガードはしておいた。だが、泥がついていることと、見たことが無い所に連れてこられたことで意識が散漫になったイルカはわりと おとなしく抱き上げられていた。
「カカシさんのにおいー…。」
ぼそりとやや不穏な発言をしたイルカに、シャワーで汚れを落とす様に言って、自分はさっさと退避した。
自分の服にも泥がついたので本当はさっさと洗ってしまいたかったが、イルカの前では自殺行為だろう判断し、イルカの襲撃を警戒しながら、 風呂場の前で慎重に様子を観察した。
風呂場に放り込んですぐは、何かがさごそしている音がしていたが、しばらくすると、シャワーを浴びている音に変わった。
ホッとしながら取り合えず着替えに自分の忍服を置き、ついでにお茶も用意して、イルカが風呂から上って来るのを待つことにした。
程なく幸せそうに風呂場から出てきたイルカに、俺は一番気になっていた所を聞いてみた。
「俺のどこが美味そうなんですか…?」
いつもは会うなり怒鳴っていたので、ちょっと嬉しそうな顔をしたイルカは、しばらく眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、その後の答えは大分適当だった。
「…見た目?あと、匂いかなぁ?なんとなく?何でそんなコト聞くんですか?」
首をかしげながら言うイルカは、本当に俺を食うことが自然だと思っているようだ。
なんとなくで人を狙わないで欲しい…。
「何で疑問形なのかは置いといて、…あんたいつもこの時期人肉狙いなんですか?」
お茶と菓子を勧めてさりげなく俺から狙いをそらそうとしながら問いかけると、イルカはふわっと笑った。以前受付で見たシーズン前のイルカと同じ、 優しそうな笑顔だ。
「いえ、カカシ先生が初めてです。美味そうで仕方ないのも、こんなに食いたいと思ったのも…。」
ゆっくりと話しながら、イルカの瞳孔が大きくなっていることに驚いた。とろんとした黒い瞳でカカシを見つめて、そろそろと近づいてくる。
イルカの瞳が俺を見つめている…何故か逃げることが出来ない。
イルカは俺の首筋を見つめながら、とろけるような声で囁いた。
「ちょっとだけ…」
次の瞬間、イルカの手が俺のアンダーを引き下げ、あらわになった首筋に熱い吐息がかかった。…そして…。
カジ。
「っ…!」
カジカジカジ…
「…っ!ちょっと!どこでこんなの覚えてきたの!!!」
味わうようにじっくりと、無心に俺の首を齧るイルカは、ヨダレまで垂らして嬉しそうに行為を続けている。食うというより舐めて齧って… 要するにつぼを得た動きを繰り返しているのだ。
「あぁ…やっぱり…おいし…」
イルカは明らかに正気を失っている。さっき齧られたときは、このまま食われるのかと思ったが、この分なら食うと言うより味わわれるだけで済みそうだ。
だが、イルカは齧る場所を少しずつずらしながら、執拗に俺を味わう。それに反応した俺がびくびくと動くと楽しそうに口の端をにいっと吊り上げる。
それでなくても、こんなのに付きまとわれていては、おちおち遊びにも行けず、色々たまっていたと言うのに、やたらとエロイ目つきで俺を齧り続ける イルカはものすごくご機嫌だ。
されるがままになっていることの危険性に気付いた俺は、慌てて楽しそうに俺を齧るイルカを引き剥がした。
「アンタ好きな人にしか身体見せないもんだって言ってたじゃない!?」
このままじゃ裸に向かれて齧られて…!!!
