初カカシ(適当)


 コツコツ音を立てる玄関を開けたら即上忍。…というかはたけカカシ。そしてその上この台詞だ。
「初カカシってどうですか?」
「あーその、どうですかって言われましても。まあその、あけましておめでとうございます」
 今年もよろしくとは言い辛いこの状況。しかも小首かしげて本気でどうですか?って言いたげな面してんのはどういうことだ。
 確かに知り合いではある。一回派手に遣り合ってから、キッチリ頭下げて話をつけて、その後は普通の上忍と中忍だ。道ですれ違ったら挨拶する程度の。
 まあ時々一楽で遭遇すれば隣に座ってきたこの人と話すことくらいはあったし、居酒屋で行き会えば隣に座ってきたこの人と酒を傾けることもあったし、受付でも待ってる人がいなけりゃ多少の世間話くらいはすることもあった。それからだんご屋で買い込んだ団子とかコンビニで買った肉まんとかを食ってるときに、いかにも任務帰りで腹減ってますって顔のこの人に行き会ったときにちょこっとばかりおすそ分けくらいはしたか。
 つうかほとんど他人だ。それがなんでまた俺んちを知ってるんだろう。しかもさっきの台詞はなんだ。初って、まあ今年になって初めて会うんだからまちがっちゃいないのかもしれないが、初に人名くっつけられてもな…。それともあれか。畑に立てる方のあっちの話をしてるんだろうか。どうもそんな感じはしないんだが。
 じぃっと見つめられると考えがまとまらなくて困る。瞳術使いといっても、こっちを見てるのは写輪眼じゃない方の目だってのに、気圧されるのはどういうことだ。
「あけましておめでとうございます」
 そういってまだ俺が半分開けたままの玄関のドアを思いっきりひっぱってきたから、どうやらあがりこむつもりだということだけは理解できた。
 …それも、家主の意向を確認する前にってこともな。
*****
「おせちってほどのものはないんですが。とりあえず先に雑煮でも」
「おいしそうですね」
 コタツにしっかり陣取って、ついでに寒そうだったから思わず来客用の半纏を着せて、それからみかんとほうじ茶も入れてやったらぬくぬくと幸せそうにしている。お重の中身を珍しそうに眺めつすがめつしてはニコニコしてるのを見るとどうも邪険にし辛い。
 …いや、用件はなんなんだよ。初カカシ。上忍だからって何でも許されると思うなよといいたいところではあるが、相手は上の上。それに…多分天然だ。
 思考回路が普通とちょっと違う相手と、まともな会話をしようとする方が疲れるからな。適当にあしらって早めに帰ってもらおう。そろそろナルトたちがお年玉を貰いに来る頃だし、そのついでに初詣にでも一緒に行ってそのまま家に帰ってもらえるようにすればいいだろう。
「おいしーですね」
「そうですか。そりゃ良かったです」
 とろけたもちをひっぱりながら、器用にこぼさずに食っている。毎年悪戦苦闘するナルトを見ているだけに、少しばかり感心したんだが、その前に…顔見せていいのか。思ったより普通というか、結構な男前だが。
 それに食い物も問題だ。なにせこの人は天下の上忍様だ。おそらくは舌が肥えてるだろう。うちが用意した煮しめなんて全部いっぺんに適当に煮ただけだ。数の子黒豆なんかは買ってきたヤツで、えびも適当に焼いた。鍋釜をフル回転しながら作ってる最中に、色々考えるのが面倒くさくなって火遁で焼いたのがばれないといいんだが。
 元々ナルトに普通の正月ってもんを体験してもらいたくて、母ちゃんに作ってもらった記憶と書物を元に、見た目をそれっぽく作っただけの色々と怪しげな代物だ。隙間は南天をあしらってごまかし、煮崩れたヤツは昨日のそばと一緒に食っちまってある。
 年越しそばも一緒にできればよかったんだけどなぁ。まあ最初はそばなんて好きくねーってばよなんていってたが、縁起もんだと口をすっぱくしていったら一応来たそうにはしてたのに、べそかいて任務入ったって言いに来たのは昨日の朝のことだ。今日はぜってー行くって騒いでたから、もちろん雑煮の用意もできている。サスケも誘ったから多分来るだろう。
 食べ盛りに備えて中身はともかく量はたっぷりあるんだ。残念なことにこの上忍の分も。
「イルカ先生は食べないんですか」
「あぁ。もうすぐ子どもたちが来るので、そっちと一緒に食べます」
 言外にお前そろそろ帰れと匂わせたつもりだったのに、平然としているところをみると響いてないんだろうなぁ。
「ふぅん。やっぱり?ま、でも俺の方が先でしたし」
「は?」
 なんでちょっと不満そうなんだろう。それからなんでじわじわ圧し掛かってくるんだ?もしかして俺、消される?
 だがあからさまな害意を感じない。ずるずると後ろに下がって避けてはみたが、クナイを抜くのはためらわれる。
「初カカシです」
「…はぁ。そうですか」
「最初は俺なんで、よろしくおねがいします」
「…よくわかりませんが、降りてください…」
 べたーっと胸元にくっつく上忍から、そこだけはきっちりがんばってとった出汁の匂いがしている。拗ねてる、んだよな?これは。なんでなのかはわからんが。
「初カカシです」
「せんせー!きたってばよ!あけましておめでとうございます!おせちー!」
「ウスラトンカチ!新年から騒がしいヤツだな。新年の挨拶もできねーのか」
「うっうるせぇってばよ!おせち!」
「…なんでもいいからちゃんとやれよ」
「おう!」
 だからそれはなんなんだと怒鳴りつける前に子どもたちが玄関を叩く騒がしい音がしてうやむやのうちに家に上げ、急に顔を隠しだした上忍と子どもたちの攻防をしばし眺めつつ御節を食って、お年玉…以外なことに上忍も用意していたものも渡して、初詣にかこつけて追い出すことにも成功した。快挙だ。これで平和な新年がやってくる。

