努力と根性(適当)



「吐け。今度一欠片でも嘘ついてみろ。お前とはもう二度と会わない」
詰め寄って襟首掴んで木に押し付けても、悲しそうな顔をするばかりで抵抗もしない。
抵抗できないんじゃなくて、しないだけだと知ったのはついさっきのことだ。
敵がいるなんて情報はなくて、任務自体もほぼ完了していた。
普通ならそのままさくっと帰還して、とっくに里に帰りついていたはずだったのに。
…それなのに、突然の敵襲に遭い、それも相当な数の敵忍に囲まれての戦闘になった。
中忍仲間だと思っていたこいつと一緒に。
正直言って、旗色は悪かった。
何せこっちは中忍二人、相手は…少なく見積もっても二人以上が上忍の混成部隊だ。
任務中ならまだしも、態々密書を配達した帰りに襲ってくるなんとも間抜けな連中だが、なんだか知らないが恐ろしくやる気で、こっちが目的のものを持っていないと言ってやったのに聞く耳を持たなかった。
まあ当たり前っちゃ当たり前だな。忍が本当のことを言うとは限らないし、自分がもしまだ密書を持っていたとしても馬鹿正直にそんなことを言うわけがない。
それにしても本当に連中はしつこかった。
幾度か刃を交わしきれずに傷を受けた。仲間を庇ったせいもあるが、何せこっちは二人きり。敵の数が圧倒的に多すぎる。
全滅という言葉が頭をよぎった。…そうしたら、答えは決まっていた。
じわじわと追い詰められている状況を打破する方法は一つだけ、俺が敵を止めている間に、コイツが逃げればいい。
そうと決めたら話は早い。コイツは絶対に頷かないだろうから、適当に誤魔化すためにも少しずつ二人の間を空けた。
雑魚を片付けてからだのなんだのと言われたのは腹立たしいが、コイツは俺よりずっと足が速い。守りきれば任務達成だ。
派手に挑発してやったお陰で大部分は俺を狙い始め、コイツは俺の意図に気づいてか無茶をした。
敵の塊にいきなり突っ込んでいこうとしたのだ。だから、とっさに敵の刃からかばったつもりだった。
確かに一撃は防げた。だが打ち込まれたはずのクナイは敵ごと地に転がっていた。
そう、一瞬で、敵が消えたんだ。
赤い瞳をさらけ出したコイツ以外、そこには立っている者はいなかった。
それから…ただ黙々と手当てをされて、何かを言い出せる雰囲気でもなく、なにより俺が何を言っていいのかわからなかった。
ただ、コイツがただの中忍なんかじゃないことは分かる。少なくとも特別上忍。だがこの戦い方なら…まず間違いなく上忍だ。
味方すら欺く必要がある任務ならまだ分かるが、今回はそんな任務じゃなかったはずだ。
初めてあったコイツとは、気が合うと思っていただけに酷く傷つけられた気がした。
何で騙したんだと詰め寄りたくて、何か事情があるんだと信じたくて、もうぐちゃぐちゃだ。
もし階級が上でも、もうこの際かまうもんか。下手な嘘をつくようなら一発殴って二度と会わない。
その決意を込めた視線に負けたのか、酷く小さな声で言った。
「…正直に、いいます」
目にはまだ迷いがある。だがきっと嘘はつかない。そう信じたのは、今まで一緒にいたからだ。
階級を偽っていたのはほぼ確実だが、ふとしたときにみせる気遣いはホンモノだったと思う。
笑顔、とかも。
…まあ笑顔で人を殺せるのが俺たちの本来あるべき姿だが、コイツはどうもそうじゃなさそうだ。
なんかこう拙いというか不器用というか。…要するにちゃんとした根拠はない。
それでも、そう確信していた。
だってな?良く考えれば上忍ならいくらでも誤魔化せただろうに、俺を守るために嘘をやめたんだと思えば腹を立て続けるのが難しい。
腕はいいのにもしかして本当に中忍なのかもしれないとすら思う。
「…教えてくれ」
全部、その答えを。
「だ、だって!結婚するなら中忍だなって…!」
「へ?」
それはこの間酒盛りの勢いで好みの嫁さん候補について盛り上がった時の話…か?
「し、身長とか胸のサイズはこだわらないって言ってたから安心してたのに、火影様に中忍になりたいっていったら駄目だって言われちゃったんです…!」
「え、えーっと?」
「だから…だからどうしてもっておねだりして。だってここの所休みなんて年単位で取ってないし」
「そりゃだめだろ!なにやってんだ!」
「イルカ好みの中忍に、嘘でもいいからなってみたかったんだもん」
これが女性ならわかる。でもだな。コイツはどっからどうみても男。まごうかたなき男。
…ええい!それなのになんでこんなかわいいんだちくしょー!
「…ってことは、アンタやっぱり上忍…?」
「あ、暗部、です…」
打ちひしがれたように地に膝を着いて、ごめんなさいを繰り返す男に、なんていうかまあ、その。
ほだされた。
「あんぶ…」
暗部…つまりは暗殺戦術特殊部隊。それは里で一番の精鋭であることを示している。
俺の理想は上忍みたいに無茶な任務にでなくてすむ、優しくてお互いに大切にし合える中忍の嫁さんを貰うことだ。
理想はあくまで理想だ。死に急ぐような馬鹿は問題外だと思ってたけど。
「イルカ…俺のこと、きらいにならないで…好きになってなんていわないから」
泣きそうな顔で俺を見上げる男にこみ上げたのは、言いようのない怒りと、それから。
「うるせぇ!もうとっくに好きになっちまってるよ!」
「えええええ!?」
びっくりしてまんまるの目をした馬鹿に噛み付くようにキスしてやった。
まあ実際勢いがよすぎてちょっと出血したが、それはそれだ。
ぽわぽわした顔で唇を押さえてうっとりしているコイツとの恋は、多分前途多難だろう。何せ機密の塊だ。
でもなぁ。
「好きになっちまったんだからしょうがないよな」
そう呟くと泣きながら抱きついてきた俺の男を、とりあえずたっぷり撫でてやったのだった。

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適当。
ホントはライオンなのに、好きになってもらうために虎の振りしてるかわいこちゃんの画像がまわってきたのでカカイル変換してみた。
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