泣く男

目の前にあったのでついなんてのは言い訳にもならないと思う。
…その対象が人間であるなんて、もっととんでもない話だ。
「だってだってだって…!そんなにおいしそうな顔して歩いてる方が悪いでしょ!」
それが、道端で出会いがしらに俺を攫って、警戒する間もあらばこそ、いきなりキスして、ついでに服を剥いて、さらには貞操まで奪って言った相手の言い分だ。
「…うぅ…」
だがしかし、相手は多分上忍…とにかく俺より強くて、多分俺より偉い。
泣き寝入りという言葉はこういう状況を言うのだろうか。
「それにね!鳴かせたらもっと可愛いし、何してても色っぽいし、アンタそんな顔してふらふらするの今後からは許さないから!」
ああ…なんだって怒られてるんだろうか?
状況からして糾弾されるべきは加害者のこの男のはずなのに。
「いてぇ…」
とりあえず、嵐は去った。
そばで喚いてはいるがこれ以上体を傷つけられる恐れはないだろう。…ないと思いたい。
俺に出来る事はとっとと寝て、こんなことなんでもなかった顔して子どもたちの前に立つことだ。
心は痛むし、男としてもプライドをずたぼろにされたが、それでも自分は忍だ。
階級差や強さが、時に全てを決めてしまうことを知っている。
起こってしまったことを嘆くより、悔やむより、忘れた方がまだましだ。
できれば次がないように予防したいものだが、この男のまくし立てる内容にはびた一文同意も理解もできないので、その辺はもう諦めるコトにする。
「も、もう…!どうしてそんなにかわいいの!酷い!」
訳のわからないことを叫びながら泣き出した男の方が、どちらかというと容姿も整っていて可愛い…とまでは行かないにしても仕草も子どものようだと思うのだが。
眠るには声が大きすぎるし、ベッド脇に座り込んで俺の手を握って離さない辺りも恐ろしい。
それにそんなものなどなかったと思い込むには男の様子が必死すぎる。
どうした物かと悩むんでいると、必死な形相の男が一際高い声で叫んだ。
「ね、好き。好きなの!だからあんな顔もうしないで!」
*****
で、どうなったかというと。
…愛は時に言い訳になるということを、俺は学んだ。
「あのね?今日はどうしてそんなに色っぽいの?駄目って言ってるのに酷い!」
今日もぎゃんぎゃんとうるさい男は、あんなことをしでかした割には遠慮深いというか、律儀に俺の帰り道で待ち構えてはひとしきり文句を言っている。
無断で、しかも他人をお持ち帰りするというとんでもない行動をとられたが、あの後思いっきり説教してやった成果は多少でたようで、今は俺の家のドアの前で小さくなって、「いっしょにいてもいーい…?」なんて上目遣いで聞いてくるようになった。
まあ、それに油断して家に上げると全開の二の前になるわけなんだが、もう何度目になるのかもわからないくらいなので、その辺は自分の心境に合わせている。
泣き言を言いながらドアの前でしくしく泣き崩れる男を見るのは、結構楽しい。
最初は仕返しの意味もあったが、途中から意味が変わっていった。
…なにせ、この男は俺だけのためにそうしているのだから。
「俺もマニアックだったんだなぁ…」
溜息をついて、こっそり呟いてみたんだが、それにすらウルウルと瞳を潤ませて悶えているのが可愛くさえ見える。
多分、そろそろまた喚きだして、結局朝まで離してもらえないだろう。
「も、もうだめ!」
抱きついてこんなコトを言っているからまず間違いない。
…でもまあ、いいか。こんなのでも俺のモノだと思うと可愛いし。

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適当ー。
例のあれの前提のような代物。
ではではー!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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