触れる指先(適当)


…触れるとそこから男に侵食されてしまいそうな気がした。
告白を受ける前から、どこか浮世離れしたこの男を遠い存在だと感じていた。
報告書を受け取るとき、何故か必ずといっていいほど一瞬触れ合う手に違和感を感じるほどに。
男の纏う空気は独特で、つかみどころがない。
なんでもないような顔をして、近寄って初めてそれが緻密な網であったと気づくように、どこか悪質で良くできた罠のような…そんな気配がした。
なるほど、これなら女性は惹かれるのも頷ける。
覆面に覆われた容姿は完全にはわからないが、整っていることは伺い知れる。
それよりなにより、女性はこういった危険な生き物に自ら手を伸ばす奇妙な性癖があるから。
彼女たちの多くは自分ならばと挑戦しては、すげなくあしらわれてしまうのだが。
どこまでも自分とは相容れないであろう男。
それに、痛みを覚えるほどきつく抱きしめられて、熱っぽい声で名を呼ばれれば、取り乱す以外ないじゃないか。
「な、にをいいだすんですか」
「好きだって言った。…あんたが、欲しい」
苦しげにさえ聞こえる声に、背筋が震えた。
罠のように男を覆っていた見えない網にがんじがらめに捕らえられていく。
だめだ。だから手を伸ばさないでおこうって決めたはずだったのに。
「いやだ」
頬を伝う生ぬるい液体に、自分がどうやら泣いているのだと知った。
「泣いてるの?」
抱きすくめられたまま、頬に触れる手が涙を掬い取ってそして。
指先の雫を見せ付けるように、男は舐めとって見せた。
「あ…」
予想通り整った顔に、獣じみた光を宿して。
男が笑っている。
「ごめんね?でも…離してあげられない」
我知らず熱をはらみ始めた自分の体をもてあましながら、恐怖に震えた。
囚われてしまった。この男に。
抵抗を忘れた俺を男が連れ去るまで、ほんの数旬しかなかったと思う。
*****
「起きたの?」
やわらかい視線が俺を包む。
抱き寄せる腕は温かく、どこまでも優しい。
この男はケダモノだというのに。
「…そんなにみても何も出ませんよ?」
「だって。…ずっとみていたいの」
蕩けそうに甘い声が、情交の余韻を残した体に絡みつく。
囚われている。…それが酷く幸せだ。
「カカシさん。ほら、寝ますよ?」
男に捕まってから、男がそれより随分と前に俺に囚われていたのだと知った。
罠は、俺自身だったのかもしれないのだと。
「ん。…ねぇ、足りない」
不埒な手が暴き出すのは俺の欲望。
…だからこそ恐ろしかったのだ。
俺を求める手に触れて、俺からも手を伸ばして。
そうして溶け合えることに感謝した。
どこまでも甘い時間におぼれて、囚われる幸せを知った。


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適当ー!
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