これの続き。 とりあえず食器を片付けた。 いない相手に怒鳴ったって消耗するだけだしな。 ついでに少しだけ家捜しというか…脱出の手立ても探したものの、外に出られないということが分かっただけだった。 何でこんなに結界だらけなんだこの家…。 だが希望はまだのこされている。 ケーキを買うだけならあの男の足なら一瞬だろう。だがそれだけじゃなく、好物を調べるとか何とか言ってたから、早晩俺の立場もバレるはずだ。…まあ隠してたわけじゃないが。 同胞からの護衛を命じられたってだけで、すでに怪しまれていてもおかしくない話だ。あの人はどうも頭のねじが緩いのか、天然というべきなのか…あの話を信じるなら父親に似たのか。 「ずれてるよなぁ」 あの分じゃ突然命じられてそのまま護りにきてくれたんだろうから、俺の細かい事情なんて知らないに違いない。 だがそんな物、少し調べればあっという間に知ることになるだろう。 俺は今、里の禁忌にある意味最も近い。忌み子と呼ばれる子どもの世話を焼いているだけなんだが、それだけで命を狙われる理由には十分であったらしい。 それこそある意味俺も職務に忠実であるだけだ。 そりゃ多少は…やんちゃがすぎる寂しがりやの子どもを構うことは多かったけど、普通に接しているだけだ。断じて贔屓などしていない。 それを傅いているだの隷属しているだの…言い掛かりもいい所だ。 騒いでいる連中は、化け狐に取り憑かれたと本気で信じているらしい。 あの子の中に封じられているモノは確かに存在する。かつて里の全てを焼き尽くしたあのまがまがしい化け物が。 だからといってあの子が化け狐そのものであるわけがない。 二親がいないのは忍の里では多くはないが珍しくはないとはいえ、あの子の場合は里を守るための贄にされたに等しい。 母も、父も、それからその身すら生まれてすぐ里のための犠牲になった。 母も父も知らずに器としてだけ生かされてきたあの子を、普通の子どもとして扱って何が悪いというんだ。 親のない子どもは一世代前よりずっと少ないから、気になる子どもではあった。 寂しそうにしていれば気になるし、悪戯をすれば叱る。出来が悪ければみっちり補習だってした。勿論他の子どもたちと一緒にだ。 もう一人似たような状況のもいたしなぁ。あっちは出来がよくて、どっちかというと内に溜め込むタイプで、それも全身で触るなと威嚇してくるような子だ。 …寂しがり屋なのはよく似てるんだけどなぁ。お互い寄ると触ると喧嘩ばっかりしてるけど。 どちらかというと、出来が良すぎることに素直にライバル心を煽られて一方的につっかかって行ってるんだろうが、そうしたくなるのもわかる。 触るなといいながら、酷く寂しそうでなにか溜め込んだ顔をしているから。 複雑な思考は理解できなくても、人の心の機微には敏感だから、気になるんだろう。 そんな寂しがり屋がじゃれてるのを止めたりはしない。やりすぎでもしなければ。 それを家柄をわきまえないだのなんだの…!まだあんなに子どもだってのにな。 だからまあ、多少無茶をするくらいのことは平気だ。 だがあのほわほわした上忍が、嫌がらせに血道を上げる連中と同類だったら、そうでなくても厄介ごとの塊だと知れば、多少は態度が変わるかもしれない。 面倒なものをわざわざ背負い込む馬鹿はそんなにいないだろう。忍として恥じることをしたつもりはないが、それを受け入れるかどうかは別の話だ。 あの人は任務第一主義みたいだからわからないけどな。忍としての職務に忠実であろうとするあまり、明後日な努力が目立つというか。 「聞き込みで怪我とかしてないといいんだけどな」 意識せずにこぼれた言葉が、あの滅茶苦茶な男を心配する内容だったことに、我ながら苦笑した。どうやらつくづく厄介事に巻き込まれる性格をしているらしい。 「でも、お祝いだけはしたいよなぁ。…誕生日だったらしいし」 嫌な顔をされるようなら遠慮しよう。…なんとなくそれはありえないような気がしているのは傲慢だろうか。 手持ちのものなどろくにない。服すら借りている始末だ。 何かしら買いに出たいくらいだが、結界らしきものに阻まれて扉も窓も開かない。 そうなると出来ることは限られている。歌でも歌って、それからなにか…貞操は論外だが、プレゼントを用意できたらいいんだが。 せめて家に帰ることができれば、流しの下に貰いモノの美味い酒がある。 「帰ってきてから、頼もう」 あの人こそ厄介事の塊ではあるんだが、どうも憎めない人だしな。折角だからきちんと祝いたいのだと説得してみよう。貞操も死守するが。 「早く帰ってきてくれよ…」 その台詞が随分情けなく聞こえたのは…気のせいだと思いこむことにした。 ********************************************************************************* 適当。 ねむいです。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |