とある上忍のけいかく13(適当)


これの続き。


「ラーメン。食いに行こうか?」
ずっとずっと前の約束だ。でも約束したんだからいいよな?
今日どんな用事があっても、たとえそれが任務でも、譲りたくないとさえ思ってしまった。
カカシは帰ってきたんだよな?ちゃんと元気だよな?
背は伸びたけど、やせた。
それに目が。…何か辛い事があったんだと分かる。
痛みが、苦しみが、押さえ込んでも滲み出てその瞳に悲しい色を添えている。
母親が入院してるって言ってたよな。状況からして長くないかもしれないと思ってはいた。そしてそれを多分この子も理解していた。あの時もどこもみてないような、まるで底の見えない闇をみているときみたいに虚ろな目をしていた。
…もしかすると亡くなったのか。
カカシの苦しみを思うと涙がでそうだ。あんなにちっちゃいのに頑張りやで可愛くて健気で。
ああもう!もうでっかくなったけど、いいよな?
あの時みたいに簡単に抱き上げたりは出来ないくらいに育ったけど、いいよな?
色々たまらなくなってぎゅーっと手を握ると、びっくりするくらい強く握り返してきた。
「うん。ラーメン。約束だったもんね」
コトンと胸に預けられた頭を、空いたほうの手で撫でる。
相変わらずふわふわで、でも所々にごつごつしたものが当たる。
…怪我、したんだな。こんなところにまで。
妙に大人びた、乾いた態度。表には出さないけど、それでもカカシのことだから分かる。この子はすごく辛かったんだ。ずっと。
もしかするともう難易度の高い任務に出ているのかもしれない。
ぞっとした。
この子になにかあったらと思うと、闇雲に叫びだしたくなるくらい不安がこみ上げてくる。
いやでもだな。この子は強い。それに賢い。簡単にやられたりなんかしない。
でもまだチビ過ぎるよな?そうだよな?だってナルトと殆どかわらないぞ?まだ任務になんて出してたまるか!
…っていっても、俺が口を挟める話題じゃないんだけどな…。
今どこにいるのかとあれから三代目に何度聞いても教えてもらえなかった。暗部の縁者ってのは多分確定だろう。そうなるとこのまま引っさらうわけにも行かないけど。
…一瞬、この子をひっそり俺んちで養ってもばれないんじゃないかって思ったのも事実だ。
「なぁ。飯、食ってたか?」
「うん。あれから色々練習したから、いろんなの作れるようになったよ。イルカ先生今度食べてくれる?」
「もちろんだ!でも、そうかー…俺は全然だ」
今すぐにだってカカシの作ってくれた飯ならいくらだって食う。その前にラーメンだけどな!
だって、約束した。俺のところに帰ってきてくれたんだから、まずはラーメン。あとはそれからでいい。
本当の所を言うと、もうこのまま俺んちに住んでくれたっていいくらいだ。
ずっとは無理でも、コイツが辛いなら少しでいいから側にいたい。素直に泣くこともできないでいそうなこの子のために、なんだってしてやりたい。
…たとえ離れるときがどんなに辛くても。
安い同情と笑うなら笑えばいい。でも、そんなんじゃねぇんだよ。
俺が、コイツの笑った顔を見たいだけだ。そんでたらふく食わせてたっぷり寝かせて、任務以外のどうでもいいことを話して、笑って、普通に、家族みたいに過ごせたらそれでいい。
そうか。そうだな。カカシはもう、俺の家族だったんだ。きっと。あの頃から。
「イルカ先生はいいよ。俺が一杯作れるようになるからさ」
「頼もしいな?」
「うん。まだ全然だけど、俺は強くなるんだ」
「そっか。…じゃあしっかり食わないとな!」
「うん!」
変わってない。成長したけど、中身が。
しかも俺に食わせてくれるつもりらしい。泣かせるじゃないか…!いい子、なんだよ。それなのに置かれた環境がこの子を追い詰める。
何にも悪いことしてないのに、遠慮ばっかりして、気を張って、そんなの駄目だ。絶対に。
とにかく今晩はラーメン食わせて、あわよくば俺んち泊まらせて、なにがあったか聞き出せたら聞き出して、場合によっては火影様への直談判も辞さない覚悟を決めた。
中忍風情がだの、狐憑きだの、その手の罵倒なんざ怖くもなんともない。腹は立つが。
身の程知らずだろうがなんだろうが、大事なことは言わなきゃ伝わらないんだよ。
少しでいい。この子を傷つけるものから遠ざけたい。俺にできることならなんだってするとも。
手を握って、握り返されて、背丈の差が随分縮んでいることがくすぐったくて、それだけこの子が一人で耐えていたのかもしれないと思うと切なくて、苦しかった。

泣くことよりやることはあるんだ。俺がやらなきゃ駄目な事がたくさん。

たとえ今日だけかもしれなくても、約束のラーメンを食いにいける。
「あのお店?」
「あ!そうそう!一楽!うっまいぞー!」
「ホントに好きなんだね」
「おう!すっごく美味いんだ!一杯食えよ!」
「うん。…うん」
ぴったりくっついてきた体に不安がみえるようで、思わずぎゅうぎゅうに抱きしめていた。
「ラーメン食ってさ、そんで俺んち来いよ。風呂は狭いけど布団は客用のがあるぞ!」
チビだったころは同じ布団で大丈夫だったけど、流石にこれだけ育ったら無理があるだろう。
…実はつい商店街のふとん屋で、ふかふかであったかそうなのを見つけたら、ふらふら引き寄せられて、おばちゃんの営業トークにも負けて買っちまったのがあるんだ。
カカシが帰ってきたら使えると思ったからって、何でこんなもん買っちまったんだと自分を責めたもんだが、ちょうど良かった。
「え!お布団別なの?」
あ、ヤバイ。泣く。
一瞬だけどものすごく悲しそうな顔をした。そ、そうだよな?ちょっとでっかくなってもまだ子どもだし!
「狭いのが平気なら一緒でもいいぞ?まあなんだ、俺は未だに寝相が悪いまんまだから、そこは我慢しろよ?」
「うん!」
それが本当に本当に嬉しそうで。
俺は死ぬほど感謝した。カカシを返してくれた何かに。…例えばそれが運命ってものなのかもしれないと思いながら。

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適当。
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