戦え人生(適当)



「あのね。俺、がんばったよ?」
「イルカせんせー!勝ったー!」
そういって抱きついてきた子どもたちを褒めてやりつつ、痛む腰に気合を入れて耐えた。
ぐらつく体は、次々と飛びついてくる子どもたちのおかげで不審がられてはいないようだ。それを幸いだと思えるほどの余裕もないのだが。
「よーっし!皆よくがんばったな!お疲れさん!」
運動会の練習とはいえ、クラス対抗ともなればムキになって本気を出すのは毎年のことだ。競い合いながら強くなっていく子どもたちを見るのは楽しい。
…ただ今日だけはできればもうちょっとソフトに飛びついてもらえたら嬉しいというだけで。
「へへー!本番も絶対勝つ!」
「作戦会議しようぜ!」
「一本獲られちゃったから、次はさ…」
きゃわきゃわ団子になりながら大声で作戦会議とやらを開いていて微笑ましいが、あとで大声でやったらバレバレだぞってのをきちんと言っておかないとなぁ…。
とはいえ間近に迫った運動会に向けて、徐々に気合を増しているのに水を差さないように、言い方には気をつけなくては。
「はぁ…」
しばし動きを止めて痛みに耐えた。
よし。何とか歩けそうだ。
「腰なんか押えて色っぽいため息ついちゃって…」
「ひっ!」
するりと痛む腰をなぞり、未だに痛みと熱を残している場所をあからさまな意図を持って揉んでくる。
ここは当たり前だが校庭だ。誰が見てるかわからないってのになんてことしやがるんだ!
「あーその顔、ヤバイ。ね、いいでしょ?」
とろんとした瞳とは裏腹に、吐息の熱と押し付けられる股間は攻撃的ですらある。
もし、子どもたちが戻ってきたら。そう思うだけで背筋が凍りついた。
こんなモノを見せてしまうわけにはいかない。
「こんなとこでなにしやがる…!」
「ん。ここじゃなきゃいいのね?」
そんなことはビタ一文言っちゃいないってのに、急に踊りだしそうなほどご機嫌なチャクラを垂れ流し始めた男の手により、俺はあっさりと連れ出されてしまったのだった。
…職員室の窓から同僚たちが揃って合掌していたことについては、絶対にあとで文句を言ってやるんだと毒づきながら。
*****
「んあ、あ!」
ゆらゆらとゆれる足先に、自分のとらされている姿勢を思って涙がでそうだ。何で同じ男にこんなにあっさり組み敷かれてしまうのか。それも毎度毎度。
「どうしよ。止まれない」
ちっとも困ってなんかいない顔で、むしろ欲望を満たされた興奮と幸福感をあふれんばかりに周囲にばら撒きながら、容赦なく腰をたたきつけてくる。
昨日帰ってきたばかりのこの男に組み敷かれて、さんざっぱらやった後だってのに体が持たない。
「ぅ…も、さっさと…!」
イっちまえ。
解放を求めて強請っただけなのに、興奮した様子で男がにやりと笑った。
「たらないの?大丈夫。気絶しちゃうくらいするから」
「ちがっ!あ!やめ!うぁあ…!」
それは勘弁してくれといいたい。
情事で意識を飛ばすなんて恥ずかしい経験をしたい訳がない。ってか、昨日もアンタのせいで意識ふっ飛ばしただろうが!
違いがあるとすれば、昨日は完全におかしくなった目をしてたってことと、言葉もなく押し倒されてただひたすら無言でセックスだけやるはめになったってことくらいか。
怒声も懇願も行為の激しさに押しつぶされ、喘ぎ声や呻き声や、あとはベッドの軋む音だけが響いていた。そうしてついに意識を失ったあとも好き勝手に使われたらしく、朝っぱらから体はドロドロで、人からケダモノに戻ったらしい男が今まさに突っ込んできた衝撃で目が覚めたってんだから笑うしかない状況だ。
「イルカせんせ」
突っ込みながら全身をまさぐる余裕があるみたいだから、昨日よりはマシ、か?
昨夜はひどかった。任務帰還は多少長いといった程度のものでも、行き先と内容を告げないでいったってことは、相当凄惨な内容のものだったんだろう。
だからって俺で発散していいとはひとっかけらも思っちゃいないが。
好きだのなんだのいうが、結局この男が俺に求めているのは、溜まったモノの処理と里に帰ってきた実感が欲しいだけなんじゃないかと思う。そりゃ俺だって人肌が恋しくなることもあるが、同じ雄に癒しを求める神経がそもそもわからない。
強姦しておいて恋人だと公言し、退路を奪ったのはこの男なのに。
こうしてこれで逃げられないと大喜びで人を組み敷くようになった男のことなど、わかりたくもないのだが。
情事に溺れたくなくて他所事を考えて感覚を散らそうとしても、男はそれに気付いてしまったようだった。
「余裕、ありそうね?」
「っなもんあるわけないだろうが…!」
痛い。痛いのに気持ちがいい。こんな最低の目に合ってるってのに、突っ込まれたものの動きが止まった途端、耐えられないほどの疼きにあっという間に飲み込まれてしまう。
勝手に動いてしまいそうな腰は抑えられても、強請るように蠢いてしまうナカまではどうしようもできなかった。どうしようもなく湧き上がり燻る快感から逃れるためには、目の前にあるものにすがるしかなかった。
悔しい。なにがって自分の体がすっかりこの男に従順になったこともだが、とっさに俺が男に縋ってしまったことに、男がそれはもう嬉しそうな顔をするからだ。
加害者は一貫してこの男で、だがいつだって男は不安そうな顔をして、子どもみたいに縋ってくる。
こんな自分勝手なイキモノを受け入れてしまいたくなんてないのに。
その方法が恐ろしく可愛げがないことの他は、自分の好みにぴったりだなんて、気付きたくなかった。
「イルカせんせはさ、凄いよね」
締め付けられて感じたのか、ふぅっと甘いと息を吐いて男がそんなことを言った。
凄いって、凄いの中身が問題だ。情事の技術だの体の具合だのを褒められたって嬉しくもない。
「知るか…!うごけ…!」
もういい。とにかく解放されたい。このあぶられるような快感から、絡み付いて多い尽くして支配しようとしているこの男から。
…飲み込まれてしまいたいと望み始めた俺自身から。
「おねだりかわいい。うごけなくなるまでシたいよねぇ?」