「…ああそっか!俺カカシさんのこと好きだったんだ!」
俺の発言ににっこり笑って答えたイルカは、納得!とばかりにニコニコしながら、更に手際よく俺の服をはがしていく。
イルカの中では納得できたのかもしれないが、俺は全く持って状況が理解できていない。
「ちょっとまって…!」
俺の制止にもとどまる気配さえ見せず、イルカは舌なめずりしながら俺に覆いかぶさってきた。
「…カカシさん…。」
イルカは止めようとした俺の手に頬ずりしながら、吐息まじりに俺の名前をいとおしそうに呼ぶ。
…もう。限界。
「…今度は俺の番ってことで。」
「え…?」
まだ興奮に曇った顔でぼんやりと俺を見つめるイルカの服を脱がせていった。
*****
「ね、何で俺のこと好きになったの?」
イルカは俺の上に乗って熱心に首をかじっては、身体を擦り付けてくる。揺さぶるたびに気持ちよさそうに声をあげ、ごろごろと喉を鳴らし …こっちも煽られ通しだ。
「ん、あっ…んんっ…初めてあったときから、キレイだなって。あっ、それに…ずっと美味しそうに見えて…」
イルカは切れ切れの声で話しながら、しきりに俺に噛み付いてくる。特に鎖骨がお気に入りのようで舐めては齧っている。
「ん、そう…」
「何だか最近我慢できなくて…」
「で…」
こっちもそろそろ限界なんだが、どうして俺の事を気に入ったのか、知りたい。
だが、イルカには俺の態度がじらしているようにしか見えなかったらしい。
「そんなのいいからっ…もっと。」
さっきまで甘噛みだったのに、ちょっと本気で噛みつかれた。
「いたっ…!もー…良くないでしょ?ね、俺のこと欲しい?」
こうなったら意地でも言わせたい。イルカの背を撫でて、身を震わせる様を楽しみながら、しつこく聞いてみた。
ココまで追い詰めれば今のイルカなら堪えられずに言ってくれるだろうと思ったが、イルカは熱い息を吐きながら、不思議そうに俺を見た。
「?カカシさんは俺のものですよ?」
当然の事をなぜ聞くのかと、その顔は言っていた。
「あー…そうきましたか。」
確かにもう手放せない。というか、俺が捕まったのか…。
こんな瞳で見られて、懐かれて、こんな顔されて…それが当然だと思えた。
…それにイルカはもう俺を放してくれないだろう。
「ねぇ…」
快楽に潤んだ瞳で誘うように俺の顎を齧るイルカは、言葉より、もっと直接的な表現を求めているようだ。
「ん…。」
そんなイルカの表情に流されるように、俺はイルカを抱きしめた。
*****
ごろごろごろごろ…
「イルカ…」
俺の上に乗っかって、時々すりすりと頭を擦り付けてくるイルカは、非常に幸せそうだ。
「ん…気持ちよかった…」
甘い吐息に載せてつぶやくイルカは、目を細めて俺の腹を舐めている。
「そ…良かった。」
…さっきは思わずやってしまったが、襲う気満々だったイルカに抵抗されるかと思いきや、イルカは気持ちよさそうに鳴いてくれた。
何やってんだ俺はと思わないでもないが…まあとにかく、俺が食われることはなさそうだ。
…だが、イルカはそろそろアカデミーに行く時間のはずだ。
「…降りて欲しいんだけど…」
「やだ。」
むずかるように頭を振ると、密着した部分からくちゅくちゅと水っぽい音が聞こえてくる。イルカに煽られて結局一晩中淫行に励み、 風呂にも入らなかったからだ。
このままヤッてしまっても俺はかまわないが、この人は確かアカデミーでの仕事が一応あるはずだし、ずっとこのままでいる訳にも行かない。
「…仕事は?」
「そんなのいいから…気持ちイイからもっとなでてください。」
乱れてしまった髪をすいてやったのがお気に召したらしい。甘えるように俺の手を舐めて怪しい瞳で俺を見つめる。
「あー…もういまさらか。」
大体、この人最近ちゃんと働いてないみたいだし。
「ね、もっと。」
ため息をついている間に止まった手が気に入らなかったのか、イルカが俺の手を齧り始めた。イルカの手も俺の胸の辺りを揉むように動いている。
「…あんた誘うの上手過ぎです…!」
結局俺は再び淫行に励むことになった。…イルカが満足するまで…。
*****
「カカシ。その後どうじゃ?落ち着いたのなら任務に着かせたい。」
「あー…アレ、もう俺のなんで。」
やたらに俺の肉に執着していたイルカは、俺に好きだと伝えたとたん憑き物がおちたように、食いたいと言わなくなった。
…その代わりのように、別の行為には熱心なのだが。
俺のことを付回すのは変わらないが、頬ずりをしたり、甘えてきたり…すっかりなつかれてしまった。あの執拗な視線も、要するに俺が欲しくて やっていたのだと思えば可愛く見えるから不思議だ。
噛み付いたのはイルカが先とはいえ、最終的に手を出したのは自分なのだから、責任は取るべきだろう。
というか、せっかくあんなになついたのに、他所のヤツに持ってかれるのは許せない。
数日間イルカと暮らして、もうすっかり自分と一緒にいるのがあたりまえになってしまったのに、今更誰かにやるつもりなど欠片もない。
「今なんと言った…?」
