小さな(適当)


 手も指も細くて小さくて、これじゃクナイの扱いさえおぼつかない。背は、今の半分位か。この貧弱な身体じゃあの人を支えることもできやしない。
 姿を隠そうにも腐っても現役火影の乳婆が、わざわざ任務として俺の保護を命じてしまった。ここで逃げればお前のかわいい恋人の咎になるぞと脅すニヤついた顔を殴ってやりたくなったが、心配してくれているのもわかっていたからそこは黙って引き下がってやったんだ。
 かわいいですねって浮き足立つ恋人に小脇に抱えられて帰宅することも、状況から考えると仕方がないと諦めた。
 でも、流石にこれはないんじゃないの?
「ほーら!頭洗いますよ!」
「…洗うのはいいんですけどね。なによそれ」
「え?シャンプーハットですよ?ナルトが使ってるのみたことあるでしょう?」
 そう。恋人になる前からこの家に頻繁に上がりこんでいたあいつは、確かにこの人に髪を洗ってもらっていた。…その珍妙な円盤めいたものを頭にはめ込んで。
「…俺、この頃もう上忍ですよ?」
 もっと言うなら6歳で中忍だったし、任務じゃ当然部下もいた。髪を洗うのはもちろん、生活にかかわるすべてのものを一人でまかなうのは当たり前だったんだ。いまさらその屈辱的な物体をつけろといわれても承服しかねる。
 無駄に年齢に対する配慮なんかされるより、はしゃぐ恋人の無防備な裸体に反応しかけている下半身の方にこそ気づいてほしいんだが。
 この頃はそんな気を起こすこともできないほど色々あって、誘ってくる女はいたけど追い払ってくれてたんだよな。先生がいる間は。あの人が逝ってしまってからはそんな余裕なんかなくて、その内引きずるように連れて行かれた妓楼で筆下ろしして、適当に遊んで…って、とにかく、若いってこんなに面倒なことだったなんて気づいてもいなかった。
「え!」
「ま、推定ですけどね。12のときには上忍でしたから。この感じだとちょうどその頃なんじゃないの?」
 あーやりたい。でも流石にね。こんなことで心底驚いた顔してるその口にねじ込みたいものもまた子供のサイズで、この人の職業や性格から考えても受け入れてもらえることはほぼないだろう。
 素っ裸で恋人が奉仕…というか、本人からすると子供の世話を焼いてるつもりなんだろうけど、この状況でその気にならない男がいるならお目にかかってみたいもんだ。
 何もできなかった頃の無力感をいまさらこんな形で味わうなんて、ね。
 ため息もでようというものだ。
「あ、でも。上忍でも目にシャンプーが入ったら痛いですよ?」
「…なんでそんなにそれに固執するの…?」
 ただ単に子供好きだからなんだろうなと思いつつ、そう返すと、あからさまにあせりだしたのがちょっとだけ笑えた。
 ま、いいんだけどね。迷惑かけてるのは事実なんだし。
「…わかりました。髪を洗っている間はしっかり目ぇ閉じててくださいね!」
「はーい」
 なんでそこで決死の覚悟決めちゃうのかよくわかんないけど、久方ぶりの逢瀬がこんな状態でも怒らないでくれてるって、やっぱり筋金入りのお人よしだよね。
「髪の毛やわらかいなぁ」
「んー。ま、昔から髪質はこんなでしたけどね。今度触ってみる?」
「いいんですか!」
「触りたかったんなら言ってよ?」
「へへ!はい!」
 幸せーって顔がシャワーで一瞬しか見えなかったの残念だ。ま、変な遠慮とか心配されまくるよりはいいかな。
 執務室に飛び込んできたときは真っ青で泣きそうな顔してたもんね。そりゃ綱手姫の実験手伝ってて術の暴発に巻き込まれたなんて聞いたら、そうなるか。俺ならクナイもって原因殺しに行くだろうし。
 目に入らないようにするためか、ものすごい速さでシャンプーしてくれた後、普段はおっくうがってやってくれないリンスまで丁寧に。自分の髪でやりなさいよまったく。
「…無事で、よかった」
「…そーね」
 この状態でくっついてきちゃうんだもん。この人は鈍すぎて、時々本当に同じ男なのか疑いたくなる。ま、じっくり触ってなめて確かめたから性別自体に疑問はないけどね。
