主治医はいかが?‐主治医になります!‐



 
ご注意!!!
基本的にこんな医者いたら捕まります。フィクションなのでご注意を!
このお話は熱血天然教師が、やや爽やか系の変態といちゃいちゃする話?で、隠さずに微エ○(けいそう。比)が出てきます。 苦手な方はご注意下さい!
そして荒唐無稽なのがいやんな方はご無理をなさらないことをお勧めします!!! …まとめてみるとやっぱりろくでもねぇ…。それでもいいぜ!という覚悟が出来た勇者はどうぞ…。



不可抗力というか、原因が俺のせいだけではなかったとはいえ、倒れたのは大失敗だった。
…そう思っても、今更なかったコトに出来るわけでもなく…。
俺は校門の前に車を止めてじーっと待っているマスクの男…カカシさんの元へ急いだ。
こと俺の健康に関しては心配性すぎるほどの男が、こうして俺を車で迎えに来るのが習慣化してから随分たつ。
週末の間中、散々いいようにされたせいで、よろよろしながら仕事を終えると、校門前でしょぼくれた犬のような顔のカカシさんが待っていたのだ。
「アンタなにやってんですか!?」
流石に驚くやら呆れるやらで、自分の声が裏返っているのが分かった。
だってここは学校で俺の職場でこの人は俺のこ、恋人だけど男で、それに…正直胡散臭さで言ったら通報されてもおかしくない格好だ。
マスク姿でじーっと車の中から校舎を見つめているところなんか確実に職質にあう。…例え俺にはかわいくみえてもだ。
ソレなのに当の本人は涙目になりながら、ぐずぐずと俺に泣きついてきた。
「イルカ先生が倒れちゃってまだ完全に治っていないから…心配なんです!お願い…これから迎えに行かせて…?」
腰の痛みでヨロつくのにも構わず、カカシさんは今にも崩れ落ちそうなくらい悲しそうな声で泣いている。
…ああ、甘やかしたら駄目だって分かってるのに…!
でも、こんな顔で泣かれたら…きついことなんて言えない。俺のことを思ってのことだから余計に。
「…はぁ…。いいですか?ちょっと確かに今は体調が悪いからありがたいですが、治ったら絶対にこういうのは駄目ですよ!子どもたちに示しがつきません!」
そう宣言したとたん、叱られた犬のような顔だったのが蕩けるようにふにゃっと笑み崩れて…。
「はい!治るまで隅から隅までチェックを欠かしませんし、毎日ちゃんとお迎えに来ます!」
…そのかわいらしさについついほだされてしまったのだ。
この人は外見の可愛らしさと裏腹にいろいろ無駄に行動力があるってことを忘れて…。
倒れた時は確かに体調が最悪だったが、いまは疾うに治っている。…が、ソレを認めようとしないカカシさんは、今日も犬のように律儀に俺を校門で待っている。
遠目に俺を捕らえると、途端に尻尾でも振ってるんじゃないかって言うくらい嬉しそうな顔で俺に向かって駆け寄ってくるのもいつものことだ。
…あれ以来どうもこの人を目の敵にしているナルトたちに、水風船ぶつけられたりとか、タイヤの下に癇癪玉仕込まれたりとか…色々イタズラされそうになっても、一向に懲りようとしないし…。まあ、ナルトのイタズラはわかりやすいからすぐに交わし方覚えたってのもあるだろうけど。
しかもどういうつながりか知らないけど、知人だったらしい校長先生とこそこそやってて、何だか顔パスになってるのが怖い…。
まあ、別に本当の不審者じゃないからいいんだけど…。
「イルカ先生!今日は随分荷物が多いですね?これ、なんなんですか?」
俺が悩んでいる歩みを止めたのを待ちきれなかったらしい。カカシさんはとたとたと駆け寄ってきて、俺の荷物を持ってくれた。
確かに今日の俺の荷物は普段の2倍以上ある。何せ、今日は俺にとって特別な日だったから。
「ああ、貰ったんですよ。生徒に。」
ちょっと照れくさくて頭なんか掻いたりしてみたら、カカシさんが目を丸くしていた。
「何で…?」
そのちょっと不安そうな表情から、また何かいらない心配をしてるんだろうと想像がついた。
…それと、この人に言っておくのを忘れたことも。
「…ああ、言ってなかったですね。俺、今日誕生日なんです。」
言い忘れていた…というより、あの日から「心配なんです!」と称して甲斐甲斐しく世話を焼くカカシさんに言い出しにくかったと言うのもあるんだが、もっと早く言っておけばよかった。
「ええええええ!?」
校舎が震えるんじゃないだろうかってくらいの大声を出して、目を見開いて…それから顔色を真っ青にして今にも泣き出しそうなカカシさんなんて、見たくなかったから。
「えっと…その、言い忘れてたって言うか…!ごめんなさい!」
謝っては見たものの、カカシさんの視線は宙を彷徨い、どこかうつろな目をして俺を見つめている。
俺を喜ばせるコトに一生懸命なこの人にしてみれば、ものすごくショックだったんだろう。…俺の予想以上のリアクションで足元すらふらつかせている。
とりあえず車は駐車場に置いたままにして、フラフラしているこの人を慰めなくてはと思ったんだけど…。
「…待ってください。…今から…!」
いきなりカッと目を見開いたカカシさんが俺を抱き上げて、ものすごい速さで車に詰め込むと、シートベルトまでうやうやしい手付きで止めて、カーステレオの電源を入れて音楽まで流して…それから携帯電話でどこかに電話しだした。
「あ、あの!?」
「そう。二人。貸しきり。こんな急じゃ出来ない…?へぇ?そんなコト言うんだ?」
今まで聴いたことの無い冷たい声で、明らかに命令というか…脅迫をしている。
相手の人の不満げな怒声まで漏れ聞こえてきて、逃げた方がいいんじゃないかって気がしてきた。
とにかく何とかしたくて、カカシさんを止めようとしたんだけど…。
「なら、あの事…そ。じゃ、お願いね。」
さっぱり自体が飲み込めないうちに電話は切られていた。
…最後の方に聞こえてきたうめき声が凄く心配なんだけど!