「なついちゃったので貰うことにします。…可愛いし。俺のだし。俺もイルカのだし。…任務は…うーん?無理じゃないかなぁ…。」
不審そうに俺に聞き返してくる三代目には悪いが、俺はさっさと帰りたい。イルカがベッドの上で、俺の帰りを待ってるはずなのだ。
「一体どうしたんじゃ!?」
「あー…。動けなくなるまでしたがるので、無理だと思いますよ?」
「…」
俺の言葉にわずかに驚いた顔をした三代目は、思案顔でキセルをふかしている。
早く話を済ませて欲しいと思っていたら、執務室の扉を蹴破るようにして誰かが入ってきた。
「カカシさん!まだ終わらないんですか…?」
不満そうに俺にしがみ付いて文句を言っているのは…イルカだ。
「イルカ…!」
慌てて俺の首筋に噛み付いているイルカの肩を掴んで顔を覗き込むと、いつもの様にご機嫌に微笑んでいた。
昨日任務に出る前は、確かにぐったりしていたはずなのに…。
「あ、三代目―!俺の番カカシさんだったみたいです!」
ひとしきり俺に身体を擦り付けて納得したのか、するっと腕の中から抜け出して、妙に誇らしげに三代目に報告している。
「そうか…。」
三代目の方は、それだけ言うと大きくため息をついているが、イルカは用はもう済んだとばかりに俺に飛びついてきた。
「ねぇカカシさん。帰りましょうよー!」
腕を引っ張っているが、力はそれほど入っていない。と言うか力が入らないんだろう。
「アンタそんなよろよろしてるのになんででてきたのよ!」
「だって…!」
思わず叱った俺に一瞬しょぼんとした顔をして見せたイルカだったが、すぐに不満そうにカジカジと俺の腕を齧り始めた。
「こら!イ…」
「…イルカ。すぐ終わらせるから外で遊んできなさい。」
俺の前に、三代目が静かな声でイルカを止めた。
「はーい!カカシさん!待ってますから!」
三代目の言うことを素直に聞いて、イルカは俺に熱い視線を投げて、猫らしくするっと扉から出て行った。
「…まあ、食いたいなどと言い出したからそうだろうとは思ったが…。」
「やっぱり季節だからなんですか?」
「まあそのな、あやつは成人したというのに春が来ても秋が来ても変わらんから心配しとったんじゃ。まさかおぬしがのぉ…」
「結局何なんですか?」
三代目が驚いていないことから考えても、多分イルカがああいう生き物だって言うのは知ってんたんだろうけど。
「イルカの母もそうじゃったが…。ねこ族は惚れた相手が出来ると、その者にしか懐かないんじゃよ。惚れた相手がいる状態で季節になると、 ああしてちと過激な求愛行動にでるんじゃ。…まあ食いたいというのは始めて聞いたが。…さっさと季節が終わればいいと、 アカデミーにも手を回しておいたというに…。」
がっくりと肩を落とす三代目は、恨みががましい視線を俺に向けてくる。
それはまあどうでもいいとして。…やっぱりあの言動はおかしかったわけね…。ま、要するに俺への愛の深さだと思えば、嬉しいんだけど。
それより…。
「で、季節っていつ終わるんですか?」
「そうさな…イルカの母は大体3月ほどだったが。孕めば終わる。」
「…でもイルカ先生って男ですよ?」
「前例が無いから分からん。一度コレと決めた相手ができれば、梃子でも動かんのはわかっとるが…。イルカの母親もな…一族の男に見向きもせんで、 引きずるようにしてイルカの父親を連れてきおった。さっきのイルカと同じような事を言いながらな…。」
投げやりに言う三代目は、すっかり拗ねてしまっている。イルカの懐きようからして、多分ずっと可愛がってきたんだろう。
その分の愛情はこれから俺がしっかり注ぐからイイとして…とにかく今のうちにイルカとしっかりいちゃいちゃしておけばいいのか。
「もうよい…イルカが待っておる。さっさと行け。」
納得した俺に、三代目が不満げに言ってくれたので、俺もにっこり笑って返した。
「…一生大事にします。」
「…絶対じゃぞ?」
「もちろん。…では…」
ちょっと小さく見える三代目を置いて、俺は執務室を後にした。
*****
扉を開けるとすぐに飛びついてきたイルカは、耳をかじかじと齧りながら、すりすりと身体を擦り付けてきた。
「遅いー!」
「ああ、ごめんね。」
謝りながら俺もイルカをぎゅっと抱きしめた。ふぅっと安心し多様に息を吐いたイルカが、耳元で囁く。
「俺のこと貰ったんだから、もう捨てたらだめですよ?そんなことしたら…食べちゃいますから。」
にんまりと笑って言う俺の猫に食われないように、今日も俺はイルカとの蜜月を楽しむことにしたのだった。

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その後も付回されるカカシは、「ま、俺の猫だし。」で通したと言う…。
但し、季節が終わるととたんに元の性格に戻るので、色々あったりなかったり…。
時間かかった割には、微妙なお話でしたとさ…orz。

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