幼少期の思い出(適当)

「食べてと言われたので黙って食べました」
そう告げたら先生にものすごーく哀れな目で見られた。
ちなみにイルカは母親に簀巻きにされて連れて行かれてしまったから、まだ今の俺の姿を見ていない。
イルカが慣れない手つきで一生懸命完成させた薬は、しっかり作用した。
イルカと一緒にいるためなら、変化の痛みも酷い酩酊感も気にならなかった。
あとは女体化した俺を気に入ってくれるかどうかってことだけだよね?
「かわいくなっちゃってまぁ…。元々かわいいからあんまり変わってないけどね…」
頭を撫でる手は、少しだけ大きく感じられる。
体勢感覚も多少狂ってるかもしれない。
それでも、これで一応条件は整ったはずだ。
「これで、うみのさんも認めてくれるかなぁ…」
心細げに呟いた俺に、先生はあいまいな笑顔を浮かべて頭を抱え、深い深い溜息をついた。
「うーん?うみのさんは…多分きっとまた倒れちゃうんじゃないかな?」
*****
好きだって言ったら好きだって返してくれたから、早速その日の内に二人一緒に結婚しますって言いにいっただけなのに、イルカのお父さんであるうみのさんは、ものすごい形相で驚いた後失神した。
未来のお義父さんの一大事だ。
当然、素早く医療班を呼んで、すぐにちゃんと意識を取り戻したんだけど、話はそれで終わらなかった。
「なんで!なんでダメなの父ちゃん…!」
イルカの悲痛な声は未だに耳に残っている。
「なんでもなにも!男の子だろう!二人とも!」
そうだけど、それがどうしたんだろう?
先生だって好きあっていればどんな障害も関係ないよ!っていつも笑って言ってくれてたし、それに…だってこんなに好きなのに!
「ダメですか…?」
悲しくて悲しくて、うみのさんの顔を見上げたら、胸を押さえて苦しそうにしだして、また大慌てで医療班を呼びそうになった。
すぐにその本人に止められたけど。
「いいか。二人とも。結婚は男の人と女の人じゃないとできないんだ。つまり、二人とも男の子だから…」
「けっこん、できないの…?」
絶望で一杯の顔をしたイルカがそのまま泣き出してしまったから、話はそこで終わった。
でも諦めきれるわけがない。
二人で泣いて、それからその日のうちに作戦を立てた。
「これがいいかな?」
父さんの書庫にあった術や薬剤の本を読み漁ってみつけたそれは、元々は拷問用の禁薬だったモノだ。
非人道的だなんて、忍の世界では今更すぎる理由で禁止にされたものの、材料がちょっと手に入りにくいだけで作り方自体は簡単なものだから、俺にだって作れる。
「でもいいの?カカシちゃん女の子になっちゃうんだよ?」
「だって、うみのさんが許してくれないと一緒にいられなくなっちゃう」
俺には父さんも母さんももういないから、それを悲しんでくれる人もいない。
イルカ以外は。
「でも…!」
「だって、もういやだ。大好きなのに側からいなくなっちゃうかもしれないなんて」
母さんも、父さんだってあっという間にいなくなってしまった。
また失う位なら、自分がどうなったっていいから、絶対に側にいてもらえる方がいい。
「…俺も、やだ。絶対ヤダ。カカシちゃんが俺以外の人と結婚するなんて、絶対ダメ!」
「俺も、いやだ。イルカが他の誰かと一緒になるくらいなら死んだ方がいい」
「俺が作る。だから、カカシちゃんは俺が責任とって俺のお嫁さんにする!」
「うん!」
二人で決めた計画が、絶対に成功すると信じた。
そうして、イルカがおいしくなさそうだからって、わざわざチョコレートでくるんでくれた薬は、無事俺の胃の中に納まったのだ。
俺の体をイルカの側にいられる形に変えるために。
*****
「お前たち、なにをやっとるんじゃ…」
引きずられるように連れて来られた火影様前で、呆れた声でそういわれても、全然気にならなかった。
「カカシちゃん!」
「イルカ!」
ちょっとだけ甲高くなった声でイルカを呼んだら、ぱぁっと顔を輝かせて喜んでくれた。
