決行はクリスマス(適当)


「うへへ!うまあ!うー…なんだ?カカシさんきれーですねぇ!酒が美味い!」
 一見その手の店には見えないところを押さえて一服盛って、次の間には布団も用意させてある。
 鉄の肝臓を持つと自認するだけあって、いくら飲ませてもつぶれるどころか、酔うそぶりさえみせたことのない人が、こうもあっさり酔っ払うとは…自分で作っといてなんだけど、よく効くよね。この薬、っていうか毒か。
 副作用はほぼない。抜けちゃえばそこで終わりだし、耐性も付けにくい。酒とか他の毒に弱くなるって以外は大した効果がないけど、使い時を見極めればそれなりに便利だ。
 今日みたいに、うっかり飲みすぎたって状況を作り出すためにはね。
「おいしい?もっと飲む?」
「うー?いえ、れもらんか、重い?なんだこれ、よっぱらっちまってるんですかね?なんでだ?へへ!まあたのしいからいいか!」
 ろれつの回らない口に、俺の差し出した徳利の中身が消えていく。もはや杯を使うということすら思いつけないほど酒が回っているらしい。
 上気した顔に蕩けた瞳、半開きの口からは喉が渇くのかしきりに舌が覗いて、唇を舐める姿がどうしようもなく卑猥だ。
 うん。悩む必要なんてなかったかも。搦め手だろうがなんだろうが、手に入れたいと思った人は、順調に俺の手の中に落ちつつある。
 正々堂々と告白ってのも考えて、実行して、あっさり玉砕した。
それも俺の気持ちに少しも気づいてもらえないまま、ありがとうございますだの、一生の友達だと思っていいですかだの、感動に打ち震える瞳で告げられて、こっちがそうじゃないと言おうものなら、俺が勘違いしちまったんですとか悪いのは俺ですとかいいだして、泣きそうになるんだもの。
 あいにくと、そんなお綺麗な感情なんかじゃ片付かないんだ。あんたとやりたいんですよ。俺は。
 だから、しょうがないよね?
 忍の世の常で、盛った盛られたは致命的なモノじゃない限り、ある程度は防衛しきれなかった方が悪いって風潮がある。
 つまり、この場合この人が俺の盛った薬に気づけなかった時点で、ある程度の行為までは許される。ま、許されるって言うよりは、油断した方が悪いって考えが圧倒的多数ってだけなんけどね?
 上忍昇格試験なんて、特定の上忍一人をターゲットに指定されて、日々虎視眈々と隙を狙って、勝利するまで受験資格すら得られないなんてのもあるらしいし。俺は戦時中だったおかげでその辺の試験受けてないから詳しくは知らないが。
 どっちにしろ私生活全部が鍛錬ってのもいただけないけどねぇ?ま、俺なんかその典型だからなにもいえないけど。
「…ね、イルカ先生。それじゃおうち帰れないでしょう?」
「うえ?かえ、る?もう?なんで?」
 理性をすっとばした成果が、非常に嬉しい形で出ている。普段は大人として当然の振る舞いというか、そろそろお開きにって妙に事務的にいうのはこの人のほうだったから、こうやって半泣きで腕を絡ませてくれるのなんて最高だ。
「ん。だからね。お布団頼んでおきましたから」
「おふとん…?ええ?飯は?」
 言いたいことはなんとなくわかるけど、もはや言葉さえもまともにつむげない状態らしい。首を傾げてるのがかわいいが、この分じゃ早晩落ちるだろう。うっすらとでも意識があるうちに言質を取っておきたいから、急がないと。
「朝飯も食えますよ。一緒に食べましょうね?」
「おお…!飯屋で布団…!あさめし…!」
どうやら感動しているらしい。特に食事への反応が著しい。食いしん坊だもんねぇ。それにこの人の行きつけの飯屋で寝床なんて普通用意してくれない。夢だとでも思っているのかもしれない。
「おなかいっぱい?」
「うー?ねむい…なんだ…?」
 返事がそろそろ怪しくなってきた。頃合だろう。
 抱き上げて運んでも抵抗せずに、むしろきゃらきゃらと笑ってくれたままだった。何をされるかなんて、想像もしていないに違いない。それを証拠に服に手をかけようが勢い良くひっぺがそうが、抵抗らしき抵抗もしていない。
「ぬぐ?ああ、ねま、き…カカシさんの…」
「ん。ま、後でね?」
 赤くぽってりした唇がおいしそうで、もう獲物は寝床に連れ込んだことだしと、夢にまで見た唇を掠めとってみた。酒臭いが何かをしゃべろうとしたのか良く動く舌のおかげで、誘われているとしか思えない。
 当の本人は不思議そうにこっちをみているだけで、何をされているかはどうやらわかっていないようだけど、ここまできて逃がすわけにもいかないのよね。
「んん?ふ…っ!う?ええ?」
「イルカ先生。きもちいい?」
「きもち…イイ…けど、その…?」
 なんか変だなーって顔のまま腕組みしてるのをいいことに、さっさと下を脱がせていく。戸惑ったような表情でもぞもぞ動いてはいるようだが、抵抗にはなっていない。むしろ腰を上げて手伝ってくれた。何を手伝ってしまったか気づいたら、後で憤死しちゃうかもねぇ。
「ねえ。しよう?」
「ええと?あさめしですか?」
「んーん。イルカ先生が気持ちよくなること」
「きもちよく?ぜひ!最近俺、肩こりひどくって!」
 あーあ二つ返事。ま、こっちにとってはありがたい。
 哀れな獲物は自分からケダモノの腕に飛び込んできたんだから。
 唇をうなじにうずめると、それだけで小さな声を上げてすがり付いてきた。まるで行為を促しているかのようなそれに、肌を暴く手も調子付く。
「好きですよ。だから、ちょうだい?」
「…ッんん?あっあっ!え?ああ、どうぞ!」
 …絶対なんのことだかわかっちゃいないのに、素直に差し出してしまうところがこの人らしい。これで明日どんなに泣き喚いても怒っても、言質がとれた。
「ありがと」
 にこっと笑うと釣られたように嬉しそうに笑ってくれた人にたっぷりと愛撫を加えて喘がせてやった。寝ちゃう隙なんて与えないように。
 突っ込んだときは流石に痛いと泣いていた気もするけど、沸騰した頭じゃそれすらも興奮して、結果的に中も外も互いの吐き出したものでどろどろになるまで止まれなかった。

