すきこそもののじょうずなれ(適当)

「ね、だめ?」
駄目に決まってるだろうがという俺の怒りに満ちた表情は、どうやらこの男に届いていないようだ。
「…何をしろとおっしゃいました?もう一度説明してください」
額に青筋を浮かべてしまっている自覚がある。相手は天下の上忍様だってのに、どうしてもこの怒りは我慢できなかった。
だってなぁ。この男は言うにこと欠いて…!
「えっちしましょー?」
なんだそりゃって思うだろ?普通なら。
教え子のつながりでほどほどに親しくしていて、だから任務が一緒になったときも、この人ならと思ったのに。
…こんなわけのわからないことを言い出すとは思わなかった。
「しません」
笑顔で断固お断りだ。
ガキの頃似たような目に合ったときもばっさりすっぱり断って、さっさと上忍師の先生に助けを求めるフリをしつつズタボロにしてやったもんだ。
流石にこの人相手だとズタボロになるのは俺の方かもしれんが、何で任務中にわざわざ消耗するようなことをしなきゃならんのかわからん。
それになんで相手が上忍だからって唯々諾々と尻を貸さなきゃいけないんだ。
ちょっといい人だと思っていただけにショックは大きい。
「…だめ、ですか?温泉が駄目だった?」
「いいえ。大変いいお湯でしたよ」
「じゃ、じゃあご飯が駄目だったの?」
「は?いえ、とても美味しかったですが…」
さっきからのこのやり取りはなんなんだ。なんで温泉と飯の味が関わってくるんだ…?
妙に奮発してやがるな。流石に里の看板上忍に対しては経費もゆるゆるなんだろうと、心ひそかに毒づいた覚えはあるが、それと俺の尻を付けねらうこととの関わりが分からん。
飯食わせたんだからヤらせろってことなのか?ふざけんじゃねぇぞ?
ああくそ。やっぱりここらでぶん殴っておくべきか。浴衣姿なのが悔やまれるが、さっさと着替えて逃げを打てば、なんとかならなんわけでもないだろう。
…やっちまおうか?
「あの、イルカ先生が温泉が好きだって聞いて。あと美味しいものも好きでしょ?だから、告白するなら今だって…やっぱり俺なんかじゃ駄目なんですよね」
「は?」
待てこら今なんていいやがったこのクソ上忍は。
不遜にも眉を吊り上げて聞き返した俺に、とびっきり上等なはずの上忍は、きょとんとした顔で首をかしげてみせた。
「あれ?ちがったの?」
「いやいやいや。ちょっと待ちなさい。その後です。後!」
「あいらぶゆーの後情熱的にハグがいいってガイが言ってたけど、それは流石に気持ち悪いだろうなーって」
…いやそっちの方がまだましだろうよと思うけどな?思うけど…待て待て待て。まさか本気か。
「あんた伽役に毎回告白するんですか?」
「はぁ!?いや伽とかいらないし!イルカ先生とやりたいだけだし!」
「じゃあそう言えよ!わかるか!あんなんで!」
「あ、はい。じゃ、改めまして。…イルカ先生としたいです。これからずーっと俺のチンコはイルカ先生のものですから!」
「不合格!」
「え!?じゃ、じゃあ…イルカ先生!俺の精液は…」
「シモから離れろ!」
「好きです!もう好き!大好き!」
「…まあいいでしょう」
「え!ほんと!やったぁ!」
「あ」
うっかり告白の訂正をさせているうちに、頷いてしまった俺が悪かった。そこは認める。
訂正しようにも舞い踊らんばかりに大喜びする上忍が哀れにみえたというかだな。まあしょうがないから回りに迷惑をかけない程度に恋愛のイロハってもんを教え込んでおこうと覚悟した。
勢いで恋人とやらになった割には、関係は良好だ。
だがしかし、男は上忍だった。いついかなるときも諦めず、活路を見出す…要するに粘着気質な。
「夜明けのコーヒーを…」
「使い古されたセリフですね…」
「俺の精子…」
「だからシモから離れろっつてんだろうが」
「やりたいです。したい」
「却下です。離れてねぇだろうが。大体アンタそればっかりですか…」
コイツのおかげで俺のあだ名が淫語教師になりかかったんだぞ?妙なこと喚いてるのはコイツだけで、俺は訂正してやってるだけなのに!
「…やっちゃえば、俺から離れられなくなるかなぁって」
このじったりと濁った目と薄っ暗い面で、どろどろした発言をするところがいかにも暗部って感じだよなぁ…。
徐々にその必死さを可愛いと思い始めている俺もどうかと思うんだが。
「やった位でそんなもんわかるわけないでしょうが」
「…がんばります!」
「その決意は求めてねぇよ!」
…ああ会話が通じない。一発やったら落ち着くだろうかという最後の選択肢が頭にちらつく。そうなっても離れなかったら、俺はきっとほだされちまうだろうってことも。
「好きー大好き。好きすぎてどうにかなりそうです」
もうなってるだろという言葉は飲み込んでおいて、俺がそのセリフに頷いたからって理由だけで必死に繰り返して張り付いてくるイキモノを、とりあえず犬のように撫でておいた。
もうすぐやってくるだろう互いの限界に、穏やかな期待と恐怖を感じながら。

 

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適当。
_Σ(:|3」 ∠)_

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