抱きついてきてくれたから、俺もぎゅっと抱きしめ返して、頷きあって、それから頭を抱える大人たちに向かって、もう一度お願いした。
「「結婚させてください!」」
これでダメって言われたら、二人で逃げようって決めていた。
すぐには無理でも、俺はもう少ししたら上忍にって言われてるし、イルカも体力がつく。
「そのためだけにこれだけのことをしでかすとは…!」
「大物になりますね。きっと」
「かわいいお嫁さんができたって喜べばいいのかしら…」
「サクモさんになんてお詫びすれば…!」
風当たりは微妙だけど、どうやらなんとかなりそうだ。
だって、男と女ならいいって、うみのさんは言った。
「結婚、させざるを得まいな」
「こんな状況では…」
「でも、ほら!かわいいですよ!カカシ君!お料理も忍術も上手だし、頭もいいし!お買い得…」
「そういう問題じゃない!…だが、俺のせいだ。二人とも、それでいいんだな?」
「うん!」
「もちろん!」
お互いにお互い以外ありえないって決めたことだ。
だから、どうか許しを。
「…わかった。二人の結婚を許す。いいかイルカ!絶対にカカシ君を幸せにするんだぞ!」
「うん!」
「やったぁ!…あ、れ…?」
折角許しを貰ったのに、急に視界がブレた。
頭がぐらぐらする。まるであの薬入りのお菓子を食べた時みたいに。
「カカシ!」
「く、う…っ!」
痛みには慣れている。そんなものは気にならなかった。
ただ、イルカと引き離されるかもしれない可能性の方が、ずっとずっと怖かった。
「カカシ君!しっかり!」
「カカシ!カカシ!」
先生の必死な叫び声と、イルカが俺の名前を叫ぶ声を最後に俺の意識は途切れた。
*****
「ん…あれ?」
「カカシ!よかった…!」
目覚めるなり、涙ぐむイルカの顔が視界一杯に広がった。
でも、その顔が。
「イルカ!ほっぺた腫れてる!なにがあったの!どこの誰!?」
俺のイルカに手を上げるなんて、許せない。
すぐにでも制裁に行こうとした俺の頭に、するどい拳骨が振り下ろされた。
「カカシ君。気付いてる?」
「ったー…!え、あ!ウソ!?もどっちゃった…!」
心もとなく感じていた股間にも、あるべきものがしっかり戻ってきている。
「ほんっとにもう!心配かけて!何かあったらどうするつもりだったの!」
「けっこん、できなくなっちゃった…」
怒鳴り声にもそれしか考えられなくてしょぼくれる俺に、先生は呆れ顔で何かをさしだしてきた。
「手紙?」
「直接あったら殴るだけじゃすまないかもしれないって、うみのさんが。読んでみなさい」
「…はい」
気迫に押されるように開いた手紙には、無茶をした俺とイルカに対するうみのさんの心配と怒りの言葉と、それから、それからすごく嬉しい言葉が書いてあった。
“結婚はゆるす”って、ちゃんとはっきりしっかり綺麗な字で。
「結婚できるよ!カカシちゃん!」
「うん!…うん…!」
嬉しくて二人してきゃあきゃあ言ってたら、先生がすごーく低い声でこう言った。
「でも、お仕置きだからね?二人とも」
綺麗すぎる笑顔は、逆にとても恐ろしく見えたけど、今はそんなこともどうでも良く思えた。
「カカシちゃんのためなら平気だもん!」
「俺も!イルカのためなら!」
そう返した俺たちに、先生はそれはもう疲れ切った溜息をついたのだった。
*****
…ちなみに、しっかり育ってかわいいより綺麗って言われる位には育って、同じくしっかりかっこよく男らしく育ったイルカを全部綺麗に頂いた今となっては、あの時女体化したまんまじゃなくてよかったかなーなんて思っている。
俺の嫁さんはケダモノに育っちゃったなぁなんて、腰さすりながら溜息ついてるイルカに言われてるけどね?


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適当。
びみょう?
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