おいかけっこ21(適当)



父さんが何かしでかそうとしてるのはすぐに分かった。
…まあ執務室で忍刀抜いてたら嫌でも分かるけどね。イルカも流石に驚いてたし。
カカシの父ちゃんってちょっと変わってるよなって何度も言われて、実はちょっとだけ落ち込んでいた。
上忍連中の中では普通に振舞ってるのか、それとも皆おかしいから特に気にも留められていないのか、これと言って何か言われたことはなかったから、おかしいのは家の中でだけだと思っていたかった。まあ薄々気付いてたんだけどね…。
父さんより先生の方がずっとおかしいから、感覚が麻痺してたのかもしれない。客観的にモノを見られなくなったら忍として終わりだ。気をつけなきゃ。
ってそれはまあいいとして、父さんからかけられた術は、片手印だからちょっと自信ないけど、多分結界系のヤツだ。といっても、所々俺が知ってるのとは違う印を組んでいたから、あてにならないけど。
それはつまり、これから派手に戦闘でもしようとしてるか、あるいは…あのくノ一が本気で俺を殺しに来ることを見越してるってことだ。
火影の執務室でそんなことになったら大変なことになる。
少なくとも先生は止めてくれるだろうと思って、視線で助けを求めた。イルカと父さんが無事なら後はどうだってなんだっていいけど、被害は少ない方がいいのも事実だもん。
だって俺を迎えに来たってことは…っていっても、殆ど浚ったみたいなもんだけど、とにかく何か策があるからだと思いたかった。
にっこり笑った先生は、笑っただけで本当にこれと言って何もしてくれなかった。
馬鹿!役立たず!もう怒気さえ感じ取れるほど近くにいるのに。
扉が、開く。
怒りと殺気を練りこんだチャクラを溢れさせたくノ一は、真っ直ぐに俺を睨みつけていた。
「イルカ…!」
駆け寄ろうとしたくノ一の足を止めたのは、先生の怒っているにしては暢気で、人の神経を逆なでするような言葉だった。
「だめじゃないか。折角うみのさんたちにたっぷり任務振り分けてあげたし、タイミング待ちなさいっていっておいたのに」
開口一番それか。
「二人っきりで過ごす蜜月の邪魔をしたいわけじゃないけど、やっぱり放ってはおけないよね。今度は先生も呼んでね!」
言うにこと欠いて何を言い出すかと思えば、たっぷり事態を悪化させてくれた。…とも言い切れないか。これでターゲットは俺だけじゃなくなった。先生もしっかり殺気を向けられている。
これがサポートといえばサポートなのかもしれない。素直に感謝なんてとてもできないけど。
「貴様もか。そうか…!」
「ミナト。事と次第によっては貴様も許さんぞ!」
怒号と共に掴みかかるイルカの二親に、父さんが近づいていく。
あ、マズイ。父さんがノーガードっていうか、何するか一番わかんないの父さんじゃない!
「ま、待って!父さ…うわ!」
駆け寄ろうとしたのに、無様につんのめって顔から転んだ。忍になってからこんな間抜けな真似をしたのは初めてだ。
原因は、俺の服の裾を必死でひっぱって、それから。
泣き出した。
「うっうぇえ…!」
「イルカ!ごめん!皆が殺気だってて恐いよね…?」
慌てて起き上がってぎゅうって抱きしめるたら、ものすごい勢いでしがみついてきた。
「っちゃのばか…!かあちゃんも喧嘩はだめなんだぞ…!カカシのと、ちゃも…駄目!皆駄目!じいちゃんも止めろよ!」
「イルカ…」
「と、父ちゃんだぞ!ほら!泣くな!な?」
「イルカ君って泣いててもかわいいですね!さっすがカカシ君だ!」
…ずれまくってる先生は置いておいて、とにかくイルカを落ち着かせてあげないとかわいそうだ。
「大丈夫。ほら、ちょっとびっくりしただけだよきっと。だってイルカがんばってお土産とって来たでしょ?それにほら、ごめんなさいって言うんだってずっと言ってたじゃない」
「うん…」
顔は、まだ上げてくれない。でもしゃくりあげる音は少しだけ小さくなった気がする。
引き離したいんだろうけど、イルカの状態がこんなだから、どうやら躊躇っているみたいだ。父さんも…よし。チャクラ練るのやめてる。きっと大丈夫だ。
「ええと。俺から先に言っていい?」
「駄目!俺が悪いことしたんだから俺が謝る!…母ちゃん。父ちゃん。ごめんなさい。びっくりして逃げちゃいました。でも喧嘩も駄目!」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔をハンカチで拭いてあげた。かわいい。すっごく一生懸命で、なんていうか…惚れ直しちゃった。どうしよう。
俺だけ逃げてなんかいられないよね。
「いきなりイルカと逃げちゃってごめんなさい。それからうちの父が…すみませんでした」
多分なにをやったかわからないけど、父さんへの怒りっぷりをみてもまたなにか余計なことを言ったのは確実だ。先手必勝。子どもである俺が先に謝っちゃえば、基本的にはいい人なこの二人は、やりにくくなる。
術をかけたことは謝るつもりなんてないし、イルカの心象さえよければ後はなんとでもなるだろう。
そう思っての謝罪に、先生から横槍が入った。
「すごいね…!ホントにすごい子お嫁さんにしたね!カカシ君!」
「嫁、だと…!?」
「ふ、ふざけたことを抜かすな!うちの息子を貴様の弟子になんぞやらん!おい!お前の息子何とかしろ!」
「カカシ。その子を連れ帰るなら」
途端に空気が凍った。またイルカが泣いちゃうじゃない!
