全部(適当)



誕生日だから。
そういわれて笑顔全開の恋人に起こされてみれば、部屋中にたくさんのプレゼントが置きまくられていた。
分かりやすく真っ赤なリボンが巻かれた箱たちは、包装紙こそ同じだがサイズはまちまちで、俺と同じくらいのものから、手のひらに乗るような小さなものまでさまざまだ。
使い込まれたたんすの上、居間のちゃぶだいの下、枕元に足元に、それから昨夜適当に放り投げたポーチからも小さな箱が覗いている。
見渡す限りプレゼントだらけだから、風呂場や台所あたりにも仕込んであるんじゃないだろうか。
一生懸命これを仕掛けたんだろう恋人のことを思うと、思わず胸がときめいちゃうんだけど、こんなにたくさんどうしちゃったの?
子どもたちにラーメン奢ったりしちゃうから、結構つましく節約してるのに、ここんとこいつにもまして節約してたのってもしかしてこれのためだったりするの?ま、あまりの食事の侘しさに耐えかねて俺がこっそり色々買ってきちゃったりもしたから、そのとき微妙な顔してお礼言われた理由ってこれでしょ。きっと。
嬉しいんだけど!
「ね。これ、何個あるんですか?」
「さあ。何個でしょう?」
折角のプレゼントだ。一個たりとも無駄にしたくなくて聞いて見れば、悪戯っぽく笑うばかりではぐらかされてしまった。
あーもうかーわいいんだけど!その笑顔!
今日が誕生日だなんてことすっかり忘れてたから、昨日日付が代わるギリギリになって任務から帰ってきて笑顔で迎えてくれた恋人に心も股間も盛り上がり、勢いのままに散々ヤって、そりゃもうめくるめく時間を過ごしたっていうのに、絶対まだ腰だっていたいはずなのにこんなかわいいことしちゃってくれるなんて!
「…受けて立ちましょう」
一つ残らず俺のモノだ。ま、一番欲しいモノは昨夜たっぷり堪能させてもらっちゃってるんだけど。
まずは分かりやすいモノたちから回収し、念のため押し入れから天袋、天井裏ににいたるまで全部探した。ベッドの上に見つけた順から並べていくと、あっという間にプレゼントの山が出来上がった。
見つけると嬉しいし、探すのも楽しい。だって探す俺を見てるイルカ先生が悪戯小僧の顔でニコニコ笑っているからだ。たまんないよねぇ?もー全部見つけたら覚悟しとけって言うか、覚悟なんてしてなくてもやっちゃうと思うけどそれはそれってことで。
「見つかりましたか?」
細部まで入念に捜索した結果、プレゼントの数は30を超えた。超えたって言うか、正確に言うと、きっちり俺の年齢の数だけプレゼントが見つかった。
それって、つまり。
「これ、俺が生まれてからの分ずーっと?」
「ばれちゃいましたか。どうせお祝いするならって思ったんですよね。その、一つでも気に入ってもらえたらいいんですが」
照れくさそうに、でも豪快に笑ってくれたその口に、今すぐねじ込みたいものがあると言ったら、多分顔を真っ赤に染めて怒るだろうなぁ。ま、言わないけど。
「イルカせんせ。好き。もう何度だって惚れ直しちゃう」
「あーその。なんだ。俺も。ええと、そ、その前に!お誕生日おめでとうございます!」
「イルカせんせ」
その唇を奪い、抱き締めようとして、胸元の何かに邪魔をされた。
両手を思いっきり伸ばして突きつけられているモノ。それは。
え?あれ?まだあったの?その箱。
「これが、今年の分です」
「あけても?」
「どうぞ!」
ほっぺた赤い。かじりつきたい。ちゅーしたい。
だがその前にこの箱だ。そういえばそうよね。俺、一歳年取ったんだからもう一個あるよね。嬉しい!数がたくさんってことなんかじゃなくて、たくさんお祝いしてくれようとしたイルカ先生が好きすぎて大声でのろけてまわりたい。
ベッドの僅かな隙間に腰掛け、そーっと包装をはがして、リボンも綺麗に丸めて横に置く。
出てきたのは、イチャパラでもおなじみのビロウド張りの小箱で。
「あ。指輪!…と、手紙」
なになに?アナタを一生分下さい?うわーすごい口説き文句!元々メロメロだけど、こんなこと言われたらまた止まれなくなりそう。
「うおおお!はずかしい!」
茹蛸みたいになっていきなりうずくまったイルカ先生をひょいっと持ち上げて、それから思いっきり抱き締めた。
寝床がプレゼントだらけで良かった。朝飯のいい匂いがするのに、それを無駄にしちゃうところだった。
「イルカせんせ。俺のも受け取ってください」
イルカ先生に手の中のモノを押し付ける。誕生日プレゼントに欲しいものは、実はずっとずっと前から決まっていて、でも任務続き手すっかりすっかり忘れてたんだけど。
同じことを考えていたらしいことに、運命染みたモノさえ感じている。
「ゆび、わ。え。一生分イルカ先生ください?」
厚かましいかなって思ったお願いごとは、どうやらイルカ先生に喜んでもらえたらしい。
ボロボロ泣き出して慌てたけど、当然だって男前に抱き締められてなんか、なんかもう!
キスだけで我慢した俺を、誰か褒めて欲しい。

ちなみに貰ったプレゼントは子ども向けっぽいものもあって、多分年齢とかにもあわせたんだろうけど、でもきちんと使えるものばかりで、全部大事に大事にしてるし、最後のプレゼントなんてそりゃもうたっぷり自慢したんだけど。
今更なに惚気てんだ。いつものことじゃないかとかなんとか…酷い。記念すべき俺たちの結婚記念日よ?もうお前らがピンチのとき恥ずかしい助け方してやるって決めちゃうくらい酷いと思う。
ま、でも。
イルカせんせ…イルカにその分甘えて慰めてもらえたからいいかなー?ってことにしておいた。



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適当。
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