薄紅色(適当)


「あ、桜」
ふわりと舞い落ちる薄紅の花弁に、そういえば今が春だったのだと思い出した。
忙しさにかまけて毎日通るその道に、少しずつ咲いていったはずの桜にすら気づけていなかったようだ。
「怒るのも当たり前かな…」
恋人が半泣きになって散々文句を言いながら任務に経ってからもう大分経つのだろう。
普段から留守がちな人を思わない日はなかったが、いない時間を考えるのが怖くて、できるだけ仕事に集中するようにしていた。
空っぽの部屋に帰るだけなら、仕事でもしていたほうが楽だったから。
毎度毎度帰ってくるなり人を押し倒すくせに、「なんでそんなにやせてるの!」だの「もっとちゃんとしなさいよ!」なんて文句を言ってくれる男は、そろそろ帰ってくるだろうか。
「花見プレイとかなんとか言ってたもんなぁ…」
大体にして懲りるということを知らない男だ。
何度怒鳴りつけたか記憶すら怪しいが、毎度毎度性懲りもなく色々としでかしてくれるから、今度も…きっと必死で帰ってくるだろう。
そんなに好きなら、桜の褥で鳴かせてあげる。
捨て台詞だか犯行予告だかわからない一言を残して、飛び出して行ったから。
確かに桜は好きだ。圧倒されるほどの存在感を放つくせに、一瞬で散ってしまう儚さと潔さは、俺を惹きつける。
だが桜もそんなことのために咲いたわけじゃあるまいに、男からしたらこの時期に絶対にやるべきことに入っているらしい。
毎年毎年律儀にもそれを果たしてきたその執着にはあきれるが、ふっと俺の前の相手はどうだったんだろうなどと考えることもある。
相当浮名を流していたのは知っている。
もともとまったくと言っていいほど噂に興味がないせいで、その存在すら知らなかったが、上忍師になると聞いてから集めた情報には、それはもうすさまじい数の艶聞があふれていた。
やっかみ半分に大げさに騒いでいるのをのぞいても、相当数の相手がいたはずだ。
今だって任務先に相手がいないとも限らない。
互いに貞節を望むほどはっきりした関係でもないのだが。
「早く帰って来い」
不安になるばかりの俺をよそに、桜は美しい。
自分勝手な男がふいに現れて俺の全てをさらって行ったあの日も、こんな風に世界を薄紅に染めあげる程に咲き誇っていた。
いっそ潔いほどに咲き誇り散っていく欠片が降り注ぐ。
このままうずもれてしまいそうだ。
「だめ」
腕を、引かれた。
「カカシさん…?」
ああ、帰ってきてくれたのか。
「桜、綺麗だけど。…渡さないよ」
そういえば、あの日もそんなことを言っていただろうか。
「おかえりなさい」
ぼんやりと桜に酔った頭のままで微笑むと、こらえ切れないとばかりに男が俺を抱きしめた。
「危なっかしいんだからもう…!ほら、俺を見て」
「カカシさん…?」
どうしてこんなにも必死な顔をしているのか。
「桜好きだよねぇ。…でも駄目。あんあん喘いでくれるのはいいけど、恋人をこんな木にくれてやるほど俺は寛容じゃないの」
恋人、今この男は恋人といったか。
「え…?」
「ああそんな目ぇして。…どうせ桜に酔ってるなら、俺にも酔って、もっとおぼれてよ…?」
ふわりと俺の体を受け止めた薄紅の海に俺をうずめて、男が笑う。
こうして見上げると、桜にうずもれているように見えて。
「どうしたの?積極的…」
とっさに抱き寄せた体が、興奮し切っているのがわかる。
…どうやら俺も桜にこの人をくれてやるほど、寛容ではないらしい。
「カカシさん」
「ん。…全部、頂戴?」
降り注ぐ桜すら圧倒するほどの激しさで全てを暴く男に身を任せた。
春の海におぼれるのも悪くないと思いながら。


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適当。
さくらさくら。
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