「えーっと。父さんはちょっと黙っててね?あの。すみません。お土産。こっちがイルカのお母さんのために取った魚で、この薬草も。あとそれからこっちの木の実からは薬も作れるのでよかったらどうぞ」
そっと差し出したら、固まったままの大人たちに動揺が走った。
「なんだよ!二人でがんばったのに…!いらないならもう父ちゃんなんて知らない!」
あー…お母さんはいるんだね。分かりやすいって言うか。…うみのさんが崩れ落ちた…。やっぱりイルカが最強だ。何の術も使えなくても、皆があっという間に戦意喪失しちゃったよ…。
「イルカ。その子どもは禁を犯した以上は…」
「なんだよ!カカシが忍だから一緒に遊んじゃだめなのかよ!一緒に巻物とか読ませてもらって…俺が術やってみようとして失敗しちゃっただけなのに…」
「イルカ…!」
いやそうじゃないんだけど。…ま、そう思わせようとした部分はちょっとはある。でも、でもイルカが自分を責めることなんてないのに。
…それなのに、俺の中のどこまでも冷静な部分が、これはチャンスだと叫んでいる。
ごめん。イルカ。どうしてもどうしても欲しいから…お願い。付け込ませて。
「ちがうよ。俺が悪い。強くなりたいって、俺もずっと思ってた。だからイルカが練習したいっていうの手伝いたかった。俺がもうちょっとちゃんとしてれば…」
泣き顔を意図的に作り、イルカを抱きしめる。半分は本当で肝心な所は大嘘だ。でも言葉からその嘘は感じ取れないだろう。
なにせ外見だけはトチ狂って襲ってきた連中なんかからは天使と呼ばれるくらいだから。
イルカがぴったりくっついたままで、俺のことが嫌じゃないんだと思うとそれだけで興奮した。
「事故、じゃな」
「…のようですね」
「ん!もうちょっと練習しようね!一緒に!」
「そんな馬鹿な!」
「…イルカー…父ちゃんはそれでもイルカが大事なんだぞー…」
大人たちの一部は俺の嘘に便乗し、残りはイルカの母親だけだ。
「イルカ」
「うん。じゃ。いくぞ!せーの!」
頷きあって手を取り合って、頭を下げた。
「「ごめんなさい」」
二人揃って…俺の方は謝る中身が本当は違ったけど、それが限界だったみたいだった。
崩れ落ちるようにへたりこんだイルカの母親を父親が支えて、父さんは満足げに頷いて、それから先生は…何故かウインクしてきた。なんなのあれ。
「危険な遊びをした罰は必要じゃが、とにかく今日は双方とも家に帰って休め。術に関してはミナトと練習させればよかろう?解術するにも術者が双方ともチャクラが不安定ではのう?」
「そうですね!」
「…カカシは、いいのか?」
父さんがいる状態で下手なこと言ったら、監禁とかされそうだしね。ここは一旦引いた方がいい。
「うん。イルカ。また遊んでくれる?」
「おう!でも今日はもう帰るな!またさ、一緒に遊ぼうぜ!」
「うん!」
手を握って約束した。初めてだ。任務以外で誰かと約束するのも、それを絶対に守ろうと思うのも。
あと少し、色々考えなきゃいけないことはあるけど…まあまあの結果だ。多分。
「じゃあな!カカシ!無理しちゃ駄目だかんな!」
「イルカこそ!またねー!」
離れるのが辛いけど、約束をした。それがすごく楽しみだから、もうちょっとなら我慢できる気がした。

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適当。
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