しんちくにわつきいっけんや5(適当)


 寝床がやわらかいなんていつぶりだろう。任務で多少ヘマしたくらいじゃ木の葉病院のベッドなんか使えないもんなあ。シーツも触ったことがないくらい肌触りがいい。ここはもしかして天国なんだろうか。それにしちゃ温かいモノが頭を撫でてるみたいな感触が…?
「ふが?」
「あ、目、覚めた?」
 違和感の正体が、開けたばかりの瞳に飛び込んできた。綺麗な人だよなぁ。あとさっきみた浴衣を着ている。って、俺もか。
「ええと。おお?浴衣似合いますね」
「ありがと。気分は?」
 心配ですって顔で詰め寄られてやっと、寝ぼけた頭にも血が巡り始めた。
「気分…?」
 鼻がちょっとパリパリするが、特に具合は悪くない。一緒に風呂入ってそれから…あーそうだ。俺は、鼻血を。
「ちょっと、大丈夫?水もっと飲む?」
「え、あ!大丈夫です!そうじゃなくてですね、その…!」
 頭がくらくらする。鼻血のせいじゃなくて、これはこの人が側にいるせいだ。
 とんだ醜態を晒したことも恥ずかしいが、この人に言われた言葉が今更ながら頭に飛び込んできて叫びだしそうだ。結局洗濯機もそのままだし、風呂も恐らく酷い状態だろう。
 なにやってんだ。俺は!
「うぐ…!」
「ほら、お水。飲んで?」
「ふえ?いえ、だいじょ…んぐ!」
 水だ。でもだがしかし。なんだって口移しなんかするんだ。さっき俺がどうなったのかみてただろうが。この人は俺をどうしたいんだろう。また鼻血吹いたらどうしてくれる。
 これ以上醜態を晒したくなくてもがいてみたものの、相手は何といっても火影様だ。敵う訳がなかった。
「…ん。もっといる?」
「んっ!いいいいです!だいじょうぶです!」
 半ば叫ぶようにして進められた水を本人の頭ごと押しのけた。
 冷静さなんて頭の中のどこにもなくて、ただ受け入れきれない現実が伸し掛かってくるのに耐えきれなかった。
「そ?じゃ、花火でもします?」
「へ?」
 花火、っていうと、あれだよな。爆破のためじゃなく、美しい光を生みだすために作られた火薬。俺たち忍にとっては子供だましであるはずのそれを、この人が?
 俺ならともかく意外過ぎて思わず言葉を継ぎそこなった。そういう俺だってそんなに花火で遊んだ経験はない。確か父ちゃんと母ちゃんとなら、線香花火で競争したこともある。でも、それを失ってしまってからは空に打ち上げられるのを警備ついでに見るのがせいぜいだった。アカデミー教師になってからは子供たちに付き合ってってのもあったが、それもナルトとかサスケくらいのもんだからなぁ。それも二人そろって火遁で火をつけようとして全部燃やされかけたりしたしな。あれほど水遁が得意で良かったと思ったことはない。
「前にね、せがまれて買ったことがあったんだけど、意外と組成なんかみると工夫されててね。おもしろかったから、今日のは自分で作っちゃった」
「そりゃすごい」
 せがまれてってのは…ははぁ。ナルトだな?サスケと線香花火勝負で負け越して、毎度毎度全部なくなるまでやりたがってたもんな。
 それにしても、武器としてのモノなら朝飯前だが、そうじゃない方は職人が丹精込めて作り上げる芸術品だと聞く。まあこの人にかかれば大抵のものは作れちまうんだろうけどな。それにきっと、この人は最前線で戦い続けていたから、今までならそんなことをする暇もなかったんだろう。
 それが素直に嬉しかった。…それなのにまた自分の時間なんてものがろくにもてないだろう火影の名を継ぐのかと思うと少し苦しく思うほどに。
「…ね、行こう?庭もね。結構広いから色々植えてみるのも楽しそうでしょ?」
「はい」
 好きだなんて、信じきれちゃいない。たくさん失い続けて、そのせいできっとこの人は少し目が曇ってるんじゃないだろうか。例えば暢気な中忍が里で平和に暮らしてるのをみて、何か勘違いをしたのかもしれないとさえ思う。
 …ただ、この人が望むのなら、この平穏な時間をできるだけ長く一緒に過ごしたいと思えた。
いいよ。そんなもんでいいならいくらでもくれてやる。こんなもんじゃなくて、本当はもっといいモノを上げたいけど。あんたきっと欲しがらないんだろうなぁ。
