夜酒(適当)


手に入れたばかりのやわらかくて広い寝床にもぐりこんで、隣には暖かいイキモノが眠っていて、汗で湿った髪の毛を弄んで、ぺったりくっついて鍛えられた素肌の手触りを楽しんで…ま、ちょっとうなされてはいるけど最高の寝心地だ。
同意もなしに組み敷かれた方は、溜まったもんじゃないのかもしれないけど、今はそんなことは考えない。
未だ収まりのつかない下肢が、時折零れる呻き声にさえ反応するから、煮え立った頭じゃそれを押し止めるので精一杯だ。
相手が気絶するまでやり倒したのも、そうなるまで止まれなかったのも初めてだ。
確かにちょっとばかり無茶をする日々が続いていて、自分でも疲労を自覚してはいた。
ただそれくらい磨り減った状態で任務を続けたことなんて、今までだって腐るほどあったから、さほど問題だとは思わなかったんだよねぇ。
それが失敗、になるのかな。少なくともこの人にとっては。
疲れを見せることなんてするわけもなくて、受付で報告書を提出して、そういえば明日は久しぶりの休みだなとほんの少しだけ気が緩んだのは覚えている。
報告書を受け取った人が顔色を変えて詰め寄ってきて、アンタ何連勤してると思ってんだ馬鹿なのかなんて大声で怒鳴られて、深夜でよかったなぁとか、そんなことを思った。
できるだけこの人に意識を集中したくなかったから。
だってねぇ。この人凄いんだよ。
両親の仇宿した子を慈しみ、俺より弱いくせにどんなときでも体を張って守ろうとしてくれて、例えばちょっとした怪我だって、落ち込んでたって、疲れ果ててたって、どんなに隠しても、どんなに小さなことでも気付いてくれて、叱ったり泣いてくれたり笑ってくれる。
そんなの好きになって当たり前でしょ?
でも、この人は普通の幸せが似合う人だ。
誰かに愛し、愛されて、子を成して育てて慈しんで、そうして里を支える大事な礎になれる人。
だから我慢しようと思った。見ているだけで幸せだなんてウソは、とてもじゃないが言えなかったけど。
幸いと言っていいのか、人懐っこい性格のこの人は、何かと言うと一緒に飯を食ってくれて、俺から誘っても嫌がらないでくれた。
幸せーって顔で酒を飲んで飯も食って、じゃあまた、なんて、俺にとっては嬉しすぎる言葉をくれる。
ふざけてじゃれかかっても、ちょっと普通より近い距離に違和感も感じないのか、嫌がることなんて一度もなくて、むしろふざけて向こうから肩を組んでくれたことだってある。鼻に付くほどの酒気を漂わせ、へたくそな歌を歌いながら夜道を歩くのは楽しかった。このまま持って帰りたいなぁって、何度も思った。閉じ込めてしまいたいとか、もっとすごいことも沢山考えて、想像して。 …あの人が好きそうだなと思うものを集め始めたのが、代償行為だってのは自覚していた。
コレを手に取ったとき、コレをみてくれたとき、あの人はどんな顔をするだろうって、考えるだけで幸せで、温泉の素とか、髪紐とかクナイとか、ちょっとしたものは本人に上げた。やたら恐縮するから、お土産なのにって泣きまねまでして押し付けた。
でもそんな小さなモノじゃその内満足できなくなってきたんだよねぇ。
ベッドとか、ソファとか、不埒な行為に必要なモノたちとか、一式そろえた部屋は俺の妄想のためだけのものだったはずなのに。
俺のために無茶をするなって怒ってくれた。心配してくれただけだってことは分かってた。
でも最近は里にいたらこの部屋に閉じ込めてしまうことばかり考えちゃうから怖くて、でも距離を置けばおくほど胸が疼いて、何もかも揃っているのに肝心のモノが空っぽの部屋に戻るのが嫌で、多分少しおかしくなっていたんだろう。
「じゃあ、抱き締めてよ」
そう強請った俺に驚いた顔をして、そらみたことか、やっぱり俺なんかなんとも思ってないんじゃないって、心の中だけで毒づいて、コレで何もかも終わりだって、逃げ出そうとしたはずだったのに、次の瞬間には息ができなくなるくらい抱き締められていた。
それが、限界だった。
捕まえて連れ込んでベッドに押し付けて服をはいで、苦しそうな顔をしているのに気付いても、何かをいいたげに開いた唇を奪って、意識を飛ばすまで好き勝手に責め苛んだ。
収まるべきところに収まるものが収まっている安心感に、この一瞬だけでいいから浸っていたい。
目覚めたら殴られても罵られても、裁定の場に突き出されてもいい。そんなこととっくに覚悟してる。
不安定だと気付いて、この人のことだから慰めてくれようとしたんだろうに、かわいそうだね。
俺がこんなクズだってことには、気付けなかったの?
「うー…」
口の中で何事かを呟いて、張り付く腕を枕か何かと勘違いしているのか、ぎゅうぎゅうと抱き込んでまたすーすーと寝息を立て始めている。
「…ごめんね」
ああでも、きっとこんな幸せな夜は二度と来ない。離れがたい体を、すがり付いている人のせいにして抱きこんだ。
幸せの匂いを胸いっぱいに吸い込みながら。


