これの続き。 「本当に欲しい物は、手に入らないものなんだ」 父さん父さん。どうしたの? 「ああ、でも。お前が生まれてきてくれて、本当に嬉しかったんだ」 とうさん?ねぇ。どうして。 やめて。 「ありがとう。カカシ。…すまない」 笑顔のままで首を掻き切って、噴出した血で全てが真っ赤に染まって、崩れ落ちるその瞳から命の光が消える。 その表情はどこかほっとしたように安らかで。 とうさん。とうさん。いやだ。 伸ばした手は届かないまま、そうして命の光を失った瞳が虚空を仰いで濁っていく。 どうして俺をおいていったの? 「とうさ、」 「カカシ!」 「え、あ」 間近にある瞳はキラキラ輝いて、心配そうに俺を覗き込んでいる。 じっとりと湿って纏わりつく不快な…だが大切な人と揃いの寝巻きに、今どこにいるのかを思い出した。 ここはイルカの家のベッドの中だ。…俺の、あの家のあの部屋なんかじゃない。 「急に暑くなったからなぁ?大丈夫か?」 「…うん」 優しい手が髪をかきあげて、当たり前のように撫でてくれる。 今日だってあんなに我侭を言って、突然姿を消してしまって、物凄く心配させてしまったのに。 大事なんだって、言葉だけじゃなくて態度で教えてくれる。 「水、飲むか?」 「ん。ありがと。でも大丈夫」 水なんかいらない。寝ている間に叫びでもしたのか、喉は確かに乾いているけど、その間イルカと離れなきゃいけないことの方がイヤだった。 あの日の記憶。ずっと謝っていた父さんが、最後だけは悲しくなるほど安堵に満ちた顔をしていて、あっさり俺を置いて母さんを追いかけて行ってしまったっていうのに腹も立たなかった。 そんなことすら考えられないほどショックで、起こってしまったことを理解できないでいた。 今なら、分かる。父さんは俺が自分のせいで謗られることを恐れていたし、何よりも母さんを失ってしまってからは生きる理由がなくなってしまったんだと思う。 でもだからって置いていって欲しくなんてなかったのに。 「そっか。なら寝るか。まだ早いし」 もう一度頭をなでられて、それから大事に腕の中に囲い込まれた。 それだけで冷や汗も動悸も治まってくれた。やっぱりイルカは凄い。 「ねぇ。聞かないの?」 言葉は悪いが寝穢いところのあるこの人が起きてしまうくらい騒いだんだろうに、理由を聞いてこないのが不思議だった。 詮索好きなほうじゃないけど、心配しすぎて色々聞くのを我慢しているのも知っている。 イルカにならなんでも話せるのに。 「あーいや。うん。俺な、時々魘されるんだ。そんときに見てる夢ってのは最低でさ。思い出すといやーな気分になるんだ」 「そっか」 「例えば、一楽がつぶれちまう夢とかな?」 にかっと笑って鼻傷を掻いて、それからぽんぽんとやわらかく肩を叩いてくる。 イルカも、いつから一人なんだろうか。俺はこの人のことを殆ど知らないのかもしれない。 「潰れないように、らーめん、また食べに行こう」 「うん。そうだな!…また、こん、ど」 無意識なのかぎゅうっと抱き締める力が強くなって、吐息が深く規則正しいものに変わっていく。 「おやすみ」 きっともう、恐い夢は見ない。 だってイルカが側にいてくれる。…今は。今だけはきっと。 一番恐いのはこの人まで失ってしまうことだから。 いつかは永遠を手に入れてみせる。 だから、それまでは。いつまでかわからないこの蜜月に邪魔者が入らないように。 「大好き」 そっと重ねた唇にも気付かないのか、イルカは幸せそうにふにゃりと笑ってくれた。 ******************************************************************************** 適当。 子狼所有欲大爆発中。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |