横暴な男(適当)


 上忍様、いや火影様か。今は。とにかくこの人は他の相手には柔和で聡明だと評判だというのに、俺に対してだけ妙に高圧的だ。上忍と中忍だった頃からそれはずっと変わらない。まあ今となっては高圧的もなにもないんだがな。実際里で一番偉い人なんだし。
 たとえあごで使われようが、多少理不尽な扱いを受けようが、大局を見て判断していると考えるしかない。
「いい?わかった?」
 そういえばこのちょっと声のトーンが高くて執拗に念を押すところがまるで母ちゃんみたいなんだって言ったら、同僚にお前の耳がおかしいって言われたんだった。この台詞にも大分なれてきちまったなぁ。
「はい」
 どっちにしろ命令なら俺に否はない。
 それが許されるほどの立場じゃないのもあるが、この人のことを信用しているからってのもあるんだよな。
 表現が下手くそで誤解されやすいけど、この人は人を見る目があって、しかも冷静だ。ヤマトさんによれば時々暴走することもあるらしいけど、基本的には裏の裏まで読んで行動する。
 あとはまあ、多分心配性でもあるんだろうな。俺とはまた違った意味で。
 そうでもなきゃ、こんな命令出さないだろう。
 家に帰れってのはまだ分かる。確かにこのところの勤務状況は正直言ってきつかった。いきなり仕事をねじ込んできたのが里長じゃなかったら、文句の一つどころか三つも四つも喚いていたことだろう。
 だがしかし…俺には火影直々に補佐をせよとの仰せを断る勇気なんてなかった。
 火影つきの秘書ならいるはずなんだが、三代目の頃から五代目の御世になってさえ、書類整理に借り出されることは多かった。要するに俺が一番良く知ってるから便利なんだろう。
 崩壊した里を復興させ、なおかつ更に発展させるためにすさまじい手腕を発揮しているこの人にとって、書類整理だって大事な仕事には違いない。
 そしてその無理な仕事を押し付けたことを配慮して、帰宅を促してくれる…まではまだいいんだ。そこまでならな。
「鍵はきちんとかけなさいね。ああ、それから護衛には…」
「あのー…護衛は不要だと思うのですが」
「なんで?必要だと思ったからつけたんだけど?俺が」
 不満でもあるのかって顔されたら、言い返せない。
 だが貴重な人材をこんなことで浪費する意味はないと思う。だって俺が護衛の人…ヤマトさんになることがほとんどなんだが、それとすることっていったら一緒に連れだって帰るだけなんだぞ?世間話のように六代目の昔の話や、今進めている新居の建設についてなんかの機密スレスレで冷や汗が出そうな会話を繰り広げられる方の身になって欲しい。それにこの人の1刻辺りの依頼料を思えば冷や汗だって出る。
 切実に勘弁して欲しい。…まあそんなこと言えたらこんなことになってないんだけどな!
「…明日もこちらでよろしいのでしょうか?」
「ん。よろしくね?多分もうちょっとだから」
 俺が素直に帰る素振りを見せた途端ご機嫌は治ったようだ。荷物を持ち上げる暇もなく、いつものように暗部装束の護衛さんが降って来る。チャクラからも覚えてしまった面からも、多分今日もヤマトさんみたいだ。
「お先に失礼いたします」
「はい。また明日」
 笑顔が辛い。また明日もなのか。いつまで続くんだこれは。
 ちょっとばかりやされても許されるはずなのに、ゆっくりと夜空の星を眺める余裕すら俺には与えられていない。
「さ、帰りましょう。ああこの間は確かカカシ先輩が暗部の部隊長だった頃の話でしたよね?その続きでも」
 尊敬する先輩なんだと力強く宣言していた言葉に嘘はないんだろう。顔を合わせるたびに朗らかにもはや里長となった人のことをしゃべり倒すこの人に悪気はないんだ。そのあまりにもスレスレすぎる内容に俺の胃が痛むだけで。
「…はい」
 頷くだけでも力尽きそうな体を引きずって、姿も隠さず先導する護衛の後をついて歩く。いっぱいやりてぇななんて言葉を口にするのも恐ろしい。
 翌日火影様直々に酒宴へのお誘いなんてものを頂戴しちまいかけたからな。アレだけ仕事に追われてる人に、酒盛りなんざさせられねぇだろうが。しかも俺の鬱憤晴らしのためなんかに。
それにある意味張本人でもあるわけで、うかつなことを酒の勢いで零しでもしたら俺の明日はない。
「任務中は割りと鬼なんですよ。先輩」
「はぁそうですか」
 それは聞いた。里まで3日の距離を急ぎの依頼だからって飲まず食わずで当然寝ることもせずに突っ走らされたとかな。あとは機密なんですけどっていいながら、ボカされてるけど受付やってる人間ならどの任務かうっすら分かっちまうような怖い内容の話もあったけどな。某大名からの依頼で暗殺に行ったらもう死んでたとかいうのまであった。そういう任務遂行処理とか相手の支払い状況が気になる案件はやめてくれ…。
「でもココだけの話…プライベートでは結構ふわふわ系なんです」
「へ、へー?そうなんですか。意外ですね」
 ふわふわ系ってなんだ。頭か。あの頭は確かにふわふわしてて時々触ってみたい衝動にかられるが、流石に違うだろう。とりあえず話を合わせておこうと適当な相槌を打ったのが不味かったのか、あからさまにヤマトさんのテンションが上がった。
「そうなんですよ!好きな人が出来たっていうのにろくにアピールも出来ないみたいなんです!」
「…そうなんですか」
 あ、ちょっとショックかもしれん。年齢は…確か向こうのがちょっと上だし、立場もあるからもてるだろうってことは分かってたけど、そうか。あの人にもそんな人がいるのか。
 うっすらと落ち込んでいることを自覚して、妙な焦りまで感じた。どうしたんだろう。俺には関係ないことだってのに。
「…そうなんです。それでね、思い余って今新居まで建ててるんですよ。相手に断りもなく、しかも極秘任務中の僕をひっぱりだしてまで!」
「ええ!?いやそれ大丈夫なんですか!?」
 相手に断りもなくってあたりも相当問題だが、極秘任務を私情で中断させるのはありえないだろう。流石に。…性格的にやりそうだなとは思ったが。
「大丈夫じゃないかもしれませんが、先輩の精神の安定がこの里の安定にも繋がりますからね…」
 遠い目をするヤマトさんにお茶の一杯でもご馳走したい気分だが、それをすると何故か翌日のカカシさん…いや、六代目のご機嫌が酷く斜めになるから、おいそれと家に上げることもできない。俺に怒るならまだしも、ヤマトさんに当たるからな…。そんなに大事な部下を気遣われるのも嫌なら、俺につけなきゃいいのに。
 護衛なんかいらねぇって言ってんのにつけるし、気を使えば構うなとか怒るりだすし、なんだってんだ畜生。
 挙句もうすぐ家までついちまうし。…いや、つきあってんのに相談もせず家建てちまうのはありえねぇけどな。
「…幸せになってくれるといいですね」
「…そうですね…」
 疲れきった様子のヤマトさんには俺が出来る精一杯として、丁重にお礼の言葉を言っておいた。
 …その翌日に同じ人の案内でカカシさんの建てた新居とやらに引っ張り込まれるとも知らずに。

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中忍の知らない間に色々きまっていそうな感じで一つ。
リハビリに適当。

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