押しかけられて(適当)



「おいしい?」
「え、ええ。まあ」
ラーメンは美味い。美味いんだが。
…なんでこの人こんなに食ってるのじーっとみてくるんだろう…。
知り合いならまだ分かる。あとは生徒とかな。
ラーメン食いたいんだろうなーってこう、味見の一つもさせるだろ?まあ大概は奢ってやるけど。ソレを当て込んで寄ってくるのもいるくらいだし。
でもなぁ。流石に知り合いでもないし、何よりこの人暗部じゃないのか…?
いや、面つけてるわけじゃないし、 顔の下半分を覆う覆面で表情は伺い知れない。
…でも袖なしだ。しかもあの白い防護服みたいなのも着てる。
俺、何かやっちまったっけ…?一昨日じいちゃ…三代目との囲碁勝負でコテンパンに伸しちまったけど。後は昨日もリベンジじゃ!っていうから将棋で勝負して、今度は三代目の得意分野だから負けかけたけど結局巻き返して勝利を収めた…りはしたな。
爺ちゃん意外と負けず嫌いだもんなーっていやいやいくらなんでもないだろう。
今日は外遊中だけど、明日お主が勝負に買ったらエアコン買い替えてやる!っていうから楽しみにはしている。
今時期忙しいから今度にしてくれって言ったら、自分から言い出したんだからいいよな?
暗殺…いや、な、ない、よな?
ついつい忘れがちだけど、里の最高権力者は三代目…まさか。いや、でも。
ジワジワと血が下がっていくのを感じつつ、必死になってラーメンを食った。
美味い。本当ならじっくり食いたかったのに!くっそうなんだコイツ!ラーメンは大人にはやらん!基本的には!
「ふぅん?」
「ごっそうさんでした!お代、ここにおいときますね!」
「相変わらずイイ食いっぷりだ!またきておくんな!」
「はい!」
明日はなにで勝負するつもりかわからんが、俺が負けたらラーメン奢るって言ってみよう。そうすれば今度こそゆっくり食えるだろうし。
…俺の隣でなんかもそもそしてる見知らぬ男なんざしらん!
「じゃ、帰ろ?」
「え、ええ。俺は俺のうちへ帰りますので。アナタもどうぞご自分の家へお帰り下さい。お疲れ様でした」
受付で培ったいかなるときでも崩れない笑顔で微笑んで、瞬身した。
真っ直ぐ帰るのは恐いから裏道を経由して、ついでに何回か分身までしてさっさと家に帰ったんだが。
「ふぅ。ただいま」
「おかえり」
「わー!?」
家に、いる。堂々と愛用のちゃぶ台の前に座って茶なんか飲んでやがる。
どういうことなんだ!
近所迷惑だし隣もその隣も上下も全部そろって中忍仲間だからできないけど、いっそ叫びだしたいくらいの恐怖だった。
「あのね。好きです」
「へ?ああ、一楽のラーメンは美味いですよね?」
「押しかけ女房ってどうですか?今月のイチャパラで読んでこれだって思ったんですけど」
「イチャパラ!?」
「愛のバイブルですよね?」
「い、いや、ソレは…ど、どどどどうなんでしょう?」
わからん。さっぱりわからん。どうしたらいいんだ。
…この人は、つまり俺に懸想して…。
でもあの、男、だよな?え?ええ?
「あ、まずは同棲で」
「同性ですよね?」
ほぼ同時に発した声は重なって、多分それを男は取り違えたんだと思う。
*****
「た、だい、ま?」
「おかえりなさい」
暗部服の上に純白のエプロンを纏った男が、平板な声で抱きついてくる。ついでに唇を奪われるのまでセットだ。
最初にやられたときは硬直して、調子に乗った男にぐいぐいこられて大変なことになりかけたけど、流石に毎回となると避けなきゃって思うのに、毎回失敗する。
素早さなんかのせいもあるが…匂いつけするみたいに頭を胸元にぐりぐりすりよせてきて、その後一瞬だけ笑うんだよなあ。
多分、そのせいだ。にこーっていうか、ふわーっていうか。
…いつも笑ってんのかもしれないが、覆面取るのはこの瞬間だけだからな。
「ええと、飯、食いますか」
「はい。今日は新鮮なアジが手に入ったので刺身です」
「おお!美味そう!」
「おそうめんもありますからねー」
「うお!すごい…!こ、これ紫蘇?ごま?あ、ねぎもある!」
「一杯食べてくださいねー?」
のんびりと麦茶を差し出されてついつい一気飲みして、なし崩しに飯を食う。
この見知らぬ…というか、殆ど知らない男の作った飯は美味い。
…実は名前くらい聞きたいとは思うんだ。暗部だしまずいかと思って迷い続けてきたけど、ここは俺んちだし音切りの札も仕込んだし、まあ流れで暗殺されかけたらソレはそれだ。
訳がわからんまま一緒に住んでるだけってのはいただけない。だって、なにもできないじゃないか。忙しいのか暇なのかもわかんねぇとか、具合が悪くったってきづけないとかも、俺はもうイヤなんだ。
思わず勢いよくがっつき始めた俺に、男はニコニコ笑いながらイイ食いっぷりだなんていってくすりと笑ってくれた。
「お名前を!教えてください!」
食いきった勢いもそのままに、叫ぶようにそう告げた。
こっちはもう命がけだ。爺ちゃんとのチェス勝負にも勝って手に入れたエアコンで、十分部屋は冷えているはずなのに、頭が暑くてくらくらした。
「あ、言ってなかったっけ?はたけカカシと申します」
「俺は!うみの!イルカで!」
「はい。じゃ、ここにサインね」
「え?ああはいはい。ここですね」
「あ、指も。ちょっと痛いよ?」
「へ?いってぇ!なにすんですか!」
「はい押してー」
「え?ああ、はい」
「これで結婚成立」
「え?」
え?なんだ?今のこの流れ。いや。サインって、そういやうっかり。え?ええ?
「じゃ、これからは新婚生活なので初夜ですね。ちょっと書類を出してきますから。無理矢理やっちゃわなくてよかったー」
「え!いや!あのー!」
そういって追いかけようとした俺は結界らしき何かに阻まれ家からもでることができず…帰ってきた男はそれはもう嬉々として俺をめちゃくちゃにしたのだった。

確かに無理やりじゃないかもしれんがでもだが何だどうなってんだこの事態!

「ええと、え?俺が、下…」
「腰痛いでしょ?ま、初めてだし。どんどんやって慣れてね?」
「え?」
「かわいー」
「へ?え?あの!?」
なんだかわからん。わからんが。…色事に縺れ込んだ段階で服は全部脱いでるから、当然素顔だ。
この顔がみられるんなら、この程度の痛みには耐えられるかもしれない。
すきすきだいすきーって、生徒たちが言ってくるときの、あの顔。そんなもん見せられたらめろめろになるというか、ほだされたというかだな!
ま、まあ羞恥の方は別として。
暢気にそんなことを考えていた俺は、すりよってきた押しかけ女房にうっかりもう一度致されてしまったのだった。


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適当。
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