とりあえず(適当)


その日、ふと気がつくと、男がとてもとても可愛い顔をしていたので。
とりあえず風呂に入ってほかほかのを寝室に引きずっていって、戸惑いながら四肢をつっぱらせて抗うのを押さえつけ、上に圧し掛かった。
「え?え?ちょっな…!?」
取り乱す顔を見下ろすのは意外と楽しい。
今までその立場を易々と譲っていたのが惜しまれる。
「アンタのがキレイな顔してるんだし…たまには」
その言葉を最後まで言い切る事はできなかった。
「も、もう我慢できません!」
「うわっ!」
素早く引き抜かれたズボンはまるで喜劇のように宙を舞い、それが寝室の床に落ちる前に上もぬがされていた。
ソレに呆然とする間もなく、俺は男の腰の上に乗せられていた。
「ああ…さいっこーの眺め…!」
さっき足の間に滑り込ませたはずの太腿は、あっさり掬い上げられ、捕まれて。
気付けば男の上に跨らせられたときと同じ姿勢をとらされていた。
男を迎え入れるための卑猥な体勢。横たわる男の下穿き越しに感じる熱に驚き腰を浮かせたのに、すぐにそれを男の腕が追いかけて捕らえられてしまった。
「うぁ…っ」
するりと胸元を滑る手が、自分の望まない快楽を運んでくる。
与えられる刺激につんととがった赤いそれを、ねっとりと味わうように舐めて、その刺激に勝手に顎が上がった。ふぅふぅと吐き出される自分の息がうるさい。
反撃を狙うにも蕩け始めた体はいうコトを聴いてくれそうにもなかった。
俺を見上げる男は卑猥な笑みを浮かべたまま、熱心に舌を這わす。
胸に首筋にそれから耳に。
「おいし…」
急所を狙うのに長けた上忍は、快感を引き出すのもお手の物なんだろうか?
どうにかして一矢報いようと伸ばした手は男の口の中に消えていった。
「あ…っ」
ねろりと這わされる舌は、その先から蜜でも湧き出ているのかと思うほど入念に指を吸い、そこから自分が溶けていくんじゃないかと思うほどだ。
迷いの無いその素早い行動は、獲物を狩る獣にも似て、本能的な恐怖すら感じる。
そのくせ…子どものようにあどけない表情がソレを裏切るのだ。
うっとりと目を細め、立ち上がり始めた己の分身を隠そうともせずに摺り寄せて、次を強請る男は、これがどれだけ意味の無いことか分かっているんだろうか?
最上級の男を独占する中忍が、どれほど生きづらいものなのかも。
…だからといってこの男を手放すつもりなど欠片もないのだが。
猛烈に腹は立った。
腹がたったので…こらえ性の無い男の下半身を暴き、立ち上がったそれに指を絡ませた。
「ん…っ」
気持ち良さそうな顔に満足感が湧く。
これから…この男を快感に溺れさせるのは自分なのだ。
この男はつま先から頭の天辺まで全部俺のモノ。
誰にも譲りはしないと今更ながら思う。
「欲しいんだろ?」
そう笑って挑発してやった。どうなるか承知の上で。
「もちろん…!」
とろりと欲望に溶けた顔でもキレイすぎるほどキレイに男が笑った。
その笑顔に虚を突かれた。
魅入られたその隙を男が見逃すわけもなくて。
「ん、んぁ…っ!」
せわしなく尻を探り、ぐいぐいと熱を押し付ける男に蕩かされて、気がつけば空が白むまでその肌に溺れていた。
*****
「えへへ…気持ちよかったぁ…!」
ごろごろと腹の上で頭を転がす男は上機嫌で、俺もなんとなく満足感があった。
腹の中に雄を咥え込んで散々に喘いでも、男を満足させたのは俺だというだけで満たされる。
「そうか。別にこっちでもいいってことか」
酷く納得した。
要するに、俺はこの男が俺のもので、俺に溺れていればいいってことか。
「え?なんですか?」
不思議そうな顔をする男を撫でて、その瞳が気持ち良さそうに細められるのを眺めながら、意外と俺は独占欲が強かったものらしいと一人うなずいた。
独占欲が強いのは、不満げに俺を見上げる男もだが。
「お互い様って話。寝ましょう?」
「んーそうですね!とりあえずちょっとだけお休みしますか」
…たきつけすぎたか。どうやらまだヤル気らしい男を抱き寄せて布団でくるんでやった。
とりあえずになってしまったらしい休息を取るために。


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とりあえずーらぶらぶってことで?
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