「カカシさん!何やってるんですか!?」
ぽやぽやして見えて、明らかに命令しなれた口調だったのが衝撃だった。なんでもそつなくこなす方だって言うのは知ってたけど、普段だって俺が守ってあげたいと思うくらい可愛いのに…!
どんなに好きな人でも、知らない顔があるなんていうのは分かってたことだ。まだ知り合ってそんなに立っていないから。でも…なんていうか、こういうコトがあると不安になる。
…この人のことをあまりにも俺は知らなさ過ぎるから…。
「ああ、すみません。シェフの態度は悪いですが、料理の腕は絶品です。奥さんも凄く美人だけど、イルカさんがフラフラしたら俺泣いちゃいますからねー!」
俺の怒りの声など聞こえなかったかのようにさっきの冷たく僅かに毒を含んだ表情は一瞬にして消えて、爽やかな笑顔が俺に向けられた。むしろどこか浮かれているようにさえ見える。
それに虚を突かれて答えに窮している内に、車は急発進していた。
「わぁ!?」
「あ、ちょっと飛ばします!沢山お祝いしましょうね!」
笑顔のカカシさんの理性というか…何かが完全に飛んでるってコトは分かったけど、すごい運転の仕方にすぐにそれ所じゃなくなった。
*****
めちゃくちゃな…でも正確な運転で連れて来られたのは、山奥の小さなレストランだった。
…それも、貸しきり状態の。
カカシさんの言葉どおり、確かに料理を運んでくれた女性は、思わず目を奪われるほど華やかな美人でだったし、俺が席に案内されてから、ちょっとだけ席を外したカカシさんと怒鳴りあう声には凄みがあった。
何より料理がものすごく美味しくて…思わず事情を聞くのも忘れてがっついてしまった。
食べてる間中にこにこしているカカシさんにじーっと見られててちょっと気恥ずかしかったけど…多分、これはカカシさんなりに誕生日を祝ってくれてるんだろう。
いつも断っても俺のために美味しい物を買ってきてくれるけど、ココはまた別格だ。
なんていうか…隠れ家的名店っていうのは、こういうところを言うんだと思う。
デザートまで全部綺麗に平らげて人心地ついてみれば、インテリアも食器も料理も…こだわりを感じさせる品のある美しい物ばかりだ。俺はそういう方面のことには疎いから良く分からないけど、それでもココの雰囲気は徹底的にこだわったものだっていうコトぐらいは感じ取れる。
俺のために頑張ってくれたのは確かに嬉しかった。でも…だんだんと申し訳なくなってきてしまった。
…俺が言い忘れたりしなければ、こんなことにはならなかったはずだから…。
カカシさんだって疲れているのに。
「あの!カカシさん…!」
謝ろうとした声を、奥から聞こえてきた怒声が遮った。
「おいコラカカシ!」
「なによ?いま折角イルカさんと一緒にお祝いしてるんだから邪魔しないで。」
職業柄大声を聞きなれている俺にとっても、結構な迫力があるその声にもカカシさんは不満そうに答えている。
その必死さを見ると可愛らしいと思わなくもないんだけど…この二人はどういう関係なんだろう?凄く仲が良さそうだ。
カカシさんはいつだって俺中心に生活している。それに、俺への愛を息をつく暇もないくらい訴えてくれるから、これまでどういう生活をしてきたのかなんて、話したこともなかった。
…話をする前に押し倒されてしまうからって言うのが一番の原因なのかもしれないけどな…。
「あの…?」
とりあえず今にも言い争いがはじまりそうだったので、遮るためにも声を掛けたら、店の奥からヒゲを生やした男性が俺たちの座ってるテーブルまでやってきた。
「ああ、アンタさっきから美味そうに食ってくれてありがとな。コイツのいうコト聞くのは業腹だが、アンタみたいなのに食ってもらえれば俺もやりがいがある。」
豪快なその笑みは男らしくて好感が持てたけど、カカシさんは気に入らなかったらしい。
「…俺の大切な人に近づかないで。」
警戒心丸出しのその視線は、まるで子猫を守る母猫みたいだ。
まるで氷のように冷たく鋭いその言葉…普通なら店を追い出されても仕方がないと思ったんだけど…。
「ああわかったよ!…お前は駄目でもこっちのは甘いもの大丈夫みたいだから、今取って置きの出してやる!」
呆れたように、でも優しげな瞳をカカシさんと俺に向けて、シェフらしき人が店の奥に帰っていった。
「ごめんなさいイルカさん!怖かったでしょう?」
慌てて俺を守るようにカカシさんが手を握ってくれた。いたわりに満ちたその視線は、最初にあった診察室での優しい空気を思い出させてくれる。
…中身が明後日なのがたまに傷だけど。
「え?あ、いいえ!そんなことないです!大丈夫!何だか頼もしい感じの人ですね!」
確かに外見は強面だけど、その中身は…きっと面倒見がイイにちがいない。…カカシさんのわがままにも、不満は言ってるけどそれでもちゃんと色々考えてくれてる所なんかみてると、きっとカカシさんのこうい態度にも慣れてるんだと思った。
ちょっとだけ、ソレが寂しい。
「あのクマ、昔はあれで医者だったんですよ?信じられます?同じ大学にいるときからあんまり場違いなんでクマは山に帰れって言ってたんですけどね。…まあ、趣味の料理の方が楽しくて、それがきっかけで知り合った…あの奥さんを物にするために、とっととやめちゃいましたけど。」
なるほど。それならカカシさんのことを良く知ってるのも分かる。
憎まれ口を楽しそう叩くだけあって、きっと二人は仲が良かったんだろう。
