情熱(適当)

陳腐な言葉で言うなら情熱だ。
好きも欲しいもベクトルが鋭すぎるほどまっすぐにたった一人だけに向かう暴発に近いこの感情。
激しすぎて制御なんてできないから、早々に諦めた。
だって、自重なんかできるくらいなら好きになんてならないでしょ?
自分の感情すらがんじがらめにする暗い世界に、うそばかりが満ち溢れる所で生きてきた。その中でこの感情一つだけがどうしようもできないほど本当だから。
その鋭さで俺の胸を射抜いた視線が、今は俺に向けられている。…俺だけに。
それに感じる幸福感といったら!
この人には欠片もわからないだろう。
おもしろくなるくらい素直な人だから。
…きっと、こんな暗く燃え盛る炎なんて知らない。
「ねぇ。イルカせんせ」
俺とは正反対の世界にいるこのイキモノを、自分のものにするために。
その胸に宿った感情を、心を、体を、その全てを手に入れるために。
「なりふりなんてかまっちゃいられないのよね?」
どこまでも深く逃れようのないくらいがんじがらめにしてあげるから、早く俺に堕ちればいい。
視線の先に捕らえた獲物を捕らえるために舞い降りた俺に驚き、それから笑ってくれた。
執着より狂気に近いこの思いをどうか受け止めて。
その願いなど知りもせずに。
*****
「好きです」
そう告げられたのはアカデミーからの帰り道だった。
すれ違うことすら稀なほど、この人と俺の関係は薄い。
だからその偶然に感謝していた。
戦闘以外では驚くほど穏やかな人だ。
…その二つ名に似つかわしくないほどに。
そんな人に恋をしたのはある意味当然だったかもしれない。
引き渡した子供たちが心配だという理由だったはずだ。最初は。
能力も性格も、手がかかる子供たちばかり引き受けてくれたから、少しでも役に立てればとこちらから飲みに誘うことだってあった。
最初はどんな男なのかと不安で仕方がなかったが、男は終始穏やかだった。
狐つきと蔑むことも、三代目の腰ぎんちゃくと罵ることも阿ることもなく、淡々と俺が俺であると、単なる知り合いの中忍として扱ってくれた。
だからかもしれない。
気がつけばとっくに心の奥にこの男を住み着かせてしまっていた。
「うそだ」
時折その瞳にちらつく炎にぞくりすることはあっても、この人は一度だってそんな素振りは見せなかった。
もし隣にこの男がいてくれたならなどと思わなかったかといわれれば嘘になる。
だが、もし受け入れられたとしても、俺にはなにも生み出すことはできない。
それなら、いつかこの人の傍らにある俺以外の誰かを見るなんて耐えられないから。
いっそこの思いを捨てようと思った。そう誓いもした。
芽生えかけた激しすぎる感情も、押し殺せると、いつか忘れられると思っていたのに。
「どうして?」
なぜ疑うのかと言いたげな瞳の中で、あの炎が燃えている。
ああ、だめだ。そんな風に俺を見ないでくれ。
この思いを告げることなどありえないはずだったのに。
「俺が、アンタに惚れてるからですか」
お情けならいらない。
穏やかな男に似つかわしくない炎こそが、本性なのだとしたら…いっそ嘘を吐かれる位なら消してもらった方がいい。
その炎で跡形もなく消し炭にされたほうがずっと苦しくはないだろう。
叶わない思いに耐え続けるくらいなら。
「いいえ。俺がアンタに惚れてるからですよ」
そう言って男は俺を抱きしめた。
身動きできないほどの拘束。酒に酔ったみたいに視界がぐらぐらと揺れた気がした。
「あ…」
「だからね?なんにも考えないで、俺に溺れてよ」
好きだと、繰り返し囁かれる告白はまるで呪文のように俺の中に降り積もって、とっくに自分が溺れていたのだと思い知らされる。
忘れられるなんて飛んだ思い上がりだ。
…こんなにも奥深くまでこの男で一杯になってしまっているのに。
「もう、とっくに」
苦しいほどの抱擁には到底たらなかったかもしれない。
そっと男の背に腕をまわした瞬間、泣き笑いのままキスをくれた。
だから、俺は。
「もう逃がさない」
その呟きにそれは俺のセリフだと胸の中で嘯きながら、消せない思いに殉じることを決めたのだ。


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適当!
りょこういってきます!ねむいー!
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