 これで、逃がさないで済む。
 そうほくそ笑んだのは俺のはずだったのに。
「…責任を、取らせていただきます」
「…何の?」
「酔っていたとはいえカカシさんに無体な真似を…!」
「ええと?や、仕掛けたのは俺の方ですし?イルカ先生かわいかったよ?」
「うおおおお!いえ!一生いわねぇつもりだったのに!俺が!多分言っちまったんですよね!その!お気になさらず!」
 そう叫ぶなり転がっていた荷物を素っ裸のままあさり出し、財布を引っ張り出すなり宿代だ飯代だと騒ぎ出す。
 …作戦失敗なの?もしかして。
「じゃ、俺も責任とりますよ。イルカ先生傷モノにしちゃったわけですし。末永く俺のモノってことで」
「そ、それじゃお詫びにならねぇ…!」
「お詫びとかいりませんし?ほら、責任とってくれるなら、俺のお願い聞いてくれてもいいでしょ?」
 余裕なフリもそろそろ限界だ。これ以上喚くようならうちに連れ帰って諾というまでヤリつぶしちゃおうかな。
 不穏な気配をにじませたせいか、それともさりげなく腰に回した手をどろどろになった箇所にしのばせようとしたせいか、震える獲物はなんとか頷いてくれた。
「…一生!幸せにします!」
 喜んでいんだか悪いんだかわからない台詞を口にして。
 まあ結果的に恋人?っていうかそれすっとばして夫婦くらいの気持ちでいてくれるらしいからいいんだけど。

 最近不穏なのよねぇ。クリスマスってのが近いから。

「…ホントにそれでいけるんだろうな…?」
「お前の美人で優しくてうっかりヤっちまったって恋人は奥ゆかしくて恥ずかしがりやでえーっとあとなんだっけ、かっこいいんだっけ?なんだろ?いけるいける!だからもう業務中にのろけてんじゃねぇぞ?」
「指輪は買った」
「おお、いいじゃん?そのままいっちまえよ!そんで一発きめれば…」
「いいいいいっぱつ!?いやその!」
「…まあうん。がんばれよ?あとそのくしゃくしゃにした書類なんとかしとけよな?」
「あ!すまん!」
 とりあえず、休みは取った。俺のものだけど、この人のも手を回して。
 怪しげな計画と、この人からみた俺がどうなってるのか不安要素は盛りだくさんだ。
「でも、ま、受けて立ちますか」
 何しろ最初に罠にはめたのは俺なんだから。
 まだああでもないこうでもないと悩んで大騒ぎしている恋人のために、ひっそりと覚悟を決めてある。
 もちろん、こっちも色々用意して、ね?
 決戦はクリスマス。この人はどんな顔で啼いてくれるだろう?
 聞かれているとも知らずに際限なく惚気続ける恋人に、最高にして最強ののプレゼントを贈ると決めた。

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適当。
たいちょうふりょうにつきこうしんおちまくってます。がんばる。

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