それに、奥さんのために思い切ったことするなんてところも、ちょっとカカシさんに似ている。気の合う友達同士のじゃれあいが、ちょっと派手だってだけ…だと思うコトにした。
二人ともガタイがいいし、カカシさんはその整った顔で、ヒゲの男性は威圧感さえ感じる男らしさで、どちらも目を引く。
まあ、カカシさんのほうがちょっと…いや、大分常識の方に問題がありそうだけど。
「ああ、それで!…奥さんのほうともお知り合いなんですか?」
なんとなく疎外感のような物を感じて、ソレを誤魔化したくて…話を変えた。
さっきの口ぶりだと、このレストランの夫婦とカカシさんは旧知の関係みたいだったし。
俺が話を振ったコトに、カカシさんはキラキラと瞳を輝かせて答えてくれた。
「…ココだけの話ですけど、あのクマ、奥さんにずっと料理人だったって言ってるんですよ。だから、その秘密をネタに今日はちょっとわがまま聞いてもらいました!…こんな大切な日…絶対にお祝いしたかったから!」
声を潜めてどこか自慢げに語るカカシさんは、ちょっとびっくりするくらい嬉しそうにしている。
ここに俺を連れて来れたことが…もっと言うなら、俺の誕生日を祝えたことを喜んでくれている。
何だか涙が出そうだ。
…今までだって、祝ってくれる人はいた。
でも、この人以上に俺のことを一番に考えて、俺のために一生懸命になってくれる人はきっとどこにもいない。
確かにまだ知らないコトは一杯あるけど…それはこれから埋めていけばイイ。
「ありがとうございます。カカシさん。」
にじんだ涙を誤魔化すようにはにかんで見せたら、カカシさんが顔を真っ赤にして手をぎゅっと握ってくれた。
「俺も…祝えてよかったです…!来年はもっともっと…沢山お祝いしましょうね!」
その笑顔と真っ直ぐに俺だけを見つめる視線。いつだって一生懸命なこの人に出会えて幸せだと思った。
******
あれから、実は奥さんは全部知ってるってこととか、恋の橋渡しを頼まれたのは両方からだったとか、奥さんが旦那さんを可愛い熊みたいだと呼んでるとか…そんな話をしてくれるカカシさんと、出てきたバースデーケーキを食べた。
ぶっきらぼうな店主と奥さんの恋物語を聞いてから、何だか親近感が湧いていたけど、ケーキを出すのを手伝う奥さんに照れくさそうにしてるのを見たら、確かにくまに見えないこともない。…そんなコトいったら怒られそうだから黙ってたけど。
イルカのトッピングがされたかわいいケーキも勿論おいしくて、コーヒーにふわふわしたミルクが乗ってるのも美味しくて…なによりカカシさんがずっと笑っててくれたのが嬉しかった。
幸せな気分で家に帰って、それから当然のように…その、夜の方も頑張ってくれたカカシさんのお陰で、ちょっと大変な目にあったけど。
今までは色々知らないことばかりだったから…これからもっと沢山カカシさんのことを知りたいと…俺をぎゅっと抱き込んで眠るカカシさんを見て改めて思った。
…んだけど。
最近、カカシさんの様子がおかしい。
…元々ちょっとその…奇行というか、突拍子もないことをしがちな人だったけど、今回はさらにソレに輪をかけて様子がおかしいのだ。
毎日毎日俺を迎えに来るのは変わらないけど、待ってる間にブツブツ言いながら何かやっていたり、電話をやたらしていたり…あんまり眠ってないみたいだし、厄介ごとに巻き込まれているんじゃないかって、凄く不安だ。
何せ、この性格だから、常識では測れないことをしでかす可能性がある。…強引な所も有るけど、基本的には人がいいからその辺も心配だ…。
でも、俺は教師だ。カカシさんの心配だけをしているわけにはいかない。
…最近子どもたちは子どもたちで何かコソコソ企んでるみたいで、そのせいか、喧嘩も絶えないから、そっちの対策にも頭を痛めている。
特に酷いのがナルトとサスケのやりあいで、お互い一歩も退かないから被害がなぁ…。理由を聞いてもむっつりと黙り込む辺りは気があっているって言うかなんていうか…。
まあ、この位の年だとじゃれあうのは当たり前だし、秘密とかそういうのも好きだからしょうがないんだが、一偏にごたごたが来ると、ちょっと疲れたと思わなくもない。
さっきまで争っていた二人を何とかなだめ終わって、やっと自分の席に戻ってきたばかりだが、思わずため息がこぼれた。
「なにかありましたかな?イルカ先生。」
ソレを見咎めたかのように神経質そうな声が、俺にかけられた。
…そういえば、この人もおかしい。
エビス先生。…元々それ程話す方じゃなかったのに、妙に話しかけてくる頻度が高くなった。
それも、普段のように嫌味を言うんじゃなくて、なんでもない話題なんだけど微妙にしつこく話しかけてきて、それに、妙にじろじろ見られるのがなぁ…。気遣うって言うのとも違うみたいだし。
ヒルゼン校長のお陰でカカシさんへの警戒心はほぼゼロになったみたいだから、面倒ごとは起こらないと思っていたのに…。
「ああ、梅雨だから子どもたちに足元に気をつけるように言わないとと思って。」
それとなく話を断ち切ろうとしているのに、エビス先生はソレを許してくれなかった。
「足元に…?ほ、本当にそれだけですかな…?」
妙に顔が近い。それに妙に鼻息が荒い。
…なんでこんなにしつこいんだ最近!ソレでなくても色々あるっていうのに…!
「あ、エビス先生。ヒルゼン校長が呼んでたっすよ?」
タイミングよくゲンマ先生が間に入ってくれた。
「なんと!すぐにいかねば!では、失礼いたしますぞ!」
助かった!
…いそいそと校長室に向かったから、多分しばらくは出てこないだろう。
「はぁ…ありがとうございます。」
会話を断ち切ってくれなかったら、更に憂鬱な思いをするところだった。
「なんか、大変そうだよな。無理しない方がいいぜ?」
「そうですね…。ありがとうございます。」
俺の疲労具合は端から見ても分かるくらいなんだろうか?…子どもたちの様子がおかしいのも、俺がこんな状態だから…?
落ち込んでもしょうがないと分かっていても、憂鬱な気分は晴れなかった。
まあとにかく、気遣ってくれたゲンマ先生のお陰で早く帰ることができるんだから、さっさと帰って休もう。
「すみません。お先に失礼します…。」
「気をつけてな。」
会釈して少し早めに職員室をでると、その先には今日も迎えに来ているらしいカカシさんの車が見えて…もう何度目か分からないため息が漏れた。
もうそろそろ俺の誕生日から一ヶ月がたとうって言うのに!
あの時、この人のことを色々知りたいと思ったのはウソじゃない。
あれから色々話をして…俺の生い立ちとか、そういう話だってした。
でも、カカシさんは俺の話をきくばかりで…。
むしろ話をするよりも何かもそもそやっていることの方が多くて、でも俺の健康チェックとそれと…その、そっちの方への熱心さは変わらなくて…。
カカシさんにとって、俺って一体何なんだろう。
愛してるとしきりにささやいてくれるけど…カカシさんのことを俺は殆ど知らない。
どうして、あんなに悩んでいるみたいなのに俺に何の相談もしてくれないんだろう。
聞いてもなんでもないというばかりで、何を隠しているのかすら分からない。
肩にかけたカバンが余計に重く感じた。
*****
重ったるい気分を抱えたまま、校門に向かうと、そこには…いつにもまして緊張した面持ちのカカシさんが待っていた。
「カカシさん?」
俺が話しかけても無言のままだ。怪訝に思って手を握ってもう一度名前を呼んだ。
「カカシさん!」
それなのに…カカシさんは何かを決意したみたいな顔で俺を抱き上げて車に詰め込むと、うやうやしくシートベルトを締め、すごい速さで車を発進させた。
「ちょっ!なにしてるんですか!どこへ行くんですか!」
荒々しい運転に叫び声を上げても、カカシさんは一言も言葉を発してくれない。
…ただ、その顔を緊張にゆがませているだけ。
その思いつめた表情が、悪い方の想像ばかり掻き立てる。
病院でなにかあったのか、それとも悪い人に騙されたのか…不安でもう耐え切れなくて、今すぐカカシさんをぶん殴ってでも止めようとまで思いつめた時、カカシさんがいきなり車を止めた。
「けっ!けけけっ!」
「カカシさん!?」
やっと言葉を発してくれたのはいいが、カカシさんが何を言いたいのか分からない。急に奇声を発して顔を真っ赤に染めている姿は明らかに常軌を逸していた。
呼吸も荒く、表情もどこか苦しそうで…もしかして、医者の不養生だろうか…!?
「待ってて下さい!いますぐ救急車を…!」
ココがどこか分からないが、携帯電話もあるし、最悪どこかの民家にでも助けを求めようと慌ててシートベルトを外そうとした。
こういう時に限って、上手く外れない。がちゃがちゃと音を立てはするが、手が汗ですべり、その間もどんどん顔色を悪くしているカカシさんが目の前にいるのだ。
俺の緊張とパニックは頂点に達した。
あまりの事態にシートベルトが引きちぎれないだろうかと思い始めた俺を、カカシさんが抱きしめてくれるなかったら、俺はきっと叫びだしていたかもしれない。
それくらい、カカシさんが心配だったんだ。
「結婚して、ください…!」
「え?」
か細い声を、最初は苦しんでいるカカシさんのうわごとかと思った。
でも…今、確かに…!
戸惑う俺がカカシさんの顔をまじまじと見つめたのに勇気付けられたのか、カカシさんが勢い良く語り始めた。
「六月に結婚すると幸せになれるって…!誕生日プレゼントもちゃんとできなかったから、俺、ずっと一生懸命考えて…!だから、イルカ先生に幸せになってもらうってきめたんです!!!」
勢い込んで話すカカシさんは、いつもの様に瞳をキラキラと輝かせて一生懸命はなしてくれた。
ソレは…多分六月の花嫁は幸せになれるとかっていうジンクスのことなのか…!?ってことは…なんだそれ!?
「アンタそのために最近…!?」
思いつめた表情にものすごく心配しただけに、ホッとするよりちょっと腹が立った。
…また突拍子もない思い付きだったってコトか。
文句の一つも言ってやろうと思うのに、いきなり緊張が解けたせいで何も思いつかない。
その間にも俺があんなに手間取ったシートベルトをさっさと外し、カカシさんは俺をまた抱き上げてしまった。
嬉しそうに、大切そうに。
「ここ、結構人気で!でも絶対に大安の日が良かったからちょっとツテを…。」
「どうしてそんな大事なこと一人で無理したんですか!」
耳を引っ張って叱ってやった。
だって、どれだけ俺が心配したと思ってるんだ!
ちゃんと叱らないと、この人のことだからまた無茶をしかねない。
そう思ってちょっときつめに言ったのに…。
「だって…!驚いて欲しかったんです…!」
涙目でちょっと俺を見つめる子犬のような瞳にじっと見つめられると、怒る気力もなくなった。
「今度からはちゃんと相談すること!絶対ですよ!」
しょぼんとしたカカシさんにこれ以上何か言う気もしなくて、それだけしか言えなかった。
…どうにも俺はこの人に弱い。一生懸命すぎるのがいけないんだ!こんな綺麗な顔してかわいいし!
