欲しけりゃ奪え(適当)



腹の上に上忍が乗っている。
ここは俺の家で、もっというなら寝室でベッドの上で、何故か上忍は俺のパジャマに手をかけて脱がそうとしているようにみえる。
これは…任務じゃねぇよな?流石に。
「なにしてんですか。カカシさん」
気軽にとまではいかないまでも、 一緒に飯にいくことくらいはある。たしかにちょっと変わった人だが、ここまで素っ頓狂なまねをするのは初めてじゃないだろうか。
「んー?や、着たままヤルのも楽しそうですが、やっぱり初めてだし素肌で触れ合うのもいいと思いませんか?」
本気で言っているのが分かるだけに一瞬固まったが、一度取れてから付け替えたせいで外しにくくなったボタンに苦戦しているのを見て我に返った。
こりゃだめだ。ぶん殴ってでも止めよう。
「…話は後で聞きますね?」
一応笑顔はキープした。術とかだったら正気に戻ったとき恐がられたりしてもいやだし。なんか子どもっぽいんだよなぁ。この人。泣かれたら動揺しちまいそうだもんな。
寝る前に手元にワイヤーを仕込むのは戦場で身につけた癖だ。
これがあれば奇襲されても寝込みを襲うなんていう物好きからも身を守れる。普段から何かあったら使えるようにしておくってのがミソで、これのお陰で子どもたちを怪我から守れたことだってある。
こんな用途で使ったのは初めてだけどな。
「え?わっとと!え…?」
「っし!あー一応警告しますが暴れると傷つくだけですから。とりあえずじっとしてなさい」
形勢逆転。きっちり仕込みのワイヤーでぐるぐるに縛り上げた上忍は、物の見事に床に転がった。
…それでも物音一つ立てなかったのが少しばかり腹立たしい。こんな所まで上忍か畜生。
「えーっと。これ解いてくれますか?」
「…アンタの目的を言え。それ次第で解放するのもやぶさかじゃないです」
人の貴重な睡眠邪魔した理由くらいとっとと吐きやがれ…とまでは流石に言えんが、こんなわけの分からんことをしでかしといて、無条件で解放なんざできるもんか。
思いのほか捕縛が上手く行った達成感と、妙に落ち着いている上忍への警戒から、多分笑顔は大分引きつっていたと思う。
それを更に引きつらせるようなことを言うのがこの男なんだが。
「だって欲しいものは自分で勝ち取るものでしょ?」
「へ?」
まあそうだな。大方間違っちゃいない。…他人に迷惑を掛けない限りはっていう、大事な部分がぬけてるが。
「誕生日プレゼントだったのに…今年は失敗かなぁ」
酷く寂しそうにそう零すから、思わず怒鳴りつけていた。
「ちょっと待て!誕生日おめでとうございます!じゃなくて!?アンタ何言いました今!?なんで誕生日で人んち入り込んで服ぬがしてんですか…!?」
「え?駄目なの?」
…その瞳があまりにも純粋で驚きと疑問でいっぱいだったから…。
ついついその場で問い詰めだしてしまっていた。
「言え。なにがどうしてそういう結論に至ったのか説明しろ!」
イルカ先生のチャクラを使わない雷遁と称される大声にも、上忍はへらへらと笑うばかりで。
「なんかねーほら、小さい頃から俺って何でも出来たんですよ。割と。だから欲もそんなになくてね」
「はぁ」
嫌味か。嫌味なんだな。そうに違いない。…覆面の下も器量よしだわ性格は大分アレだが腕は最高だもんな。ちょっといいなと思った女性は、大概このイキモノに惚れて一度だけでいいとか言い出すんだよな。畜生。聞きたくなくなってきたかも…。
「んで、それを心配したわけです。俺の先生は。だから誕生日には取って置きのプレゼントを用意してくれるようになったんですが…」
「へー」
先生って四代目だよな?四代目の取って置きって凄そうだ。
情操教育には失敗してるみたいだけどな。
「で、そのときに先生が、誕生日プレゼントは奪い取るものだって言ってましたよ?実際俺も先生から必ず奪い取ってましたし」
「え?」
途中からちょっといい話がちょっと所じゃなく変な話になったぞ?どういうことだ?
奪い取ってましたってニコニコしながら言われても…!?
「そこは自慢する所じゃないです…!あと根本からして色々たっぷり間違ってますよ!他に今まで!ナニしでかしたんですか!今すぐ謝りに行かないと…!」
ああでももう夜中だ…。12時きっかりを狙ってきたみたいだもんな。この人。
…他にも欲しいと思ったらこうやって夜這いを仕掛けてたんだとしたら、大変なことだ。
一人で慌てて青くなる俺に、まだわかっていないらしい上忍が不思議そうに小首を傾げて見せた。
「えー?だって、先生がいなくなってからはずっと欲しいものなんかなかったですし」
「そ、そうですか…!そりゃよかった…!」
被害者は俺だけのようだ。とりあえずありがたくはないがホッとした。女性にどうこうしてたら…しかも泣き寝入りでもさせていたらぶん殴ってでも謝らせて責任ってもんを…!
ん?でもまてよ?何で俺だけ?俺だってなんにもしてないぞ?この人に。誕生日だなんて知らないから当然、プレゼントなんて用意もしてなければ、そうと勘違いされる行動を取った覚えもない。第一なんで脱がせ…?
「だってね。あれから欲しいなぁって思ったのってイルカ先生だけですし」
ね、だからちょうだい?と輝かんばかりの笑顔で…。
ああ、だめだ。こんなイキモノどうして放っておける?
ほっといたら絶対どっかでなんかやらかすに決まってるんだ。それもとんでもないことを。
「簡単には上げられません!あんたのその曲がった常識をたたきなおしてからです!」
「えー?誕生日なのに?」
悲しげに言われて言葉につまった。
たしかに誕生日にねだっていいもんと悪いもんの違いをきちんと理解させなければならないが、折角の誕生日を説教漬けで終わらせるのもなんだしなぁ。
「た、誕生日なのはわかりましたから!…今日はお祝いして上げます」
飯は仕出しでもいいし、散らし寿司くらいならなんとかなる。ケーキは買ってくればいい。
どうにも何が悪いかわかってないみたいなのは不安だけどな…。
「お祝い、してくれるの?」
わー…綺麗な顔で笑いやがって…!期待に満ち満ちて、でも期待しすぎちゃ駄目みたいな…ああもう!
「しますとも!ご馳走にケーキに歌もつけます。だからいい子にしてなさい!」
「はぁい!」
うん。いい返事だ。…まあ返事だけかもしれんが。今はそれでもいい。これからじっくり覚えてもらえばいいんだから。先は随分と長そうだとしても。
そうして、うっかり自然にこの人の将来に至るまで面倒を見る覚悟を決めてしまった俺は、相手が凄腕の上忍で諦めが悪くて、三十を超えるまで刷り込まれたものがそう簡単に消えるわけがないことに気付かなかった。
見捨てられないと思った時点で、多分勝負はついてた。
自業自得とは言え、誕生日なのに縛り上げたままなのは流石にかわいそうに思ったから、ワイヤーをぷつりぷつりと切って、解放して。
…にんまりと笑った上忍が、これで懐に入り込めたとほくそ笑んでいることなど知るはずもなく。
それから、あれよあれよという間に外堀を埋められて、ついでに俺の心にも体にも入り込んで好き放題に振舞うようになるまであと少し。
上忍の思惑など知らず、俺はせっせと冷蔵庫の中身と買い物メモとを見比べながら、何を食わせてやろうかと頭を悩ませてたのだった。

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適当。
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