後朝の詩



逢いたいという式をもらって、急いで向かったイルカ先生の家。
到着するな否や、オレの気配を感じ取ったイルカ先生は、ドアをノックする前に家から飛び出してきた。
「…来てくれた」
当たり前でしょう?あなたがあんな式を送ってきたんだから。
そう言いたかったけど、イルカ先生の顔を見たら、そんなことよりも、急に目の前の唇が欲しくなった。
オレが顔を近づければ、イルカ先生はゆっくり目を閉じた。
ここに到着する間、一体何があったのか聞いてあげようと思っていた。
あなたを慰めて少しでも気持ちを落ち着かせてあげたいと。
だけど。
理由なんてどうでもいい。
イルカ先生が、逢いたいと言ってくれたんだから、それでいいじゃないか。慰めるのは言葉じゃなくったっていいのだから。
そんな思いを巡らせながら、しばしイルカ先生との口接に夢中になった。
オレ達は、こんな口付けはしたことはあったけど、身体を重ねたことはない。
だけど、今宵は。
逢いたいという言葉に縋って、イルカ先生を自分だけのものにするつもりだった。
「いいですよね?」
改めて聞くのは、少し怖いと思った。
だけど、その思いは杞憂に終った。
「抱いて下さい」
イルカ先生のその言葉が合図となって、オレ達の初夜が始まった。

触れる度に、敏感に反応する肌と声。耳元で愛の言葉を囁けば、イルカ先生も呼応するようにぎゅっと抱きしめる力を強くする。 あなたの心の声、ちゃんと聞えています。オレへの確かな愛をしっかり感じています。
本当はもっととろとろにしてあげたいと思っていたのに。イルカ先生目の前にして、オレのなけなし理性は本能に虚しくも 追いやられ、愛撫もそこそこに身体を繋げてしまった。
「大丈夫ですか?」
「平気…」
そう言うイルカ先生の顔は、苦悶の表情だが、もう止められない。引き返せない。
「ごめんなさい。あなたをもらうよ」
オレは、イルカ先生の身体を幾度も穿った。
絶頂を迎えたのはほぼ同じくらいだったと思う。一瞬の高みの後にゆるゆるとやってくる快楽が、泣きそうなくらいの 安堵感に変わった。
そしてオレは。
やっと、イルカ先生を手に入れた。

目覚めた時に、横には愛しい人の寝顔。
寝乱れた髪を優しく梳けば、イルカ先生はゆっくり目を開けた。
また逢いたくなったらいつでも呼んで。そしたら、息も付けぬくらいに、ただただ抱きしめてあげる。
「おはようございます」
イルカ先生が掠れた声でオレの胸のところに擦り寄った。昨晩、あれだけ大胆に誘った人が、 まるで別人のように恥じらいを露わにする姿に、思わず笑みがこぼれた。
ああそうだ。
これからは。
こんな風にあなたと迎えた朝には、歌という名の詞を置いていこう。
幾千もの愛の詞を。あなたへ。
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