締め切り間近の書類(それは、とても陳腐な)

俺の膝に懐き、男が寝返りを打ちながら呟く。
「つーまんないの。」
これ見よがしにちらちらとこちらを見ては、頭をごりごり擦り付けて、自分をアピールして…。
…だが、負けるわけには行かない。
「後もうちょっと、おとなしくしてて下さい。」
どうしても明日までに片付けなきゃいけない書類は山ほどあって、膝の上に乗っている男を構っていては終わらないのは明らかだ。
…だから、たとえその表情がどんなに寂しそうでも、どんなに可愛くても、俺は手を止めるわけには行かない。
大体、男は上忍だ。
この表情だって、きっとわざとだと分かっている。
…でも…!
「あーあ。待ってるのやだなー?…俺任務がんばってきたのになー?」
可愛い顔して可愛いおねだり…それも上目遣いにされてみろ!誰だって仕事なんか放り出したくなるに決まってる!
だって、相手は俺の唯一の人。
わがままで傍若無人で、独占欲が強くて…でもかわいい俺の恋人。
「…分かってて誘うな!」
思わず癇癪を起こしたら、ちょっと驚いた顔して、にやっとたちの悪い笑みを浮かべてきた。
こういう顔はダメだ。こんな顔をした時は、大抵碌なコトにならない。
「誘われてるって…分かってるんだ。なら、いいよね?」
赤い唇がつりあがり、獲物を狩る寸前の獣の表情を形作る。
どこか恍惚とした、そして興奮した視線。
…ああ、食われる。
「いい訳あるか…!んんー…っ!ぅ…!」 怒っては見せても、俺を欲しがるこの男に抗えるはずもなくて。
そうして、俺が拒めないことを知っている男は、当然のように俺の肌に手を滑らせ、我が物顔で蹂躙を開始しようとしている。
「ね。欲しい。」
こういう時ばっかり真剣な瞳をしてみせて、ちょっと苦しそうな顔と、押し付けられるもう後戻りできない熱に、俺だって我慢できなくなる。
欲しいのは、俺も一緒なのに!
自分ばっかり切羽詰った表情の男の髪を、とりあえずひっぱってやった。
「…後で、手伝え!」
「りょーかい!」
ああもう!どうしてこんなにかわいいんだ!ずるいじゃないか!
…嬉しそうにイイ返事で俺の覆いかぶさってくる男に応えながら、どうやってもこの男には敵わないなと思ったりした。
それになんとなく腹が立ってみたりしたけれど。
…押し寄せる快感と愛おしさに、すぐにそんなことなんかどうでもよくなった。
*****
「これと、これ、もう終わってるから。」
「へ…?」
起き抜けにすでに処理された書類の山を渡された。
あわててチェックしてみると、殆ど全部終わっている。
俺も、この男も、空が白むまで混ざり合っていたっていうのに!
なんか、やっぱり負けた気がする。
ちょっと凹んで、ソレが顔に出てたらしい。
「そんな顔、外でしないで?襲われちゃうじゃない。」
俺の唇をすかさず掠め取った男は…口を僅かにゆがませて、至極真面目にこういうコトを言う。
そんなところが可愛いんだって!
「アンタも!外であんまり可愛い顔しちゃダメだからな!」
本気で怒って見せたのに、何故か笑う男とじゃれあって、気がついたらまたそういう雰囲気になって…。
結局書類は間に合ったけど俺が遅刻しかかったって言うのは、生徒たちには秘密だ。


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それは、とても陳腐な?のおまけ的なもの。
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