目が覚めて、一番にしたことは謝罪でも記憶操作でもなかった。
「カカシさん。アンタ自分が何したかわかってますよね?」
「…はい」
へっぴり腰で、それでも正座してるのって凄いと思う。このベッド、ふかふかで不安定なのに。
「ということは、アンタ今日から俺のってことでいいんですよね?」
「はい…え?」
迫力と、何を求められても受け入れるつもりだったからうっかり何も考えずに返事をして、それから眼前に迫る迫力たっぷりの顔に思わず固まってしまった。
「違うんですか?」
「ちがい、ません」
この人になら何をされたって構わない。
だからある意味それは合ってはいるんだけど。
「よっし!やっとだ!アンタ鈍い鈍いって人のこと言う割には遅すぎるんですよ!しかも俺が下なのか!」
「ええと、何が?」
「あー…もういいです。アンタ、俺のこと好きでしょう?」
「は、い」
「ならそんだけ分かってれば十分です。…動けないんで風呂と飯と、それから俺も休みなんで一緒に寝なさい」
「はい。え?ちょっ、でも!」
「うるせぇ文句あるのか?」
「…ありません」
その気迫と凄みのある笑顔と色香にやられて素直に従ったあと、風呂でちょっかい掛けて怒られて、食事を食べてもらってるときもあーんとか、何度も妄想したことをやらせてもらえるのが信じられなくて挙動不審になって、ベッドでも不安すぎてくっついてもそもそ落ち着かないでいたらまた怒られた。
「いいから寝ろ。アンタは余計なこと考えすぎなんですよ」
「はーい」
ぺしっとはたかれて、痛くはなかったんだけど、物凄い衝撃だった。だってねぇ。笑ってくれてるんだよ?俺の隣で。
なんかもう、いいかなって。考えすぎだってのは、この人が言うなら本当だと思うから。
「引越し…は、まあ追々考えるとして、着替えと、あと…まあいいや。起きたら手伝いなさい」
「うん」
くっついて幸せに浸りつつ、ちょこっとならいいかなーって胸とか腹筋とか触らせてもらってたら、むらむらするから止めなさいって叱られちゃった。
…ま、そんなこと言われたら止まれなかったんだけど。
「…いい加減にしなさい」
「ごめんね?」
謝ってはみたものの、やっぱり離れるのは怖いからいやだった。確かすぎるこの体温を手放したら、全部夢になっちゃいそうなんだもん。
でも無理させちゃったしってちょっと落ち込んでたら、物凄く苦しいくらい強く抱き締めてくれた。
「寝なさい」
「…うん」
素肌の感触が、規則正しい鼓動が、やわらかい微笑みも、全部が気持ちイイ。
意識を手放す瞬間、長かったなぁって、妙に感慨深げに呟くイルカ先生の声がかわいかったから、起きたらキスを強請ってみようなんて思ったりした。


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適当。
間に別のを挟んでみる。あと七夕つっこんだら続き書きたいと思います。

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