スイートスイートチョコレート(適当)
「かんっせいだ!…一応。これでいいんだよな?」
多少の不安は残るが、試作品よりは大分マシなできばえだ。
なんてったってちゃんとハート型だし、チョコレートも固まってるからな!
一仕事終えた気分になったものの、貰った作り方にはまだまだ続きが書いてあった。
「らっぴんぐ…!?えーっと?箱に突っ込んだだけじゃだめってことか…!」
面倒くさい。そう思わないわけじゃなかったが、これも人助け。がんばらねばなるまい。
チョコレートが欲しいのだと強請ってきたのは知り合いの上忍だ。
なんでまたと思わないでもなかったが、切々とチョコレートが欲しいと涙ぐむ姿についほだされてしまった。
女性からしこたまもらうんだろうにとやっかみ半分で言ったってのに、安全なチョコレートが食べてみたいと真剣に言われてみろ?普通にかわいそうに思うだろ?
へんな物が入ってたり、髪の毛でてきたりってのは、サスケのときに経験済みだけどな…。
貰ったけど食い切れないから手伝ってくれなんて言われたんだよなー。
断っても貰うだけ貰ってくれと言い出すとか、理解できんとか、ぽつりぽつりと文句を言うのをなだめて箱を開けて…後悔した。
片っ端から媚薬放り込んだとしか思えない異常な匂いのモノや、髪の毛だのあやしげなものが入ったチョコたち。
中には普通のものもあったが、どう考えたってこれで惚れるってことはありえない代物ばかりだった。
「頭おかしいんじゃないのか!」
そう叫んだ幼子をなぐさめつつ、きっちり焼却し、ついでにおこぼれを貰いに来ていたナルトにもトラウマを埋め込んだ事件だった。
普通のは一応食ってたけどな。あれはない。
アカデミー生だったサスケでああなんだから、上忍のあの人はもっとおそろしいものが、それこそしこたま届けられるのだろう。
断っても追って来るんですと、くらーい声で言われた日には、思わずぞっとした。
毒入りなんてかわいい方で、箱に細工してあったりするとか…だからなんでそれで相手がなびくと思うんだろうか。
そのために極力里を空けても、どうにかして任務に混ざりこもうとするせいで、最近は家から出ないで居留守を使ったりもしているらしい。
恐ろしい話に、ギリチョコしかもらえない寂しいながらも平和なバレンタインをもうちょっと喜んでおくべきかと悩んでしまったほどだ。
「まあ、安全は安全だな」
材料は授業の準備で頼まれていたのと一緒に買ってきたものだし、俺がチョコを買い込んでたって誰も誤解したりしない。
作り方だけはサクラに聞いたが、生徒に頼まれて手伝うと言ったから大丈夫だろう。先生じゃ殆ど知らないだろうからと随分丁寧に教えてくれた。うそをついたことに関しては多少気が引ける部分もある。とはいえ、本当のことなんて言えないしな。
「箱…は買ったけど、リボン…?アレンジするなら…?とりあえず買って来なきゃまずそうだな」
家にもらい物の包装紙を取っておいたヤツはあるにはあるが、流石にかわいそうだろう。
何を買ったらいいのかさっぱりわからないが、アドバイスがたっぷり書かれているからそのとおりに用意するくらいならできそうだ。
「まあなんとかなるだろう」
なんとかして…普通のチョコってのを用意してあげないとな。
*****
四苦八苦して仕上げたバレンタインチョコは中々のできばえで、ほっと一安心した。
後はこれを渡すだけ。かばんに放り込んでアカデミーに出勤したときは、ちょっと緊張したが、とりあえずばれることはなさそうだ。
普段どおり、女性職員の皆さんからの小さなチョコレートを貰い、生徒たちからもギリチョコを貰い、食堂のおばちゃんからも貰って、後はカカシさんが来るのを待つばかりだ。
たまたま受付所にシフトが入ってただけだけど、ある意味丁度良かった。捕まえやすいし渡しやすい。
書類用の封筒につっこんだから、それほど違和感はないだろう。…まあその、ラッピングとかのせいでちょっとぼこっとしてるけどな。
何度目か分からないほど受付所の机の中に入れておいたそれを撫でていると、やっと待ち人がやってきた。
「イルカ先生こんにちは」
どことなく期待に満ちた瞳をしている気がする。何か本当にかわいそうだよな…。俺なんかのチョコでいいならいくらでも用意してあげたくなる。
「こ、こんにちは!お疲れ様です!」
ちょっと緊張するよな。…だが受け取った報告書にも不備はないし、心なしかいつもより丁寧なくらいだ。
いいよな?渡すなら今だよな?
「イルカ先生、その」
「カカシさん。これ、その、この間のです」
何か照れくさいのは、これがチョコだからなのか、この恥らう乙女みたいな状況のせいなのか、自分でもわからない。
だが受け取ってもらえただけで、何故か酷く安堵した。
「ありがとう…!それで、その、今日どうですか?一緒に」
「あ、はい!」
そうだった!どうせなら一緒に飯食えばよかったじゃないか!…ま、まあその、渡せたからいいんだけどな?
「じゃ、俺の家で」
「はい」
カカシさんの手料理は美味いからなぁ…!楽しみだ!
受付が終わるまでにやにやして過ごし、同僚に不審がられもしたがまあそれは気にしなきゃ良いだけの話だ。
俺には美味い飯とカカシさんの笑顔が待ってるんだからな!
*****
そうして家にお邪魔して美味い飯をたっぷりご馳走になって、いよいよチョコレートのご開帳となった訳だが。
「うわ…おいしそ」
「一応その、レシピはサクラからもらいましたし、材料はアカデミーでも使ってるそこそこイイヤツらしいんで、食べられるんじゃないかと…」
「嬉しいです…!ありがとうございます!」
「い、いえその!はは…!」
なんだろうな。舞い上がるカカシさんみてるだけで、なんだか俺まで嬉しくなってきた。
ちょっといびつなそれを、大事そうにそーっと手にとって嬉しそうに食べてくれたのもあるかもしれない。
「ん、美味しい」
「へへ!よかったです!」
折角のバレンタインだもんな。
…まあ俺の作ったチョコだっていうのは残念かもしれないけど、普通のチョコを食えるって、この人にとってはすごいことなんだろうし、よかったよな?
「…お礼、したいです」
「へ?いやいや!お礼なんて!むしろこんなに美味い飯にそれにその酒もめちゃくちゃ美味かったですよ?お返ししなくちゃなんねぇのは俺の方でしょう」
実際、多分この飯のほうが手が込んでるし、酒だって相当高そうだ。
それに喜んでくれただけでも、十分だし。
「いーえ。…待っててくださいね?あと1月」
「はぁ。いいですけど。でも本当に気にしないで下さいよ?」
なんだ?一月?なんかあったっけ?
ニコニコ笑うカカシさんが、ちょっとかわいく見えてきたのは酒のせいだろうか?
「今晩は泊まってくださいね?ほら、結構飲ませちゃいましたから」
「ふえ?あー…そうです、ね…」
なんだろう。ほっとしたせいか眠い。ついつい飲みすぎてしまったようだ。勧め方が上手いんだよなぁ。それにこの酒の口当たりも良すぎるほどに良い。…迷惑じゃなければいいんだが、歩けないかもしれないし…。
「その辺にころがしといてください…」
そうちゃんと言えたかどうかも定かじゃないが、それ以降の記憶は俺に残っていない。
ただなにかをカカシさんが言ったような…?そんな記憶がかすかに残っているだけだった。
「…ホワイトデーまでには、ちゃーんとお返しも俺も受け取ってもらいますからね?」

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適当。
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