悩む人(適当)


耽溺することは逃避だ。だからこの人とこうして混ざりあうことも、意味のあることではないのかもしれない。
「そのわりには必死だけど」
愛撫に息を殺して耐えていた人が、不満げに呟いた。
「ナニ言ってんですかこの状態で…!」
そりゃそうだ。
帰るなり同意も取らずに寝室に引っ張り込んで脱がせて抵抗するのにまで興奮して押さえ込んで、今だって突っ込んで腰振ってる真っ最中だしね。
泣き出しそうに潤んだ瞳をしているくせに、こうして憎まれ口を叩いてみせるこの人が、愛おしくてならない。
自分が何度馬鹿なことをしでかしても、この人ならきっと止めてくれる。
上忍だろうが、二つ名があろうが、また暗部に戻ろうが、この人にとってはそれは意味のないことだからだ。
必要だと思えば己の意思を通す。たとえそれで己の立場が悪くなろうが、歯牙にもかけないだろう。
その無鉄砲さが怖くもあるんだけどね?
「あんたの中、きもちい」
熱い粘膜に包まれて、そこを汚す行為に没頭するのは、確かに逃避かもしれない。
他の事など何も考えられなくなるから。
どうでもいい女としていても、この頭の中が真っ白になるような快感は手に入らない。
この人だけが、この熱をくれるのだと知っている。
そのまっすぐさで俺を切り裂くこともあるというのに、すっかり夢中だ。馬鹿らしいくらいに。
一目でこの人にとらわれてしまったから。


この人は昔から無鉄砲だったんだと思う。切っ掛けからしてそうだった。
暗部に食って掛かった馬鹿がいるって言うから見に行ったら、この人がいた。
事実は寧ろ自分の部隊に入りたての馬鹿が、無理やりこの人に襲いかかろうとして返り討ちにあった上に、俺に処分を求めてきたっていう酷さだったんだけどね。
暗部に入っただけで特権階級だなんだと勘違いする馬鹿は一定数いる。そういうのは大抵あっという間に死ぬから、一応それなりに指導…ってほどじゃないけど警告はする。
それでも治らないヤツは、いつだってすぐに消える。
ちと闇にまみれるのが仕事だ。命のやり取りをするのに、欲を押さえ込めないようなヤツを信頼なんてできない。
結果的に見捨てられやすくなるっていうのと、ただ単純にその手の馬鹿は判断力もないからっていうのもある、か?
物言わぬ躯になったそんな連中を処分するのはこっちなんだから、もうちょっとかんがえればいいのにねぇ?
ろくでもない理由で、部隊長である俺に制裁を下せという馬鹿には一瞬の苛立ちとともに抜けろとだけ言っておいた。
どうせ正規部隊にいたってこんなヤツ長生きできないんだから、命だけはと思ったのにぎゃあぎゃあわめいて、自分が正しいのなんのと騒いで、それから俺を聞き飽きたような言葉で罵って…。
それから、そうだ。
「甘えんな!この人、お前のために言ってんだぞ?クズはお前だ!」
…この人があんまりにもまっすぐで、すぐに折れてしまいそうで。
だから自分のモノにした。
いきなり襲うなんて馬鹿な真似はしなかったけど、好きだ好きだってわめいて付きまとう俺に根負けしてくれるのを待ってはいたから、そういう意味では処分した男と同類かもしれない。他の事が目に入らなかっただけなんだけど。
それが恋だと、したり顔で言った部下は煙に捲いておいた。お前はどうなのっていっただけなんだけど、相変わらずからかい甲斐があるヤツだよねぇ?
聞いてもいないのに理想の恋人なんて語っちゃったりしてたっけ。
…折れないところに惹かれた。それは事実だ。
でもこれ、恋なんかじゃない気がする。
夢見る瞳で部下が語ったように、この思いはやわらかでも穏やかでもない。飢えて片時も離れられないほどこの人が欲しい。
今もこうしてつながっているのに、もっと欲しくて、ずっとこうして中に入ったままでいたくなる。
しばらく呆れた顔で俺を見上げていた男が、中を穿つモノを締め付けて睨みつけてきた。
俺だけを、まっすぐに。
「だまって、動け…!」
決定的な刺激が与えられないことに焦れてたのか、自分から腰を揺らめかせた人のおかげで、こっちまで耐え切れなくなりそうだ。
その視線がいい。挑みかかるような、食いつかれそうな…食ってるのはこっちなのにね。ああでも、あそこに突っ込んで食われてるっていえなくもないか。
あー、もうどうでもいいや。
自分が行為に馴れていくことにすら悩んで落ち込んでいたこの人は、それでもこうして…身体でも心でも俺を受け入れてくれている。
その男らしい催促に、ありがたく誘われておいた。
下らない悩みより、この熱に溺れたい。
「ん。りょーかい!」
自分の欲望に逆らわず、吐き出した精でぬかるんだそこを突くと、すぐにあえいで縋ってくれた。
何のためかなんてどうでもいい。要するにこんなに欲しいのが怖かっただけだ。
怖いなんて考えられないほどきもちいいんだから、もうそんなことを考えるのも止めだ。
穿ちこんであふれるほどの欲望を注いで、それから結局いつ行為を終えたのかすら、碌に覚えていない。


「あんたは頭のイイ馬鹿ですよねぇ…」
しみじみとそう言ったその口にキスを落として、この人がこうやって答えをくれるから、悩むのもほどほどにしようと思った。


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適当。
ねむすぎる。
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