「はい…!!!」
俺の同意がよっぽど嬉しかったのか、尻尾があったら千切れるくらい振ってるんじゃないかって顔で、カカシさんが満面の笑みを浮かべている。
その顔があんまりにもかわいかったから…これからなにがあるかとか、そういうコトを聞きそこなったんだよなぁ…。
*****
抱き上げられたままという間抜けな格好に流石に恥ずかしくなったけど、カカシさんは意気揚々と俺を近くの建物に運んでいった。
…文句も言いにくいくらい楽しそうだから、何だか吹っ切れた。
抱えられたまま見上げると、美しいステンドグラスが中の照明に照らされてぼんやりと光っている。建物全体を良く見れば、どうやら教会のようだ。
…ってことは…もしかして本気で結婚式でも挙げるつもりなんだろうか…!?
そもそも教会ってことはキリスト教で、そもそも同性同士でこんなコトになってることを受け入れてくれるわけがないんじゃないだろうか?良く知らないけど!
とりあえず事情だけは詳しく聞かなければ…!
慌てる俺の心を読んだみたいにカカシさんがそっと俺を下ろしてくれた。
「カカシさん?」
事態が飲み込めなくて戸惑う俺の肩を優しく抱いて、カカシさんがそっと足を進めた。
そして…教会の扉は開かれた。
「俺たちに両親はいないけど。見届けてくれる人がこんなに!」
誇らしげなカカシさんのセリフと共に。
「「「「「「おめでとう!イルカ先生!」」」」」」ってばよ!」
ナルトにサスケに…サクラとイノとヒナタまで!俺の生徒たち…男子も女子もほぼ全員だ!
…なんでこんなところに!
「お前たち!こんな遅くに!」
親御さんの姿も見えないし、子どもばかりで…あ!でもヒルゼン校長とゲンマ先生も!俺が出たときまだ学校にいたのに!
あ、でも…エビス先生はいないな…?
「ちゃんと合宿だっていって、許可とってあります!」
「お祝い!ちゃんとするってばよ!…そのおっさんはちょっといけすかないけど…。」
「まあ、頭下げてきたからな。」
「ごちそうは今作ってるんだって!僕凄く楽しみ!」
「先生の服も用意したぜ!」
「あの、私たちもお祝いしたかったから…。」
一斉に話しかけられて驚くばかりだけど…どうやら、カカシさんがコソコソ何かやってのたはこういうことを企んでいたからってコトか!
結婚式っていうけど、精々二人っきりで真似事をするくらいだと思っていたから、驚いたなんてもんじゃなかった。
皆一張羅をきて、女の子は特に可愛らしい格好で、手に何か持っている。
それは、校長先生とゲンマ先生も一緒だった。
「校長まで…!」
「なんじゃ?まだこやつは説明しておらんか?…ここは一晩貸しきりじゃ。集会場にも色々用意してあるからの。」
「まあとりあえずその格好何とかしてきた方がいいんじゃないですか?」
何だか分からない内に、ゲンマ先生に急き立てられて、カカシさんにも引きずられるように教会の奥まで案内された。
「あの!コレ一体…!?」
「これ、ちゃんとサイズあってると思います!…着替え、みちゃうと我慢できないから、ちょっと外で待ってますね?」
いきなり小さな部屋に通された。色々聞きたかったのに当の本人は何も説明せずに、テレながら出て行ってしまったので、俺はとりあえずカカシさんに渡された袋を広げてみた。
「タキシード…!」
テレビでしかみたことがないが、これは多分タキシードってやつだ。
ドレスじゃないことにほっとしたけど、そういう問題でもない。
着方が良く分からないし、何だか知らない内にすごいコトになっている。
正直言えばしばらく冷静になる時間が欲しかったけど、あんなに楽しみにしてる子どもたちを放っておくわけにも行かない。…ぼーっと突っ立っててもしょうがないし。
何とか見よう見まねで四苦八苦しながら着慣れない服を身に着けて、でもやっぱりちゃんと着られなくて困ってたら、背後でがちゃっと大きな音がした。
「イルカ先生!着替え終わりましたか?」
カカシさんが迎えに来てくれたらしい。
「あ、えっと。何とか大体は…。」
振り返ると、そこには俺とおそろいの格好をしたカカシさんが立っていた。
白いタキシードが嵌りすぎるほど嵌っていて、思わず息を呑んだ。体型がいい人が着るとものすごく様になるんだなぁってことが良く分かる。
それに、容姿も整ってるからなおさらだ。
「綺麗だ…。」
自分でも気付かないうちに、そう呟いていた。
ぼんやりと見ていると、カカシさんがすごい勢いで俺に歩み寄ってきて…。
「んんー!?」
がばっと音がしそうなくらい強引に、唇を奪われていた。
驚いてされるがままになっていたら、その激しさに腰がふらついてしまった。
「ああ…つい…!ごめんなさい!…イルカ先生があんまり綺麗だから…!」
俺を支えてはにかむカカシさんの方が、よっぽどにあっていると思うのに、カカシさんには俺が綺麗に見えているらしい。
「カカシさんのほうが…ずっとずっと綺麗です!」
妙に意地になってそういったら、カカシさんの顔が真っ赤に染まった。
「ああだめ!煽らないで!式が終わってからにしたいんです…!」
視線を慌てたようにそらして、すぐ側にあったいすに座らせてくれたけど…ちらちらこっちを見ながら顔を赤らめているカカシさんがかわいくて、何だか落ち着かない。
「あ、あの…この帯みたいなのはどうしたら…?」
とりあえず困っていたことを聞いて誤魔化したつもりだったけど、ごくっと唾を飲み込む音がした。
「イルカ…先生…!」
ああこの顔は…いつも俺を押し倒す時の顔だ。欲望を感じさせる瞳とは裏腹に、上気した顔が美しさを際立たせて…いつも気が付いたらされるがままになっている。
「カカシさ…」
「おーい。着替え終わったか?あ。やっぱり。カマーバンドなんてわかんないよな?ポケットチーフ…もまだか。いいや。俺手伝いますから。カカシさんは…おーい?カカシさん?」
「あ、うん。ごめん。…でもあんまりイルカさんに触らないでね?」
ゲンマ先生がテキパキと良く分からないものを着付けてくれたけど、その間もドキドキは収まってくれなかった。
…あの時、誰も来なかったらきっと…。
カカシさんの監視も軽く受け流して俺を着付けてくれるゲンマ先生にお礼を言えないくらい、俺はさっきのカカシさんの姿で頭が一杯になっていた。
「じゃ、後は一旦外出てください。俺が皆に準備できたって知らせて来るんで。」
「ん。お願いね。」
「え、あ、はい!」
良く考えればゲンマ先生にも俺たちのことを知られてるってことなんだけど…その時はぎゅっと手を握ってくれたカカシさんに、俺の爆発しそうな心臓の音がきこえやしないかとソレばかりが気になっていた。
*****
「汝止める時も健やかなる時も…」
神父なのか牧師なのか、俺には区別がつかないけれど…カカシさんは本気の本気で結婚式を手配していた。
男同士だって言うのに、ちゃんとソレらしい服を着た人が聞いたことのあるセリフを言っている。
「誓います!イルカ先生も、ですよね…?」
「え、あ、はい!誓います!」
ぼんやりしている間に、誓いの言葉を聞き逃していたらしい。
ちょっと出遅れたら凄く不安そうな顔で見られてしまったので、慌てて俺も宣誓した。
…とたんににこっと微笑まれてしまってまたぼーっとしてしまったんだけど。
だって、あんまりにも現実感がないんだ!儀式は進んでるし、生徒たちはきちんと座って俺たちを見てるけど…!