 差し出された手を取って、縁側から庭へ出た。そこには既に水のはられたバケツとろうそくが並んでいて、楽しみにしてたんだろうなってことがうかがい知れた。
 火薬のそばだってのに当たり前みたいに火遁で火をつけて、それでも少しの狂いもなく小さなろうそくに火が灯った。嫌味なくらい腕のいい人だ。
「さて、これなんかどう?自信作です」
「ホントに手作りなんですか。すげぇな」
「そ?ま、いいからほら、やってみてよ?」
「はい」
 楽しくて仕方ないって態度を全面に出されるとこっちも弱い。返事を考えなきゃいけないのに、この人がこういう態度をとるのはわざとなんだろうか。気を遣ってくれてるのか、追い詰めてくれてるのかわからん。
 青く薄い良く燃えそうな紙が巻き付けられた棒を持たされて、そっとろうそくの火を移した。
「お、おお?おー!青い!綺麗ですねぇ!」
 その辺で売っているものとは色が違って見えるのは気のせいだろうか。鮮やかな青についつい目を奪われる。
「よかった。あ、でもこれからだから」
「へ?え?おおお!」
 パチパチと音を立てて青い光が爆ぜる。そこからさらに何かをかたどった光が飛び出してきた。この丸っこくてひれのある形は…。
「イルカ先生にちなんで作ってみました。ちゃんと鼻傷もあるでしょ?」
「…凄い」
 素直に感動した。言われた通り、小さいイルカの鼻には俺のと揃いの傷がついていて、ひっきりなしに飛び跳ねては、地面に向かって消えていく。まるで大海原を移動するように。
 思わず見とれている間にも手元すれすれまでその炎は続き、それが収まると自然と持ち手だけ残してもげ落ちた。器用な人だ。忍にならなくても、きっと大成していただろう。
「こっちのはカカシです。はいどーぞ」
「いや、俺ばっかりじゃなくて、カカシさんも」
 確かに感動モノの出来栄えではある。でも俺ばっかりやってても詰まらないだろうに。
 そう思って渡された花火を持たせようとしたら、すでに別の花火がその手に収まっていた。
「それはこっちでね。ほら、線香花火」
「あ」
 巻いてある紙の色の違いはあるが、あの形状は見間違えようがない。
「ナルトとサスケでどっちも同時におっことしてねぇ?面白かったんで覚えてたんですよ。後で一緒にね?」
「へへ!俺それ結構得意なんで、負けませんよ!」
「じゃ、勝ったら好きな酒買ってきますよ」
「よっしゃ!じゃあカカシさんが勝ったらなんでもしますよ!」
「んー?どうしようか。…じゃ、その時にね」
 そうやってあいまいに微笑む人に勧められるまま火をつけて、今度は縦に浮かんで消えていく片目に傷のあるカカシに度肝を抜かれる羽目になった。
「引退したら職人になってくださいよ」
「そーね。ああでも料理人とかも悪くないかなって」
「いいですね!皿洗うくらいならできますよ!任せてください!」
「それもいいねぇ。ま、俺の料理はたった一人にしか食べさせたくないんで迷うけど」
 気障なセリフが嫌味にならないのがこの人の魅力の凄さだと言っていいんだろうか。
「…そういうのは反則です」
 すっかりいつも通りみたいな顔をして浮かれてみせてくれるから、ついつい油断したじゃないか。
 返事を、決めなきゃいけないのに。…もうとっくに決まってるようなものだけど、そう簡単に言えることでもない。
 感情だけで上手くいくなら、世の中はもっと平和だったはずだ。
 立場も性別も、問題だけなら山積みで、それになにより、こっちの頭が現実を受け入れきれていない。
「じゃ、線香花火勝負。します?」
 こんな表情でそそのかされたら、抗える気もしないんだけどな。
「…します」
 渡された花火を受け取って、お互いせーので火をつける。すぐに爆ぜながら先端が膨らんで、丸く光る球を作った。かすかに火薬がはぜる音をたてて、それが少しずつ大きくなっていく。
「綺麗ですね」
「そ?よかった」
 その笑顔に見とれたせいだろうか。
「あ」
「あー!」
 見事にころりと落ちて転がったそれは、俺の手元につながっていた方だった。
