恋愛中毒症(適当)


水着姿できびきびと生徒たちを指導する愛しい人。
見つめるだけで胸がときめく。
…ついでに下半身の方もちょっと元気になっちゃたりもするが、そこはそれ、健康な成人男子なんだし大目に見てもらいたい。
「でもねぇ。つれないんだよね」
夏は暑い。そして夏は水練の授業がある。
…それを理由に、情事を拒まれてばかりいるのだ。
好きで好きでどうしようもなくて。
浚うようにして思いを告げて、半ば無理やりに近い形で告白を受け入れてもらった。
だから、いつだって好きなのは俺だけなんじゃないかって不安に苛まれている。
「健康な成人男子のくせに、どーしてエッチしたくならないんですか」
清潔そうな笑顔で子供たちと戯れてる顔ももちろん好きだ。
でも俺の下で見も世もなく喘いで、縋って、それから俺の名を呼んでくれる所だって大好きなわけで。
「なんでかなー。…俺の魅力が足りない?」
 それとも、男らしいあの人を組み敷いて抱かせてもらっていることの方がおかしいからだろうか。
 同性と…なんて、考えたこともなかっただろう。
 それでも欲しくて、我慢できなくて、土下座までして抱かせてもらった。
 最初に受け入れてもらえたときは、それはもう有頂天になったものだ。
こんなチャンスは二度とないかもしれないと思うと、一瞬でも無駄にできない。
そう思って、自分を受け入れて甘い声を上げる姿を全身余す所なく目に焼き付けて、触れたことのない場所が残らないくらい、手で指で舌で、全身であの人を愛した。
「それで、諦められたらよかったんだけどね」
一度受け入れてもらえてから、それはもう我慢に我慢を重ねて、いいといわれるまで見つめるだけの日々を過ごして…隠しきれていないなんて思っても見なかった。
ある日のことだ。恋人になってくれた人が、俺を捕まえて怒鳴りつけたのは。
「あんたそんなに物欲しげな顔するくらいなら、どうしてさっさと言わないんだ!」
…言ったら嫌われるとか、一度だけでもいいからと思っていたなんてことは言わずに、気付けば男前な恋人を押し倒していた。
「好きです。好きで好きでどうしようもなく好きで、だから…」
「うるせぇ!そんなの見てれば分かります!言い訳はいいから…その、なんだ、…好きにしてください」
…その夜のことだって、今さっきあったことのように詳細に思い出せる。
誘うだけ誘っても、経験の浅いあの人は体を投げ出しているばかりだったけれど、すっかり擦り切れた理性は役立たずになっていて、俺は容赦なく獲物に襲い掛かった。
その体が震えているのに気付いても、とどまることを知らない欲は、やっと得られたはけ口を逃がすわけもなく、あの人がなんでもないとばかりに必死になって微笑んでくれるのをいいことに、それはもう好き放題にした。
終わってからどうしようもなく罪悪感が湧いてきて、すがり付いて詫びた俺に、あの人は言ってくれた。
「好きにしろって言ったのは俺です。だからあんたが泣くのも詫びるのも必要ない」
その台詞にオレはまたイルカ先生に惚れ直したのだ。
…それ以降、俺は無理な我慢することを止めた。
誘って、断られれば諦めて寄り添って眠る。受け入れてもらえたときは丁寧に愛を囁きとろとろになるまで蕩けあう。
それはまさに蜜月。
だが、夏に入った途端にこの仕打ちだ。
「やっぱり男は駄目とか?俺じゃ…幸せにできないの?」
誰も聞いてくれない泣き言は、夏の青空にむなしく響くばかりだった。
*****
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
健康的に日焼けした肌に、さわやかな笑顔を浮かべて、イルカ先生が帰ってきた。
思わずおいしそうと思ってしまう自分が、相当に切羽詰っているんだと自覚せざるを得ない。
多分、もう限界だ。この人に酷いことをしてしまう前に、俺が距離を置くべきだ。
「イルカせんせ。あのね」
「…カカシさん。俺、話があるんです」
「え…?」
にこやかなのに纏う空気はどこか硬い。…もしかして、別れ話?