言葉通り容赦なく続けられた行為に、二日続けて情事で失神する羽目になったんだが、腰の痛みはともかくとして、甲斐甲斐しく世話をしつつ、ついでに不埒な好意も仕掛けてくる男のおかげで、我が家にいるというのに少しもくつろげない。
どこまでも男の望みどおりに事態は進んでいる。
「イルカせんせ」
身動きすらままならない俺に、俺のモノだと言葉もなく呟いて男が笑う。
この世の幸福を全て集めたような顔に、せめて一発拳でも入れられたら、少しは溜飲が下がるだろうか。
妙なイキモノにひっかかってしまった。絶望よりもここまでしておいて、先に逝ったら承知しないなんて怒りが先立つから俺自身もどうしようもないと思う。
だから、せめてれくらいは要求してもいいはずだ。
「…アンタ、多少の迷子と怪我くらいなら我慢してやってもいいですけど、俺を置いて逝ったらゆるさねぇ」
「ゆるさないの?」
にやにやしやがって。何がそんなに楽しいんだか。
やたらと愛情とやらを強請り、確かめたがる男にとっては、この脅し文句は多少効いてくれるだろうか。
「ええ。バンバン浮気しまくりますから」
「…それはだめ」
顔色を変えた男が、もっと動揺すればいいのに。
ほくそ笑みながらすがり付いてきた男の耳を引っ張って、涙を舐めとっておいた。
怯えたように、だがそんなことしたら殺すなんてことをブツブツ言ってるのが、少しは無茶をやめるまでは、俺の心配ってもんを理解するまでは止めるつもりはない。
…匙加減を気をつけないと監禁とかされそうだけどな。
「怪我すんな。馬鹿。無茶もだ」
「…はい」
美丈夫がうるうると瞳を潤ませているのをみると、様になるのと笑えるのとで少し楽しくなってきた。
殊勝な態度はただのフリだとしても、まあこの顔を見られたんならいいかな。
そう思ってキスをくれてやったら、懲りない男にもう一発どころで泣く追加されたってのは…まあ俺の読みはまだまだ甘いってことだろう。


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適当。
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