のる(適当)


 布団が重い。上に乗っているイキモノがいるせいだ。
「また来たんですか。アンタ」
「んー…まだ暗いよ。明日休みでしょ?もっと寝よ?」
 もっと寝ようもなにも、気配のない重さで人を驚かせておいて言う台詞がこれか。
 …だがここで口を開こうものなら丸め込まれてまた散々な目に合うのは間違いない。何しろコイツは口が上手い。手が早い。その上階級も上と来ちゃ、力では適わないのは、どんなに悔しかろうと明白だ。
 我を通すくせに、こっちが罪悪感を感じさせられたりするからな…。なんでなんだ。別に俺のベッドに俺が寝てるだけなんだから、哀れっぽい声で縋られようが、強請られようが、突っぱねればいいはずなのに、顔がいいからなのか、声がいいからなのか、それとも真剣に苦しそうに見えるからなのか…。
「寝よじゃなくてですね。俺は」
「んー…起きたらね?くっついてると温かいでしょ…?」
 最初からこうだからな。ある意味その揺らがなさは驚くほどだ。
頭を抱え込んだ手が存外優しいのが心地良いくて、それから腹立たしい。毎度毎度子ども扱いするくせにしがみついてきやがって…!中忍馬鹿にすんな畜生。
 安普請な賃貸の、これまた譲り受けて長らく使っている年季の入ったボロベッドのどこが気に入ったものか、窓からふらりと入り込んできてはこうして勝手に惰眠をむさぼっていく。家主の拒絶などどこ吹く風だ。むしろ朝飯を集っていくことも多いし、時々は食料を持ち込んで勝手に作ってることも多いし、それだけじゃなくて風呂を使うのはもちろん、朝重ったるい目蓋をこじ開けてみれば、テレビ見ながら居間でゴロゴロしてたときなんか思わず怒号を上げかけた。
 百歩譲って寝床を貸すだけならまだいい。勝手に寝て勝手に帰ればいい。それくらいなら許す。腹立たしいが。だがコイツは、絶対に俺がいるときしかやってこない。
 以前、干したての布団を泣く泣く譲って、しっかり休んでくださいと言いおいたら、捕まえられて一緒の布団に押さえ込まれてそりゃもう…殴っても暴れてもお構いなしに人を抱きこんで、幸せそうに寝くたれやがった。
「俺はアンタの抱き枕じゃない。寝たけりゃ寝ていいですから、布団はいんなさい」
「はーい」
 聞き分けが良い返事に油断していると、今回もやはりというべきか、抱きついて足まで絡めてきた。
 任務中じゃなければ一度寝ると梃子でも起きない方だが、動けないと疲れが取れたきがしない。
 それももちろん説得済みだが、止めないってことはコイツにとっては俺がどうであろうが関係ないんだろうな。多分。
「重い」
「そ?早く馴れてね?」
 自分勝手なことばかり言う男の頭を気休め程度に軽く叩いて、それにすら唇の端を吊り上げてみせるのを尻目にさっさと目を閉じた。
 拾ったら最後まで責任は取るが、拾ってもいないのに押しかけてきた場合はどうすればいいんだろうと悩みながら。



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適当。

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