その想像だけで背筋が凍るほど恐ろしくなった。今すぐ逃げ出したい。でも大切な人の言葉を無視することなんてできない。
手を引くイルカ先生に連れられるまま、寝室に向かった。
ああ、泣きそうだ。こんなときでも押し倒したいなんて思ってる自分が、この人から離れたら…きっと生きていけない。
「ごめんなさい!」
謝る顔も真剣で、その分やっぱり終わりなんだと絶望した。
…ああ、だめだ。早くここから離れないと。
無理やりにでもその体を暴いて、手足の骨を砕いて、頭の中を弄ってでも、俺の側にいてもらいたくなる。
「イルカせんせ。ごめんなさい。俺、その話聞きたくな…んんっ!」
「いっぱい、我慢してたでしょう?俺、健康診断に引っかかって、再検査が今日終わったんです」
「けんこう、しんだん?…!イルカ先生!具合が悪かったならどうして…!」
「違います!だから、その、えー…あの、夜の方が激しすぎて、急に体重が減ったんです。それで、どこも悪い所はないけど、3ヵ月後に再検査って言われちまって…」
そういえば、4月のはじめの定期測量のとき、思いを受け入れてもらった嬉しさに溺れて、毎日のようにイルカ先生をベッドに引っ張り込んでいた気がする。
…イルカ先生も拒まなかったけど、そんなになるまでしちゃってたなんて…!
「ごめんなさい…!」
「いや!だから!…あー…俺もその、気持ちいいから拒みきれなくて…。おかげで自重するってのはこんなに難しいんだってことを思い知りましたよ…。だから、あんたが謝る必要はありません」
「でも…!」
俺のせいだ。毎日その体を貪っておきながら、体重の変化にも気付けなかったなんて。
「でもそれからちゃんと心を鬼にして拒むってことも覚えたし、体重も戻って、もう大丈夫かと思ったんですが…夏は元々痩せやすいんで、気付いたらまた。それで慌てて我慢してもらったんですが…」
「じゃあ、じゃあそれなら、俺のこと嫌いになったんじゃないの…?」
俺といて良いって思ってくれてるんだろうか。
「やっぱりあんたそう思ってましたね?正直に言えばよかった…!ずっと変な顔してるし、あんたの方がどんどん弱ってくし、でも検査が通らなかったらまた禁欲してもらわなきゃいけないから言いづらくて…」
ポツリポツリと語る所によると、先の見えない禁欲なんていわれたら、思い余って長期任務にでもつきかねないと思ったんだそうだ。
「俺、嫌われたんじゃなかったんですね…!」
ぎゅうっと抱きしめると、この所は俺を押しかえしてきた腕が、背に回った。
「俺は嫌いな奴と寝たりしません。それも男相手に」
まっすぐな視線に射抜かれて、俺はまたこの人に惚れ直した。どうしよう。好きで好きで凄く好きで、俺はきっともうとっくに狂っている。
…この人だけに。
「好き。大好きです。俺にはあなただけでいい」
「…俺も、好きです。隣に寝てて我慢するのが辛いくらいには」
暗に我慢してたのが自分だけじゃないって言ってくれている。
もう、我慢しなくていいんだと。
「して、いい?」
「してください。…できなかった間の分、ちょっと手加減はして欲しいですが」
そう言って微笑む人を抱きしめて、互いに求め合う行為に没頭した。
久しぶりに触れ合う肌は溶けそうに熱くて、めまいがするほど幸せで。
…その日、嬉しさの余りちょっと所でなくヤりすぎてしまった俺は、イルカ先生にちょっとだけ叱られたのだった。


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適当。
暑いのでばかっぷる
引っかかったのは、元々ちょっとらーめんでぶだったせいとかまさかそんな…!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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