寒い日の(適当)



「あーさみぃさみぃ!あ!カカシさん!」
にこーっと笑うのがかわいい。
…たとえ俺が求められている理由が、ただの熱源なんだとしても。
「イルカ先生おかえりなさい」
ぎゅーっと抱きしめると冷え切った体をすりよせてくる。
かーわいいなぁ!もっと色々したいけど、今は我慢だ。
それにしてもこんなに冷えちゃって。何をやっていたのやら。
「へへー!カカシさんが家にいると帰ってすぐ暖かいんで助かります!」
「いーえ」
暖房代わりぐらいお安いものだ。
隣人が襲撃を受けたおかげで俺の部屋まで工事がはいりましたって名目で、転がり込んで本当に良かった。
いや、実際部屋は焦げ臭いし壁はぼろぼろだしで、建て替えなきゃならないらしいんだけど、隠し家なんていくらでもあるし、他所で借りたっていいんだよねー。
暗部寮に住んでれば今までだってなんどもあったことだし、夫婦喧嘩で建物一軒吹っ飛ばすような連中はごろごろいるのが忍里だ。
人に迷惑をかけないなら、基本的に何をやったっていいってのが基本。だからこそ俺も壊れたものはきっちり弁償してもらえるし、貴重な巻物なんかはちゃんと人が入り込めないような所に隠しておいたから、良くあるちょっとした面倒ごとのつもりでさらっと話したんだけど。
ほんっとうに誓って言う。単なる世間話程度のつもりだった。
でもイルカ先生は涙を流しながら慰めてくれた。
ショックが大きすぎて普通に振舞っているんだと思われたらしい。
元々惚れた相手にそんなことされたら、嬉しくて嬉しくて涙が出そうだったし、ついでにそんな俺を見て更にもらい泣きしてくれた人の懐に潜り込む最大のチャンスだ。
モノにしないほうがウソってもんでしょ?
ま、イルカ先生がこんなにも寒がりだっていうのは予想外だったけど。
「あったけぇ…!コタツは最高ですね!」
手を洗ってきて水で冷えたとコタツに突っ込んだ手を捕まえてあっためてあげても、この人は鈍すぎるくらい鈍いから、俺のよこしまな気持ちになんてまるで気付いていないだろう。
「最高ですねぇ。暖かいですし。それに…イルカ先生が一緒にいてくれるから幸せです」
こうやってちょっとずつ寂しがり屋でかわいそうな上忍を演出する。
その度にこの人はちょっとだけ悲しそうな顔をして、それからすぐにそれを打ち消して笑ってくれる。
…俺の心にぬくもりを分けるために。
「俺も!その、なんだ。幸せですよ!家は暖かいし飯は一人で食わなくて済むし、カカシさんは料理美味いからなぁ!」
ぽんぽんと肩を叩かれて、頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。
うん。アナタにとっての俺が、まだただのガキみたいなもんだってのは分かってるよ。
それでも、最近その瞳に交じるようになった切なげな色は、見間違いじゃないと知っている。
「ずっとここにいたいな…。ま、イルカ先生には迷惑かもしれないけど」
ちょっとしょんぼりしてみせたら、大慌てで抱きしめてくれた。
「迷惑なんてとんでもない!むしろありがたいです!家賃だって入れてもらっちまってるし!…その、俺の当番のときの飯は美味くないんで申し訳ないんですが」
「そんなことありませんよ!すっごくおいしいです!」
「そ、そうですか?へへ!」
嬉しそうな顔に欲情しても、コタツがあればすぐにはばれない。
だからこそ…冬の間に片をつけないとね?
「イルカ先生のうちの子になりたいなー?」
酒も入っていないのに、普通なら引かれる言動だが、イルカ先生はほわっと笑ってくれている。
あと、ちょっと。もうとっくこの人の懐にはもぐりこめているから、きっとそう簡単には捨てられない。
奥の奥まで俺で満たして、縋らせて、鳴かせたい。
そうしてそこまでしても俺の側にいることを選んでもらいたい。
「もううちの子ですとも!」
堂々と男らしく胸を張って宣言してくれた人を、誰よりも愛おしいと思った。


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適当。
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