眠り姫(適当)


受付所でよく見かける頭に花が咲いていそうな中忍の、今日は誕生日なのだという。
少し前からそれはそれは熱心に騒いでいた下忍たち…というか、主にナルトだが、元担任でもある男を祝うのだと息巻いていたせいで、自分まで覚えてしまった。
だがなぜ、つい数分前に誕生日を迎えたはずのその本人が、俺の家のベッドの上に眠り込んでいるのか。
「これって一応不法進入?」
そもそもこの部屋に入るには、それなりの結界だのトラップだのを解除する必要があるし、暗部の後輩だの知り合いだのか、里長の許しを得たものしか入れないはずなのだが。
「んん…」
のんきに寝くたれている男に聞こうにも、えらく幸せそうな寝顔だ。
まさに平和な里そのもののようで。
「起すのもまずいかねぇ?一応誕生日なんだし」
後で考えれば誰かが祝うために探しているかもしれないのにここにいる理由だの、いくら中忍でもこれだけ近くの人の気配に気づかなすぎるだの、不審な点はいくらでもあったのだが、そのときの俺はそんなことまで頭が回らなかった。
念のため吐息の匂いと、それから脈だけは確認しはしたが、正常だと分かったら寝床に居座った闖入者をそのまま放っておくことにした。
…考えるのが面倒になったともいう。
なにせ昼間は元気とやる気ばかりがありあまった、扱い方の分からない生き物と遊びのような任務をこなし、その後についでとばかりに暗部まがいの任務まで押し付けられて疲労していた。
こんな日は兵糧丸でも口に放り込んで、適当に体を流したら寝てしまうに限る。
そう決め込んで帰宅したものの、この有様。
風呂場で心持長めに体を流してみたが、その間に男が目覚めるかもしれないというもくろみは外れた。
しっかり眠ったままの男は、のんきに寝息を立てながら何故か嬉しそうに笑っている。よほどいい夢を見ているのだろう。
いつからここにいたのやら。
…そういえば今日は下忍たちと報告書を提出に行ったときにこの男を見なかったが。
遠巻きに観察していたはずが、気づけばふらりとベッドに近づいてしまっていた。
このイキモノは暖かそうだ。
チャクラを急激に消費してバテ気味の自分には、それが丁度いい抱き枕に見えてきて。
「勝手に入ってきてるんだから、いいよね?」
大体相手が女ならまだしも、これはどこからどうみても男だ。同衾するくらい構わないだろう。
追い出さないだけでもマシだと思って貰おう。
意識は今にも飛びそうだ。
この所昼も夜も任務ばかりで、情けないことに疲労している。
本能が何も考えずに休むことを優先しているのかもしれない。
布団にもぐりこむと、男がふにゃふにゃと寝ぼけながらそもそと寝返りを打って自分から抱きついてきた。
…予想以上に人肌が心地良い。女のようにやわらかくはないが、妙にしっくりしすぎて己の中の何かがざわついた。
まさか、こんな男に。
この所すっかりご無沙汰だったのは事実だが、ためすぎておかしくなったんだろうか。
「…寝よ」
気づかなかった振りをして男の胸に頭を預けると、何故か当たり前のように撫でてきた。
生徒かだれかと勘違いしているのかもしれない。この男に限って女ってことはないだろうし。
その考えに何故安堵したのかは…目覚めてから考えればいいだろう。
男の正確に刻まれる鼓動を聞きながら、俺は意識をさっさと手放すことにした。
*****
「ふぇ?え?あ?なんだ?え!?うえあ!?」
折角の穏やかな時間を不意に破ったのは、うろたえまくる男の奇声だった。
「んー…まだ眠いんだけど…なぁに?」
触られるのは好きじゃないが、男の手にも抱き寄せる腕にも嫌悪感を欠片も感じなかった。
あまりに居心地がよくて、これが自分のものならよかったのにと思うほどに。
「あ、あの!俺は!ここは!?資料室でお茶貰ってそれから…!?もしかして何か粗相を!?」
今にも泣きそうな顔に、疲労もあって押さえこめた欲望がうずく。
この様子からすると、どうやら男もはめられたらしい。
「えーっと?俺が帰ったらイルカ先生がベッドの上で寝てたので、疲れてたんで俺も起さずに寝ちゃったんです」
「そんな…!お疲れだったのに申し訳ありません…!」
悄然とする男は誕生日を迎えたばかりだというのに、こんな目に合わされていることに何故か腹がたった。
「で、お茶だしたのって?」
「あ!紅先生です!」
「アレと…親しいの?」
「え、えーっとその!ちょっとした悩みを相談させて頂いたと言うか…!」
…なんとなくいらいらした。
と同時に納得もした。くノ一の中ではマシな方とは言え、目的優先で、豪胆で…人の都合を考えない女だ。
それが当たり前といえば当たり前なのだが。
「…じゃ、紅に遊ばれたみたいね。一応上忍師やってる連中ならここに入れるから」
忍具の置いてある部屋には流石に入れないようにしてあるが、非常時に備えて部屋の開け方ぐらいは教えてある。悪用するほど馬鹿じゃないと思っていたのが甘かったってことだろう。
「…あの、えっとですね。その、俺、今日…」
行き成り何かを決意したらしい男が、顔を真っ赤に染めたまま真っ直ぐに俺を見た。
その視線に射られたように動けなくなる。
潤んだままの瞳にざわつく何かを押さえ込むのが辛くなってきた。
「…誕生日なんだっけ?おめでとうございます。こんなトコでこんな目にあっちゃって…」
欲望を誤魔化して、男の頭に触れた。
…散々なでてきたんだからこっちがなでてもいいだろうなんて身勝手ないい訳を自分にしながら。
「ありがとう、ございます…!」
ひっこんだはずの涙をにじませて、男が笑った。
あんまり嬉しそうに笑うからだ。きっと。
…さっきから心臓が騒がしいのは。
「とりあえず…なにか食べる?作るから。トーストと…卵くらいならあったかなぁ?」
「え!あ!俺!手伝います!」
「ん。そーね。じゃ、一緒にちゃっちゃと片付けますか」
ちょこちょこと後ろをついてくる男と台所に向かった。
なんだろう。なんでこんなに俺は浮き足立ってるんだ。
考えようにもざわついたままの思考はまとまらない。すぐに俺はわけのわからない衝動を理解するのを諦めた。
あの女の制裁は今度にすることにして…せめて今日は隣にたつ男の誕生日を祝ってやろう。
にこにこ笑う男を眺めながら、そう思った。

…それが女の策略だったと気づいたときには、すっかりなるようになっていたのだが、そのあたりはまあいいってことにしておいた。


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適当。
とりあえず5月いっぱいは…!後これ続いたら怒られるんだろうか…。
ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ!

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