そのせいで、指輪交換もワタワタしている間に、指輪を嵌められていてい、俺もさっき手渡されたのを慌ててカカシさんの指に嵌めた。ちょっと手が震えたけど、カカシさんがそっと手伝ってくれたからなんとかつつがなく終えることが出来た。
これで終わりかとほっとしていたら、衝撃的な発言を耳にするコトになった。
「それでは、誓いのキスを。」
「はい。」
「は、はい!?」
そんなことやるなんて聞いてない!…そもそも指輪交換だって指輪渡されて交換しますよっていわれただけだけど!教え子たちが見ている前でそんなことできるか!
勿論そう思った。…最初だけは。
真摯な瞳で俺を見つめているカカシさんがいとおしげに俺の顎を掬って、近づいてくる顔を見ていたら思わず見とれてしまって…気が付いたらキスされていた。
だってかっこいいんだ!…普段もだけど、今日はなんだか特別カッコよく見える。普段はちょっとぽやぽやしてるのに、今日はびしっとしてて、真剣で…ああもう!
やけになって、俺もキスを返した。
…神父だか牧師だかの咳払いで正気に帰るまで、ずっと。
「ではこれで二人は…」
やっちまった!…その思いが強くて、儀式を執り行ってくれたっていうのに、全然その言葉が頭に入ってこなかった。
ただ、しっかり記憶に残っているのは、俺の手を握って、凄く幸せそうに微笑むカカシさんの顔と瞳。その満ち足りた様子に、胸が温かくて何だか落ち着かなくて…でも凄く幸せだと思った。
*****
教会の集会所だというその場所には、例のレストランの夫婦が待っていた。
たくさんのご馳走と一緒に。
子どもたちの手作りらしいおめでとうと書かれた垂れ幕も嬉しかったけど、思い思いに手渡されるプレゼントも嬉しかった。
さっきのこともあって、いたたまれない思いをするかと思ったけど、子どもたちは俺が考えるよりずっと柔軟だったみたいだ。
「ステキでした!」「カッコイイ旦那さまでよかったですね!ちょっと胡散くさいけど!」「こ、これ…私たちから…お祝いです…!」
いつも一緒にいる女子三人からは、可愛らしくラッピングされた写真立てをもらった。
それから、ナルトとサスケからも、植木鉢に植わった可愛い花を貰った。
二人が一緒にプレゼントを渡しに来たコトに驚いて目を丸くしていたら、「やっぱり防犯グッズの方が良かったんじゃないか?いざって時アイツに使えるだろ?」「ラーメンの方がよかったってばよ!」などとまた言い争いを始めたので何とかなだめた。
…そうか…こいつらずっとプレゼントのことで言い争ってたのか…!
防犯グッズもラーメンも結婚祝いにはどうかと思うが、その気持ちが嬉しかった。
他にも、シカマルとチョウジからは節税と料理の本をもらって、そのほかにも、エプロンやらペアマグやら…いろんな物をプレゼントされた。
ヒルゼン校長のプレゼントが夫婦茶碗だったのはまだいいとしても…ゲンマさんからは…何故かローションだのなんだのを貰ってしまった…。その場で開けて大慌てした俺に、カカシさんが何故か瞳を煌かせていたけど…俺はこんな物いりません…!子どもたちがみたらどうするんだ!
