春の陽気の13(適当)



これの続き。 


追い詰められたぱっちりさんの決断は責められないけど…頼むからこれ以上厄介ごとを増やさないで欲しい。
この所ため息をつく回数が桁違いに増えた。
それを後押ししているのが…この状況だ。
「先輩!いい加減にしてくださいよ!」
「ご飯の時間になにばたばた騒いでるの?手伝いなさいよ」
「それを言うなら先輩こそ…ってそういうことじゃなくてですね!」
「はい。これ。もうすぐできるよー」
「…頼んじゃいないんですがね…。あー…まあ一応ありがとうございます」
完璧といっていいほど美しく皮を剥かれたにんじんにジャガイモ。それにめったに買わない…というか買えない高そうな肉。
凄まじい速さで丁寧に下ごしらえされたそれらはあっという間に鍋の中に消えていった。
…そうだよなぁ…上忍だもんな。しかも暗部だもんな。何でもできるよな?
だからって何で俺の家で晩飯作ろうとしてるんだこの男は。
「ああ!申し訳ありません!先輩ならすぐに…!」
今にも土下座しそうな勢いだ。というか実際本当ならするつもりだったんだろう。
この男に首根っこをつかまれていなければ。
ぱっちりさんは頼りになると思っていたのに、どうやらそうでもないというか…この男は本格的に猫をかぶるのを止めたようだ。
それだけなりふり構わなくなったということか…それにしては対応というか、人当たりは柔らかくなった気がする。
まずいきなり襲ってはこない。
まあアレだけ強力な術ならおいそれとちょっかいはかけ辛かろうというのはわかるんだが、それでも安心はできない。
言動の不穏さはもちろんのこと、なぜかは知らないが、あの日から…あの日からこの男は俺の家に居座るようになったのだ。
飯時になるとどこからともなく現れて、あっという間に飯の支度をして待っている。
…大抵はお目付けやくのぱっちりさんとセットで。
それから…。
「あ。これは…サラダですかね?」
しゃきしゃきの野菜の上に、見たことのない緑色の芋のようなものが乗っている。ついでにえびも。財力は流石に上忍だ。
食生活の向上をせめて喜んでおくべきだろうか。一段と騒がしさを増した私生活で、それ以外に改善したところなどないのだから。
「あ、多分サラダだとは思うんですが。僕もアボカド出せって言われて用意しただけで…。そもそも先輩!勝手に人の家に上がりこんでなにやってんですか!」
「煩いなぁ…えい!」
「わぁあぁあぁ…!?」
こうしてパッチリさんがあっさり排除されるのも日常になりつつある。
謎の術の発動により、いきなりぱっちりさんが消えたときは大騒ぎしたもんだが、大抵は半刻もしないうちに青筋立てながら戻ってくるから、最近は心配することすら諦めかけている。
今の俺はアレな男と一対一。
絶体絶命…とも言い切れないのだが、旗色は悪いのは確かだ。
最後の頼みの綱すら、この男ならあっさり解術しそうで恐ろしい。
「今日はカレーですか?」
「んー?カレーのがいーい?一応シチューにしてみたんだけど」
「はぁ。そうですか。いえ、そもそもここは俺のうちなので出て行って欲しいんですが」
カレーでもシチューでもどっちでもいい。とりあえず知っている食べ物であることには安堵を覚えた。
初日になんちゃらかんちゃらという異国の料理を食べさせられて、美味いんだがそれでなくても落ち着かない所へもってきて、訳の分からないものを食べるはめになったおかげで知恵熱まで出しかけたのだ。
…とりあえず、美味いからいいかと思いつつも、何とか普通の食べ物の方が好きだといえたのはがんばったといえるのかどうか。
とりあえずは食堂で普通に食べられるような料理ばかりになったことに、少しだけほっとしてはいる。
止めてほしいってのが一番なんだけどな…。
「それはだーめ。煮込まなきゃいけないから、ちょっと待ってて?任務で遅くなっちゃってごめんね」
まるで母親のようだ。いや、母はこんな風にめちゃくちゃな行動は取らなかったと思うのだが。
…いやちょっとまてよ?そういや母ちゃんも父ちゃんに押しかけ女房やった挙句にどうのこうのって三代目が言ってたような…?でもなぁ…まさかこんなに常識ないってことはないもんな。
父ちゃん、幸せそうだったし。
とりあえず自分は不幸ではないが、幸せでもないと思う。
「…身体ながしてきます」
「お風呂入ってるからごゆっくりどーぞ」
危機感は少しずつ薄れつつある。
油断してはいけないと本能が囁き続けているというのにだ。
何せ飯は美味いし勝手に干しているのか術でも使っているのかいつでも布団はふかふかだ。勝手に居間で寝てることがあるのは流石に恐ろしいが、とにかく今の所はただの便利な同居人にすぎない。
警戒はするが、あれがいても風呂に入ることに抵抗がなくなってきている。
これはもうどうしようもないということだろうか。三代目もなぜか最近ご機嫌でうまくやってるようじゃのなんていいだしたもんな。
「…あーあ。湯加減までいいなんてな」
愚痴めいた独り言は湯気に溶けて消え、ほのかに漂う美味そうな香りに今度こそため息をついた。
ぱっちりさんが戻るころまでには、シチューができているといいんだがなんて思いながら。


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例の続き。
ほんのちょこっと前進?
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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