 …はずだったんだが、あれ以来頻繁に上忍がうちにやってくる。来るもんはしょうがないから家に上げると、もちだ酒だつまみだと、食い物を持ち込んでくるから追い出しにくいんだよなぁ。
「一年の計は元旦にあるんですよ」
 こたつで勝ち誇ったように宣言しているのが、初カカシとやらの理由なんだろうか。訳がわからん。わからんがまあ。その。
「…イキモノがいる生活ってのも悪くないか」
 毛並みのやたらといいのが幸せそうにくつろいでるってのは、それはそれで癒されるものだ。この人の行動にさして意味はなさそうだ。きっとそのうち来なくなるだろう。
 そうしたら…何かイキモノを飼おうか。犬でも猫でもいい。傍らにあるぬくもりがなくなったら、きっと寂しくなるだろうから。
 そうやってのったりしたイキモノとすごして、松が明ける頃。
「初…そろそろいいですか?」
「は?」
 不明瞭な言葉を聞き返した瞬間にベッドに放り込まれて、風呂上りの上忍にペロッと食われた。
「なにすんですか…!」
 全てが終わってから盛大に文句を言った俺に、人を食った顔をした上忍はにんまりと笑って見せた。
「初カカシ、どうでしたか?」
 どうもこうもねぇよ。尻も腰もいてぇし動けねぇし、あんなところにあんなもの突っ込まれたってのに気持ちよくイっちまったこっちの身にもなりやがれ!
「…なんてことしやがる…!」
「幸せです」
 ああ、会話がかみ合わない。それはもう至福のときとばかりに動けない体に触れてくるその蕩けきった顔をぶん殴ってやりたい。
 なんだってんだ。一体。俺が何をしたって言うんだ。暴かれたばかりの肌は未だにざわめき、危ういところをなぞるようになで上げる不埒な手に律儀にも反応してしまっている。
「いてぇしうごけねぇし。どうしてくれんだ…!」
 正当な苦情はしかし上忍にとっては愛のささやきにでも聞こえているらしい。
「責任取りますし、これで俺のになったんで、他の連中は近づかせないし、ずっと一緒ですよ?」
 …そうですかと言っていいもんかどうか。
 脱力した体に巻きつく腕は力強く、それから温かい。多分追っ払っても無駄なんだろうってことは、悲しいかな察することができた。
「覚えてろよ…!」
 途切れがちな意識はすでに半分以上闇に沈んでいる。体力の限界というヤツだ。しびれるような眠気に抗いきれず、意識を手放す寸前。
「やっと初イルカもらっちゃった」
 鼻歌交じりにそういったのが聞こえた気がした。



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適当。
初。

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