…そして、例の夫婦からのプレゼントは、大きなウエディングケーキだった。
食事も凄く美味しかったのに更に大きなケーキまでと驚いた俺に、夫婦してイタズラっぽく笑ってくれた。
俺もうれしかったけど、子どもたちもとても喜んでくれた。それに一緒にケーキを切れたコトにはしゃぐカカシさんがとても可愛かった。
なんだかお世話になってばかりで、嬉しくて、ソレにすごく幸せだ。
やることはめちゃくちゃだけど、この人と一緒にいたい。
傍らであまいケーキに顔をしかめているのを眺めながら、そう思った。
*****
合宿というのはウソじゃなかったらしい。
食事が済んだら一斉に子どもたちが片づけを手伝ってくれて、全部終わったら布団までしっかり敷かれていた。
雑魚寝状態だけど、元々俺のクラスは20人くらいしかいないからそこそこスペースに余裕があって、返って楽しそうにしている。
当然、俺たちもココに混ざるんだと思ってたら、校長とゲンマ先生に追い出されてしまった。
「がんばれよー!」
「明日は有給扱いになっとるからの。」
「「「「「「「「「「イルカ先生おめでとう!!!」」」」」」」」」だってばよ!」
呆然としている間に、校長先生とゲンマさんと子どもたちに一斉に見送られて、いつのまにか空き缶がくっついていた車に来たときと同じように運び込まれてしまった。
「あの!どこ行くんですか!」
「あ、ちょっと待ってて下さいねー!」
来た時と同じく、…といっても、今回は緊張じゃなくて舞い上がりすぎて人の話を聞いていないカカシさんに連れて行かれたのは…豪邸だった。
「今日は、俺の家に泊まってほしいなって!…ほら、俺たちの家だと、準備してたらすぐばれちゃうから…!」
「こ、ここ、ここなんですか!?」
確かにカカシさんは医者だ。多分だからお金持ちだろうとは思っていた。
だからって…まさかこんなにデカイ家に住んでるなんて思うわけないだろう!
カカシさんの家だというそこは、映画にも出てきそうなレンガ造りの洋館だった。
鉄製の門には確かにはたけと書かれているし、見覚えのある犬たちが並んで待ってるし…確かにココがカカシさんの家なんだろうってコトは分かったけど、受け入れられるかどうかは話が別だ。
「ここ、一人だと広すぎて…犬たちはいるけど、やっぱりイルカさんちの方が落ち着きますね!」
爽やかにそういうカカシさんに案内された家は俺の家が5つは入りそうなくらい広くて、どうしたらいいか分からなくなる。
…でも、確かにここで…犬たちとだけ暮らしてたらきっと凄く寂しいだろう。
広い分、静かで、一人だってことを強く感じてしまいそうだから…。
「大丈夫ですか?疲れちゃった?風邪とかじゃないですよね!?」
自分の思考に沈みかけた俺を、カカシさんが心配そうに見ている。今にも診察されそうだったので、俺は慌てた。
「大丈夫です!ただ、その…ココ一人暮らしにしては広いからびっくりしただけです!」
「んー。ま、昔も父と二人暮らしだったからあんまり変わらないんですが…。そうですねぇ。やっぱり広すぎて。でも、イルカさんがいてくれたらきっとここでも楽しいんだろうなぁ!」
夢見るような瞳に、それはどうだろうといい出せなくて、でも…どうしても気になったから、それだけは聞いてしまった。
「あの、お父様は…。」
「亡くなったんです。俺がまだ小学校くらいの時かな?結構まだ若かったんですが…大学病院で結構腕が良かったから、派閥争いみたいなのに巻き込まれてね。…大丈夫だって言ってたけど、俺はずっと心配で…でも、やっぱり過労死みたいな形でなくなって…」
暗く遠くを見ている視線の先は、きっとその先だった大切な人に向かっている。…この間俺が倒れたときに見せた動揺も、そんなことがあったからだったんだろう。
「カカシさんは、それからずっと頑張ってきたんですね…。」
涙が、勝手にこぼれた。
そんな辛いことがあったなんて…そう思ったらこぼれる涙がとめられない。俺も、小さい頃に両親をなくしているから、その辛さも思い出されて…。
急に泣き出した俺をなだめるように手を握り、カカシさんが語ってくれた。
「でも、ちゃんと俺の面倒見てくれた人がいたから大丈夫です!…ただ、その人も病気で早死にしちゃったから、俺、絶対に医者になって、大切な人を今度こそ守れるようになろうって決めてたんです!」
慰めるように俺に微笑んでくれるカカシさん。
だから、こんなに俺を心配するのか。
理由が分かってしまったから、今度から強く拒めないかもしれない。
「俺は、丈夫だし、健康だから…」
「それでも!油断しちゃ駄目なんです!ちゃんと俺が診ますから!」
安心させたくて言った言葉は、返ってカカシさんの職業意識を刺激したようだ。
不安そうに俺の体をまさぐる手は、きっと今日の色々で疲れた俺を心配している。
この人を安心させたい。ずっとずっと…側にいたい。
だから俺は…。
「なら…ちゃんと、全部診て下さい。」
こんなこと、普段なら絶対出来ない。でも今日なら…今日だから。
乱暴にシャツのボタンを外す俺を、陶然とした瞳が見つめている。
…その視線を心地よく感じながら、俺はタキシードを脱ぎ捨てた。
それに誘われたように、カカシさんが俺の手を止めた。
「全部、診ます。どこにも俺の知らないところがないように…!」
また、抱き上げられた。
切羽詰ったような視線で俺を見つめるカカシさんに、今日何度目か分からないお決まりの体勢に持ち込まれて、それでも俺はうっとりとカカシさんを見つめたのだった。
…その、欲望がにじみ出る瞳と子どものように俺を求める必死さに溺れながら。
*****
「ねぇ。ここはどうですか?気持ちイイ?」
「や、やだっ…!そんなコト、聞かないで下さい…っ!」
確かに、誘うようなマネをしたのは俺だ。
…それに煽られたカカシさんが暴走することも分かっていた。
でも、体験するのと想像するのとはやはり羞恥の度合いが違う。
いつもより念入りに、でも情熱的に俺を求めるカカシさんは、俺の感じる所なんて全部知っているくせに、焦らすようにそこここに触れては、俺に問いかける。
気持ちイイかと。
