事の顛末(適当)


「おいどうしたんだよ…最近顔色悪いよな?」
同僚はちょっと抜けてるけどまじめで、それからおっそろしい頑固ものだ。
上忍や生徒たちはもとより、それはもう幅広く愛されている。
コイツの笑顔を見に受付にくる依頼人もいるくらいなのに、最近急にため息が増えて、顔色もどんどん悪くなっていった。
それでそれに気づいた同僚の中で俺に白羽の矢が立ったわけだ。
じゃんけんにまけちまったってだけなんだがまあ。
無理やり酒場に連れ出して飲ませるだけでも、滅茶苦茶苦労した。酒は嫌いな方じゃなかったはずなんだが、やたらと行き渋って、ちょっとだけだからと相当強引に引っ張り出すはめになった。
自分のことになると押しが弱いヤツで助かった。
まあ今回も、多分それが原因でまた余計な苦労を背負い込んだに違いない。狐っこまで抱え込んで守ろうとしたくらいだ。どこでまたなににひっかかったのやら。
「…やっちまったんだ。ついに」
今にも地に沈み込みそうに暗い顔で呟かれても、なんのことだかわからなかった。
ついこの間飲んだとき…ああ、そういえば、コイツ見込みのない相手に惚れたとかいってたっけ。浮いた噂の一つもないヤツの告白に浮き足立った周りは好き勝手に騒ぎ立てて…そうだ。そんなに好きなら襲っちまえなんて言われてたな。そういえば。
こいつに限ってまさか…いやでも、ありうる、のか?
クソまじめで他に見込みがないと知れば、場合によっては…。
それならここまで憔悴している理由も分かる。何しろコイツの性格でなんで忍やってんのか不思議に思うほど、ワルイコトってのが苦手だ。任務って大義名分があれば命がけで果たそうとするからそれはそれで怖いんだけどな…。そのくせ、その中身に納得できないと上官にくってかかるし。
…コレは恐ろしい事実を知ってしまったかもしれない。
「えーっとだな。そのう…まさか強か…」
「だな。そういえば。…思う形ではないにしろ思いを遂げることはできた」
まっすぐに前を向き、清清しいというのがぴったりな表情をしてみせるところを見ると、一応納得づくではあるんだろう。
そこまで思いつめていたなんて…かわいそうに。相手の女にも他に相手がいるとかだからこそ、きっと悩んだんだろうが、結婚でもしてなきゃこいつの方が絶対いいヤツなのに。
それにコイツのことだから、絶対最後までなんてできないはずだ。相手の同意なしに襲ったのかもしれないが、そこでダメだと言われれば、きっと驚くほどすぐに引っ込んだだろう。
つまり相手も満更じゃなかったんだろうな。コイツいいやつだし。
とはいえ、罪は罪だ。…多分コイツなら思いを遂げたその日のうちにでも、火影様の前で自刃しかねない。
ってそういや、こいつなんで言ってないんだ?相手の女の体面のためかなんかならわかるんだが。
「あのな。はやまんじゃねーぞ?イルカ。相手の女がだまっててくれって言うなら、それもありだ。二度と会わなきゃいいんだし。…相手はなんていってるんだよ?」
事情がわかればこっちとしても手の内様がある。何とかしてやらないとと気ばかり焦った。
「…責任とって一生一緒にいろって言われて…。でもあんな卑劣なことをしようとした俺がいいのかって悩んで。いっそのこと全部話して俺だけ処分…」
「わー!?まてって!?相手もまんざらじゃないってことだろ!惚れてんなら幸せにしてやれよ…!色々その、事情が分かれば協力もするし!」
人妻なら分かれられるように説得でもなんでもできる。こいつと一緒にだんなの前で土下座してやったっていい。
コイツにしなれたら…木の葉中で色々面倒なことになるのが目に見えている。
「キス。したんだ。好きですって言う前に。気持ち悪いって言われるだろうなとか、色々考えてたんだけどな。でももう我慢できなくて。あんな顔して笑うから」
「そうか…わかるぞイルカ!それは多分お前に気があるってことだから…!」
「…なにすんのよって言われて、でも好きですって言って、そのまま引っさらわれて…気づいたらその、やられてた」
「やられてた?」