「俺の勝ちかな?」
 首をかしげて笑った弾みでカカシさんの手元にあったそれも転がったが、結果は明らかだ。
「そうですね…」
 なんとなく悔しいが、勝負は勝負だ。簡単なものにしてもらえるといいなと顔を上げると、目の焦点が合わないくらい近くにやたら綺麗な顔があった。音もなく移動するのは忍の常だが、こんなに側にいるのに流石に驚くだろうが。
「ん」
「んん!?」
「ごちそーさま」
「なにすんですか…!」
 重なった唇はとっくに離れたのにまだ嘘みたいに熱い。当の本人はしれっとした顔してるが、こっちは頭が爆発しそうだ。
「なんでもしてくれるって言ったから、ね?」
 とびっきりの笑顔で笑うから、言葉もなくへたり込んだ俺をそのまま担ぎ上げるのも、布団にしまい込まれるのも止められなくて、されるがままだった。
「…カカシさん、本気なんですね」
 念を押したのは、この人の本気を疑ったからじゃなくて、むしろ俺自身に言い聞かせるためだったかもしれない。
「そりゃ、本気ですよー?結構長いこと我慢してましたから」
「そ、うなんですか?」
「そうなんです」
 すっと顔を寄せてきたかと思ったら、触れるだけとはいえまたも唇を許してしまった。
 しれっと流された挙句にそんなことをされて、動揺を隠しきれないでいたら、今度は抱き枕よろしく腕の中にしまい込まれてしまった。
「おわっ!ちょっ!カカシさん!」
「引っ越しもするわけだし、色々ちゃんとしましょーね?」
 含み笑いに耳元を擽られて、いっぺんに色々処理しきれなくなった頭がもう考えることを放棄しだしている。
「…おやすみなさい」
 最後に言えたのはそれだけで、結局そのまま碌な返事もしないで眠り込んでしまった。


 翌日、寝こけている間に俺の家にあったはずの荷物が全部運び込まれていて、驚いたまま飯を食わされて出勤した。…で、そのまま執務室に呼び出されてサインしろって渡されたのが婚姻届けってのは、もはや仕事が早いとかそういう話じゃないと思うんだ。俺は。
「ちゃんとしましょうねって約束したでしょ?」
 笑顔の割には力強く折れることを知らないカカシさんにそれを突きつけられて、ねぇ。なかったことになんて男らしくないこと言わないでしょなんて言われたらつい。なんだか俺が悪いような気がして、サインをしてしまった。
「はい。確かに受理しました。はは。俺が書いて俺が受理するっていうのもなんだか不思議な感じがしますねぇ?」
 そういう割には、決算印を押されたそれは恐ろしく素早く処理され、翌日には知らぬものが居なくなっていたってのがな。
 翌日を迎える前に早速お祝いだと連れ込まれた…というか、自宅だったところは引き払われていたから、それでも家に帰ったことになるのか。とにかく張り切った現役火影にかなうはずもなく、色々こう、知らなかった世界を全力で思い知らされる羽目になったってのも衝撃だった。
 あとでサクラにイルカ先生って詐欺師に騙されるタイプよねなんて、しみじみ言われるほど、俺は随分とちょろかったらしい。
 腰の痛みに耐えかねてよたよた歩く俺を見かねたかつての生徒に捕まって、治療されながらそんなことを言われたら、いっそ殺してくれとさえ思ったさ。でもなぁ。
「だってなんでもしてくれるんですよね?」
 笑顔の恋人…というより正式に伴侶になってしまった男がそれはもうこの世の幸いを全部集めてきたみたいな輝く笑顔を見せつけてくるから、これはもういっそ運命なんだと受け入れることにした。
 好きだというのはもうちょっと後にさせて貰おうってのもついでにな。

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適当。
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しんかんがんばってみますがまにあうきがしねぇのでおうえんしてくださいといってみる。

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