はぴばれ!2(適当)


「おかえりなさい」
 コタツにちんまりと収まる上忍。掃き溜めに鶴だなぁ。見るたびにシミジミとそう思う。
「お茶飲んでますか?ちゃんと水分摂って下さいね?」
 置きっぱなしのせんべいとみかんをみると、手をつけていないようだ。激務のくせに細っこくて心配になる。散々心配されつつおまけもされつつ買い込んだ食糧もさっさと冷蔵庫に仕舞いこみつつ茶も淹れる。みっちりと冷蔵庫を満たす食材に少しばかりの満足感を覚えつつ、これからの段取りを考えた。これだけあればもしも本当にぶっ倒れても二、三日は大丈夫なはずだ。
 書類の処理を滞らせた綱手様が、処理要員欲しさに直接治療にやってくるなんて暴挙にでなければだけどな。
 淹れたての茶を適当にうちにある一番デカイ湯飲みに入れて、上忍の前に差し出す。しょっぱいものなら食べられるこの人のために、せんべいもつけておいた。普段なら背中を丸めて嬉しそうにもそもそ食ってくれるはずなんだが、今日は違った。
「いえ。今日はこれがあるので」
懐から大事そうに取り出されたのは、簡素ながらもラッピングが施された見覚えのあるチョコ…てっきり毎年恒例のサクラのかと思いきや、これはさっき俺が渡したヤツじゃないか。
「ああ!それさっきの。どうして受け取っちまったんですか?」
 てっきりいつものしんどそうな顔で断ってくると思ったのに予想外すぎた。嫌いを通り越してむしろ見たくないほどになっているはずなのに。まあ俺が最終的に食ったっていいんだけどな。無理なんかしなくたっていいじゃないか。
「イルカ先生がくれたんじゃない?」
「そりゃまあそうなんですが。それはこっちも…わあ!あんた待ちなさい!早まるな!」
 心配をよそにしれっと応える辺り、気を使ってくれたというより気まぐれだろうか。
 全部言い終わる前に徐に包み紙をはがして口に放り込むから、こっちの方が慌てた。
「イルカ先生から貰ったチョコ。おいしい」
何が楽しいのか、それともふっきったのか、にこにこしながら租借している。途端漂うのは薄甘い香り。一応ビターというやつにしてはおいたが、恐ろしい思い出に彩られたチョコの記憶しかないこの人にとっちゃ何の救いにもならないだろうに。
だが子供みたいに素直に笑うから、思わずこっちまで釣られて笑っていた。へらへらしてても何にもならないとは思う。思うんだが幸せそうなイキモノをみていると、こっちまでついついな。
しかもその間に口にどんどんチョコを放り込むから、もしかして今日は暗示か幻術かなにかをかけてるんだろうかと思い始めていた。
嬉しそうに一際大きな欠片を口の放り込んだ上忍が、いきなり顔を近づけて来るまでは、だが。
 近い。近くで見てもきれいだよなーとか、チョコが口についてんぞ。がっつかなくてもいいのに、やっぱり無理してんのかなとか、どうでもいいことを考えていたばっかりに、対応が遅れた。
「んっ!っ?」
「俺からもチョコ」
「え?」
確かにチョコの味がする。甘さ控えめってやつだなこれは。思わず唇を押さえて後ずさったが、コタツに入ってるおかげで動きも鈍い。
なんでだ。今、この人、俺に。
「チョコをもらったのでお返しはホワイトデーにもしますけど、まずはお付き合いかなって」
「え?え?何の話ですか!」
「バレンタインにチョコ貰ったからにはお付き合いでしょ?」
「…ええと?まあそれは普通に渡したならそうでしょうが、それは受付で誰が来ても渡すものなんですよ?大体今アンタなんで俺に!キキキキキス…!」
「えー?でもイルカ先生他の人に渡しちゃったの?」
「ああ、そういえば、カカシさん帰してすぐ同僚が流行り病で倒れて、俺は感染の有無がわかるまで待機ってことになっちまいました。綱手様がえらく心配してましたよ?そ、そうだ!カカシさんも罹ったらマズイですよね!?」
「そ?じゃ、これ貰ったのって、俺だけ?」
「ああそうか。そういえばそうなりますね。でもその前に病院か、それともカカシさんも待機にした方がいいのか綱手様にきかないと!シズネさんでもわかりますかね?」
 病気だ。きっと病気に違いない。そうじゃなきゃ普通男にキスしたいと思うだろうか。百戦錬磨の女好きの噂は伊達じゃなくて、しょっちゅうどこかのくノ一に狙われてるってのにな。まあ本人はチョコのせいもあってかどちらかというと押しの強いのは苦手そうだったけど。だからって男に走る理由にはならないだろう。
「ん。ホワイトデーまで待った方がいいの?」
「…ホワイトデーってたしか一月くらい先ですよね?その前に医療班にみてもらわないと!」
 様子がおかしいのは今更だがもしかしてこの人も最近の流行病に感染してるんじゃないだろうか。妙に熱っぽいようにみえるし、目なんか潤んで血走っている。
 ほっといたらまずいだろうよ。この人、苦しくても我慢することしかしないのに。
「医療班、か。んー?大丈夫でしょ?手持ちの薬もあるし、無理をさせない自信はないけど、痛くはしないつもりですよ?」
「…カカシさん。お茶飲んでください。かゆ!うどん!ええと、あとねぎがあった!なべにしようと思ってたんですけど、アンタさっさと寝なきゃ駄目です!ほら!立てますか?」
 支離滅裂な言動に不安を覚え、だからこそ大慌てでこの我慢強すぎて限界を超えてしまったらしい上忍を布団に突っ込んで寝かしつける予定だったんだが。
「そうね。折角お休みもらえたみたいだし、ちょうどいいかも」
「へ?ああこら!なにすんですか!」
 駄目だこの人、いきなり人を担ぎ上げたかと思うと、恐ろしい速さで布団に転がされた。どうやら俺ごと寝るつもりらしいが、心細くても枕元に水分と氷枕が済んでからじゃないとまずいだろうに。
「えっち?」
「は?ほらいいからお布団はいんなさいって!水分とってちゃんと寝ないと!」
「ん。そうですね」
 口では同意しながら、絡みついた腕は離れてくれそうもない。
 心細いんだろうが、それを表現するのが下手すぎるんじゃないだろうか。
「…ああしょうがねぇな。一緒にちょっとだけ寝てから飯とか用意するんで食べられそうならちゃんと食べるんですよ?」
 そう言ったときの、酷く嬉しそうな顔は今でも脳裏に焼きついている。口の端を持ち上げて、それはもう幸せですって顔だった。
 そこからなんで人の服をひっぱぐような事態になったのかは、今に至るまで理解できないままなんだけどな。

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適当。
ばれんたいん2。

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