何をだ?禁術の類でも仕掛けられたんだろうか。木の葉のくノ一は技も性格の悪さもぴか一だからな…。実験台にでもされたんだろうか。
コイツの場合女を弄ぶより弄ばれそうだもんな…。
「その、だから。カカシさんに…」
真っ赤になってもじもじする姿なんて始めてみた。恥らう乙女かお前は。これがまたかわいく見えるのが不思議だ。
得だよなー…外見なんてどっちかっていうと強面なのに。
「あー…まあうん。ようするにやられたって…やられた!?ちょっと待て。今カカシっていったぞ!?…はたけカカシか!?」
やられたって…文字通りやられたのか…!?
「う、その。声がでかい…!まあ、でもその、あの人上忍にはちゃんと全員言っておいたから、俺にもちゃんと言っておいてねって…」
「何を」
「だから!その…アンタが俺のモノだってって」
「そ、そうか…」
テレながら嬉しそうにしてるってことは、強引に持ち込まれたにしろ相思相愛ってヤツに違いない。
…つーかそうか。男だからか。あんだけ苦しそうに悩んでたのは。絶対無理なんだよとかいうから…。まあ相手が男ってのは珍しいけど、ないわけじゃないのにな。
まあ俺なら頼まれたってあんな危険な生き物の相手なんざごめんだが。
「でも…!俺がいきなり路地裏なんかでキスしちまったせいなのに、あの人に俺なんかが…!」
「いいからいいから。相手も切っ掛けまってたんだよきっと。あとぜってーイヤなら返り討ちになってるだろ?」
「…なると思ってたんだ。あわよくば肌に触れるくらいはって思ってたけど、その前に死ぬだろうって。俺だって男なんてごめんだし、でも惚れちまったんだ…」
そんな決死の覚悟で告白したのか。それよりコイツにもその手の欲求があったことにも驚いた。グラビア程度で鼻血吹くくせに。
「ほらみろ!要するにな?お互い遠慮してたけどうまくいったってことだろ?ならいいじゃないか。な?」
「そうかな…でも、俺みたいな卑劣なヤツに…」
このままじゃ延々と悩みそうだ。どうしたもんかなーって思い始めたとき、気がついた。
少しだけ開いたふすまの隙間から、赤い光が覗いている。
…心配してんのかなんかしらんが、こえぇえだろうが!
「その。卑劣ってわけじゃないだろ?相手が俺らみたいな中忍の動きに気づかないわけないんだから。まあその、多少豪快な告白が受け取ってもらえたと思って忘れろ!心配してまってんじゃねぇのか?お前の相手」
まあ実際はまってないっつーかストーカーか。何だもう本当に勘弁してください。なんでこっちみて頷いてんですか…!アンタホントに上忍か…!
「そう、だな。ちゃんと今度こそ謝ってみる」
「へ?なんだよ。お前らしくないな?謝ってすっきりした方が…」
「い、家に帰るとな?気づいたらその、押し倒され…」
「わかった!みなまで言うな!そ、そうだな?手紙とか書いとけ。そんでもう帰れよ!絶対心配してるぞ?」
コイツが強引だったのもあるけど、虎視眈々と狙ってたのは確実にあっちだな。こりゃ。
巻き込まれたらば蚊を見ること受けあいだ。
「そうだな…!ありがとう!そんな簡単なことでよかったんだ…!うん!手紙かぁ…!どんなのがいいかな…!」
ふわふわした笑顔で手紙の紙だの色だので悩み始めた同僚を、つつがなく部屋の外へ誘導することには成功した。
部屋からでた同僚の気配が一瞬で消えたところをみると、あれに引っさらわれたんだろうなー…。
「らぶらぶじゃねーか」
心配して損した。…仲間内に報告したら阿鼻叫喚かもしれんが。
とりあえず上忍は粘着気質で、同僚は天然入りすぎてちょっと馬鹿だということを知り、俺は一人酒を傾けて少しだけ虚しい気分になったのだった。
とっととなるようになってくれと思いながら。

ちなみに、翌日俺んちのテーブルの上にやたら上等そうな菓子折りが置いてあったことを追記しておく。


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適当。
こわいはなし。
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