 ちょっとばかりからかってみたくなったのも、軽い意趣返しのつもりだった。
「触っていいよ?好きなだけ」
 このくらいガキの頃だってその手の誘いは引きも切らなかった。うっとうしくて追い払ってたけど、多少は効果はあるだろう。そう軽く見積もって、いつもするみたいに顎をすくっただけだったんだけど。
「うっ!」
 …いきなり鼻血吹いて倒れるとか予想外でしょ。流石に。
「ちょっ!大丈夫!?」
「大丈夫!大丈夫です!大丈夫なんてちょ、ちょっとだけ離れてください…!」
 そういえば感じやすいのを忘れてた。いつもと違う姿の俺に混乱しつつもしっかり身体は反応してくれたらしい。仕込んだ甲斐があったって、言っていいのか悪いのか…。
 一応受身は取っていたせいで頭は打ってない。背中を流しつついたずらしてやろうとか考えてたのに、これじゃ次の機会に狙うしかないだろう。
「わぁっ!そ、そんな身体で無茶しちゃだめでしょうが!」
「チャクラは練れるの。いーから黙って運ばれなさいよ」
 鼻血は自分で鼻柱を押さえていてくれるせいで止まっている。風呂場の掃除は…後で何とかすればいい。俺が持ち込んだ血液専用の洗浄剤だってあるんだし?
「ごめんなさい…」
 この期に及んでかわいいことばかりいう。ちゃんと自覚してるんだろうか。今はお互い裸で、何も隠すものなんてないってことを。
 いつもより低い視界に、色々楽しいものが見えてるってことも、気づいちゃいないにちがいない。
「悪いと思うんだったらキスしてくれる?」
「へあ?ええ!?いや今はその、ちょっと」
「…だめ?」
 恋人はおねだりと子供に弱い。ついでに恋人になった途端俺にもべったべたに甘くなった。厳しいところは厳しいんだけど、俺が怪我なんかするとそれこそ大騒ぎして大事に大事に扱ってくれる。
 どうせなら、堪能しとかなきゃでしょ?
「…め、を、閉じてください」
「…いーけど。誤魔化してもわかるからね?」
 ほっぺにチューとか言い出されても困る。唇を指でたどっただけで震えている人には酷かもしれないけど、ここまできたら引き下がってあげられない。もったいなくて。
 目を閉じた途端、ごくりと喉を鳴らした音がした。相当緊張しちゃってるみたい。かわいい。期待に胸が震えるなんて久しぶりだ。
 この後は変化してでも事に及ぼうと決めた辺りで、頬に未だ緊張のせいか冷たい指先が触れた。
「ん。ごちそーさま」
 そっと瞳を開けるとそこには泣きそうに瞳を潤ませて真っ赤になった恋人が…なんだ?え。うそ。
「カカシさん!」
 急速に血が下がる。身体が鉛のように重くなって、おまけにめまいまでする。視界の歪みのおかげで折角の恋人の艶っぽい姿を見られないのが悔しかった。
*****
 意識を手放していたのはほんの一瞬だったらしい。
「よかった!なんともないですか?」
「…みたい、ね」
 手も、足も、普段と同じくらい長くて大きい。ついでに下半身のアレも元に戻っている。
 解術がキスって、なんてベタな。綱手姫も何考えてるんだか。それとももっとほかの原因か、興奮したのがまずかったんだろうか。ま、いまさら何でもいいけど。
「急に戻ったんで驚きました。綱手様に見てもらった方が…」
「だいじょーぶ。それより折角久しぶりの休みなんだけど」
 うん。やっぱりこの身体がいい。
 恋人の腕を引くだけで、簡単に組み敷けるこの身体が。
「へ?え?」
「…報告は明日ちゃんとするから。ね?」
 元に戻った俺の声にもしっかり反応してくれるかわいい身体に感謝して、未だささやかながら抵抗しようともがく恋人に口付けた。久しぶりの甘い時間を、たっぷり堪能させてもらうために。

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適当。
絶不調。

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