その枝に宿る春は

この季節になると任務帰りに目に付くその木は、今年も少しずつその枝にうす赤い春を宿し始めている。
一度花開けば一目で飲み込まれてしまいそうなほど圧倒的な存在感を放つその桜の木。
だが未だその枝にちりばめられた春の欠片は、ほころぶ気配を見せるだけでとどまっている。
急に寒くなったせいだろうか。その花が咲くのを待つ時間が、妙に長く感じる。
咲きそうで咲かない桜。
それがもどかしいのは自分と重ねているからだろうか?
あの人とは指先が触れる位がせいぜいの関係だ。
受付で誰とでもするような挨拶をして、依頼書を受け取るか報告書を渡すか…その時に、偶然を装ってその温かさのかけらを盗み取る。
我ながら馬鹿みたいだと思うのに、それをやめることすら出来ない。
こうまで捕らわれてしまったのに、その思いを打ち明けることなど想像もできなかった。
…手に入れたい。その身も心も。
その突きあけるような衝動だけは、馬鹿みたいに強くなっていくのに。
この関係を変えるのに必要なのは、きっと時間だけじゃない。
その手を、その体を、その心を。
…自分だけのものにするためには、手を伸ばさなければ。
きっと、一度でもそれを己に許せば、どんな罪を犯してでも絡め取るまで止まれないだろう。
だから、あと一歩。そう、この桜が咲いたら。
あの人の手を掴んで、二度と離さないために踏み出そうと決めた。
あの温かい笑顔を、強く真っ直ぐな心を手に入れるために。
*****
桜なんか見てねぇで俺を見ろ!
そう叫びたくなるような光景だった。
久しぶりの任務にふらりとその道を通ったのは偶然だった。
そこにいたその人を目にすることが出来たから、きっとソレは幸運な偶然のはずなのに。
…俺の頭を一杯にしたのは、もどかしさだった。
いつもそうだ。
どんなときでも前に立って戦い、その身を盾にして庇うくせに、自分のことは二の次で…。まるで自分ひとりで戦ってるみたいな顔をする。ここじゃないどこかを、きっと失った過去だけをその瞳に写しているみたいに見えた。
その強さとは裏腹なはかなさに苛立つのを止められない。
今だってそうだ。
桜の枝を、その蕾を見つめながら、その瞳が見つめているのはここじゃないどこか遠くで。
ふらふらして今にも消えそうな危なっかしい腕を捕まえて、閉じ込めてしまいたくなる。…あの花が咲いて、まだぼんやりしてるなら掠ってしまおう。
一緒に散られたらなんて不安には堪えられないから。


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適当!
お互い告った後、主導権争いとか色々の後にらぶらぶになればいいよ!←勝手な叫び。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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