とっくに脱ぎ捨てられた服は床に転がっているけれど、連れ込まれた寝室はカカシさんのこだわりか、天蓋と柔らかい照明で飾られていて、それを穏やかに照らしている。
…興奮しながら、俺の反応を余すことなく診ようとしているカカシさんの体も。
なにもかもが、俺に残った理性を削いで、ただ目の前の男に溺れろとそそのかしているかのようだ。
「聞かなくても、イルカさんの体は正直ですね…?ほら、ここ、こんなに喜んでる。」
「あ、だ、だめです…っ!」
一度も触られていない俺自身にいきなり触れられて、それだけで出してしまいそうになった。
「出そう?…なら…。」
「あ、やっ!駄目です…っ!」
反り返って欲望の涙を零すソレを、カカシさんは躊躇いなく口に入れた。ねっとりとそこを這う熱い舌に勝手に腰が震えて…すぐに限界が訪れた。
「あ、も…っ!」
「ん…。」
ごくりと、音を立てて吐き出された熱を飲み込んで、カカシさんが笑っている。
舌なめずりさえしながら。
「の、飲んだ…ですか…!?」
今までも何度もされているけど、やっぱりあんなモノを飲ませたいわけがない。羞恥と、それとこんなに綺麗な人を汚してしまったような罪悪感と…それとともに湧き上がるこの人がこんなコトをするのは俺だけだって言う満たされた感じに、俺の頭は混乱した。
にんまりと笑うその顔に、すぐにそんなコトも考えられなくなったけど。
「美味しかったですよ?…でも、折角の新婚初夜だから、もっともっと…気持ちよくしますからね!一杯頑張ります!」
労わりに満ちた甘い声。でも、そんなのはいやだ。
「俺だけじゃ駄目です!カカシさんも…一緒に…!」
だって、戸籍とかそういうのは別として、神様だかなんだか分からないけど…みんなの前で愛を誓った。
確かに流された部分もあるけど、誓った気持ちは本当だ。
だから、俺だけ気持ちよくなるのは絶対にいやだった。
「うん…!イルカさん…愛してる…!」
性急に俺の足の間に体を滑り込ませ、愛を囁くカカシさんを抱きしめて、俺も今日こそはもうちょっと頑張ろうと思ったんだ。…その時は。
*****
「ぁ…ぁ…っ!」
「く…っ!」
じぶんから誘ってしまった。
…多分、図らずも二度も。
…つまり、カカシさんの理性はもうすっかり溶けてなくなったんだと思う。
ぬかるんで水っぽい音を立てるソコは、ずっとくわえ込まされたままの質量が押し出す白濁を滴らせている。
もう、声も出ない。
頑張ろうとか、色々カカシさんにしてあげようとか思っていられたのは、僅かな間だった。
俺からキスをしたら、すぐ散々弄られたソコにカカシさんの欲望が打ち込まれて…快感に飛びそうな意識をなんとかそれでも繋ぎとめて、カカシさんにもう一度キスしようとして…でもその前にカカシさんが俺の口をふさいで、激しく突き上げてきて…。
それからはすっかりカカシさんのペースだった。
喘がされて、気持ちよくて、でも何度放っても出て行かないカカシさんに、ちょっと怖くなったんだ。
カカシさんを止めようと、ずっと閉じていた瞳をあけると、生理的な涙で曇った瞳でも分かるくらい、壮絶な色気を放つ生き物がそこにいた。
荒い呼吸も、うす赤く染まった肌も、ソレを飾るように輝く汗も…全部がたまらなく俺を欲情させた。
それに、必死なその表情にも。
誓って言うが、普段は時々そんな気分になるくらいで、見境なく盛ったりする方じゃない。
むしろ、へたすると高学年の生徒たちよりその手の本には免疫がないくらいだ。
でも、カカシさんには、そんな言い訳がウソだと思うほどその気になってしまった。
こんなもの見せられたら…もう、止められない。
俺に出来たのはカカシさんの背中に回した手で縋りつくことだけだった。
…その手も、今はシーツに投げ出されたままになっているけれど。
「どうしよう…気持ちよすぎて止まらない…っ!」
慌てた声も甘くかすれて腰がうずく。
もう出る物も出ないのに、カカシさんにそんな声で泣かれると、いくらでもつながっていたくなる。
「俺も、気持ちイイから。…もっと。」
馬鹿だと思うのに、自分でも口から砂が出そうなくらい蕩けた声が勝手にカカシさんを誘っている。
「イルカさん…!」
感極まったように腰を押し付けてくる可愛い俺の伴侶に、俺もとうに薄くなっていた理性を手放すコトにした。
*****
翌日は酷かった。歩けないし、そもそも立てないし。自業自得だと分かっていても、流石にちょっと後悔した。
でも…ぐちゃぐちゃのベッドも俺も、カカシさんが丁寧に綺麗にしてくれて、せっせと世話を焼いてくれた。
「新婚って感じです!」
そういって笑うカカシさんを見ていると、甘やかしたくなって困る。
「新婚なのはまあ…その。あれですが!今後はあんなにやりませんからね!」
何とかソレだけ言い渡し、それでも幸せそうに眉を下げてでれでれしているカカシさんに押し切られるようにまた行為にもつれ込んで…。
休み明けに出勤したら、校長には「ほどほどにな。」とちょっと小言を、ゲンマ先生からは「ほらな?役に立ったんだろ?」という妙に自慢げなコメントを、生徒たちからは祝福と心配そうな視線をたっぷり貰った。
…エビス先生はなんだかまた鼻血ふいてたなぁ…。なんでだろう?
まあとにかく、いつも通り今日もカカシさんは俺を迎えに来てくれて、可愛い顔で俺に微笑んでくれている。
あげく、「俺ばっかり幸せになっちゃってる気がする…!イ、イルカさんは…幸せですか…!?」などとと不安がって、俺のツボをつき続けてくれて…。
そんなカカシさんを「もちろん!幸せですよ!」などとなだめながら思わず脂下がったりなんかしている。
俺の主治医で伴侶は心配性でちょっと変わり者だけど…俺の人生を一生診てくれるのも、診てもらうのもこの人だけだから。
俺もあぶなっかしくて可愛い俺のカカシさんの人生の主治医になろうかな?なんて、最近では思っている。


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変態ドクターの続き間に合ったぜ!!!
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